第134話 イテコマス?

 流通、流通、流通。


 だめだ、お題目を唱えていても知らないものはなんともならん。俺もゲームしようっと。


「おーい、カンキチ、俺のコマ返してくれ」

「ええっ?!」

「なんだその、逆ギレ風の返事は」


「あ、すまん。これお前のだったな。なあ、俺のコマも作ってくれよ」

「お前はこのステンレスタイプを使えよ。錆びることのない優れものだぞ」

「いや、それはその」


「どした?」

「ちょっと使ってみたんだが、弱すぎて嫌だ」

「いや、そんなわがまま言われても。でも、どう違うんだ?」


「ステンレスでは魔力がかからないのだヨ」

「魔力がかからないって?」

「魔鉄を使ったものは、穴に入れ! って呪文を唱えると、入りやすくなるノだ」

「それはなんていう魔法なんだ?」

「流動魔法と言うノだ」


「ほほぉ。なるほどね。そういう魔法があるわけか。だからお前らの勝率がやたら高かったんだな」

「「えっ?」」


「じゃ、これからは魔法禁止な」

「「そ、そんなーー!!」」

「「「「ぜひそうしてください」」」


 圧倒的多数で可決した。今後は、全員ステンレス軸のコマを使うように。


「「「「はーい」」」」

「「……」」


「そこのちびっ子ふたり。なんか文句あるんか」

「うぐ。ちびっ子ではないノだ。仕方ないノだ。これでやるノだ」

「せっかく見つけた魔法だったのに。がっかりだヨ」


「そうか、そんな魔法があったとは気がつかなかったな」

「だからカンキチは勝率が低かったんだな。でも、これからは平等になるぞ」

「よし、ますますやる気が出た。さぁやろう」


「その前に、ちょっと俺のコマガタガタすぎね? それになんであちこちに紅いペンキみたいなのが付いてんだ?」

「あぁ、赤いのは私のコマから盗ったんです! 返して」

「返せるか!! おかげでなんか汚らしくなっちゃってもう。あれ、みんな似たようなものか」


「ユウコ。色塗りも今後は禁止する」

「えぇぇぇぇ!! そんな酷いですよ!!」

「他のコマに迷惑だ。諦めろ」

「じゃあ、もうおっぱい揉ませてあげませんよ?」


「コマの周りに金属のベルトをはめるとしよう。他のコマとぶつかるときはその部分で当たるようにすれば色はつかない。金属部分以外の場所は色でも模様でも良しとする」

「そ、それならいいです」


「お主の中では、おっぱいを中心に世界が回っているノか」

「その通りだとも!」


 よかったよかった。貴重なおっぱいを守れた。


「それと、コマについては各自で加工は自由とする。いろいろと工夫して、強いコマを作ってくれ。魔法を使わずにだぞ」


「「うっぐっノヨ」」


「ユウ、加工ってどうすることだ?」

「この競技はコマが重い方が有利だ。だから、おもりを付けると勝率が上がるだろう。ただし、つける場所によっては重心が上がり、バランスが崩れてすぐ倒れてしまうだろう。そこはテクニックということになる」

「ふむふむ。重くすると有利か。なるほど」


「それから見ていた気がついたのだが、よく動くコマのほうが有利な気がするな。盤に傾斜があるからコマは放っておいても中央に寄っていくが、それだと他のコマに弾かれるだけだ。だけど自分で動くコマは他のコマを押しのけて入ることが多いようだな。魔法使ってそうしてるのかもしれないけど ジロッ」


「「ぴゅ~ノヨ」」

「これからは禁止だからな」

「「(´・ω・`) ノヨ」」


「動かすのはダメだが、重くするのは正式にやって良い改変なのだな?」

「正式になるかどうかはまだ分からん。軸を触るのはとりあえず不可として、コマの部分だけは改変自由にしようとは思っている」


「所長、金属のベルトってどうするんですか?」

「タケウチで作ってもらおう。ミノウ」

「ほいだヨ」

「図面書くから、在庫のコマを持っていって、金属ベルトをはめてもらってきてくれ」


「じゃ、ついでにナツメももらってくるのだヨ」

「ついでが好きだな、お前ら」


「ユウさん、金属ベルトってどういうものですか?」

「ケントのやつもそうだが、どのコマも同じところが傷ついているし、汚れてもいるだろ?」

「はい、そうですね」


「そこがコマ同士がぶつかる部分だ。だからそこだけに金属をはめて、コマの本体を守ろうということだ。金属ならキズは目立たないし汚れたら外して磨いてもいいし交換してもいい。魔木は貴重だからがキズつくと交換にコストがかかる。なにより愛着ある自分のコマがだんだん削れてゆくのを見ていているのは辛いだろ? 特にユウコ」


「うん。そのほうがいい。金属がはまるなら、また色を考えなくっちゃ」


 お前はコマを強くすることには、無頓着だな。まあ、そういう楽しみ方もあっていいけど。


 土星の輪のような状態にすると思ってもらえれば分かりやすいだろう。この連中には言っても分からんと思うけど、そうすれば当たるのは輪っかだけとなる。


 それで汚れやキズの問題はクリアできる。そして軸をステンレスにすることで、魔王どものインチキも防げる……かどうかは分からんか。

 こいつらはまた別のインチキをするかもしれないしな。


 とはいっても、多少のインチキぐらいしてもいいのだ。こんなのはお遊びなのだから。コマの加工で工夫するのも魔法で工夫するのも、たいした違いではない。インチキも創意工夫のうちだ。


 ただ、それは公平でなければならない。魔法が使えない人が不利になったのではゲームは面白くなくなる。


 そして魔鉄を使った7個のコマは封印された。



 次の日。ステンレス軸を使い、土星の輪を付けたコマが200個ほど届いた。タケウチも忙しいはずだが、がんばって作ってくれたな、感謝だ。

 ちなみに、輪っかはコマの加工(輪をはめる溝を掘る)代を含めて1個70円である。ああ、コマの原価が上がってしまった。盤の値段を値切るかな。


 それを使ってそれぞれが自分の名前や記号を書いたりお化粧したり? して、今日から新たにゲームの再開である。そしてゲームの名前だが。


「コマスノだ。そこだ、いっけーーノだ」

「あぁ、そこで引くでないヨ。コマセコマセ。イテコマセーーーヨ」


 なんだそのかけ声は? コマス? イテコマセ?


「面白い名前を付けましたね、所長。なんかこれ、ゲームの感じがすごく出ていて分かりやすいですよ」

「ほんと。ユウさんはネーミングの名人ですね」

「イテコマスなんて、このゲームのイメージにぴったり。みんな使ってますよ」

「語尾に変化が付けられるのがステキです。イテコマセーーってすごくイテコマしている感があります」


 どうしていつも俺のいないうちに名前が決まってしまうのだろう。なんだイテコマしている感って。俺はそんなこと言ったことは一度もないのだが。


 どーしてこうなった???


「そりゃぁぁ。そこだそこだヨ。イテコマセ―ーー」

「ミノウ?」

「な、なんなのだヨ? ユウ」

「またお前が犯人か?」


「し、失敬なことを。我はお主に聞いた通りのことをだヨ」

「ああ、俺も聞いたぞ。コマスとかなんとかって言ってただろ」


 カンキチまで一緒になりやがった? こままわし、とは言ったがコマスなんて言ったことはないぞ。ウソだと思うなら、この作品の最初から最後までctrl+fで検索してみやがれ。それに、イテはどうして付いた?


「まあ、細かいことは良いノだ。このゲームの正式名称はイテコマシで定着してしまったノだ。短縮形がコマスで、イテコマセ―という応援バリエーションも誕生して良い感じなノだ」


 イテコマシゲームかよ!? 確かにコマという文字は入っているけど! こままわし、では言いにくいなとは思っていたけど!


 だけどそれ大阪弁で全然違う意味になるのだが、いいのか?


 コマ同士の戦いという意味では、かけ離れているわけでもないこともないようなそうでもないような。


「構文がやけに複雑なのだヨ」

「俺の心証を察してくれ」


「まあそれはあちこちに置いといて。それじゃ、記念すべき第1回戦を始めるぞ!」

「「「「おー、イテコマシたれーー」」」


 いいのかなぁ、これ。


 では、くるりんぱっ。きんこらかんこれきんこんかん。今までは木同士が当たっていたので音は地味だったが、金属の輪を付けたことで賑やかになった。

 宣伝するときはこのほうがいいが、夜通しこれをやられたら殺人事件に発展しそうだ。


 商品化したら、パッケージには夜遅くにはやらないようにしましょう、とか書いておくべきだろうな。あ、俺のコマが入った!!


「よっしゃ!!! 俺の勝ちだ!!」


 あれ。なんだろ、すっごい嬉しい。


「あぁん。私のコマが。あ、なんともないわ」

「ユウ、なんかインチキしてないノか?」

「自分がやってたからって人を疑うなよ」


「くそー。俺のは軽いのか外にはじき出されてばっかりだ。ちょっと加工してくる」

「うむ。加工は自由だ。どんどんやってくれ。それでどんなコマにしたら強くなるのか、俺も知りたいからな」

「そんなことより、次を早くやるのだヨ」


「よっしゃ。じゃあ俺の勝ちにひとつ付けてと。2回戦だ!」


 きんからこんかんぴんからとりおんかんこん。とコマが鳴る。


「また古いのが出てきたのだヨ」

「いいから黙ってろ」


「おっ!! また俺の勝ちぃ!!!」

「あぁぁん、もう。また負けちゃった」

「おかしい。なんでユウばっかりが勝つノだ。おかしいノだ」

「おかしくないノだ?」


「我の口まねをするでないノだ!! ぷんぷん」

「もういいから、次いくのだヨ」

「じゃあ3回戦いくぞーー」


 かんからころころきんかんこん。もうそれはいいとして。


 1時間ほどやって俺は気がついた。


 これは面白い(笑)


 こいつらが熱中するわけだよ。そこへ加工を終えたカンキチが帰ってきた。


「な、なん、なんじゃそりゃーー!!」


 そこにはほとんど全身を金属でぐるぐる巻にされたコマがあった。


「なにを巻いたんだ?」

「これは地下にあった鉛だ、それを薄く削って巻いてみた。柔らかいので巻くのは簡単だった。これで相当重くなったぞ」


 コマに巻き付けられるだけの鉛を巻いて、重量を上げるという作戦にでたカンキチであった。重い方が有利だとは言ったけど。


「しかしカンキチ、それはちょっと」

「なんだユウ。ルール違反ではあるまい?」

「確かに違反ではないが」


「不細工ね ボソッ」 ユウコは容赦ないな

「コマに見えないノだ」

「まったくだヨ。品性の欠片もないヨ」


「やかましいわ!! ミノウに品性とか言われたくないわ! 強ければそれでいいんだ、力さえあればいいんだ。ひねくれて育った俺はみなしごだ」


 こらこら。また危ないことを。それに、お前には両親がいるだろうが。


 もはやコマの原形をとどめていないカンキチのコマを交えて、イテコマスの再開である。


 えいやぁ。


 どたっ。


 あ、速攻でコケた。


「もう!! カンキチさん、邪魔!!」

「そんな大きなコマが倒れたら通れませんよ」

「あぁぁあ、倒れたままで穴を塞いじゃったじゃないですか」


 こりゃだめだ、引き分け~。


「ダメだカンキチ。そのコマは退場だ。これじゃゲームにならん」


 いくら重い方が有利とはいっても、限度があるということが分かったのは収穫だった。しかし、回すテストぐらいしてこいよ。


「ううぅぅ。苦労して鉛を貼り付けたのにくそぉぉ。ちょっと減らしてくる」


「今度はちゃんと回るのを確かめてから投入してくれ」

「分かった。そうする」


 さて、じゃあ次に……あれ? どうしたみんな?


「我もちょっと加工してくるノだ」

「我もそうしようかヨ」

「私のコマもちょっとお化粧直しを」


 お化粧直ししてどうする? でも、やる気になってくれて俺は嬉しい。


 自分のコマを強くするのも美しくするのも、このゲームの醍醐味だ。じゃあ、ちょっと休憩を入れよう。1時間後に再開だ。


 こうしてそれぞれが思い思いに加工を施すといスタイルが定着し、イテコマシゲームは、全国高校ロボット競技大会の様相を呈してきたのである。


「ミニ四駆レースにも似ているのだヨ」

「自分で工夫ができるというところは確かに似ているな」


 これ、流行りそうだ。

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