騎士と炭鉱
「騎士殿、主君に無礼を働いたことを
「ノーデン次期領主の気分を害したことについては謝ろう。過去の血筋がどうであれ、
やはり、男のような低い声である。女の頭が鎧の上についていて、その上並みの男には扱えそうもない
すぐにオーランドの出迎えの為に玄関は整えられ、先ほどの一件はまるで嘘のように消えてしまった。玄関での出迎えの後、オーランドは前領主シグルドの部屋に案内された。
「妻が無礼を働いたようだ。このようなことが無いよう、こちらからも言い聞かせておく」
「いえ、こちらも皇女の娘に取るべき礼をとれませんでしたし」
「あれは、生まれる性別を間違えたような女だ。男なら、今頃帝のお抱え騎士になっていただろう。昔は
「オリヴィエではなく?」
「ああ。息子は大局的な視点で指揮をとるのはうまいが、実地でのとっさの判断はあれの方が早い。今はあれに、若い騎士の教育も任せている。兜をかぶって男口調で話せば、あれが女だと気付くものはおらん」
「たしかに……母と全く声が違います」
「ああ。フレーデグンデ殿か」
その瞬間、影がシグルドの瞳をよぎった。
「あれからは、母親が違うと聞いている。あれの母親は皇女だが、フレーデグンデ殿は前ズーデン公第二夫人の、身分は低いが
「あの、オリヴィエはどこに」
シグルドの
「息子なら、ここから三日かかるところの炭鉱にいるぞ? なんでも、蒸気を使ったくみ上げポンプを開発した炭鉱夫がいるとか何とかで、おととい視察に出たからしばらく帰って来んぞ?」
『もしかして、蒸気機関?』
カーラが呟いた。蒸気機関と言えば、
「どこですか?! 私も行きます」
「待ちたまえ。オリヴィエが居る炭鉱へは、特に険しい山々を抜けていく必要がある。しかも今は冬だ。専用の装備を準備するのには一日かかる。今日はここに泊まってくだされ。明日の昼には発てるようにする」
「ありがとうございます」
「本題だが、次期領主殿は羊の具合と――」
シグルドの話をまとめると、羊の生育は問題ないが、寒波で凍死する可能性を考えるとどうなるかは春にならないと分からない。炭鉱については、冬に備えて炭鉱の採掘を拡大した結果、水脈を掘り当てる鉱山が続出し、対策に追われているとのことだった。そのためアフェク現領主オリヴィエはほとんどの政務をシグルドに任せ、鉱山を飛び回る生活をしているそうだ。
『なんだか、一気に物事が進んでる……怖いくらいに』
カーラの呟きは、シグルドとオーランドの熱の入った打ち合わせにかき消された。
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