光る石
巨大な鳥によって引き起こされた火事の数日後、教会の地下室から
オーランドは彼に聞いた。
「夜になると光る石、だったな」
「はい、うちの下の者が見つけまして。夜と言わず、暗い所なら昼でも光ります。ぜひお見せ出来ればと。今持ってきます」
いそいそと去っていく大工の背を期待に満ちた視線で眺めるオーランドに、デリックは苦りきった表情だった。
「オーランド様、教会との
「教会の地下とはいえノーデンの領土だ。それに本当の話なら役に立つ石だぞ。火を使わずに光が手に入れられるなら、
「ですが」
そこに、男が一抱えもあるような大きな金属の筒を転がして運びながら戻ってきた
「持ってまいりました! この中にたくさん入っていまして」
筒には妙につやのある黄色い紙が貼ってあり、そこには黒い三つの
「何か書いてあるな、何だ、これは?」
オーランドがそのマークに触れようとした瞬間。
『それ触っちゃダメ!』
悲鳴のような女の声。オーランドがこの世で一番嫌いなものだ。
オーランドは思わずあたりを見回した。しかし、教会の跡地で作業をしている大工たちと、遠くを
「今、女の声がしなかったか?」
次期領主の
「女は次期領主様が来ると言うので、あらかじめ
「そうか」
オーランドは徹底した女嫌いだ。身の回りに下女の一人すら置かず、通常なら第一夫人を迎える成人の十八歳になっても結婚せず、女遊びもせず、ゼントラム王女との縁談すら断り、二十四歳の現在に至るまで独身を通しているのだから、
本来なら
破門された者は、人間としての権利も尊厳もすべて奪われ、悪魔の手先として蔑まれながらながら貧しく悲惨な生活を送ることになる。つまり、王は人間を規定することができる唯一の人間なのだ。この国を治める最高の権力者であることは言うまでもない。ゆえに、王の選定は厳密かつ確実に行わなければならない。
このように、王を選ぶという事は非常に重大な職務であり、おいそれと出来るものではない。王選びをする者の身分と教養を保障するため、領主に選ばれた
「すまん、空耳だ。見せてくれ」
「はい、今開けま……」
再び、絹を
『ダメ! それ毒みたいなものなの! 開けちゃダメ! 近づいてもダメ!』
オーランドは、またあたりを見回した。……大工の言うとおり、女の影などなかった。
「何だ? 気味が悪い……」
大工が不思議そうにオーランドにたずねた。
「どうかされましたか?」
「いや……」
オーランドはしばらく考え込んだ。そういえば、
もしかすると、これは俺の守護天使か何かの警告かもしれない。オーランドはふと思った。それなら、この声に従った方がいいのだろう。
「……見せなくていい。元に戻しておけ。中央教会がしつこいようなら渡してもいい。ただ、そうだな、運ぶのは中央教会の神父どもにやらせろ。お前たちは、それにあまり触るな」
「……? はい」
大工は、不思議そうにしながらも筒を開けようとするのを止めた。オーランドの行動を見て、デリックは大きく頷いた。
「そうですオーランド様、教会に任せておくべきです。無用な揉め事は避けるべきです」
オーランドは顔をしかめた。
「そういう理由で戻させたんじゃない」
「では、どうした理由ですか?」
「いや……それは」
オーランドは言いよどんだ。どこからともなく聞こえた声が気味悪かったから、とは言いにくい。しかも女の声だ。
「何でもない。戻るぞ」
デリックを呼びつけ、オーランドは教会の焼け跡を去った。
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