第2話 騒風少女たちとの再開
「って、あんたらかいっ!!」
待ち合わせの場所で、遠乃がこんな風に叫んだ。
一般客がいる店で非常識だろうと思うが、その気持ちだけは理解できた。
何故なら、そこで僕たちを待ち受けていた人物とは――
「お久しぶりですぅ! 夕闇倶楽部のみなさんっ!!!」
「……はぁ。帰りたい」
「ほらほら葵ちゃん! そんなこと言ったらダメですよぉ」
前回の異界団地にて、色々と因縁のある彼女たちだった。
1人は烏丸茜さん。先日の異界団地で関わった近所の高校生だ。
そして、もう1人が――七星葵さん。神林を名乗った謎だらけの少女。
彼女たちはファミリー用のテーブルで、遠乃、雫、千夏と向かい合うように座っている。ちなみに僕はすぐ側の2人テーブル。
宏はまだ来てない。金がなかったので、ATMで下ろしてくるらしい。
「それで、何の用なの、あんたたち。特に神林の方は!」
色々な意味で話題となった彼女たち。遠乃は敵対心剥き出しだった。
それに七星さんは嫌そうに睨み返し、相反するように烏丸さんが声を上げる。
「私はですね、偶然にも心霊写真を撮影してしまったわけです!」
……相変わらず、遠乃と匹敵、それ以上の声量と勢いで机を乗り出してくる。
「し、心霊写真って……投稿してた、あれ?」
「写真部の活動をしてたら、うっかり撮れちゃったわけです!」
「それで、あたしたちに送りつけたってわけ」
「そうです! なので、この前みたく夕闇倶楽部に暴いてもらおうかと!」
「なるほど~。だから私たちのことも団地のことも知ってたんだ」
確かに彼女たちなら異界団地のことを知っているはず。
よくよく考えれば、分かりそうだったことだが。失念していたな。
「はい! それで、テレビでやってる下世話な心霊番組みたいに、霊能力者枠として葵ちゃんを呼んだというわけですぅ!!」
……友だちなんだよな、烏丸さんと七星さんって。
僕から見ても失礼すぎやしないかと思う冗談にも、慣れているのか、七星さんはつまらなさそうな表情で首を振った。
「何で、私が誘われたのかと思えば。馬鹿極まりないわね」
「その割には帰ろうとしないですよねぇ。やっぱツンデレなんですね!」
「ち、違うわよ! あなたみたいな大馬鹿をこのまま放置しておいたら、あの時みたいに厄介事へと首を突っ込みに行くからよ!!」
「友だち思いの良い子なんだね、葵ちゃんって」
「だから、そういうのじゃないってば!!」
……どうやら七星さん。受け答えを見る限り、呪術師という肩書きに見合わないほど常識があるようだ。だから、常識外れの彼女たちから弄られてるのか。
僕がそんなことを思ってる時、彼女はからかわれた恥ずかしさで顔を真っ赤にして、身を乗り出して講義しようと口を大きく開けた。
「と・に・か・く! そんなエセ霊能力者の真似なぞしたくな――」
「おーっす。遅れてすまんすまん。……って、あれ?」
その瞬間、流れをぶっ壊すかのように入ってきた宏。
……空気読めよ。そう言いたげな他の人の視線が彼に突き刺さっていく。
でも、何故か七星さん。宏を見るなり、やたら挙動不審になってるような。
宏も宏で、見た瞬間にきまりの悪そうな顔をしている。知り合いだろうか?
「あっ!! この人、葵ちゃんが大会でボロ負けした人だぁ!!」
「!!?」
と思ってたら、急に烏丸さんが騒がしくなった。
大会か。宏で大会って聞くと、ゲームか、それこそTCGか。そういえば。
「もしかして、カードゲームの大会にいた女子高生って」
「そ、そうよ! 悪いの!? 呪術師が、女子高生がトレカやってて!!」
「別にいいとは思うけど……な、なんか意外だよね」
……い、意外だ。意外過ぎる。
誰かの迷惑になってない以上、人の趣味にとやかく言う権利はないし、ましてや怪異の調査なんて真似をしてる僕たちには尚更だろうけど。
それでも驚くしか無い。女性の、それも呪術師でカードゲーマーなんて。
「な、なんかバレたみたいだな。この際だ、あっちでデッキ調整するか?」
「……そうさせてもらうわ。持ち合わせはあるし」
「ええぇ~。葵ちゃん、私を捨てて男に行くんですかぁ! 尻軽女!!」
「誤解をされるような物言いはやめて! とにかく、呪術師が心霊写真から霊の怨念だとかメッセージだとか意味不明なこと分かるわけないのよ!」
至極当然なことを叫んで、七星さんは去っていった。
烏丸さんは、おもちゃを取り上げられた子どもみたいに顔を膨らませると、再び夕闇倶楽部の面々の方に向き直ってきた。
「それで、見てくださいましたよね!? 渾身の心霊写真を!!」
「うん、まあね」
「ならば、ぜひ! 今すぐにも私たちと協力しましょう!」
「そうだよね、とおのん。これから調査に行くんだよね?」
「んー」
ジュースを最後まで飲み干した遠乃は、珍しく冷めた表情だった。
「残念だけど、今回の怪異。大体は解決済みなのよねぇ」
そして、いきなりこんなことを言い放った。
僕以外の人間が、それに驚いた反応をしているようだった。
確かにそうだ。峠の謎、まさに10年前にほとんどが解明されていたのだ。
「そ、そうなんですかぁ!?」
「まあ、そうだな。小学生の頃の僕たちで解明できた」
「何故かその道だけ事故が多発していたという呪いも!?」
「実際の場所に行けば、すぐに真相がわかるわよ。呪いなんかじゃない」
「通ると、偶に聞こえる子どもの声や謎の音声とかも!?」
「ふっふーん。それもすぐに分かるわよ~」
ポテトを口に放り込みながら、不敵に笑った遠乃がいきなり立ち上がった。
「その辺も含めてやっていきましょ! んで、夕闇倶楽部、調査開始よ!」
遠乃が、いつものように立ち上がって、大声を張り上げた。
……午後2時、ちょうどお客さんが少ない時間帯で良かった。今でも周りからの視線が痛いのに、これ以上増えたら辛すぎるから。
「んで、威勢よくやったのはいいんだけど……」
しかし、それは長く続かず、消えていった。
僕と同じことを思ってたのか、遠乃が気になる場所に目を向ける。
「ったく、今回の殿堂。団長規制されたせいでモルネク弱体化じゃねぇか」
「そっちはまだマシでしょ。代わりに相手からドギバス出されなくなったんだから。むしろ私のサブデッキであるロージアダンテが息してないのだけど」
「あー。両方殿堂か。てか、そういやムカデループどうしたんだ?」
「……未解体のまま。持ってたヴォルグ4枚が大暴落したわよ」
「ご愁傷様だな」
……すごい。めっちゃ意気投合している。
「あいつらどうしましょうか」
「葵ちゃん、真剣だなぁ」
不思議な少女、七星葵の想像を絶する一面に驚愕しつつ。
こうしてジェリーを追いかけるトムの如く、唐突かつ巻き込むようにやって来た怪異。その調査をするべく、僕たちはお店を出たのだった。
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