第34話

 リリスたちは、アロワが住む集落に辿り着いた……。森の中に開かれた土地にあり、まさに原住民が住むような簡単な作りのテントのような家が複数建てられていた……。多種多様な魔族が身を寄せ合って暮らしていることが窺われる……。


「ダークエルフだけじゃないのね……」

「ああ……。いろんな魔族がいるぜ。ここには……。おーい、みんな! 帰ったぞー!」


 アロワが大きな声で帰りの合図を送る……。すると集落の住人が集まってくる……。


「ご無事で何よりです。アロワ様……。この方たちは……?」

「客人だ……。ドグ、こいつらを客人用のテントに連れて行ってくれ……」


 ドグと呼ばれた従者はリリス達を案内する……。アロワは集落のこどもたちに囲まれていた……。こどもたちにも、アロワ自身にも笑顔がある……。リリスはその姿を見て微笑みながら客人用テントに向かった……。

 客人用テントというだけあり、住人が住んでいるとみられるテントよりもふた回りほど大きい……。だが、決して豪華というわけではない……。設置されている調度品は最低限だ。集落の経済状況の厳しさが伝わってくる……。

 リリスたちがしばらく待っていると、アロワがテント内に入って来た……。


「よう、待たせたな……」

「いいえ、そんなことはありませんわ……。……従者にも子供たちにも慕われているようですね……」


 リリスの口調が古代エルフ語を喋っていた時と変わって丁寧語になっていることにアロワは気付いたが、アルカとシェルドのふたりを前にしてのことだろう、と判断する。


「まあな……。こんなアタイに、今でも付いてきてくれて……感謝しかねえよ……」

「あなたのお人柄の賜物だと思いますよ……。……教えて頂けませんか? 旧魔王城が滅びた理由を……」

「……くだらねえ理由さ……。アタイの力不足から、内部分裂を起こしちまった……。それだけのことさ……。アンタも知ってるだろ? ここ南の魔王国は、魔族の受け皿だ……。行く宛てのねえ連中が集まってできた多魔族の国家だ……。この集落を見てもわかるだろ? エルフ、様々なタイプの獣人、ドラゴンまで……あらゆる魔族が住んでいる……。だれが呼んだか、魔族のサラダボウルなんて言われてる国だ……」

「ええ、存じていますわ……。そして、魔王は世襲制ではなく、各民族の長が集って話し合い、決めている、と……。そして、あなたはわずか六十歳という異例の若さで魔王に就任した……。詳しい理由までは存じませんが……」

「ろ、六十歳!? この人一体何歳なんですか!?」


 じっと静かに話を聞いていたアルカがつい口を開く……。


「百六十歳だよ……。文句あんのか?」

「いえ、別にないですけど……。魔族ってそんなに長く生きれるんですか?」


 アルカはリリスに問いかける。


「種類にもよるけど、ダークエルフは人間の十倍くらい生きれたはずよ。……そうですよね? アロワ……様?」

「……様じゃなくていい……。でも『さん』くらいは付けてくれ。一応集落でトップなんでな……。寿命なんてどうでもいいだろ? もっと聞きたいことがあったはずだ……」

「南の魔王国周辺で起こっている魔族による殺人、略奪等の犯罪だが……、やめてもらえないか……?」


 今度はシェルドが口を開く……。連合国騎士団の一員であるシェルドだ。どうしても話は魔族が連合国に与える被害の事柄になってしまう。アロワは不機嫌そうに答える。


「それはアタイのコントロールできる範疇じゃねえんだ。悪いがな……」

「なんだと!? 貴様は南の魔王なのだろう? 自分の配下が起こした問題の責任をとる必要があるだろ!」

「だから、アタイの管轄できるところじゃねえんだよ!」

「ちょっと、シェルドくん、落ち着きなさい……! アロワさんも……」


 リリスがシェルドとアロワをなだめる……。


「アロワさん……。コントロールできないってどういうこと?」

「……さっきの話に戻るが……、この南の魔王国は分裂を起こしちまった……。ホワイトエルフだけの国を目指す『純王国ホワイト』とアタイが率いる『サラダ国』とにな……。人間の国に……連合国にちょっかいを出しているのは、はぐれ魔族だ……。弱ったサラダ国を見下して離脱し、『純王国ホワイト』にも属すことができない魔族達だ……。へへ……情けねえ話だが、サラダ国はもうほとんど国としての機能はない……。まともに運営できているのは、この集落だけだからな……」

「つまり、魔王とは名ばかりのお飾りお姉さんというわけですね……」

「ケンカ売ってんのか? 赤髪……!」

「本当のことを言っただけです……」

「ちょ、ちょっとアルカちゃん、アロワさん落ち着いて……!」


 アルカとアロワは『フン!』とそっぽを向く……。リリスはわからなかった……。なぜ、普段は優しいアルカと、子供に慕われているアロワが冷静になれずに、仲たがいをしてしまうのか……。リリスは世界を疑ってしまう……。本当に人間と魔族がいがみ合ってしまうように世界が仕組まれているのではないか、と……。


「そ、それで、サラダ国が国としての機能がほぼないなら……純王国ホワイトが機能を受け継いでいるんでしょ? ホワイトの連中ははぐれ魔族を討伐しないのかしら?」

「あいつらにそんなつもりはない……。あいつらは近く、南の魔王国の統一ができ次第、連合国に向けて侵略戦争を開始するつもりだ……」

「なんですって!?」

「……あんたら、牛魔王と龍王を倒したんだろ?」

「え、ええ……。内緒にしてたんだけど、もう情報が回ってるんですか?」

「当たり前だろ? 勇者アルカ、勇者シェルド、そして魔法使いリリーの噂はもう広く流れてる……。隠し通せると思ってたのか? 魔法使いリリーの正体がまさか『アンタ』みたいな奴とまでは思わなかったが……」


 リリスは『あはは』と苦笑いを浮かべる……。


「四大魔王の内、二人がいなくなり、アタイもこんな状態だ。バランスが崩れている今がチャンスと見たんだろうな。今なら連合国、そして西の魔王国も倒してしまえば世界が手に入ると考えているんだろう……。だから、アタイたちは絶対にホワイトに負けるわけにはいかない……。今はゲリラ戦をしている……。アタイたちが負ければ、ホワイトは全面戦争に打って出る……。人間と魔族の戦争で真っ先に死ぬのは、人間側も魔族側も、力のない子供たちだ……。人間側は魔族を全て一緒くたにしてるからな……。ホワイトエルフが戦争を仕掛けてるのに、他の魔族も殺されるだろう……。奴ら、ホワイトはそこまで見越してはぐれ魔族に好き勝手させてるのさ……。人間側の憎悪が魔族全てにいくように工作してるんだ。分が悪くなったら、ホワイトエルフ以外の魔族に責任転嫁できるようにな……」

「はあ……。ややこしい話ですね。……わかりました……。ホワイトをぶっ倒しましょう!」


 声を出したのは意外にもアルカだった。


「私は平和主義者ですからね。争いはイヤなんですが……、あの下品なホワイトエルフと人間が戦争させられるくらいなら、南の魔王に付きましょう。それで良いですよね! 師匠、シェルドくん!」

「ええ……。魔族と組むのは、癪ですが……、ホワイトを倒すのが先決されます……。連合国に戦争をさせるのだけは防がなくてはなりません。ただし、条件があります……。アロワが南の魔王国の魔王として復権を果たしたときは、南の魔王国周辺のはぐれ魔族の処罰をしてもらいます」


 シェルドに協力の条件を提示され、アロワは不機嫌な様子を見せつつも答える。


「人間ごときが条件なんて偉そうなことを……。……言われなくても、アタイが復権したら、はぐれ魔族の好きにはさせねえ……。四大魔王国の協定に引っかかる行為だからな」


 どこかしらギスギスした雰囲気だが、とりあえず協力して純王国ホワイトを倒すという意見で揃ったことにリリスは『ほっ』と胸を撫で下ろす……。


「で、どのように倒します?」


 アルカとシェルドとアロワは声を重ねて、リリスに問いかけた……。


「え? えええええ!? わ、私なの!?」

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