第135話 ひつまぶしよりも下?

 そんなこんなでいろいろなコマが集まった。


 とはいってもやれることは重さの工夫だけである。重心をなるべく低くして重くする。言ってしまえばそれだけなのだが、それがなかなか難しい。それがちっとも理解できないのが魔王たちである。


 ともかく重くて回ればいいのであろうと、カンキチはコマの持ち手のところにまで鉛を貼り付けた。太いほうが回しやすいとはいえ、それでは少し回転が緩むとすぐに倒れてしまう。


「だぁぁぁ、また倒れたのかよ!」


 しかし、重さにまかせて他のコマを押しやり、短時間で穴に飛び込むという作成が功を奏する場合もあった。それなりに勝ちを拾っている。


 ミノウは金属の輪をでかくしたようだ(ゼンシン作と思われる)。重心は変わらないが重さはかなり増した。良さそうなものだが、このゲームでは他のコマを押しのけて中央の穴を目指さないといけないのだ。重くするために太くなったボディが、やたらに他のコマと衝突する。結局は動き回るだけのコマになっていることが多い。


「こらこら、我の邪魔をするでないのだヨ。そこだいけあぁダメだ。もういっかい行け、あぁダメかぁ。まだまだヨ。ぶちかませー!!」」


 イテコマスんじゃなかったのか。まあ誰よりも長く盤上で回っているから、長く楽しめているようではある。



 オウミはコマ全体を細くそして高い位置にした(軸の上のほうにコマをつけた)。逆転の発想である。軽くしてさらに重心を高くしたのだ。他のコマを弾き飛ばすのではなく、すり抜けようという作戦だ。その発想はたいしたものだが、結果はあまり上々とはいえないようである。少し強く当てられると、簡単に盤外に飛び出してしまうのである。


「わぁぁぁ、当たるでないノだ。当たるのは反則なノだ。ダメだ、あぁぁぁぁ」


 反則じゃねぇよ。もともとコマ同士が当たるゲームだぞ。それでもたまに穴をゲットしているのは不思議だ。



 ここで一番の好成績を上げたのはモナカのコマであった。モナカはかなり思い切ったことをした。コマの下1/3ほどを切断し、そこに金属をはめた(タケウチに実費で特注したらしい)のだ。当然重心は下がり重くもなる。その1/3というのが魔木の特製(回転を続ける)を保つ最低限であることも発見した。


「はい、また私の勝ちね、ウフ」


 勝ち誇っとる。メガネっ娘の本領発揮である。どや顔がちょっと憎たらしい。


 ユウコは相変わらず彩色にこだわりとても美しいコマを作った。しかしコマの形状はそのままである。あまり勝ち負けにはこだわらない性質のようだ。


 ケントとジョウはほぼカンキチの劣化コピーである。しかし、勝率ではこちらのほうが高いのだから、いかにカンキチに勝負ごとのセンスがないか良く分かる。


 で、俺はといえば、まだなにもしていない。これといったアイデアがわかないのでそのままだ。


 それでも最初のうちはそこそこ勝っていたのだが、今ではユウコを抜いて最下位である。


 なんでやねん!!!


 ちなみに最近100試合の結果である。


1位 モナカ 24勝

2位 ミノウ 18勝

3位 ケント 16勝

4位 オウミ 13勝

5位 ジョウ 11勝

6位カンキチ 10勝

7位 ユウコ  5勝

8位 俺    3勝


「装飾しか興味のないユウコにまで負けるなんて。もう死のう」

「イキロ ヨ」


 お約束をありがとう。


 さて。ゲームの大御所である俺がこの成績では情けないものがある。ちょうどふたり用の盤が出来上がってきたので、それを借りてひとりで部屋に引きこもることにした。


 くるりんぱっと。くるくるくる。すっとんこ。


 うむ、何回やっても入るな。ひとりでやってるのだから当たり前か。

 じゃあ、ふたつ持ってやってみよう。くるりんぱっ。かんからころからから……。すっとんこ。


 うむ入るな。


 当たり前だっての。でもこれ、ひとり遊びもできるじゃないか。引きこもりならこれでも充分楽しめそうだ。

 くるりんぱっ。あれ、右手で回したやつのほうが勝率が高いようだな。くるりんぱっ。やはりそうか。


 くるりんぱっ。そうか、右手が利き腕だから回転が強いのかな。くるりんぱっ。力を加減してみたが、やはり右手のほうが強いな。なんでだろ。


 くるりん……あ、そうか。左手はただ回しているだけだが、右手は放り投げるようにしている。コマの持つエネルギーがその分大きいのだろう。だから良く動き良く穴に入るのだ。無意識って怖いな。じゃあ、くるりんぱっ。両方をそっと置くようにすると、勝率は同じくらいになるようだ。ということは。


「所長、ご飯ですよ」

「くるりんぱっ」

「所長ってば。もうみんな食べてますよ」

「くるりんぱっ」

「所長ってば。ご飯がなくなっちゃいますよー」

「くるりんぱっ」


「所長。はい、おっぱい」

「くる もにもにもに。あれ? ユウコいつの間に?」

「どうしてその単語にだけはヒットするかなぁ。この人はもう」


「あ、ご飯だったか。そういえばお腹空いた。今日のメニューはなに?」

「ひつまぶしだそうですよ。さきほどミノウ様が届けて……ってねーぇ所長。呼びに来た私を置いていかないでーー」


 私のおっぱいはひつまぶしよりも下か!!


「いや、引き分けぐらいだと思うノだ」

「それはそれで、傷つきますけどね!」

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