第217話 久しぶりのイズモ国

 ローグ(ならず者)がアサシン(暗殺者)になるように。

 ウイッチ(魔法使い)がウォーロック(悪魔)になるように。

 アーチャー(弓使い)がスナイパー(狙撃手)になるように。


 剣士であるハルミも、なにものかに進化するらしい。変態剣士かな? それなら勝手になれば良さそうなものなのに、なんで冒険者になる気も能力もない俺をわざわざ相方に指名したのだろうか。


 アホの考えることはまったく分からない。戦闘になるのなら、アチラかウエモンの回復呪文のほうがよほど役に立ちそうなのに。いっそオウミとか使って課題クリアなんて……のはさすがにインチキが過ぎるか。


「ノだ」


「で、イズモのどこに行くんだ?」

「詳しいことは宮殿に行けば分かる、らしいんだ」

「ほう。それは、誰情報だ?」


「何十年か前に、私のようにクラスチェンジするためにイズモに行ったことがあるという人がいて」

「ハルミの前は、そんな昔の人なのか」


「その人は、その当時の村長の息子の友人の隣に住んでいた道場の師範代の一番弟子のひとり息子で」

「ああ、もういい。分かった分かった。よくある赤の他人ってやつだな」


「私の祖父、タケウチ社長だ」

「それならそうと早く言え!!」


 なんだその長い血縁・近隣たどりは。前回のクラスチェンジ者はあのじじいかよ! そういえば剣技についてはうるさかったな。ハルミはその血を引いて……孤児だから引いてるはずはないか。


 しかしそういうじじいだからこそ、ハルミやミヨシの素質を見込んで養子にもらったのかも知れない。

 夜な夜な刃物を磨いているという性癖を。

 見込んで?


 あのじじいもたいがい変態だな。



「オウミは知っているのか? イズモのあのぼろっちい神殿で、必要な義務を果たすとかなんとかいう内容を」

「我もやったことあるから知ってるノだ。ただ、ハルミのはごく初歩のはずだから同じ内容ではないであろうな」


「ちなみに、オウミのときは。どんな内容だった?」

「そのときは、ニオノウミで暴れていた竜退治だったノだ」


 げっ。竜ってあれだろ? あの羽根が生えてて首が3本あってうろこがなんか固い金属なんかでできていて、体長が何十メートルもあるやつ。最強の生物じゃないのか。


「首は1本しかないノだ。ヤマタノオロチとごっちゃになってるノだ」

「いや、ヤマタノオロチは首もしっぽも8本な。3本はキングギドラだ」

「分かってて我に恥をかかせるでないノだ!! しかし竜ごとき、たかが鯉の化身なノだよ。我ほどの力があれば、ちょちょいのほい、だったノだ」


「ちょちょいの、ちょいな。それじゃ、あっち向いてホイみたいじゃないか」

「そうそう、そのちょいだったノだ」


「それじゃあ、あっという間に終わったってことか」

「……まる5日かかったノだ」

「ぜんぜんちょいじゃねぇだろうが!」

「ちょ、ちょっとだけ盛ったノだ」


「盛るなっての。じゃあ、ハルミもなにかを退治するような課題? が出るのかな?」

「おそらくそうだろうな。私はワクワクしているのだ。このミノウオウハルがあれば、なんでも退治してくれるわ」


クドウ:「夜間専門だけどな ボソッ」


「センちゃん、ここには私の知り合いはいない。だから昼間でもOKだぞ」


「しかし、それなら相方はアチラかウエモンのほうが良かっただろう。あいつらなら回復魔法も持っているし支援魔法も使えるぞ。俺なんか坂道を担いでもらって登るくらいしか戦力にはならんぞ?」


「担いでもらって登るのは、戦力のうちには入らないノだ。むしろ足手まといなノだ」

「そ、それがユウじゃないとダメなんだ。アチラはアレだし、ウエモンはソレだし。スクナはまだまだ子供ではないか」


 スクナ以外の理由がさっぱり分からん。


「まあ、ともかく神殿まで行ってイズモの神々の話を聞こうではないか。あ、ウエモンとスクナ。久しぶりだなー」


「あぁっ、ハルミだー!! 相変わらずおっぱいでっかいね!! ふにふに。わぁぁすんごい。ふにふにふに。いらっしゃい」

「こ、こ、こら! ウエモン。お前はすぐそういうことをする! やめんか!」


 なんだろう、俺が怒られている気分だ。


「ユウさんも一緒だったんだ。わぁぁい」 ぴょんっ、ひしっ!!

「おげっ。ス、スクナ。いきなり飛びついてくるな。重くて転んだだろうが」 どっすん。いててて。


「がしがしがしがしがし」

「お前は足を踏む以外の挨拶も覚えろ!」


 久しぶりに会えて喜んでくれているのだろうけど、ふたりともその表現方法を間違って覚えている。特にウエモンは。


 ここはイズモ国におけるシキ研の拠点・サバエさん家である。


「私たちの家を拠点にされても」

「せめてツブツブ堂にしてもらえないものかと」

「いいじゃないの、私たちここが好きなんだもん」 とウエモン。

「サバエさんには、ご迷惑でしたか?」 とスクナ。


「「とんでもない!! いつまでもここにいておくれ」」

「「えへへへ。ありがとう」」


 そんなわけでチーム・スクエモンの策略により、ここが拠点なのである。


「ついでに宮殿にも近いノだ」

「そっちがついでで良いのかなぁ」


「というわけなので、ちょっくら神殿まで行ってくる。帰ってきたら業務進行についてヒアリングするから用意しておいてくれ」

「まかせろがしがしがしがし」

「ウエモンは手を出さなくて言い。足はもっと出すな。スクナ、資料を作っておいてくれ」

「うん。分かった。それと私もうそろそ……あぁ、行っちゃった」


 なんかスクナが言いかけた?


 オウミの転送で勝手知ったるイズモの宮殿に着いた。前回も来たあの場所。3畳1間の国賓室である。俺の住む部屋と同じサイズなのでちょっと親近感が。

 沸かないけど。これが国賓を迎える部屋かよ。レンチョンが宮殿を改装する注文受けたって言ってたが、ここは予定から外されたのか。あのときのままである。


 待てよ?


 俺はハタと気づいて、押し入れのふすまを開ける。がらがらがらっ。ほーら、いた!


「あぁぁ、勝手に開けないでくださいよ。もう少しもったいぶってから出ようと思っていたのに」


 かつてイズモ国を救ったという武神・タケ(武内宿禰・タケノウチスクネ)である。薄々衣装のエロエロねーちゃんである。この厳冬期に元気だな。


「もったい付ける理由がどこにあるんだよ。さっさと案内しろ」

「ちょ、ちょっとユウ! お前がそんな尊大な態度でいいのか。宮殿の方に対して失礼だろ!」

「なにを言っている。こいつは俺の部下だぞ?」


「はぁ!? あっ。ああ、そうか。そうだったな。そうか。ユウはここの太守様だったっけ。あははは、忘れてたわ」

「思い出せたのならよろしい。タケ、今日俺が来た用事は分かっているな?」


「はい、承っております。剣士・ハルミのクラスチェンジの件ですね。どうぞ、こちらに。さきほどからお待ちしております」


 タケチャンに連れられてあのときと同じ部屋に入る。するするっと扉が開いた。


「「おおっ! なんと!!」」 俺とハルミ


「扉がすんなり開くじゃないか!」 俺

「天井絵に見事な竜が!」 ハルミ


「「驚くところがおかいしだろ!」」 俺とハルミ


「お主らは仲がいいのか、意見が合わないのかどちらじゃ」

「仲はともかく意見なんか合ったことがないぞ。アマチャン、久しぶり。オオクニとスセリは?」


「あのふたりは、昨夜からまた夫婦ケンカをしておってな」

「オオクニがケンカできるほど強いとは思えんが」

「スセリの拷問……説教部屋行きじゃよ」


「いま、すごく不穏な単語が聞こえたのだが」

「気にするな。ちょっと言い間違えただけだ。それより、お主」

「ん?」

「ユウコを忘れていっただろ?」


「「え?」」


 ユウコはチーム・スクエモンコンビのお目付役というか世話係としてイズモに派遣しておいたのだが、そういえばサバエさん家にいなかったな?


「忘れていったつもりはないのだが。ユウコ、ここにいるのか?」

「ほれ、ここに」


「ああぁぁぁ。ユウさん!! ひどぉぉぉい。私の住むところ、どこなのーーー??」

「いや、ウエモンたちと同じと思っていたのだが、そんなとこで足跡いっぱい付けてなにやってんの?」


「なにやってんの、じゃありませんよ。あのふたりは仲良すぎて入り込める雰囲気じゃないですよ。だから、なにもすることがなくてシジミで一杯やってたら、ついふらふらとここに来ちゃって、こうして縛られて足踏みマットに。いまココ」


「なんでシジミで一杯やってんだ。お前はチーム・スクエモンの監視役だろうが。追い出されてんじゃねぇよ!」

「あ、そうか。私、追い出されちゃったんだ。あははは。そうか、なんか邪魔者扱いされているような気がしてたんだけど、あれは邪魔者扱いされてたんだあはははは」


「アマチャン、すまなんだ。こいつは今日、引き取って帰る」

「そ、そうしてくれ。足下が暖かいのはいいのだが、なんか不憫でならなくてな」

「それにしては、身体中にものすごい量の踏み跡が付いているんだが」

「ここは寒いからのう」

「酷いな、おい!」


「ユウコも黙って踏まれているんじゃないわよ。あんたはもう、都合の良すぎる女よね」

「あ、ハルミもお久しぶり。都合が良いわけじゃないの、これもエルフの心意気」


 まだ縄酔いしてんのか。心意気で踏まれてどうする。思考がおかしい。


「オオクニの部屋のシャワーを借りるぞ。ハルミ、その奥の部屋にあるから、その雑巾をキレイにしてやってくれ」

「雑巾って、お主のほうがよほど酷いじゃろ」


「その間に、ハルミの件について詳細を教えてもらいたいのだが」

「ああ、それが本来の用事であったな。しかし、その前にこちらかもちょっと聞きたいことがあるのじゃが」


「ああ、別にかまわんが。なんだ?」

「今年は、ミノウの紙を送ってもらって、ニホン中に配布して徴税したのじゃ」

「そうだったな。俺も年末に提出したぞ。それがどうした?」


「おかげで税収はずいぶん増えたのだ」

「そうか、それは良かった。イズモは赤字だから納税できなかったから、ちょっと申し訳なく思っていたんだ」


「赤字は仕方ないのじゃ。赤字ならな」

「なんだその持って回った言い方は?」

「うむ。そのことでオオクニとスセリが揉めているのだが」

「ふむ?」


「納税そのものを無視した領地がある」

「はぁ?」

「いつも通りのすずめの涙的納税で誤魔化した領地もある」

「はぁぁ?!」

「詰問状を送ってきたところさえある」

「はぁぁぁぁ!!?」


「どうしたら良いと思う?」

「討伐隊を差し向けろ!」

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