第242話 第242話 なんこゲーム
「じゃあ、さんで」
「私は、にで!」
じゃらっ!!
「に。アシナの勝ち!!」
いえぇぇい!! そしてタネガシマは杯を飲み干す。これでアシナが18杯。タネガシマは21杯飲んだことになる。
しかし、見ている限りアシナのほうがダメージは大きいようだ。やはり飲み慣れてはいないのだろう。しょせんは11才である。
(なぁ、ハルミって酒は強かったか?)
(……ユウほど弱くはないが……)
(そうか。これは出直す必要がありそうだな。次はモナカを連れて来よう。まさかこんなゲームで勝敗を決することになろうとはな」
(まだ私がいますって)
(ハタ坊は酒に強いのか?)
(そこそこ)
そこそこじゃぁなぁ。やはり出直しだな、こりゃ。
そうこうしているうちに、アシナに限界が来た。21杯目であった。
「今度はアシナが先攻だ。いくつにする?」
「ひゃん!」
ダメだ。もう酔ってる。そろそろリタイアさせるか。
「アシナ。もう止めろ。お前はもう限界だ」
「ほんなことないもん。まだへべれけだもん」
「そういうのは、もうって言うんだ! ハルミ、手伝え。退場させる」
「分かった。お前は良くやった、あとは私にまかせろ」
「はふみはん。わはひはもうあひゃひゃひゃひゃ」
「アシナは笑い上戸かだったのか。おい、審判。こちらの負けでいい。宣言してくれ」
「そうか。それではこの勝負。サツマの勝ちとする!」
おおおーーーー!! という怒号が飛び交う。こいつらは声がでかい。図体もでかい。だから、酒の許容量も多いのだろう。
「ハタ坊、こいつの血中アルコールを抜くことできるか?」
「その場所から外に出してね。あの座席には結界が張ってあるみたいで、魔法が使えないの」
「え? そんなものがあるのか?」
「まあ、当然でしょうね。魔法でズルされたら面白くないでしょうから」
「そういうものか。それならハタ坊が魔法で勝つのは卑怯だとか、余計なこと考える必要はなかったな。おい、アシナ、しっかりしろ、ぺしぺしぺし」
「ひゃひゃひゃ、ほっぺがいひゃいあひゃひゃひゃ」
「ハタ坊、頼む」
「はいはい。とはいっても、すでに体内に取り込んだ分は無理だから、血中のアルコール分だけは分解するわね。ほれほれほれー」
「あひゃひゃぁぁぁ。。すぅぅぅぅぴよぴよぴよぴー」
小鳥かよ。寝ちゃったか。このまましばらくそっとしておこう。
そしてハルミの番となった、相手は引き続きタネガシマである。やつとてそうとう飲んでいるはずなのだが、少し顔が赤くなっただけで、酔った雰囲気さえも見せていない。
「それでは、先ほどの続きだ。先攻はハルミで」
「じゃあ、にで」
「むむっ。そう来たか。じゃあ私は、さん!」
じゃらっ!!
「に、だ! ハルミの勝ち!!」
初回はハルミの作戦勝ちであった。自分はひとつも持たずに2を宣言したのだ。タネガシマは自分が2つ持っていたために、それ以下の数字を言うことができなかった。
自分がひとつも持っていないのに、2以上の数字を言うのは勇気がいる。それを逆手に取っての作戦だった。
このとき、タネガシマが1個しか持っていなくても、1を宣言することは難しい。しかし2は先に言われてしまっている。すると3以上しか選択肢が残らないのだ。3個持っていればなおさらである。
これはアシナの戦いぶりを見ながら、俺たちで考えた作戦のひとつであった。この方法は負ける確率の低い手段だ。もちろん、引き分けとなる確率も高い。
しかし、相手も当然こちらの意図にすぐ気がつく。次からは対応してくるだろう。それに先攻後攻は交代なのだから、向こうも同じ手を取れるのである。
そうなると。
このゲームはただの飲み比べと化すのである。つまりは、たくさん飲めるほうが勝つのである。
その後、勝負そのものは互角で進んだ。ハルミが28杯。タネガシマが31杯。しかしタネガシマはその前に20杯以上を飲んでいる。どちらもまだまだ元気である。
挙動が怪しくなってきたのはタネガシマのほうが先であった。しかし、負けたとはなかなか言わない。
「先攻はタネガシマ。いくつにする?」
「ほぇぇ、さんで」
「じゃあ私は、に!」
じゃらっ!!
「さん! タネガシマの勝ち!!」
「くっそぉぉ。くいっ。あー、おいしい」
ハルミは喜んで飲んでいるような気がするけど。これは勝負だってこと、分かってやってるんだろうな。
しかし、タネガシマもさすがに連続はきつかったようだ。それは78杯目。つまり合計で100杯を越えたころに起こった、いきなり前方につっぷして動かなくなったのである。
それを見て、審判のシマズが宣言した。
「この勝負、イズモの勝ち!」
わぁぁぁ!! と言ったのは俺たちだけだった。味方がいないのは寂しいもんだな。
しかしハルミは勝ったとは言え、すでに70杯以上を飲んでいる。この先どこまで保つことやら。いっそ、諦めて出直そうかとなんども考えた。
しかし、出直したところで、モナカひとりで勝てるものか? という疑問符がつきまとう。必勝法は無理でも、なにか少しでも勝率を上げる手はないものか。そんなことをずっと考えていた。
今日は、このゲームを見ることに徹しよう。そう考えてこの勝ち目のないゲームを続けることにした。
そして次の対戦相手は、オガサワラという若者であった。タネガシマにオガサワラ。離島コンビかよ。まさか次はオキナワとかじゃないだろな?
オガサワラとの戦いで、ハルミは合計で148杯飲んだところでダウンした。
勝負に負けておちょこを持ち、くいっと飲み干そうとそっくり返ったところで、ひっくり返ったのである。
そしてそのまま大の字になって寝てしまった。お前はもうちょっと恥じらいというものだな……まあ、いまさらか。エロエロ剣士だったっけな。
「審判。こちらの負けを宣言してくれ」
「うむ。良く戦ったな。目が覚めたらハルミに伝えてくれ。大変立派な戦いぶりであったとな」
「分かった。伝えるよ」
「この勝負。サツマの勝ち!!!」
おぉぉぉおおおっ!!! と歓声が上がった。その合間にも乾杯をすることは忘れない。ハルミが勝ってもオガサワラが勝っても、その度に乾杯をしているのだ。どんだけ酒好きだよ、ここの連中は。
「あと、できればパンツは青のしましまにしてくれと」
「やかましいわ!!」
大の字に伸びたために、パンツが丸見えになったのである。だからってパンツの柄に注文を付けるなよ。
「ピンクのしましまのほう良くないか?」
「あんたも注文付けない!!」
ハルミをアシナの隣に寝かせて、いよいよ大将・ハタ坊の出番である。
大将とはいっても、それはただの順番であり、保険であり、おまけであり、恥かきっ子でありごまみそずいである。
「悪かったわね! 最後のほう、なんか変な単語が並んでたわよ?」
本来はここで負けにするつもりだったのである。しかし勝負が立ち会いではなく酒飲み大会なら、まあ出てもいいよな的な感じで送り出したハタ坊である。
「酒飲み大会と言うでない。なんこ大会と言え」
「どうせ勝ち目はない。しかしお前が潰れると治療係がいなくなるから、適当なところで負けてくれていいぞ。とことんが頑張ったりするなよ」
「あたしって、そんなに信頼ないのね」
「信頼はしてるさ。負けて来い」
「それ、全然してないってことよね!?」
もういい。ハルミがこうなった時点で俺たちに勝ち目はない。ここからまだ手強いのが後ろに並んでいるのだろうから。
しかし、俺が予想もしていなかった事態が、ここから起こるのである。
「先攻はオガサワラからだ。いくつにする?」
「じゃあ、さんで」
「あたしは、ご!」
じゃらっ!!
「ご。ハタ坊の勝ち!!」
「じゃあ、さんで」
「あたしは、に!」
じゃらっ!!
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「じゃあ、いちで」
「あたしは、ぜろ!」
じゃらっ!!
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
誰もが目を見張るほど、ハタ坊は勝ち続けた。
「よん。ハタ坊の勝ち!!」
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「さん。ハタ坊の勝ち!!」
「ろ、ろく?! ハタ坊の勝ち!!」
しかし、全勝というわけではなく、10回に1回くらいの割で負けている。しかもそのときは、決まって俺のほうを見て、6回ウインクをするのである。
なんだそれ? 6回? ヘルメット5回ぶつけたら、あ い し て る のサインってそれなら5回だ。6回ってなんだろう?
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「いち。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
10回勝った。そしてウインク6回。だからなんの合図だよ!? その合図を出すと必ず負けているということは、次は負けるの合図ということか?
つ ぎ は ま け る で6回か、なるほど。やかましいわ!!! なんでわざわざ負けてやる必要があるんだよ!
どうやらハタ坊は必勝法を身に付けたようだ。どうやったのかは、俺にもさっぱり分からない。しかし、相手側は不審に思ったようだ。
「審判、あの子なにかインチキしてないか?」
「うむ、いくらなんでもその勝負はおかしいぞ」
「なんこで、そんな連続して勝ったり負けたりするはずがないだろ」
「魔法を使ってるんじゃないか」
「ずずっ。なにをおっしゃいますやら。こんなに強固な魔法結界を張っておいて、そんなことができるとでも? あー、お茶がおいしい」
嫌疑を掛けられているのに、のんきなやつである。こうならないように、ときどきわざと負けていたのかも知れない。
だがそれにしては、あまりに定期的すぎた。きっちり10回に1回である。しかもそのつど俺にサインを送っていた。だから余計に不審に思われてしまったのだ。
「ハタ坊、審判として聞くのだが、お主はなにか不正なことをしていないか?」
「そう思ったら調べてみれば良いでしょ? 私は逃げも隠れもしないわよ」
堂々としたものである。詐欺師とはすべからく、こうあるべきである。
「誰が詐欺師よ!! あんたはこっち側の人間でしょうが!!」
怒られちゃった。そうでした。あまりに見事なものでつい立場を忘れてしまった。では気を取り直して。
「審判! 不正があるというのなら、その証拠を提示すべきだと思うのだが」
「ふむ。それはそうなのだが、しかし」
「その場では魔法は使えないようにしてあるんだろ? それとも結界がいい加減で、ちょくちょく漏れたりするのか?」
「そ、そんなことはない!! 我が国の専属魔法師が作った結界である。そんな不正など断じて……あっ」
墓穴を掘りやがった。
「では、不正はない、ということでいいな?」
「う、うむ。それは、そうであるな」
「じゃあ、続けてくれ。待ってるこちらは退屈なんだから」
ちぇっすっとぉぉぉぉ!! という勇ましい声があちこちにこだました。悔し紛れの悲鳴であろう。しかし、不正がないのであれば、こちらに遠慮する理由はないのだ。
「ううぅぅむ。仕方がない。勝負を続けよう。オガサワラ、まだ行けるか……オガサワラ?」
オガサワラ氏。おちょこを握りしめたまま、気を失ったようだ。まるで弁慶の仁王立ちのようだ。座ってるから仁王座り? 見事な最期である。天晴れである。
「いや、死んではいないから。寝てしまっただけだから」
「この勝負。イズモ国の勝ち!!」
ぶーぶーぶー。というブーイングばかりが響き渡る。しかし、俺はもちろん、スクナもハタ坊も知らん顔を貫いている。
騒いだところで、こちらの観客は俺とスクナしかいないのだ。どちらもボディガードを失って騒ぐわけには行かない、という事情がある。声量で勝てるわけがない、という理由もある。
ともかく、ここは毅然とした対応が必要なのである。
「ずずっ、このお茶、おいしいね、ユウさん」
「ずずずっ。ああ、良い茶葉を使ってるな、スクナ。もう酒は抜けたか」
「ずずず。ああ、これ、大陸ものの発酵茶葉ですわよ。私の魔法が効いたのね」
そんな俺たちののほほんぶりを見て、ますますいきり立つサツマの連中なのであった。ちぇっすとーーー。わははは、ざまぁ。
「で、では、次の者。センカク、ここに出よ」
そっちか!? オキナワ飛び越えてそっちに行っちゃったか。
「これで、大将同士の戦いということになる。これに勝ったほうのチームが勝者となる。それでは、先攻は」
「ちょっと待った! ひとつ確認させてくれ」
「おっと、なにかねイズモ公?」
「俺たちがこれに勝ったら、決算書をあのフォーマットで再提出してくれる、それでいいな?」
「ああ、その通りだ」
「で、俺たちが負けたらどうなるんだ?」
「そのときは」
「「「ごくりっ」」」
「決算書をあのフォーマットで再提出しよう」
「はぁぁぁ?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます