第122話 第122話 トートバッグ

「爆裂、爆裂、らんらんらん♪」

「今日もおいしい爆裂コーン♪」

「爆裂、爆裂、らんらんらん♪」


「おい、いいのかアレ。そろそろ苦情が来るんじゃないか?」

「大丈夫なのだ。どうせこんな小説なんか誰も読んじゃいないヨ」

「そ、それはそれで悲しいものがあるけどな」


 ホッカイ国限定であるが、爆裂コーンを販売したとたんに大人気となった。


 テレビもラジオもない世界なので、CMだってあるはずがない。近所で毎日開かれている市場のイベント会場で、その一部を借りて即売会を実施したのだ。


 作るところだけは壁で囲って見えなくして、出来上がったものをお皿に入れて10個入りを1皿20円で売った。安くして、ともかく少しだけでも口に入れてもらおう作戦である。


 ほとんどの人は、ポップコ……爆裂コーンの匂いに釣られてやってきた。


「あら、なんか良い匂いがするわね?」

「なんの匂いかしら? 爆裂コーン? なんか物騒な名前ね」

「だけど、良い匂いよね。安いしちょっと食べてみようか?」


 最初は、好奇心と食用旺盛な主婦が集まってきた。そうすると例のごとく、ほとんどの女性が持つ固有魔法・流言飛語魔法が発動されたのだ。


(それ、魔法なのかヨ?)

(オウミの命名だ)


 冬の間、食べるもの限られるホッカイ国人にとって、安くておいしくて、ついでに栄養価も高い爆裂コーンは、その食感とも相まって大いに受けた。それを主婦層が広めた。安いので子供にも受けた。そして魔人にも受けた。


 魔人?


「あらこれ、おいしいわね。ぽりぽりぽり。柔らかいけど、ときどき良い感じで固い粒に当たるのね。それがまた楽しいわ」

「ほんとだ。なにこれ、こんなの今まで食べたことないわぽりぽり。これたくさん買って帰ってみんなに配りましょうよ」

「ええ。それはいいわね。いいお土産になるわ、これ。全部ちょうだい」


(オウミ、あれってエルフさんたち?)

(そうなのだヨ。ミノ国にはほとんどいないが、トウホグから北にはたくさん住んでいるヨ)


 なんだトウホグって。訛ってんのか?


「ありがとうございます。でもこれ、入れ物がないのです。お皿に載せられるだけしか、お渡しできませんが」


 ちなみに、接客はモナカである。製造はジョウとケントがやって、俺とクラークはつまみ食い係である。


「所長!!! 売り物を食べちゃだめっ!」

「クラーク様が食べた分は、経費で落としますからね?」


 美しい予定調和が舞台裏で繰り広げられていた。


「ああ、それなら私たちのこの袋に入れて行くわ」


 という声が聞こえた。え? 袋? そんなのがあるのか?


「あ、そ、そうですか。あの所長、どうしましょうか。こちらの方がここにあるもの全部欲しいとおっしゃってますけど」


 モナカの呼び出しでつまみ食いを止めた俺は外に出た。普通ならそのぐらいのことで人前(魔人前?)に出ることはないのだが、袋という言葉に引かれたのだ。


「はい、ありがとうございます。えっと、袋をお持ちだそうですが?」

「ええ? こちらに」


 そう言って3人のエルフ娘のうちのひとりが差し出したのは、なんらかの繊維で編まれたトートバッグであった。


「え? それはどうやって作ったのでしょうか?」

「あ、ごめんなさい、それは我が一族の秘密なのですえへへ」

「そうですか。しかし素晴らしいバッグですね。ちょっとだけ見せていただけませんか。そしたら1皿無料にしますけど」


「え? そうなの。じゃあ、はい」


 俺はそのバッグを手に取る。厚みがあってしっかりした素材だ。やや固めだが手触りは麻というよりは木綿に近い。ここでは木綿など獲れないはずだが。


「これって材質はなんですか?」

「ごめんね、それも秘密なの」


「それではこのバッグひとつと、ここにある爆裂コーンと交換しませんか? この裏にはまだこの倍の在庫があります。それも入れてです」


「ちょ、ちょっと所長! そんなことしたら」

「いいから、後から俺が損失補填する。このチャンスを逃してなるものか」


「え? ここにあるものの倍の量を、タダでくれるの? ほんとに?」

「ユウコ、そのバッグひとつぐらいあげちゃえば? これと交換なら損はないわよ」

「そうね、アクビ。こんなのまた作るだけだし、こちらのほうが価値が高いわよ。交換しちゃいなよ」

「エツコもそう思うのね。それならそうしましょう」


 ユウコ、アクビ、エツコ。3人の名前のようである。ひとりを除いてまるで普通の日本人のような。


(そろそろ名前のネタが尽きてきたのではないかヨ?)

(ばらすんじゃねぇよ!)


「分かったわ。小さな商売人さん、これあげる」

「わぁぁありがとう。おねーさんたち」


 いかん、12才の子供になってしまった。しかし、これは良いものを手に入れた。だけど、それよりも。


「あの、もしよろしければ、この奥でお話しませんか? ウチにはまだとっておきのお菓子があるんですよ。それを食べながらお姉さんたちのお話を聞きたいな」


「あら、この子。私たちをナンパしようとしているわ」

「かわいいじゃない。もう買い物は終わったし、ちょっとぐらいなら」

「うん、いいわよ。どんなお菓子なのかしら」


 12才の子供強い(小並感)。


 そして俺は、じつに貴重なものを手に入れることになるのである。

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