IoW : Internet of Witchcraft

みれにん

i. /dev/nullの魔女

 あたしは魔女。職業、ITエンジニア。

 このご時世ですもの、魔女だってエンジニアでもやっていないと食っていけないわ。

 と、いうか。意外に相性いいのよね、IT技術と魔法って。


音無おとなしさん、ちょっといいかな」

「はーい」


 あ、上長につかまっちゃった。なんだろ。

 ぱたぱたと打ち合わせスペースに向かい、席につく。


「音無さんさあ、最近遅刻多すぎじゃない?」

「はあ」

「まああの、仕事早くて助かってるからいいんだよ? でもね、お客さんの手前ね――」


 お説教か……うーん、めんどい。

 あたしは手元のスマホのロックを解除して、コマンドラインクライアントを起動。そして、Bluetoothキーボードでぱちぱちっと魔法詠唱コマンド入力


「――――! ――――!?」


 よし、成功成功っと。

 うんうん、上長がなんか言ってるけど、あたしの耳には届かない。あーあー聞こえなーい。適当に相槌だけ打っておこう。




 ……さてさて、なにが起こっているかというと、話は簡単。

 上長のお説教標準出力どっかの無/dev/nullの空間に送り込んでリダイレクトしているのー! ドヤッ!

 Linuxサーバーなんかだと、コマンド実行時にログを出力したくないときなんかによく使われる手段なのよね。それを魔法に応用したってわけ。

 IT関連の概念っておもしろいのよねー。こうやって魔法として実装しやすいし。相性いいって言ってたのはそういうこと。




 よーし、そろそろ終わりっぽいかな。元に戻そうっと。


「――じゃあ、よろしく頼むよ! いや助かったなあ快諾してくれて。音無さんにお願いしてよかったよ」

「え? あ、はい……」


 やば、途中で話変わってたのね……。


 …………。


 ま、いいか。またあとで聞いてみようっと。大した話じゃないでしょー。

 それよりも、なんでもかんでも/dev/nullに流すってのも考えものね。一旦mp3にでもエンコード圧縮してオンラインストレージにでも流すか……どうせ取り出し時間かかっても問題ないようなデータだもんね。


 ね、ほら。ITと魔法ってなかなか楽しいでしょ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る