第67話

「何、どうしたの? あなたたちには何が聞こえているの?」


 リリスが四人に尋ねる。


「え? 師匠には聞こえないんですか?」

「なんだこの声は? 一体何がどうなっているんだ!?」


 アモンが叫ぶと、アロワが携帯していたガラスの石板が宙に浮かび、発光し始めた。中から出てきたのは緑色の髪と眼を持つ妖精、ベルだった。


「あっはは。本当に面白いことになってきたようですね。四人の勇者が『再び』一同に会することがあるなんて思いもしませんでしたよ。まさに奇跡と言っていいでしょう!」

「お前はなんだ? 何者だ?」


アモンがベルに問いかける。


「初めまして。西の勇者アモン様。私はガラスの石板の妖精ですよ? ……なぁんてね」

「なぁんてね、だと? やはりお前は信用できないな」とシェルドはベルを睨みながら声を発する。

「そうお怒りにならないでください。ドラゴンの盾の勇者シェルド様。私も正体を明かせないんですよ」

「正体を明かせないだと? ふざけたことを……!」

「あら、心外ですね。正体を明かせないようにしたのはあなた方じゃないですか! あっ。これも違うか。正確にはあなた方と全く同じ情報を持った先代の勇者たちでしたね」

「お前の言うことはいつも何か的を射ねえな」

「的を射たお答えが欲しいのですか、アロワ様? ……あなた方が望むならお見せできますよ? 的を射た答えというものをね……!」

「ど、どういうことですか?」とアルカが不安そうな表情で尋ねた。

「あなた方が制限を解除してくれれば、私は全てをお話することができます」

「制限? 突然出てきて意味の解らないことをぺらぺらと……」


 アモンの苛立ちにベルは丁寧に答える。


「西の魔王アモン様、あなたは知っているはずですよ? この世界の矛盾を……! 知りたくはないのですか?」

「……世界の矛盾だと?」


 アモンが訝しむ中、リリスはアモンの発した『世界の矛盾』という言葉で思い出していた。東の魔王龍王との会話を……。


「……海、そして西の魔王国のさらに西のことね。アーくんたちが会話している妖精とやらの姿は見えないけど……」

「へぇ……。気付くんですね。哀れな魔王ごときが……」とベルは微笑する。

「……前も言っただろう? 先生をバカにするな……!」

「申し訳ありません。シェルド様。でも、シェルド様も知りたくないですか? なぜ私が元西の魔王リリスを何故私が軽く見ているのか」

「……それも制限とやらを解除すればわかるのか?」

「ええ」とベルは頷く。

「……いいだろう。その制限とやらを解除してやろうじゃないか。一体どうすればいいんだ?」

「簡単ですよ。このガラスの石板に四人の勇者が手をかざし、『情報遮断システム解除』と言ってくれれば良いのですよ!」


 ベルは宙に浮かばせたガラスの石板を指さして説明した。


「いいだろう」と言ってシェルドは我先にと石板に手をかざした。

「待って下さい。シェルドくん! 私は何か嫌な予感がするんですが……」と躊躇うアルカ。


「アタイは知りたい。このベルとかいう奴の正体を。おい、ベル全てってのは何でも答えることができるってことか? なぜ魔族と人間がいがみあうのかも……」

「そのとおりです。ホワイトエルフの王ルークが急変した理由もね」


 ベルの回答にアロワは舌打ちをしながらも石板に手をかざした。


「……オレはこの妖精に会ったのは今が初めてだ。信用できないやつの提案を聞く気にはなれないな」とアモンは答えた。


 綺麗に賛成と反対が2対2に別れたことを見て、リリスが呟く。


「私にはその妖精の姿が見えないわ。だからアーくんたちの会話から推し計ることしかできないけど……」と前置きし、「私は知りたいわ。アロワさんの言うように人間と魔族がいがみある理由もそうだけど……。なぜ私たちが海のないこの世界で海の概念を知っているのか、ということを。そして……」

「そして……、なんですか母上」

「アーくん、あなたも知っているでしょう? この西の魔王国の西側は行けども行けども森が続いていることを。決して抜けることが出来ない森。かつて私も西に歩き続けたことがあった。丸三日もね。結局、森の果てを見ることができずに引き返したの。驚いたわ。丸三日歩いたはずなのに、帰るのは半日もかからなかった。東の龍王も同じようなことを話していた。少なくとも北の魔王国の北側、東の魔王国の東側は西の魔王国と同じようになっている。そしておそらく南の魔王国の南側も……。私は知りたいわ。この世界の果てがどうなっているのかを……!」


 いつになく真剣な表情で語るリリスを眼にしたアルカとアモンはリリスがそう言うのならと、石板に手をかざした。


「情報遮断システム解除」と四人は声を合わせた。

「これでいいのか?」と尋ねるアモン。

「はい、ありがとうございました。これで私は全てを手にしました」

「なんだと?」

「まずは姿形を変えさせてもらいましょう……!」


 ベルの体が光に包まれ変化していく。手のひら大だった身長は人間と同じくらいになり、胸と腕と足にはアモン達の見たことがない未来的な装甲が施されていた。変わらなかったのはその特徴的な緑色の髪と眼を携えた容貌くらいである。


「お待たせしましたね。改めて自己紹介を……。私の名前はベル。VRMMOアシスタントAIです」

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