第17話 安いもんだろ?

「なんだ、そのすとっぷしょんってのは」


 ストックオプションだよ。止めろと言いかけて出たくしゃみみたいに言うな。おかしな短縮形にしやがって。でもこのじじい、本当に知らないで言っていたのか?


「株をもらうのとはちょっと違う。株を売る権利をもらうということだ。そうだろ?」


「あ、あー、ああ。まぁ、そういうこともある、かな?」


 かな? じゃねぇよ。その分だとほとんど知らずに言ってるのだろうなぁ。まぁ、努力は認めてやろう……まてよ?


「アチラは何株もらった?」

「あ、僕は500株です」


「お、おい。そりゃ、アチラは最初からここの丁稚だからな」


「ハルミとミヨシは?」

「私たちは2,000株ずつよ」

「そ、そりゃ、この子らは孫だからな」


「じゃあ、ソウ。この会社の発行済株式数はいくつだ?」

「125万株だよ? 社長が8割、僕が1割ぐらい持っている」

「ソウ、そこまでバラすことはないのだぞ……」


「ふぅん。じじい、それでよく俺を100株で買収しようとしたな?」


 ぴゅ~~。


 口笛吹いて誤魔化そうとすんな。


「125万株で株価が12円か。1,500万の資本金ということだな」


(……だから黙ってろって言ったのに。こいつはものを知りすぎておる。扱いづらいったらありゃしない)


「なんか言ったかぁ?」

「い、いや、別に、なにも言っとらんよ。じゃあ、ハルミたちと同じで2,000株でどうだ」


 ふむ。2,000株だと24,000円か。ぺろりんキャンディに換算して……いやまて、なんでそんなもんに換算せにゃならんのだ。


 じじいは100万株、ソウは12万株ぐらい持っている。それなら俺は?


「10万株もらおうか」


「ば、ば、バカを申せ。そげんこつしたら、会社の経営ば乗っ取られるではありんせんかやろうですやんけ」

「社長、あちこちの方言やら花魁言葉やらが混ざってる」


「たった10万株で乗っ取れるわけないだろ。8割も持ってんだから1割ぐらい寄こせってことだ。それでもソウより少なくしたのは、これでも遠慮したからだぞ?」


 ぐぬぬぬぬぬ、ぬぬぬぬぬぬぬぬ、ぬぬぬぬぬぬぬ。


 ぬが長げぇよ。ってか、その程度に2回も息継ぎが必要か。心肺能力落ちてんぞ。


「ソウ。少し現実的な話をしよう。例のめっきだが、うまくいったら1本いくらになる?」

「1本1万で請け負っている。どこでもできないと聞いて社長がふっかけたんだ」


「悪くはないな。しかし、それ10万にしよう」


 えええっ!!


「それは、1本で終わりか? もっと需要があるんじゃないか?」


「ああ、まだあるようなことを言ってたな。うまくいけば、追加で10本や20本は出してくれるかもしれない。しかし、その値段では」

「よそではできないんだろ? 納品のときに俺も立ち会うから、交渉してみよう。10万でもいけると思う。2本目以降はもう少し安くしてやろう。8万とかな」

「そ、それでも8万って、どんだけ強気だよ」


「強気ではない、安売りするなと言ってるんだ。この世界にふたつとない技術なんだろ?」

「それはそうだが。それもできたらの話だ」

「俺はできたらの話をしてるんだよ」


 ぐぬぬぬぬぬぬぬ、ぬ?


 じじい、それはもういいから。


「つぎに刀だが」


 ハルミがきらきらした目でこちらを見る。


「工房には、鉄を溶かす窯があるのか?」

「ああ、ある。刀を作るぐらいだからな。溶かさないことには打つことはできん」


 ほほぉ。それは好都合。後で工程を見せてもらおう。


「この工房には刀工がいると聞いたが?」

「ああ、3人いる。1人は国指定の一級刀工技術者だ」


 国指定だと? ここ、なんて国?


「ユウ、私の剣を作ってくれるのか?!」


「その前に、いろいろ確認してからな。そんなに慌てる……そうだ、ハルミ。どこかで剣をアピールする場とか、コンテスト的なものはないか?」

「剣をアピールではないが、剣技を競う競技会なら来月にあるぞ。この街を挙げてやるお祭りの一大イベントだ」


「それだ!!! ハルミは出るだろ? てか、出ろ。そこでウチの刀を見てもらえ」

「う、うん。出るつもりだよ。間に合うのか、それまでに、私の剣……刀か、できるのか?」


「作ろう。昨日も言ったが硬い鉄と柔らかい鉄を組み合わせたやつだ。剣ではなく刀だから、片刃だ。慣れてもらわないといけないが大丈夫か?」


「わかった。練習する。それはなんでも切れる剣……刀なんだよな?」

「ああ、もちろんそうだ。鉄だって切れるぞ」


 ええええっ!!!?!?!


「うそ……鉄が鉄を切るのか。。。それを私が……切って良いのか、使って良いのか。持ってて良いのかぁぁぁぁ!!」


 だから抱きついてくるなっての、暑苦しい。あ、ミヨシがなかまになりたそうにこちらをみている。


「刀ができたら、そこで宣伝をしよう。こちらは1本100万だ」


「ひゃ、ひゃ、ひゃく……」


 ひゃくしょん大魔王? いいから、それぐらいで売れるから。


「それからもっと需要があるのが包丁だ。こちらはクロムさえ手に入れば比較的簡単だ。いくつか試験は必要だが、それほど時間はかからずにできる」


「ユウさん、まじ神様です。俺はもう一生ついてゆきますよ」

「私も!!」


 アチラにミヨシが混じった。もう、お前ら俺の手下な。


「あ、確認を忘れていたが、鋼は作れるんだよな?」

「それはもちろん。鋼じゃなければ剣はできないからな。ただ、需要が減ってしまって、今は窯を稼働させることもめったになくなってしまっただけだ」


「それなら良い。窯はこれからフル稼働になるぞ。覚悟しておいてくれ。それでどんどん包丁と小刀を作ろう。錆びることもなく切れ味抜群の包丁だ。これらは1本5万から10万だ」


 どひぇぇぇぇぇぇぇ。


「これでどうだ、じじい。10万株でも安いもんだろ?」

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