波濤を越えて
体の感覚を確認すると、彼は先ほど見た青い部屋の真ん中で、テーブルに向かって立っていた。無意識に立ち上がって進んでいて、その間
重みを感じて手に目をやると、彼は光る
「ウリエル、神の
『わからないわ。私はキリスト教徒じゃなかったから知らないだけかもしれないけど、この
「頭が痛いから今日はこれで帰る。暇ができたらまた来よう」
『そうね』
オーランドは石版をテーブルに置いた。それから、誰にも見つかることなく地下室から自分の部屋まで戻った。
ニールが帰るまで暇なので、彼はオステン向けの
――親愛なるオステン領主様へ。
概要を裏紙にまとめると、オーランドは領主同士に認められた最大限の謙譲語を使って手紙を清書しはじめた。ついでに全力で媚びへつらった世辞や、形式的な美辞麗句も大量に書き込んだため、清書の半ばでオーランドはぐったりしてしまった。少し休もう。ティーコージーからティーポットを取り出し、横にあったカップに黒糖を入れてから注ぐ。火傷しないようちびちびすする。疲れた頭と体に、黒糖の旨みが染み渡った。
『ねえ、この世界には黒糖しかないの?』
そういえば、この十年は黒糖ばかりだった。
「いや、白砂糖もあるぞ。今はノーデンでは作っていないが、砂糖大根を絞るんだ」
『砂糖大根があるなら、輪作でカブを作る代わりに、砂糖大根を作る畑を作った方がいいと思う。砂糖は貿易品になるから』
「そうだな」
あとで触れを出さねば。オーランドはメモにその
糖分補給のおかげか、
「何事だ」
「オーランド様に、来客です!」
下男だった。しかし、オーランドに誰かを招待した覚えはなかった。教会に
「誰だ」
「夏に舟遊びをなさった時の船頭だそうです!」
飛行機の
「会おう。ここに通せ!」
「はい!」
下男に連れられ、漁師はすぐに部屋にやってきた。
「遠路はるばるご苦労であった。次期領主として命じる。椅子に座って紅茶を飲め。立たれたままだと、話しづらくてかなわん」
「は、はい」
漁師はやっと椅子に座り、紅茶を飲んだ。漁師が落ち着いた頃合を見計らい、オーランドはできるだけ穏やかに話した。
「どうして、このような激しい吹雪の中、城までやってきたのか? 春まで待ってもいいだろうに」
「い、いえ、実は……勝手に、音が鳴る箱が流れ着いたんです。
漁師は箱を差し出した。箱はぼろぼろの毛布に包まれ、中身が分からないようになっていた。オーランドが包みをほどくと、案の定ホルンがついていない
「よくやった。この箱は私の権限で処分しておく。他の者には、贈り物を取り換えたという話で通そう。勇気ある行動に対する
「嫁さんと、子供が4人です」
「6人家族か。今すぐに船に積み込んで、
「はい。沖まで出られる船ですし、この風ならベタ
「ニール! 貯蔵庫から麦三か月分と、毛布を六枚この漁師の船に積み込ませろ! 今すぐにだ。作業が終わったら呼びに来い。漁師を早く帰らせるぞ」
「はい!」
ニールは元気よく部屋を出ていった。オーランドは漁師を自分のベッドで仮眠させた。
日が暮れるころ、荷物の積みこみは終わった。運よく雪は止み、皓々と満月が川面を照らしていた。
「これなら、夜明けまでに帰れます。次期領主様、本当に、本当にありがとうございました」
漁師は何度も何度も頭を下げ、城の船着場から去って行った。
『ねえ、さっきの箱、海を漂流してきたのに、綺麗すぎじゃない?』
オーランドが部屋に戻り、一人になった瞬間、カーラは口を開いた。オーランドは再び箱を手に取った。
「ああ。つまり、最近海に流されたものだろうな」
『やっぱり、海の向こうには旧世界の技術を保った人々がいるんだよ。今回は箱だったけど、船がやってきてもおかしくないよ』
「そうだな。案外、貿易ができるのもすぐかもしれん」
オーランドは寝床についた。出来事が
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