異世界でカイゼン

第72話 ちょこれいと

　食べ物と聞いて、ミヨシもハルミも俄然やる気を出した。なんだかんだいってみな育ち盛りで食べたい盛りである。

「とりあえず、この殻を割って中身を取り出せばいいのね？」

「そうしてくれ。だが最初だから実は5つぐらいにしておこう。ミヨシの包丁ならすぐだろ」

「うん、そういうのはまかせて。オウミヨシってすごいのよ。私がこういうふうに切れてね、って思うだけでその通りに切れるの。もう、私にとっては手足同然、家族同様よ」

　さ、さすがは魔包丁だな。わけの分からなさが半端ない。俺がキャベツを切っても凹むだけなのに、ミヨシが使うとそれだ。俺は味平になりたいわけじゃないから、かまわないけど。

「私も手伝うぞ。私にも専用のダマク・ラカス包丁があるんだ」

「ちょっと、ちょっと待って、ハルミ姉さん。包丁を使うときはそんな上段に振りかぶっちゃダメ！　それだとまたまな板まで切れちゃうから」

「そうなのか。マグロはこのフォームで行けたんだけどなぁ」

「あのときはレイピアだっただろうが！　破壊工作はもういいからハルミはじっとしてろ」

　さっくさっくとミヨシが実を分断すると、やや黄色のかかった白っぽい実がでてきた。ほほぉ。これがチョコレートの原料か。

　触って見るとネトネトしててキモチワルイ。思てたんと違う。

「で、ミノウ。これをどうするんだ？」

「なにを言ってる。我が知るはずがなかろうヨ」

「なにを言ってるとはなにを言ってるんだ。お前が知らなくてどうするよ」

　なにを言ってるとはなにを言ってるのだからなにを言ってるのだヨ。ああぁもうややこしいから止めろ、お前まさか作りかた知らないんじゃないだろうな？　我が知るわけないだろ、お主が知ってるのかと思っていたヨ。俺だって知るわけないだろ、あちらの日本は金持ちだからチョコレートなんか買えばよかったんだ、誰が作り方まで知ってるかよ。ともかく我は知らないヨ。俺だって知らねぇよ。我なんて全然知らないノだ。話がややこしくなるからオウミは黙ってろ！　知りもしないでよく作るとか言ったものなのだヨ。お前がチョコレートの原料があるって言うから作り方も知っているものだと思うだろが。思うのは勝手だが我が作れるなんて一度も言ったことないヨ。

「また、この人たち、幼稚な罵り合いしてますよ、コウセイさん」

「「幼稚で悪かったな！！」」

「あ、コウセイさんとアチラ、おはようございます」

「ミヨシ、おはよう。なにを揉めているのか知らないが、まずは飯にしようや」

「「「賛成ーい」」」

　こういうときは一致団結する俺たちである。

「ぱくぱくもぐもぐむしゃむしゃ。ああ、今日はおかずがあって嬉しい。ミヨシがさばいた刺身って最高だよ！」

　ちょっとゴマすりも入っているが、これは本当にうまい。

「えへへ。魚ってね、切れない包丁で無理に切ると、どうしてだか臭みがでるのよ。その点私のオウミヨシならすっぱりと切れるから、魚のうまみだけがたっぷりと味わえるのよ。お代わりあるからたくさん食べてね。手付金のおかげで現金ができたから、久しぶりに魚も一番新鮮なものを買ってきたのよ」

「そうか。魚も新鮮なのか。それもあってうまいんだな。お代わり！！」

「ところでユウ、さっきはなにを見てたんだ」

「あ、ソウ久しぶり。あれはちょこれいとだ」

「ちょこっとれいとう？」

「なまってんぞ。ちょこれいとな。あれはその原料だ。だが、作り方が分からなくて困ってるんだ。こいつが全く役に立たなくてな　ぐりぐり」

「しゃくしゃぐりぐり。こら！　人が食べている邪魔をしちゃいけないのだヨ。メダカの学校で習ったであろうが」

「そんなもん習わねぇよ！　どこにあんだよ、そんな学校」

「しゃくしゃく。川の中に決まっているのだヨしゃく」

「ああ、ミノウ様。もう食べられていたのですね。ほら、こちらにいつものように刻んで持ってきましたよ。こちらを召し上がってください」

　そう言ってゼンシンはナツメの短冊切りを差し出す。

「ほら、お顔がこんなに汚れてしまって、ふきふきふき」

「むほむほむほ。ありがとなのだヨ、ゼンシン」

　あ、なんかまずい流れだな、これ。

「あ、それで思い出したノだ、ユウ」

　ほらきた。

「我のナイフとフォークとニホン刀、はまだなノか」

　そういうのもあったなぁ。

「もちろん、我のも忘れてはおらんヨな？」

　そ、そういうのもあったなぁ。

「あああっ、ずるいオウミ様ミノウ様、私の魔ニホン刀だってまだなんですよ！！」

　なんだよ、魔ニホン刀って。名前が長くなってんぞ。

「「「で、いつできる？」」」

「しばらく延期する」

　ええぇぇぇぇぇっっ。そんなアホな。そんなご無体な。そんな、そんな、そんな。ひどい、嘘つき、どエス、コケ、カス、チビ、ボケ

　最後のほうはただの悪口になってんぞ。ダメだ、今はこのちょこれいとが最優先事項だ。

「じゃ、条件を出そう。ハルミは30cmの丸太を抜刀術で完全に切断できるまで。オウミは金めっきラインが回復するまで。ミノウはちょこれいとが完成するまで、それらはすべてお預けだ」

「「「きゅぅぅぅぅぅ」」」

　なんでハルミまで一緒になってきゅうしてんだよ。

「ちょこっとれいとー、ってのはそんなに大事なものなのか、ユウ」

「大事なんだよコウセイさん、なまってるが。今となってはとても大事なものとなったんだ。イズナの進軍を止められるのは、これしかないんだ」

（いや、あ、それは、我が適当に、そう、勝手に思っただけで、別に、確証が、あるわけでは……ないノだが）

　いいのだ。これを錦の御旗にしてちょこれいとを作ろう。戦争のことなんかどうでもいいが（庶民には関係ないらしいし）、ちょこれいとをたっぷり作ってたらふく食べるのだ！

（いつものことながら、自分の都合しか考えないやつノだ）

（そうだそうだ、ちょこれいとがなにより大事だヨ）

（ええっ？！　ミノウはそっちなノか！？）

　珍しく俺のやることに賛同するやつがいた。じゃあ、朝飯食ったら試験を開始だ。味は覚えているから適当に作ってもなんとかなるだろ。

　そして、苦難の日々が始まるのである。