第131話 盛り上がるゲーム
カンキチと 名乗ればいいと 言ったから
11月10日は 魔王記念日
「それ、サラダの歌ではないのかヨ」
うん、良い具合にカンキチのキャラができた。これならオウミやミノウとかぶることがないな。俺の眷属では初の色物枠だ。
「良い具合じゃないっての! 俺は色物にするんじゃねぇよ!!」
「はいはい。じゃ、先輩たちと仲良くな」
「うっぐぐ。俺はなにか大きな失敗をしでかしたような気がする」
「ところで、お前らケンカなんかすんじゃねぇ……」
新参ものは大人しくするノだろぼかすか。もう師匠じゃないのだ威張るなばしびし。わ、我も参加するのヨぺちぽち。あぁもう誰を殴っているのか分からんノだぽかぽか。ミノウは俺の味方じゃないのかがしごし。我は誰の味方でもないヨぴちぴち。お願い私を混ぜないで!! なんか聞こえたノかぽかすか。気のせいだつんつん。なんか違うのを叩いてる気もするのだヨぱちぺち。
「早速ケンカしてんじゃねぇ!! それより、お前らユウコを間に挟んでるが気づいてないのか?」
「「「あっ?!」」」
「痛ったぁい!! みんなもう、全然ダメ!!」
なんだ全然ダメって?
「「「しょぼーーん」」」
ユウコはひと言で、魔王をしょんぼりさせおった。エルフの威圧もパネェッす。この世界ならではの光景であるあははは。
話変わって。
「所長。これ面白いですよ。ぜったい商品化すべきです!」
「俺もそう思ってた、ユウコ。ところでこの盤だが、もっと小さいのも作ってもらいたいのだが」
「おかのした」
もうツッコまないんだからね。
「今のサイズは5~8人用で25cmだから、ふたり用として直径10cm、4人用として直径18cmで、それぞれ作ってもらいたい」
「材料はまだたくさんあるので、また秘密の部屋に行ってきます」
ハリー・ポッターかよ。そこはただの物置兼倉庫だから。内側から鍵のかかる部屋がそこしかなかっただけだから。そこにスリザリンの怪物なんていないから。
「それとミノウ。またお使いを頼む。今度はステンレスであの軸を作れと言ってくれ。値段は1本100円だ。それで1,000本発注する」
「ほい、なのだヨ。じゃあ、ついでにご飯ももらってくるのだヨ」
どっちがついでだよ。ってことで、そろそろコスト計算が必要だな。
軸は100円。コマの本体が300円ってところか。計400円だ。もちろん量産が始まればもっと安くなるが、しばらくは試作代金として考えよう。
コマ1個が400円というのは破格の高さだが、あの魔木でないとこれだけの動きをしてくれないから仕方ない。盤はただ削っただけの杉板だが、コマが引っかからないように滑らかに削り抜くには技術がいるはずだ。小さいほうから300、500、1,000円でいいだろう。
「またぶつぶつが始まったノか?」
「そっとしておきましょうよ。それより残ったもので勝負を再開しましょう」
「じゃあ、モナカが音頭を取るノだ」
「はーい。じゃあ、くるりんぱっ」
ってことで1セットの原価だが。
ふたり用はコマを3個付けるとして1,500円。
4人用がコマ5個で2,500円。
多人数用はコマ8個付けて4,200円となる。
これが原価だ。そうなると売価は、原価率を30%としてとそれぞれ(ざっくり)、5,000円、8,000円、14,000円となる。
遊戯用としてはちょっと高いだろうか? しかしこれでひと冬を屋内で遊べるのなら、高くないかもしれない。
ミノ国なら問題ない値段だろう。しかしホッカイ国の経済状態では難しいかもしれない。これは市場調査が必要だな。ケントやジョウにやらせよう。
(ケントやジョウは、いつの間にお主の部下になったノだ?)
コマは消耗品だ。ホッカイ国限定で単体販売もしてやるかもぐもぐもぐ。原価率を50%まで上げれば1個800円。セットを買ってくれた人には、追加でコマだけ買えるという制度がいいかもしれないむしゃむしゃむしゃ。
いつの間にか食事も終わり、ずっとそんなことを考えていたら眠くなってきた。
「モナカ、俺はもう寝るから成績をつけておいてくれ。誰が一番勝ったのかが分かるように。それとカンキチ、俺のコマ使ってていいぞ」
そう言って眠りに落ちた。
次の日。
「おあよー」
コマが回るぐるぐるという音がしている。お前ら、こんな朝っぱらからあのゲームをやってんのかよ。
「あぁ、おはよ、ござい、ます、しょちょ」
「あ、ユウさんがお目覚めだあははは、ってことはなに、もう朝ってこと?」
「なまむになまもめなまはもほーヨ」
「くっ、次こそ! 次こそ、我が勝つノだぐぅぅ」
「俺だって負けるものか負けるものか負けるものぐぅぅぅ」
いったいなにがあったんだ?!
「あ、おはようございます。ユウさん。お食事の支度はできています」
「あ、ケントか。こいつらいったいどうしたんだ?」
「ええ、一晩中、あのコマ回しをやっていたようです」
はぁぁぁ?!
「こいつらって、バカなん?」
「ここには遊びらしい遊びはありませんから、珍しかったのだと思います。私は仕事があるので朝の3時にはリタイヤしてふぁぁぁほうでふ」
お前も眠そうだな、おい!
そんなに面白いのか、これ? ただ、コマを回して1番を争うだけのゲームなのに。遊びに慣れていないというのが本当なら、これは俺の予想以上に売れるんじゃないだろか。
「よし、ミノウ。タケウチのところに行って、軸の増産を……ってどうした?」
「とうきょうとっきょひょはほほふーヨ」
もう寝やがれ!!!
「まだまだ、俺は眠くなんかぐぅぅぅ」
「我だってまだ勝つまでやるノだ、欲しがりません勝つまでぐぅぅぅノだ」
「お前ら!! ゲームは中止だ!! 全員、寝ろ!!!」
と言って全員を部屋に帰した。するとここに残っているのは俺だけとなる。俺が起きてるときに皆が寝ているなんて、この間の温泉旅行以来だな。
……誰もいないと退屈だ。ゲームのことでも考えるか。このゲームの場合、回す技術にはほとんど差はないだろう。多少の戦略はあるかもしれないが。
はたして強いコマというのは、いったいどういうものだろうか?
その辺にあったコマをひとりで回してみる。くるりんぱっ。
軽快に回転しながらコマは俺の手を離れて盤を回る。くるくる回りながら傾斜に負けて中央に向かって降りて行く。
しかし、なかなか穴の真上を通ってはくれない。行き過ぎてはまた傾斜に負けて戻ってくる。しかし真上を通っても、速度が速すぎると飛び越えてしまうことさえある。
何度も素通りを繰り返してやっと穴にひっかかるのだ。ひとりで回していてもすぐに穴に飛び込んではくれないのだから、そこに他のコマがあればなおさらであろう。
ふむ。この偶然性が受けたのかな? そこで成績表を見てみる。
「全部で708回やったと……一晩で708回だと!? いったいどんだけ好きなんだよ、こんな単純なゲームなのに」
「で、1番はミノウか。208勝とある。すげえな。次はオウミで168勝か。ふたりで半分以上勝っているわけか。魔王がふたりで半分以上ねぇ。これは間違いなくインチキしてやがるな。起きたらしばいてやろう」
「次がユウコで88勝。モナカが72勝。カンキチは60勝しかしてないのか。あいつはズルをするスキルがないのか純真なのか。その他はまあそれなりの成績だ」
こういうのは勝てないとつまらなく感じると思うのだが、途中で寝たというケントを除いて全員が朝までやっていたようだ。
なにゆえ?!
意外なものが受けるんだなぁ、ここは。そうだ、まだゲームの名前を決めてなかったっけ。
いつもなにかの偶然におかしな名前に落ち着いてしまうから、今度くらいはまともな名前を付けてあげたいものだ。
コマ回し、じゃそのまんまやんけ。ゲームを考えた俺の名前を取るか? ユウ回し。俺が回ってどうする。穴に入れるというのはゴルフに似てるが、あんなにかっ飛ばすわけじゃないし。
あぁ、ダメだ、なにも浮かばない。そうだ、温泉にでも入ろう。
次回は、ふたたびの温泉回でありますむふふのふ。
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