第132話 執事の権限

 穴に入れようとしても、縁をなめるだけで出てしまう。無理に入れようとしても弾かれたり抜けたりする。初めての場合はとくに、入れるのに苦労するものである。


 では、弾かれないようにするにはどうしたらいいか?


 まずは前戯でしっかり濡らしておいてから(゚°)☆\ばしっ 痛っ


 誰? いま、ツッコんだの誰?


 俺は湯船の中。ここの温泉には混浴はない。それで仕方なく普通に男湯に入って、ゆったり考え事をしていたのだ。それを誰かが邪魔をした?


「ゆったりと、エロいこと考えてたでしょうが!」


 魔王トリオは今頃夢の中のはずだ。他の連中だって徹夜明けでノンレム睡眠(熟睡)の真っただ中……ユウコ? なんでお前がここにいる?


「エルフは寝る前にお風呂に入るのが作法なのです。でもこの時間は女湯が閉鎖されていたので、仕方なくこっちに入ったんですよ。まさかユウさんがいるとは思わなかったんです」

「そうなのか。それは犯されてもいいよっていう合図のようなも(゚°)☆\ばしっ 痛っ」


「エルフを犯すな! そんなことしても子供できませんよ。そもそも無性生殖って言ったでしょ」

「そうだったな。それならなおさら好都合(゚°)☆\ばしっ だから棒で殴るのはやめろ!」


「モナカから、ユウさんがエロことを言ったら殴っていいよって教わっています」

「あにょにゃろぉ。こんど、泣くほど乳揉んで……揉むほどなかったか。じゃあ、尻でも(゚°)☆\ばしっ 痛いん。もう泣くぞ!!」

「どうぞ?」


 くっそ。エルフのくせにすっかり俗世の知識を身につけおってからに。これもすべてモナカのせいか。


 ユウコは俺の前方3mほどのところで湯に浸かっている。俺のあとから入ってきたようだ。


 エルフはあまり視力が良くないらしく、そこに来るまで俺に気がつかなかったそうだ。モナカみたいにメガネでもかければいいのにと思うが、それはコンセプトが許さないと。どんなコンセプトだよ。もっともメガネっ娘はふたりも必要ないか?


 この距離では俺に手は届かないのに、ユウコの棒はなぜか俺に届いている理不尽さ。


「ミヨシさんからも言いつかってますよ?」

「あぁん、それもあったか。ユウコに会わせる前にミノ国に返すんだったなぁ」


「でも、ユウさんは私のことを気に入っていただけるようなので、それはそれでとても嬉しいです」

「そうか。じゃ、そのおっぱいを(゚°)☆\ばしっ だから棒は止めて!」


「これ、コマを作る材料と同じ、このきなんの木ですよ」

「なんでそんなものを風呂場に持ち込むんだ!」


「これがないと溺れるじゃないですか。ユウさんは常識ってものがありませんね」

「なんで溺れるんだよ! この湯の深さはお前のバストサイズよりも浅いぐらいだろ?」


「……えっと。それはエロいことですか?」

「俺に聞くな!」


 あれ? 殴ってこないな。おっぱいはダメなのに、バストはいいのか? 


 もしかして?


「ユウコって胸のサイズはいくつあるんだ?」

「え? えっと。85cmです」


 おっぱいはダメだが、胸ならOKだった。ひとつ発見!


 俺が聞いたことはセクハラそのものだが、おっぱいを胸と言い替えれば、ユウコの中では普通の会話と判断されるようだ。


 つまり、セクハラという行為を理解した上で俺を殴っているわけじゃなく、モナカやミヨシに教えられた固有(エロ関連)単語のあるなしで判断しているのだ。


 その単語が出てくると自動的に俺を殴る、というすり込みをされているのだろう。ということは? そういう単語を使わないようにすればいいのか……。


「それじゃ、ちょっと立ってユウコのヌー……全体像を見せてくれないか」

「え? 全体ですか? えっと、はい。こんなものですけど」


 おおっ。成功だ! よいぞよいぞよいぞ。


「こらユウコ。隠しちゃダメだろ、手は後ろで組んで」

「こう、ですか。なんだろ、これが恥ずかしいって感覚でしょうか。不思議な気持ちになります。おかしいですよね、こんなのって」


「俺の秘書になるなら、このぐらいはね?」

「え? してもらえるのですか?!」

「いいとも。だからもっとはっきり見せるのだ」

「恥ずかしいですけど、はい」


「恥ずかしがることないぞ。すごいエロ……キレイだよ。まるで芸術作品みたいだ」

「いま、エロいって言いかけませんでした?」


 いま棒を持つ手がピクッて動いた。危なかった。


「いやいや、そんなことは言ってない。もうちょっと足を広げて、手は万歳にしてみて」

「こ、こうですか? なんか恥ずかしさが増す一方なのですけど」


 腕を上げてもバストの形は少しも崩れず、しっかり円錐形を保ったままだ。真正面を向いている乳首と視線が合ううと、こっちがテレクサイほどだ。まさかそこからレーザービームとか出ないだろうな。


 しかし見事なものである。人間なら17才というところだろうか。なんという美しいヌードであることだろう。まるでサンタフェである。NUDITYである。Angelである。


 カメラがないのが恨めしい。この美しさを記録に残せないなんてこれはもう罪悪と言って良いぐらいだ。


「その胸はエルフの中でも大きいほうだろ?」

「それはまあ、そうですね。エルフは食糧事情があまり良くなくて、痩せているものが多いです」


 いかん、違う地雷を踏みそうだ。


「そ、そうなのか。そういえば、エツコとアクビは痩せていたな」

「ええ、あのふたりが普通です。私はまだ若いので食料は優先して食べさせてもらえたのです。それがここに来たら食べ放題なので、それだけでも嬉しくて嬉しくて。ユウさんには感謝しかありません」


 それにしてはやたら殴られたが。しかし、エルフの里はそういうものなのか。


「でも、エルフって手先は器用なんだろ? もっといろいろなものを作って売れば良さそうなものなのに。家具とかさ」

「家具を作って、誰に買ってもらえばいいのでしょう?」


 え?


「小さいものなら、私たちは得意です。1cm□の板に1,000文字くらは書けますよ?」

「お前らは高精度レーザープリンターか! すごいな。すごいけど、それを書かれても誰も読めないんじゃ」

「拡大鏡がないと無理ですね」


「つまり、あまり需要がない技術ばかりが進化してしまっていると」

「私たちは他の種族との交際をほとんどしてきませんでしたので、それがネックになってますね。身内で競争が始まると、いつも極端な方向にばかり進化してしまって」


 エルフのガラパゴス島だな。


「孤高の種族・エルフか。名前は格好いいが、経済の発展からは置いて行かれたわけだな」

「そうですね。だから餓死者もずいぶん出たと長老から聞いています。いまはそれほどではありませんが、貧しい村であることは変わりないです。だからちょろ……良い人を見つけたらひとりでもその人に押しつけ……お世話になろうといつも身構えてます」


「ちょいちょい本音がでかかっているようだが、エルフの窮状はよく分かった。これからは俺がエルフの里を裕福にする手伝いをするからな。餓死者なんか絶対にでないようにしてやる」


 こんないいおっぱいを減らしてなるものか!


「え? ほんとですか!? あ、あり、ありがとうございます」


 わぁぁぁぁんと泣きながら俺に抱きついてきた。いや、お前も俺も素っ裸なんだが。あぁ、おっぱいが目の前に来た! ちょっと吸ってみようっと、ちゅうちゅう。


 ……痛い痛い痛い。こんなときでも殴るのは忘れないのかよ! いまはどんな単語にヒットしたんだよ。


「ずびばぜん。条件反射でず、ぐずずずず」


 分かったから、泣きながら叩くの止めろ!! もうこの棒、取り上げてやる!!


「あぁぁ、そんなうっぷ」


 と言いながらお湯に中に潜った。おいおい、まさかお前。潜ってナニをするつもりだ? あぁぁ、俺の股間にしがみついてるぅぅん。


 おぃおいおぃおい。それって潜望鏡とかいうお風呂的特技で、エルフはそんなものまで進化させているのか!?! あれ?


「ごぼごぼごぼごがぼぼぼ」

「おーい」

「がぼごぼがぼごぼぼぼ」

「なにしてはりますのん? くわえるなら早くやっちゃわないとお前が溺れるよ?」


「がぼごばがおごごご」

「え? なに? ああ、この棒が欲しい? だって殴るんだもん」

「ぼうぐばぐがなぐがらがえづで」


「もう殴らないから返して? そうか、じゃ特別に返してやろう、はい」

「どばぁぁぁぁぁぁぁぁ。だぁあはぁはぁはぁはぁぜぇひぃへぇ。こ、こ、こ、ころ、ころ、ころす、殺す気ですかぁぁぁ!!!?!?!」


「お帰り」

「お帰りじゃないでしょ! がはごほほそんな軽く言わないで。その棒をとったらエルフは溺れるんですよ!」

「あれ、マジだったのか。冗談だと思ってた、すんまへん」


「はぁはぁはぁ。じょう、冗談なんかじゃありませんってごはほへほっ。これは殺人罪ですよ。エルフだって死ぬんですからねっ」


「そこまでか! なんでこんな浅い風呂で溺れるのか不思議だったのだが、ほんとになるんだな」

「常識ですって」


「いや、エルフの常識、人の非常識っていってだな」

「もう、今後は止めてくださいよ、ほんとに。ごほごほげほ。あぁ苦しかった」

「悪かった。で、もう殴らないって約束は覚えているな?」


「え?」

「え? じゃないの。忘れたとは言わせないぞ?」

「はい、覚えてます。覚えてますけど、それがなにか……」


 ということで、これからしばらくの間は、ユウコの85cmと俺の手は仲良く過ごしたのであった。もにもにもーにもに。ああ楽しい。もにもにむぎゅっとな。


 抵抗できない女の子のおっぱいを揉むときのことを、至福のときというのである。どSの本懐であるもにもにも。


 それは俺がのぼせて倒れるまで続いた。



「ったくもう。ちょっと目を離したらこれだから! ユウコ、あんたもなんで言われるままに裸を見せてんのよ!!」

「え? だって、エロい単語集に入ってなかったもん」


「まったくもう、あんたって人……エルフは。恥じらいってものはないの?」

「なにしろ無性生殖」

「それは分かったから。もう少し人間社会に出て、常識ってものを学ばないとね」

「そ、そうだけど。エルフにはエルフの常識が」


「だけど、所長の秘書だかボディーガードだかになるのでしょ?」

「うん、それはなれたらいいなって」

「じゃあ、学びなさいよ!!」

「は、はい、先輩。それより、ユウさんは大丈かな?」


「回復魔法がいるかも。でものぼせただけだし、死ぬようなことはないでしょう。さぁ。部屋に運びましょう」

「ユウさんをこうやった運べるのも、秘書の特権かしら」


 そんな権限をやった覚えはないのだが。至福のときは長く続かないものである。

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