上手くいかない勇者召喚

ピグッピー

上手くいかない勇者召喚

アサド王国


名実ともに最強だと言われていた大国。

この国をそんな風に築いてきたのは他の誰でもない国王である。武の面では大陸ではこの男に勝てるものはいないと言われたほど。異世界から現れた勇者でさえも彼には敵わなかったと言われている。また知の面では誰もが考えつかないような奇策で何度も負け戦を勝ち戦へと変えていった。


そんな彼に2人の子供が生まれた。


兄のトールと妹のアリスだ。

その2人の中でもトールの成長は凄まじく、10歳ほどで大人の騎士に負けず劣らずの剣の腕をもち、頭脳も大変優れていた。

一方アリスはただただ平凡だった。可もなく不可もなく。しかしそんな少女にも一つだけ才能があった、それが異世界召喚魔法だ。

異世界召喚魔法とは、1000年ほど前に生み出されたと言われている、異世界から勇者を召喚するといった魔法だ。


そもそも異世界召喚魔法は常人では必ず成功できない。それというのも異世界召喚魔法は人間では保有できないほどの魔力を使う。しかしアリスはその魔法にのみ大変優れており消費魔力の大半を抑えることができ、アリスの魔力でもなんとか発動できるのだ。


優れた父と兄、優しい母に囲まれて育ち自分を卑下することもありながらもすくすくと幸せ育ったアリスだった。が、そんな幸せも突然終わりを告げる。


それは唐突にやってきた。

食事中父が急に胸を押さえ吐血する。

恐らく食事に毒が入っていたのだ。突然すぎて私は何もすることができなかった。母は悲鳴をあげ、兄は周りの人に指示をしている。そんな光景を見ることしかできなかった。すると次の被害者は兄だ。

兄に指示を仰ぎにきたのかと思っていたメイドが突然裾からナイフを取り出し兄に斬りかかる。その一連の動きには一切の迷いもなく、それがゆっくりと綺麗に見えた。

流石の兄も至近距離からの攻撃は対応できず喉元を刺されて即死であった。

もはや食堂の中はパニック。兄を殺したメイドはすぐに取り押さえられる。

しかしこれでは終わらない。突然メイドが爆発したのだ。きっと自爆用の爆弾を身につけていたのだ。爆発の範囲は精々数メートルだったがその範囲には数名の騎士、そして母がいたのだ。


爆煙が収まりようやく前が見えるようになり最初に私の目に入ったのはこちらを向いている首から下のない母の顔であった。


その後毒により父も亡くなったことが確認された。

わずか数十秒の間で私の家族はみんな死んでしまったのだ。


優秀な兄と王


その2人を失った国に待っているのは侵略。

何度も攻め入られその度に騎士達の奮闘によりなんとか凌ぐ。そんな事が数年続いた。


結局それはとある国が全ての国を抑えつけ争いは現在進行形で止まっている。

このままでは争いがまた始まればきっとこの国は滅びるであろう。

数人の大臣との話の末に上がった話が絵本に描かれたこともある勇者召喚に頼るということだった。








部屋全体が眩い光に包まれる。

その瞬間私は召喚が最高したことに安堵した。何度めかの召喚とはいえ多大な魔力を消費するためやはり召喚の瞬間はドキドキしてしまうものだ。


そんな考えをしている間に光は収まっていきもともと部屋にいた者達はみな部屋の中心部にある3m程の魔法陣へと目が向かう。


するとそこにいたのは2人の男性だった。


あれ?今までは1人しか現れなかったのに今回は2人も召喚してしまったというの?

いえ、むしろ2人というなら好都合です。この国を守ってくれる戦力が単純に大きくなるわけなのですから。

召喚された2人はまだ状況が掴めず戸惑っているようだ。そんな2人に歩み寄って一礼。

そして、毎回言っている言葉を一言。



「召喚に応じていただき感謝いたしますわ、異世界の勇者様」



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「うぅ、、、なんでいっつもあんな人ばっかり召喚しちゃうのよぉぉぉ!」


部屋に戻るなりベッドへダイブ!

王女としてはどうなのか?と思われるかもしれないがそんなものは関係ない。だって誰も見ていないのだから。


1人を除いてだが。


「アリス様、毎日言っているではありませんか。お疲れなのはわかりますがベッドにダイブする際はしっかりとドレスを脱いでからにしてくださいと」


そう言うのは私が生まれた時からずっとお世話をしてくれた私の専属メイドのナータだ。

どんなことをするのもつきっきりでメイドのくせに遠慮なくものを言ってくる。


「はーい、でもね今日の人達は今まででもかなり酷い部類だったし、、、」


「たしかにアリス様の召喚されるお方は個性が強い方が多いですね。初めての女性の方は騎士に色目を使ったり、お金をせびったり。

2人目に至っては発狂して殴りかかってきましたものね。他にも犯罪紛いのことをしそうな方が多数。そして今回の召喚者は、まぁ、流石の私もイラッときましたね」


と、普段は温厚でお花に話しかけているようなナータもイラっとしてしまう。そんな2人を今日は召喚してしまった。


「ほんとだよぉぉ!まさか私もあんなこと言われるとは思ってなかったから戸惑っちゃったし、、、」


突然放たれた言葉はあまりに唐突すぎて全然理解ができなかった。

そんな2人とのやりとりが思い出される。



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「という理由によりお二人には勇者としてこの国をお守りしていただきたいのです」


召喚した2人を応接室へと招き召喚した理由を細かく説明する。その説明を聞いている内に最初はよくわかっていないようだったがだんだんと理解してきたようだった。

そして説明が終わると同時に2人のうちの1人が私に向かって話しかける。


「つまりお前たちは俺らの、異世界人の力に頼りたいってことなのか?そしてその力でこの国を守ってほしいと?」


少々口は悪いがどうやらしっかりと理解できているようでそう聞き返してきた。


「えぇ、あなた方はこの世界の人は誰も持っていない。そんな稀な力を持っているのです。どうかその力を我が国の為に使ってはいただけないでしょうか、お願いします!」


そう言って私は頭を下げる。

一国の王女が見知らぬ男達に頭を下げる。

普通では考えられないことだが、相手は異世界人。こちらが召喚し、向こうが召喚されたのだ。アリスの中ではむしろ頭を下げるだけでも足りないと思っている。


「なるほどねぇ、お前らの事情はわかったよ。だが断る」


そうあっさりと切り捨てられてしまった。


「そんな!どうして、、、!」


まさかこんなにあっさりと断られるとは思ってはいなかったため、思わず声をあげてしまう。たしかに選ぶ権利は向こうにあるし無理強いはできないのだが、、、


「この国にはあなた方が必要なのです。どうか、どうかもう一度だけ考えてはいただけないでしょうか!あなた方の生活は保証しますし、できることならなんでもしますから!」


そう言った途端にずっと静かに座っていたもう1人の男が笑みを浮かべる。

それが感染したかのようにもう一方の男も声を出しながら笑い出し


「そうか、なんでもするかぁ!そこまで言われたら断る訳にはいかないよなぁ!じゃあ、早速だけど姫さんよぉ、今すぐ裸になってくれよ!そしたら考えてやらなくもねぇぜ?」


その言葉は一瞬理解できなかった。

そして少しの時が経ちようやくその意味を理解することができた。


「そ、それは、、、さすがに」


勇者様の頼みであろうともこれは承諾はできない。この場で裸になれなど一体何を考えているのだろうか?そもそも王女相手にその発言は勇者であろうともお父様の命令があれば処刑さえ楽にできてしまう。


「おいおい、今なんでもするって言ったばかりだろぉ?姫さんしたばっかりの約束すら守れねぇのかよ?それと、俺はお前らと違って異世界人で勇者だぞ?特別な人間なんだ。今の内に機嫌をとっておいた方がいいぞ?」



その発言を聞いて私もなぜ先ほどの発言が飛び出したのかは察することはできた。

つまりは自分たちは特別。それに逆らうと俺らはお前らの国を守ることはしない。だからお前らの国は終わりだな。簡単にまとめるときっとこう思っている。そう勘違いしているのであろう。


「そうですか、、、残念です」


ふぅ

そう一息つきその言葉を放つ。


「あ?」


その言葉を不思議に思ったのか少し私を睨む。

そんな視線には目もくれずに私は周りの騎士へと声をかける。


「皆さん、残念ながら今回も外れです。早急に送還の準備を行います。それとヒメキ!」


騎士の1人である青年に声をかける。


「こちらに、アリス様」


「この方達を特別室へとお連れになって」


特別室とは簡単に言うと牢屋だ。

送還する勇者を閉じ込めるために作った部屋である。もちろん牢屋とは違いあまり居心地が悪くないように配慮はしてあるが閉じ込めている事に変わりない。

申し訳ないとは思うのだが、何百年も前に一度異世界人が城から逃亡したという事件があったためにこういう部屋が設けられた。


「かしこまりました」


私が皆へ声をかけた途端にあたりは慌ただしくなる。そんな私達の様子に訳が分からず呆然とする異世界人達。そんな2人の腕をヒメキは遠慮なく掴み引っ張るかのように特別室へと連れていこうとする。

が、勿論2人も反抗はする。


「おい!俺らは勇者だぞ!こんな扱いしていいと思ってんのか!?俺らがこの国を守んなくてもいいのかよ!?あぁ!?」


と豪快に喚き散らす。こちらが無理矢理召喚したのは本当に申し訳なく思っているがああ言われたらしょうがない。


「申し訳ございません、お二方。ただ今よりお二人を異世界へと送還する魔法の準備に取り掛かるため準備が完了するまではどうか大人しくしていてください」


そう告げ私も準備へと取り掛かる。

魔法をメインで行うのは私のため準備は入念に行わなければならない。

まだ2人が騒いでいるがそれにはもう一切耳を貸すことはありません。私も優しいとはいえ乙女ですからね。簡単に裸を見せろなんて言われて怒らないはずがありません。それに私には好きな人がいますし、、、


おっと今は関係ありませんね。

一刻も早く準備を終わらせましょうか。






「では送還の魔法を唱えます、必ず動かないで下さいね?動くと最悪体が消し飛んじゃいますから」


そう言うと2人は青ざめながら首を縦にブンブンとふる。

それにしても先ほどとは比べものにならないほどに大人しいですね。ヒメキがなにかしたのでしょうか?


まぁ、今はいいでしょう。


「いきますっ」


そう言い私は詠唱を唱える。


この詠唱を唱えるのは何度目だろうか。


何度召喚しても送還を繰り返す。

以前城内でたまたま聞こえた私が落ちこぼれ、兄に父のすべての才能を持っていかれたという陰口。それを聞いて、私は言い返すことはできなかった。なにせ事実なのだから。

現に今も我が国を守ってくれる。そんな勇者を召喚できていない。

なんで、なんで私は何もできないの?

そんな思いを胸に抱えて詠唱は終わりを迎えるのだった。



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「ほーっんと私なんにもできないなぁ」


そうボソッと呟く。

国を守りたいという気持ちは誰にも負けない!と自信を持って言えるほどにはあるつもりだし、言葉だけでなく行動に移したいとも思ってる。


それでもあの優秀な兄とは違い私は無能だ。

何をしようにも思うようにいかない。

なんでなの?思いはあっても実力が伴わない。

そんな珍しくネガティブな方向に走ってる私を見かねてなのかナータが声をかけてくる。


「アリス様、ご機嫌が悪いようで。もしもお暇がありましたら庭園などへ行かれましたら?」


庭園?

この時間に何かあったかしら?でもナータの言うことなのだからきっと行って間違いはないのでしょうね。


「そうね、気休めに一回行ってくるわ。その間はナータも休んでてちょうだい」


「かしこまりました」


ナータはそういうと一礼し部屋から出て行く。


私も軽くドレスを整えて庭園へと向かう。

そして庭園にある一つの白色の柄もない、シンプルな椅子。

そこにいる人物を見た途端に私の心臓は飛び跳ねる。

そこにいたのは今城で召し抱えてる料理長の息子であり、副料理長でもあるマクスだった。

静かに庭園にある花を眺めているそんな彼の横顔を見て思わず


「かっこいいなぁ」


そう声が漏れてしまった。


するとその声に気づいたのかこちらを向き無邪気に笑いながら手を振ってくるマクス。


「やぁ、アリス様。今回もダメだったみたいだね」


きっと城内では皆に知れ渡っているのだろう。


「えぇ、マクス。今日も愚痴を聞いてもらえるかしら?」


「もちろんですとも」








「でね!あの男ったら裸を見せろって言うのよ!本当に信じられないわよ。私王女なのに。誰とも知れない相手に裸なんて見せられるわけないじゃない!」


マクス相手だと思うままの自分をさらけ出せる、だからかなりすっきりできた。

ナータもマクスがここにいるのを知っていて私に庭園を勧めてくれたのだろう。


「まぁ、アリス様かわいいしね。セクハラしたくなっちゃうのはわかるけど、流石にやりすぎだね」


少し笑いながらそういうマクス。

でも、私の耳には一つしか入ってこなかった。


「マ、マクス、今私のことかわいいって言った?」


「え?うん。アリス様はどっからどう見ても可愛いと思うけど」


それを聞いた途端私の顔はきっと真っ赤に変色しただろう。鏡を見なくてもわかる。


「そっか、かわいいかぁ、うへへぇ」


思わず笑みも浮かぶ。そりゃ好きな人にかわいいなんて言われたら誰だって喜んじゃうよね。


「アリス様、大丈夫?顔かなり赤くなってるけど」


うん、やっぱり赤くなっちゃってるよね、そうだよね。わかってた。


「な、なんでもないわよ。それよりもまだまだ愚痴はたくさんあるんだから、しっかり聞いてね」


そう言って愚痴の再開。色々、本当に色々な愚痴が次から次へと出てくる。そして次第にそれは私自身への愚痴にもなっていった。


「今日でもう7回目の召喚なのに、また変な人を召喚しちゃって、、、ほんとに私ダメダメだよね。私なんかより兄がいた方が何倍もこの国を良くできてたんだろうなぁ」


今まで何度も何度も何度も何度も思って来たこと。私なんかより兄が。城のみんなもそう思っているだろう。


「どうしてなんだろうなぁ」


「あのね、アリス様?」


「ん?」


「失礼を承知で言うけど、今のアリス様はすごくダサいよ」


少し怒ったような顔をしながらそういうマクス。


「な!?」


「自分を卑下してばっかりで、以前のアリス様はそんなんじゃなかったよね?今日の失敗ですっかり折れちゃったの?」


「ちがっ、そんなことは」


「アリス様が自分を卑下したくなるのはわかるよ。なにせ比べる相手がとんでもないんだから。でもね、アリス様にしかできないことだってあるんだよ?それこそ異世界召喚魔法なんてこの国じゃアリス様にしかできないでしょ?」


「そうだけど、だけどその魔法でも私はこの国のためになることは一切できていないの!むしろみんなの時間を割いた結果がこれよ!

こんな私いたってなんの役に立つっていうのよ!ねぇ?教えてよ!」


当たる相手が全然違うのはわかっている。

マクスの言いたいこともわかっている。それでも口は動くのをやめない。


「私だってみんなを守りたいわよ!でも力がなくて、頭もすっごくいいわけでもない。唯一できる魔法だってそれはみんなの役にたててないの!」


「ねぇ、アリス様。その魔法が作られた由来って知ってる?」


突然マクスがそんな質問を投げてくる。確か絵本に描いてあった気がするわ。あれは確か、、、


「えぇっと、国の窮地を救うためよね?」


絵本に描かれていた内容は確か大勢の魔物が凶暴化し国へ襲ってくるという内容だったと思う。


「そ、今のぼくたちとあまり状況は変わってない。どうにかして国を救いたい。そう思って作られた魔法が異世界からの勇者の召喚。

勿論その召喚に至るまでも数々のことをしたんだと思う。結果がそれに至ったというだけでそれまでの過程がなければきっとこうはならなかったと思う。努力は必ず報われるなんて言えない。けど努力をしないとまず始まりすらしないんだ」


その言葉はマクスの父もよく言っていた言葉だ。


努力をしなければ始まらない


「アリス様はたくさんこの国の為に努力してくれてる。それは国民のみんなが知ってくれてる。だからそんな自分を貶めないで。そんな自分を誇ってください。そんなアリス様が僕は一番かっこいいと思いますよ」


それを聞くと涙は止まらなかった。

自分の頑張りをしっかりと見てくれてるんだ。私がやってることは無駄なんかじゃないんだって。そう信じてくれる人がいるんだって。


「そうね、ありがとマクス今日も色々聞いてもらっちゃって。だいぶスッキリできたわ」


「いえいえ、そんなことよりもアリス様の泣き顔なんてレアですね。これは脳内保存しないと」


「う、うるさいわね。そんなに顔をジロジロ見ないでよ、恥ずかしいじゃない」


こんなに間近に顔を近づけられると結構恥ずかしい。しかもそれが泣き顔って、、、


「ねぇマクス改めてありがとね」


「えぇ、アリス様はこれからも自分の思うままに頑張ってください。僕はそれをひたすら応援するだけですから」


そうだよね。

頑張らなきゃ始まらないんだ。だから私は今魔法陣にの上に現れた1人の青年に向かってこう一言。





召喚に応じていただき感謝いたしますわ、異世界の勇者様。

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