アフェクの女騎士
雪が降り始め、誕生祭の頃に製糸工場は完成した。つぼの回転速度と糸枠の巻き取り速度の調整に多少てこずったが、百
「オーランド様、貧民救済のための施設を作るのは素晴らしいのですが、貧民の救済は教会の仕事です。寄進なされては」
小言を言うデリックに、オーランドはあえて乱暴に答えた。
「デリック。俺はノーデンの
嘘は言っていない。貿易でもノーデンが豊かになれば、
カーラはガラ紡の糸は品質が悪い、と言っていたが、手紡ぎの中品質の糸と全く変わらない、と糸問屋は太鼓判を押した。実際、ノーデンからウェステンに糸を輸出すると、ウェステンでは、ガラ紡糸にノーデンより10倍高い値がついた。ガラ紡糸は手紡ぎの糸の十分の一の値段で作れたので、実質百倍の利益と言える。
オーランドは工場で作った糸を自分の専売にしていたため、ガラ紡の効率性も相まって、あっという間に工場の建築費を回収し、着々とオステンの領主と取引するための基盤を作っていった。
同時に、早織り機をウェステンから取り寄せ、構造を研究させていた。
星読みの報告によれば、今年の冬は特に厳しくなるらしい。今のうちに早織り機を量産し、毛布を大量生産して、安く領民に行きわたらせなければ。早織り機の構造の解析は終わったが、量産にはまだ時間がかかる。との報告を受け、オーランドは村落へ毛布を織るように、と達すると同時に、市場価格の四分の一の値でガラ紡糸の配布を行った。これで寒さをしのいでくれれば。オーランドは祈るしかなかった。
雪が薄く積もりは始めた頃、オーランドはアフェクに向かっていた。アフェクは山地で、麦畑に適していない、牧羊場として使われる丘陵と、鉱産物を隠す
膝の痛みが悪化した現領主ローレンスの看病の為にデリックを城に残し、オーランドとニールは発った。
馬車は雪のヴェールを被った麦畑を通り過ぎ、船着き場に到着した。アフェクの城は川沿いにあるため、船で
「次期領主様、そこは直進よりも、左に曲がった方が城に早く着きますよ」
「そうか。詳しいんだな」
「アフェクは僕の、
ニールはさみしそうに笑った。
「ちょうど僕らが5~6歳くらいの時に、アフェクで疫病が流行って、僕の親も死んじゃいました。怪しい呪術みたいな民間療法も盛んになって、それにハマって借金作っちゃったり、病気でお得意さんが死んで路頭に迷う人とか、たくさんいました」
雑談をしながらニールの案内に従って町を進むと、普段よりも早くアフェク城の正門についた。いつもなら日が傾くころに城に着くが、今日はまだ太陽が中天にある。オーランド達の姿を見て、召使たちは慌てているようだった。
「どうした? 出迎えの準備をするよう、手紙を送っていたはずだが?」
「次期領主様のための出迎えの準備はできておりますが……私どもの予想より非常に早くにいらっしゃったので、前アフェク女伯ブリュンヒルド様と、到着がかち合っております。そのため、今正面玄関が空いておりません」
「女伯? 女など、裏口から入れればいいではないか」
女伯とは伯位にある者の妻のことだ。選王侯の跡継ぎの方が、通常は優先されるはずだ。
「田舎育ちの爺の子がよく吠えるわ。ゼントラム王女とズーデン選王侯の間の娘に、敬意が足りないのではなくて? オーランド」
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