第33話

 アルカとシェルドは森の中で草木に隠れるようにして座っているリリスを見つける……。


「師匠、こんなところにいたんですか……」

「……来てくれたのね……。でも……、アルカちゃん、シェルドくん! ちょっと静かにしてもらえるかしら……?」

「?」


 アルカとシェルドの二人は、リリスが見ている方向に視線を向ける……。そこには、先ほど男に蹴られていたアロエとダークエルフの男の子がいた……。何か話しているようだ……。三人は耳を傾けた……。


「おい、このクソガキ! なんで盗みなんてやりやがった?」

「……お腹が減って……。あの果物すごくおいしそうだったんだ……」

「……そうか……、……すまねえな……。お前においしいもん食わせてやれねえのは他でもねえ。アタイのせいだ……。南の魔王アロワのせいだ……」

「あの子が魔王……!?」


 リリスたち三人は声を合わせて驚く……。


「でもな、クソガキ、盗みはやっちゃいけねえ……! たとえ、人間相手でもだ……! 道に外れたことはやっちゃいけねえんだ……! プライドは捨てちゃいけねえ! わかったか?」


 男の子はコクンと頷く……。リリスはダークエルフ二人のやり取りを見て微笑む……。


「アルカちゃん、シェルドくん……。あの娘の姿を見ても、魔族は倒すべきっておもうかしら……?」


 アルカとシェルドは黙り込む……。リリスは隠れるのをやめ、南の魔王アロワの前に姿をさらけ出し、アルカとシェルドにはわからない言葉でアロワに話しかけた……。


「久しぶりね……。南の魔王アロワ……。あまりに変貌してるから、気付かなかったわ。すばらしい成長を遂げたわね……」

「あんた、さっきの……。……古代エルフ語を喋っているだと……? あんた、何者だ……?」

「ふふふ、私の顔を忘れたかしら……。無理もないわね……。最後に会ったのは百年前の四大魔王会議のとき、その時、あなたはそこにいる男の子よりも小さかったものね……」

「四大魔王会議……? あんた一体……、……あんたまさか、西の魔王リリスか……!?」


 アルカはリリスとアロエの会話を聞きとることができなかったが、一瞬アロワの顔がうれしそうになったのを見逃さなかった……。アロワは緩んだ顔を一瞬で締め直し、話を続ける……。


「今は元西の魔王よ。息子に後を継がせたの……」

「で、その西の魔王様がこんなところに何の用だい? 人間なんて引きつれて……」

「ただの人間じゃないわ……。二人とも勇者なの……」

「勇者ぁ? ますますわからねえな。なんでそんなのを連れてるんだ?」

「ま、成り行きってやつよ……。そして成り行きで南の魔王国の現状を知ることになったの。……なにかお困りの様ね……」

「まあな……。困ってねえと言えばうそになるさ……。魔王だってのに……、あんな果物一つ買えねえくらいには貧しいからな……」

「……私たち、旧魔王城に行って来たの……。跡形もなく、なくなってたわ……。一体なにがあったのかしら……?」

「まあ、いろいろとな……」

「……旧魔王城に行った時、ホワイトエルフに襲われたわ……。もちろん撃退したんだけど……、奴ら気になる言葉を言っててね……。サラダ国がどうとか、純王国ホワイトがどうとかってね……」

「いらんことを西の魔王に喋ってくれやがったんだな。そいつら……。……立ち話もあれだしな……。アタイらが住んでる集落に連れてくよ……。アンタらからすれば、汚いところだろうが……雨露しのぐくらいはできるからよ……」

「アンタら……ね。北の勇者と、東の勇者も連れて行っていいってことかしら……」

「皆まで言わすなよ……。アタイの気が変わっちまうぜ……?」

「それはごめんなさい……。……ひとつお願いがあるんだけれど……」

「……なんだい?」

「私、今、人間ってことで勇者の二人と一緒にいるの。魔族であること、もちろん魔王であることもばらさないでもらえる? 今はまだその時じゃないから……」

「人間の振りをするなんて変わったことをしてるんだな……。まあ、いいさ。他でもないアンタの頼みだ……。そのお願い聞いてあげるよ」

「ありがと」


 リリスはアロワとの古代エルフ語での会話を終えると、アルカとシェルドの方を向く……。


「アルカちゃん、シェルドくん! この南の魔王アロワ殿が、集落に案内してくれるそうよ。お言葉に甘えましょう!」


 アルカとリリスは恐る恐る茂みから出て来る……。


「……取って食ったりなんかしねえから、早く出てきな! おいてくよ!」


 アロワは男の子と手をつないで歩き始める……。リリスたち三人は後ろに着いて行くことにした。

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