第119話 ポテチパーティ

「モナカ? 目が覚めたか?」

「ああ、あ。はい、あ、所長。紙を持ってきました」

「乙。受け取ったよ。たくさん集めてくれてありがとな」

「ああ、そうか。私はここにきて気を失っ……ひぃっ!」


 また、クラークが目に入ったらしい。


「モナカさん、大丈夫?」

「は、はい。あ、ミヨシ。私また、魔王様に……。もう所長はどれだけの魔人脈を作れば気が済むのでしょう、はぁはぁ」

「俺を見て気を失うなんて失礼な娘だ」


「モナカさん気を確かに。あの人顔は怖いけど、悪い魔王じゃないわよ」

「お前も結構失礼だぞ?」


 クラークあるあるだな。ヒロミちゃんの時代から、お前の顔だけは悪いほうにしか進化してないようだ。


「それで、モナカ。ひとつ質問があるんだが」

「は、はい。なんでしょうか」

「お前の友人で、農業試験場に勤めているってやつ、ここにいるんだよな。いま連絡はとれるか?」


「えっと。友人……ああ。シャインですね。えっと、ここならとれますよ。どんなご用件ですか。甜菜の作付けなら春の予定なのでまだ先の話ですけど」

「まだ土地が余ってるはずだよな。そこでジャガイモが作れないか聞いてくれ」


「ジャガイモですか。甜菜といい、所長はマイナーなものがお好きですね。すぐに連絡とってみます」


 ジャガイモってマイナーなのか? 主食にはしにくいものの、育てやすい作物なのになぁ。


 それだけに需要さえ作ってやれば、がんがん作ってばんばん売ってうはうはう儲かるわははは。とらたぬ。


「所長、シャインいました。直接お話もできますけど」

「ああ、そのままでいいから、お前から伝えてくれ」


(お主がでれば話はもっと早いのだヨ?)

(やかましい。いまはモナカを鍛えてんだ)

(鍛える人も方向も違うと思うのだヨ)


「そうですか。私はいいでけすけど……うん。いいって。うちの所長照れ屋でね。それで、ジャガイモは作れる? うんうん。そうか。畝を作らないといけない、だけどできるの? 金さえあれば?」


「分かった。もう200万出すから、と言ってくれ」

「聞こえたみたい笑。200万出すって。それならやる? うん、がんばって。試験場の人にもよろしく。え? お金? 所長、お金はいつもらえるかって聞いてますが」


「研究所が建てばエースがやってくるはずだから、11月初めには……どうやって金渡せばいいんだっけ?」

「銀行振り込みでいいですよ?」


 あっそ。また俺の知ってそうで知らないこちらの常識ね。はいはい。それはモナカにまかせた。


「来月初めに振り込むって。合計400万ね。うんうん。あ、私ね、いまホッカイ国にいるのよ。赤紙で呼びだされちゃった。え? じゃあ遊びに来い? だけどそれは。所長」


「そうだな。とりあえず話はついたし紙は受け取ったし。モナカに緊急の用事はもうないな。明日は休みにしよう。行っておいで」

「ありがとうございます。あ、なんかお土産を持っていきたいのですが……無理ですね。私も所長も着の身着のままで呼ばれちゃってますもんね」


「お土産か……。そうだ。クラーク。ジャガイモはもうないのか?」

「俺ももっと食べたいが、これは冬を越すための在庫だからな。一晩であまり使い過ぎるわけにはいかんのだ」


「魔王のくせにどんだけ貧乏なんだよ」

「しょうがないだろ! ここの冬はほんとに雪に閉ざされるんだぞ。うかつに外に出たら帰り道さえ分からなくなることがあるぐらいだぞ」

「そ、そ、そうなのか。それは大変だ」


「クラーク様、ユウ様。家畜のエサにするためのクズイモならたくさんありますけど。それは使えませんか?」

「クズイモ? ってなに? 新種のダイコン? それが社畜のエサってほにゃららほよー?」


「だれが社畜だ。クズイモとは変形していたり、傷んでいたりする小粒のイモ……あん?」

「あ、クラーク。そろそろユウはおねむのようだヨ」

「なんだおねむって?」


「あぁぁユウ。ここで寝るか。クラークさん、寝所をお貸し下さい。ユウはこうなったら叩いてもくすぐっても目を覚まさないのです」


(キスしても起きなかったぐらいだヨ)

(ミノウ様!!!!)

(ほよよんヨ)


「もう寝るのか?! まだ9時だぞ。どんだけ早寝なやつだよ。仕方がない、ジョウとクラーク。客室の準備をしてくれ。それまでその長椅子にでも寝かせておこう」


 すやすやぴ~。


「まったく、のんきな寝顔しやがって」

「まったくなのだヨ。ところで、そのクズイモってのならたくさんあるのかヨ?」

「ああ、それなら山ほどある。それを食べないといけないほど、飢えているわけじゃないからな。家畜の冬のエサだが毎年余って廃棄しているぐらいだから」


「あ、じゃあ。それでポテチを作りましょう。傷んだところは私が切り取りますし、形が悪くてもこのオウミヨシなら切るのに苦労はありません。まだ油もキレイですし、まだまだできますよ」


「「「おおっ!! それは素晴らしい」」」


「少しだけ残してくださいね。シャインへのお土産にしますので」


 俺の知らないところで満場一致となり、その夜はポテチパーティとなったのであった。俺も食べたかったのにこんちくしお。

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