第220話 政権交代?!

「それなら、その仕事を引き受けよう」

「落ち着くのだ、ユウよ。そのあちらこちら? とか言う連中に識の適正があるとは限らんであろう」


「アチラな。こちらなんてやつはいない。それにウエモンとスクナにユウコ。おまけでハルミだ」

「待て待て。私がメインだろう!? 私の試練だぞ。その言い方だとアチラがメインになっているではないか」


「まあ、そこはどうでもいい。その中の適正のあるやつだけでいいから、識の魔法を伝授してもらいたい。ダメな人間は諦めよう。それともできないのか?」

「できん……ことはないが。しかし……」


「なんだよ、煮え切らないな。それが嫌なら、この話はもうなしだ。ハルミを連れて俺は帰る」

「えええっ!! そんな嫌だ! 私はどうしても今年に」

「それならお前ひとりで試練を受けるか?」

「ぐっ。そ、それは。その……無理だ」


 珍しく殊勝なハルミを見た。いつもそうしていれば可愛いのになぁ。


「アマチャンにオオクニ。こっちの話はついたぞ。そっちはどうする? この条件を飲むか。それとも政権交代に突き進むか」

「せ?! 政権交代とは穏やかではないぞ、ユウ」


「もうすでに、穏やかな話じゃなくなってるんだよ。黒字になったとは言っても、累積赤字の解消にはほど遠いだろ?」

「そりゃ、まあ。そうだが」


「累積の借金140億はどこから借りている?」

「サカイの商人だが」

「信長の野望かよ!」

「ほんまかいなそうかいな、ノだ」

「それはジャンルが違う」


「しかし、今年は10億返したぞ。返済の目処はたったんだ」

「それが仇になったと考えつかないか」

「うぐっっ?」

「あと130億。その商人がすぐに返せと言ってきたらどうするつもりだ?」


「はぁ? いままで言ってこなかったものを、急に言い出すはずがなかろう」

「いままではな。しかし、経営は好転した」

「あぁ、お主のおかげでな」


「乗っ取るならいまだ、とは思わないか?」


「「「は?」」」


「去年の年収はいくらだった?」

「えっと、122億2千8百万とんで40円」

「いちいち細かい数字まで……40円から離れろ!!!」


「なななにを怒っているのだ。俺は正確な数字を言っただけだぞ」

「あ、そうか。すまん。ちょっと40円にはトラウマがあってな。そんなことよりも、それで黒字経営にはなったわけだ。しかし借金が残っている」

「この調子なら、返済もできそうだ。もう借金を増やすこともない。しかもお主が他の領地からも取り立ててくれるのなら、もっと収入が増えることになるのだが」


「まあ、先の話はおいといて。現在は毎年15億ぐらいの利益がだせる会社になったということだな?」

「会社ではないけどな」

「ニホン株式会社だよ。そう考えるんだ。オオクニはツブツブ堂の経営者としてそのことを学ぶことになるが、それも先の話だ」


「じゃあ、現在の話ってのはいったいなんじゃ?」

「アマチャンもまだ分からないか。赤字経営だった会社が黒字転換しました。しかし、まだ膨大な借金があります。さて、金貸しはこの状況をどう考えるでしょうか」


「えぇと。資金が回収できてめでたいな、かな?」

「めでたいのはオオクニの頭の中だ」

「ワシもオオクニと同じ意見なのだが、どういうことじゃ?」

「すぐに借金を全額返済しろ、と言われたらどうする。2回目だけど」


「そ、そんなこと、まだ言ってきてないぞ」

「言ってきてからでは遅いだろ。最悪の事態を想定して、前もって手を打っておくのは経営者の義務だ」

「そんなこと言われても……なあ、スセリ?」


「借金取りが来たら、私ならムチでしばいて追い返しますわよ?」

「暴力に訴えるなよ。そんなことしたらこの宮殿はおろか、宝物からなにからなにまで差し押さえられることにならないか」


「そこはエルフの心意気でなんとか」

「なんともなるかぁ!! ユウコがボケを挟みやがるのは珍しいな、おい!」


「すぐに返せと言ってくる可能性があるのか。そんなこと考えたこともなかった。しかし、それならいままでどうして黙って貸してくれていたのだ?」


「いままでは赤字経営だったから、金貸しは金利だけもらうことで満足していたのだろう。ここには資産があるから、取りっぱぐれる心配はないという判断だったんじゃないか? すぐ金になりそうな資産ってなにがある?」


「ここには先祖代々に伝わる宝物がたくさんあるからのう」

「それも、質草としてほとんどサカイに取れてますけどね」

「なんじゃと!?」


「だだだだ大丈夫ですよ。借金を返済すれば返してもらえる約束になってますから」

「あなたはあの宝物にまで手を付けていたのですか! ちょっと、こっちにいらっしゃい。もう一度説教部屋に」


「それはあとにするのじゃ、スセリ。それより、ユウ。話の続きじゃ」

「ここの経営は黒字化した。これから先はもっと利益が見込めそうだ。しかしキャッシュフローは大幅なマイナスだ」


「キャッシュ風呂? それは混浴か?」

「なんかすごいお金持ちっぽい?」


「現金の風呂じゃねぇよ。すぐに使える金のことだと思ってくれ。いますぐ返済に充てられる金と言い換えてもいい。それは10億もないだろ?」


「えぇと、正確には8億7千2百万とんで40円」

「やかましいわ!! 40円言うな!!!」

「なななんで40円にこだわるんだよ!」

「こだわってるのは作者だよ!」


(へぇ、すんまへん。面白いかと思ってつい)


「つまり、キャッシュフローはたった8億なわけだ。とても130億は返せない」


「40円なら返せるノだ?」

「お前は氷漬けにして流氷に乗せたろか」

「がくがくぶるぶる ノだ」


「すると、どういうことになるんだ?」

「オオクニにはまだ分からんか。借金返済をたてに、ここが持っている経営権を寄こせ、と言える状況になっているってことだ」


「そ、そんなバカなこと!!!」

「バカなものか。減ったとはいえ年収を超える借金だ。向こうは強気で来るだろうな。俺なら、カンサイとアズマの経営権を寄こせ、ぐらいのことは言うぞ」

「まさか、そんなことが……」


「借金を少しだけ返したのは失敗だったな。それで相手にここの経営が良くなったことを教えてしまった。さっきも言ったが、ここを乗っ取るのならいまがチャンスだ。これから毎年数百億の利益を出せる利権が手に入るわけだから」


「まさか、そんなことが……」

「さっきから同じことして言ってないようだが」

「これが世に言うところのコピペなノだ」


「アズマとカンサイをとられたら、政権交代に匹敵する衝撃だろう。それが最初に俺が言ったことの意味だ」

「ああ、確かにその通りだ。魔王のいる領地も除いたら、我らの収入は一桁は下がることになる。それでは国としての体面さえ保てない」

「その通り。そのサカイの商人というのがどこまで考えているのかまでは分からんが、そうなる事態に備えておく必要があるんだよ」


「最悪の事態か。それをお主なら救ってくれるというのじゃな?」

「ようやく分かってもらえて重畳である。それで?」

「え?」

「忘れたのか。最初に俺が言った条件だよ。飲むのか飲まないのか」


「えぇと、そうか。……なんだっけ?」

「スセリ。お前よくこんなのと長い間付き合っていられるな?」

「自分でもそう思いますわ。この宿六ときたらもう、ほんとに宿六なんだから。アメノミナカヌシノミコト様。もう迷う余地はないようですわね?」


「うぅむ。せっかく仏の侵略から守ったこの国の経営権を、こんな形で人間に取られるのは容認できん。ユウよ」

「ほいよ?」

「なにヨ?」


「オウミはミノウのマネまでして韻を踏むな! 分かった。その条件を飲もう。ただし、全領地から徴収できたら、という条件で良いか?」

「ぜんぶは無理だ。たかだ初級の試練にどれだけ時間をかけるつもりだよ。ひとつだけにしろ。最初に言っていた詰問状を送ってきた領地ってのはどのくらいある?」


「ああ、それはひとつだけだ。フクシマじゃよ」

「じゃあ、そこを最初に落とそう。それからミノウの紙を使わずに、過去のやり方で通したって領地はどのくらいある?」

「それは7つある。それから無視した領地は5つだがこれはずっと前からだ」


「ふむ。じゃあ、フクシマから取り立てることをもって、ハルミの試練としよう。過去のやり方のままにしている領地7つから取り立てたら、俺の指定する人間すべてに識の魔法を伝授する。それで良いな?」


「おいおい、指定した人間すべてとか、なんか増えているような気がするのじゃが」

「なんか予感があるんだよ」

「予感?」

「フクシマとかで知り合ったやつが、主要キャラになりそうな気がするんだ」


 また作者の都合も考えず勝手なことを言いだした?!


「いいだろう。成功報酬ということだな。その条件を飲もう」

「よし、交渉成立だ」



こっそり、内輪の話

「ねぇ、ユウさん。質問なんだけど」

「なんだユウコが質問とは珍しいな」

「えっとね。ハルミさんの試練も含めて8つの領地から徴収できたとして」

「ふむふむ」

「それで130億の借金が返せるとはとても思えないんけど」

「よくそのことに気づいたな。その通りだ」

「「はぁ?!」」


「あんなもの、俺にとってはただの交渉材料のひとつだ。識の魔法ってのが欲しいだけなんだよ」

「だけど、それじゃあ。この国は」

「なにも変わらんよ」

「あれ? あ、そうか。でも政権交代? ってオオクニさんたちが困るんじゃ」

「オオクニたちは困るだろう。だけど人間が治める国になったところで、俺たちは誰も困らないだろ?」

「「はぁぁぁぁ!?」」

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