第120話 ここはアサヒカワ市

「こんちくしお」

「なんだユウ。朝っぱらいきなり暴言王か」

「だれが暴言王だばくばく、自分たちだけでポテチ食いやがってもぐもぐ。これ旨いなもぐぐ。俺にも少しぐらい残しておきやがればきばくばく」


「ジンギスカンを食べ散らかしながら言っても、説得力はないのだが」

「昨日はいきなり倒れたので心配しましたが、良き食欲で安心しました」


 クラークには呆れられケントには安心されてしまった。


「この朝食は昨日となんか味付け違っているな。魚介系の出汁の味がする。朝用のジンギスカンとかあるのか? もぐもぐ」

「ああ、今日から朝飯と昼飯は、ケントに作ってもらうことにしたからだ。昨日の晩飯はジョウが作ったから、微妙に味付けが違うな」


「そうか。それだけクラークの時間に余裕ができて良かったな」

「ああ、おかげで助かっているよ。ミノウが召喚魔法を教えてくれたおかげだ」

「もぐもぐヨ」


 食べながらお礼の返事をすんな。


「そういえば、ユウ。昨日はお前が途中で寝てしまったので聞き損なったのだが、トウモロコシはいったいどうするのだ? これは人の食べるようなものではないが」

「食べるんだよ?」


「お前は育ちが良いのか悪いのかどっちだよ」

「俺の育ちが良いわけがないが。なんでだ?」

「やたらいろんなことに詳しかったり貴族と付き合いがあったりするくせに、家畜の飼料なんかを食べようとするではないか?」


 なんと、ここにはトウモロコシを食べる習慣がないのか。あんな旨いものをもったいない。


「まあ、それは食べてからのお楽しみだ。ポテチだって旨かっただろ? まずはそのトウモロコシを見せてくれないか」

「じゃあ、期待しておこう。確かにポテチは旨い。ケント、トウモロコシをユウに見せてやってくれ」

「はい、かしこまりました」


 そして手渡されたトウモロコシである。ちょっと細い気がするが、至って普通のトウモロコシであった。細いのは栄養が足りてないのか、これもクズのうちなのだろうか。でもこれなら、いけそうな気がする。


「ミヨシ、この皮を剥いて実を取り出してくれ」

「はーい。ざくっ。むしむしむしむし。はい、できたよ」

「なんでそれが包丁でできるんだよ?! お前も天才か」

「我がオウミヨシに不可能の文字はないのよ?」


 おかしな自慢するんじゃない。また、クラークが妖しい目でこちらを見てるじゃないか。もう魔包丁は作らないからな。


「えへへへ。いいでしょう。これは私だけの包丁だからね」

「自慢の上塗り!?」

「なあ、ユウ。ほんとはまだそれ、作れるんじゃ」

「ダメだ!!」

「(´・ω・`)」


 でかい魔王がそんな顔しても可愛くないから。不気味さが増すだけだから。


「次に行くぞ。フライパンに薄めに油を塗ってこの実を入れる。で、フタをしたら加熱の開始だ。中身が焦げないように、よく振ってくれ」

「はーい。ころころころ。ころころころ……ころころ、なんか焦げ臭いけど大丈夫?」


「もうそろそろ、音がするはずなのだがなぁ」

「ころころころ、音なんかしないね。それよりもう完全に焦げてる臭いよ、これ」

「あれ、火が強すぎたのか、ああっ、煙が出てきた、いかん中止だ中止!」


 ミヨシがフタを開ける。もはぁぁぁんと煙が立ち上る。中には予想と大きく違って、真っ黒のつぶつぶができあがっていた。


「ふむ。これを食べるのか。お前は炭を食べる人種なのか?」

「そんな人種あるかい! 失敗したんだよ! 悪かったな!!」

「そんなに怒るな。どうして失敗したんだ?」


「分からん。俺の記憶ではこれでできたはずなんだが……」


 残った実をつまんでみる。あちちあちち。焦げているがふにふにと柔らかい。じつにトウモロコシらしい。それがどうした? あぁ、分からん。思えば作るところなんか見たことなかったからなぁ。


 当たり前のように完成品で売っていたから、その製法まで考えたこともなかった。ああ、こちらにもグーグルがあれば良いのに。


 しかしこれだってトウモロコシに代わりはないはずだ。トウモロコシ、トウモロコシ。トウモロコシはコーンだ。なんでポップが付く? キャラメルコーンはキャラメルが付いているからだろ。


 じゃあ、ポップが付いてる理由はなんだろ? J-POPのポップはポピュラーの意味だろう。ってことは一般的なコーン? ウソつけ。全然知られてないじゃねぇか。


 じゃあ、俺がスーパーで買っていたコーンは、なにコーンだったのだろう? 甘いからアマコーン? んなもんあるかい。スイートか、あ! スイートコーンだ。甘いコーンだからだ。ということは。


「おい、どうしたんだこいつは。なんかひとりでぶつぶつ言い始めたぞ?」

「ユウは考え事を始めるといつもそうなの。そのうち閃くから、それまで放っておくのが一番よ」

「そうか、じゃあ。あのポテチだっけ? を作ってくれないか。クズイモならいくらでも提供するぞ」


「食後のデザートね。もう要領は分かったからまかせて」

「あ、ミヨシ、私も手伝わせて。食べたらそれ持って試験場に行ってくるから、そのとき作り方も教えてあげたい」

「うん、いいよ。じゃあ、まずそのジャガイモを選別して、それから水洗いをして」

「了解」


 どうして名前が違うんだ。あ? もしかしてトウモロコシって種類があるのか? ポップコーンに向く品種があるのか? スイートコーンは食用だが、それ以外に品種があるということか?


「なあ、ケント。トウモロコシってのは種類ってあるのか?」

「え? 種類ってトウモロコシはトウモロコシですが? 似た種類ならサトウモロコシというものはありますが」


「サトウモロコシ? 聞いたことがないな。こちらの特産品か?」

「いえ、乾燥地帯に多いようですが、茎が甘いので子供のおやつになってますね。でもえぐみが強すぎて砂糖の原料にはならないと聞いたことがあります」


 じゃあ、違うか。ポップコーンに茎が甘いなんて話は聞いたことがないもんな。


「他にはないのか?」

「え? ええ。トウモロコシと言えばトウモロコシしかありませんね」

「あ、所長。飼料にもならないカチンコチンのトウモロコシならありますよ」


「ああ、あるな。イエローコーンだろ? 牛も食わないという役立たずな雑草だ。なまじっか形が似ていてしかもトウモロコシに混ざって生えるので、農場では迷惑しているんだ。たまにあれが混ざると食べた牛の歯が欠けたりするらしい。その駆除方法を考えてくれたら感謝するけどな」


 イエローコーンか。牛も食わないほど固いのか。それじゃ食用になるわけないわな。それを加熱したところで……。どうなる? さっきのトウモロコシは柔らかかった。だから加熱したら中身が出てきて焦げてしまったのだ。


 あれが固かったら、どうなる? 加熱する。固くてもトウモロコシなら水分は相当に多いはずだ。それが気化して体積膨張……それか? それがポップか? ポップ広告のポップか?


「なあ、そのイエローコーンってのは手に入らないか?」

「所長。試験場に行けばきっとありますよ。どうですか、これから一緒に行きませんか。シャインたちもきっと歓迎してくれますよ」


「あ、ああ。そうだなー。あまり確信はないんだが、行ってみるかな。試験場の様子も知りたいし」 行きたくないけど

「こっそり後からなにを言っているのだヨ」

「やかましいよ。見知らぬ人に会うなんてテレクサイじゃないか。だが仕方ない、魔法でさくっと送ってくれ」


「なにを無茶なことを言っている」

「あれ? ダメなのか?」

「魔王ならともかく、一般人のお前にそんな高度な魔法が使えるはずがないだろう。馬車だよ、馬車。ごてごてと揺られて行くんだ」


「やっぱり、行くの止めようかな」

「そんだけのことで、行く気がなくなるの?!」

「尻の肉が持たない気がする。近くなら大丈夫だが。ちなみに、時間はどのくらいかかる?」


「モナカ。試験場というのはイシカリ市にあるやつだな?」

「はい、そうです。ところで、ここはどこなのでしょう。私も所長もいきなり連れてこられたので、まだ把握できていません」


「それはすまなかった。ここはホッカイ国の中心地・アサヒカワ市だ。ここからイシカリ市まで、馬車ならほんの5時間ほどだ」

「行くのやーめた」

「なんでだよ!!」

「俺、死んじゃう」


「心配するな。ケツの肉が落ちて死んだやつはいままでひとりもいない」

「そんな心配するか! 痛いのが嫌なんだよ!」

「我慢しろ」


「我慢しろ、じゃなくて。なんか対策をとってくれるとかないのかよ」

「対策か。そうだな……我慢しろ?」

「ほんのちょっとも妥協するつもりなしか!」

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