第192話 伝書ブタ牧場
「ん? おい、ミノウ。さっきからなんか変な音がしてないかぽりぽり?」
「ぱりぱり、ん? ああ、あの音ならさっきからずっとしているヨ、気づかなかったのか?」
「いま気がづいた。なんか、ごそごそと這い回るような気味の悪い音がするのだが」
「あれは、低級魔物でケシケシンっていうのだヨ」
「ほぉ、ぱりぱりぱり。またヘンテコな名前だな。それはどんな魔物なんだ?パリ」
「お主の世界にいるゲジゲジのちょっと大き目やつだ」
「あぁ、あのゲジゲジか。なんか嫌だなぽりぽり」
「別に悪さはしないのだ。ほら、お主がもたれているその岩の上に2匹い……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ」
恐怖が俺の脳裏を駆け抜け、思わず走り出してしまった。ゲジゲジンの赤黒く光る目が俺をめっちゃ睨んでいたのだ。その目だけで直径は5cmはあるかと思われた。
「濁点はいらない。ケシケシンなのだヨ?」
「やかましいわぁぁぁぁぁぁぁっっっ」
「おいおい、どうしたのだヨ。たかが低級魔物ではないか。そんなに急いでどこへ行く」
「ど、ど、ど、どどどどどどどどどどどどどど!」
どうしたもこうしたもあるかぁ! の略
「暗号でしゃべるな! 別に悪さはしないと言っているだろうヨ」
「悪さしなくても、気味が悪いんだよ!!! なんだあの大きさは。オオクニにかじりついていた大ムカデよりはるかにでかいじゃねぇえかはぁはぁはぁはぁ」
「ちょっと大きいのだヨ(ハナホジ)」
「ちょっとじゃねぇ!! いち、いち、いちめいちちめ」
「我はいじめてなどおらんヨ?」
「違う!! 1メートルはあったぞ、あれ」
「大きいのは3m越えるのだヨ」
ぎゃぁぁぁぁぁぁ。待てよ? もしかして、これか?
「そんな闇雲に猛ダッシュするでないのだ。点灯魔法が間に合わないではないか。暗闇でついてゆくのは大変なのだヨ。ああぁぁぁっ、前を見ろ! そこは危ないヨ」
「はぁはぁ、そうか、ハルミもきっとはぁはぁぜぇぜぇ、アレに、驚いてだぁぁぁぁぁぁぁ」
「あーあ、穴に落ちおった。だから危ないと言ったのに。しかしこんなところに大きな穴が開いてるとはヨ。どのくらいの深さがあるのだろう? ほいっとな! ……だめだ深すぎて灯が届かない。こういうときはどうすれば良いのだったか……」
ユウと少し距離があったために、一緒に落ちることができなかったミノウは考える。
「我も落ちて追いかけるべきなのか。それともここで待つべきなのか。どういうわけか中をうかがうことができないのだヨ」
ミノウの魔力をもってしても、その穴の奥を覗くことができなかった。さらに考えるミノウ。
「さきほどユウは、ふたり1組で行動しろと言っていたのだ。その理由はえっとなんだっけ。確か片方になにかあったときにもう片方が……そうだ!! そのためのベースキャンプではないかヨ。我はあそこで待つという手があるのだヨ」
報告する相手が落ちているというのに、見当外れ思考もいいとこである。だが、そのことにはまったく気づかないからこそミノウである。
「落ちてしまったものはどうしようもないのだヨ。ベースキャンプに行けば、ポテチも茶もあることだしゆっくりできるではないか」
すでに思考が休憩モードに突入している。見当外れ思考に、うまい具合に言い訳を上乗せしている。これこそが魔王・ミノウの真髄である。
「内緒にしていたが、まだユウご飯だってあるのだわははは。ユウの眷属になってからずっと忙しかったのだヨ。久しぶりにゆっくりできるではないか」
主人が落ちているというのに、眷属がゆっくりしていていいのか。
「じゃあ、ユウ。ベースキャンプで待っているのだヨ」
ユウどころか、誰も聞いていないのに勝手にそう決めたミノウであった。
当然ながら、このことでユウにもハルミにもあとからこっぴどく叱られるのであるが。
さて一方。穴に落ちたユウは、といえば。
「あいったたたたた。腕が、腕が、痛い痛いたたたた。まさか、折れたのか。あらぬほうに曲がっている気がする。あぁ、そう思ったらますます痛いぁぁぁ、ここはどこだ?」
「痛ったいなぁ、もう。また落ちてきたの?!」
え?
「「誰?」」
見交わす目と目。ユウにとっては地底人。その子にとっては天井人。かどうかは分からないが。
「あんた、誰?」
「そっちこそ……その耳はエルフか?」
「その耳は人間か」
「人間を耳で判断するなよ。ここはどこだ?」
「そっちも耳で判断しただろうが。ここはエルフの隠れ里だよ。あの穴は隠密スキルで隠してあるのに、どうしてこんなにほいほい人間が落ちてくるのよ、まったく迷惑な」
「なんだよ、ほいほいって。俺は初めてだぞ」
「3日ぐらい前にも落ちてきた子がいたのよ。あの穴は物理的に塞ぐことができないから、伝書ブタに隠密スキルをかけさせているのよ。それなのになんでほいほい落ちてくるのよ」
「俺が知るかよ。ケシケシがなんとかってのを見てビビって走ってたら落ちたんだ。穴が塞げないのなら表示ぐらいしておけよ。痛たたたた。あ、痛みのあまりに意識がもうだめ」
真っ暗なのに表示なんかしたって……あら、落ちた?! なによもう。私の上に勝手に落ちてきたくせに、文句ばかり言って気絶するなんて。ここに放っておこうかしら。
でもここで腐られても邪魔だしなぁ。仕方ない、また村長のところに運ぼう。えっちらおっちら。あぁ、肉体労働には向かない私たちエルフの心意気。えっちらおっちら。
そうやってひきずるように小柄なユウを運んだエルフの少女。名前をハチマンという。この伝書ブタ牧場の管理者である。
ここはエルフの隠れ里。そこでは伝書ブタを繁殖させて白ブタ急便に売却するという商売をしているのである。このダンジョンの中は伝書ブタが好む魔草・ネコダマシが自生しているので、自由放牧が可能なのだ。
自由放牧で育った伝書ブタは大変優秀な隠密スキルを持ち、また人に懐きやすいという特徴も持つ。ミノ国では、伝書ブタの最大の供給地なのである。
「村長、また落ちてきましたよ」
「どうした。落ちてきたって、まさか、また人間か?」
「はい、そのまさかです。よりによってまた私の上に」
「お主はそういう星の元に生まれたのか。この前の女騎士もお主の上だったな」
「ええ。でもあの人はかすり傷でしたが、今回のやつはかなりひ弱なようです。骨が何カ所か折れてます」
「そ、それを早く言え!! おい、すぐにトンデケ(痛み止め)を持ってこい。それからシロを呼んで、回復魔法をかけさせろ」
村長家の従者が慌ただしく動き、寝所を作ってユウを寝かせると、シロという医者を呼んで回復魔法をかけ薬を与えた。
そこに脳天気な先駆者(先に落ちたやつ)が帰ってきた。
「いま、帰った。今日も大漁だ」
そう言って自慢気に見せたものは、魔ネズミたちである。こいつらはネコダマシを好み、伝書ブタとエサの取り合いをするので、牧場主にとっては害虫なのである。
ユウとまったく同じ理由でこの穴に落っこちたハルミは、世話になったお礼にと、せっせと魔ネズミ狩りをしているのである。
最初は世話になったお礼であったのだが、やっているうちに楽しくなってしまい、また、些少ではあるが経験値ももらえるので、ここに訓練に来たハルミにとっては一石二鳥だったのである。
いまでは早朝から暗くなるまで、一生懸命走り回っては魔ネズミの駆除に励んでいるのである。
そう、帰ることも忘れて、である。
すぐに帰ってこなかったわけは、ほとんどコレが理由である。
「おお、ハルミ殿。いつもすまないな。ところで、このお人に見覚えはないか?」
「見覚えって、ああぁぁぁ。こいつは!!」
「知っておるのか?」
「い、いや。全然知らない。まったくもって知らない。もう全然見たことも囓ったこともない」
「いや、囓らなくてもいいのだが」
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痛いんん。明日をお楽しみに。
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