第28話

 リリスたちは一旦、南の魔王国に転移する前の場所に戻った……。リリスは南の魔王城には転移できるが、南の都には転移できないのだ。元いた場所から転移魔法なしで南の都に向かうことにしたのだ……。


「師匠……。前々から思っていたんですが……、なんで師匠は魔王城には転移できるのに、他の場所には転移できないんですか?」


 アルカに質問され、リリスは「ぎくっ」としてしまう……。もっともな疑問である。通常、転移魔法は一度行った場所にしかいけない……。リリスが魔王城に行けるのは、四大魔王国で協定を結び、特殊な転移魔法で行ったことがなくても移動することが可能だからである。リリスは魔王頭脳に電気信号を巡らせ、一つの言い訳を思いつく……。


「……シェルドくん……、聞いたことあるでしょう? 連合国軍には決して表に出ない秘密の組織があることを……」


 リリスはシェルドにかまをかける……。リリスも連合国にそんな秘密組織があるかは知るところではない……。


「ま、まさか……、暗部諜報機関のことですか……!? 僕も噂話でしか知らない、連合国上層部のほんの一握りしか知らないと噂される組織……」


「そんなのがあるのね」とリリスは心の中で思うが、表情には出さない……。


「そう……。私はそこで働いていたの。絶対に内緒よ……。アルカちゃんとシェルドくんにだけ特別に教えておくわ……。私はそこで魔王国の情報を集める担当だったの。魔王城には潜入で一回行ったことがあるから、転移魔法で行けちゃうのよ!」


 完全な嘘である。そもそも魔王城に行ったことがあって、東の都や南の都に行ったことがないなんてことがあるだろうか、と普通なら思ってしまうところのはずだ。だが、妙に自信たっぷりに平気で嘘を吐くリリスを前にアルカとシェルドの二人は納得してしまうのであった。


「暗部諜報機関……実在していたんですね……。そんなところに在籍されていたなんて……。先生はやっぱりすごいです……!」

「師匠、ただのお嬢様じゃなかったんですね……」


 二人はリリスの嘘の経歴に感心する。リリスは騙し切れたことに『ホッ』とため息をつき安堵した。


「さ、急ぎましょ! 今日中には、南の都に到着するわよ!」

「ええ!? ここからだと、馬車で二週間はかかる距離ですよ? いくら身体強化の魔法を使うと言っても無茶ですよ!」

「なに、泣きごとを言っているのよ。アルカちゃん! それでも北の勇者なの!? さ、筋肉系男子に会いに行くわよ!」


 そう言うと、リリスは我先にと猛スピードで走り始めた……。


「先生、待って下さい!」

「……やっぱり、男探しに行くんじゃないですか……」


 アルカとシェルドも後を追った……が、さすがに一日で行こうとするのは無茶だった……。


「ちょっと! アルカちゃん、シェルドくん! 遅いわよ! 何やってんの!」


 リリスはアルカとシェルドがへとへとになりながら走っているのを小さな町で水を飲みながら待っていた……。


「し、師匠……。本当に無理です……。死にます……」

「せ、先生僕も……」

「二人とも情けないわねえ……。わかったわ。今日はここで泊りましょう」


 リリスたち三人は、町の小さな宿をとった……。アルカとシェルドはすぐにベッドに横になり眠ってしまった……。


「おやおや、お疲れのようですねぇ……。もう寝てしまわれるなんて……。お穣さん、どちらからどちらに行かれるの?」


 宿の店主のおばあさんがリリス達の宿泊室にお茶を持ってきて、リリスに声をかける……。


「ええ、東の都から南の都に行く途中ですの……」

「まあまあ、それは遠路遥々……。ここまで来るのにも時間がかかったんではないですか?」

「ええ、一日かかっちゃいました……」

「そうですか……。それはお疲れ様でございます……。ゆっくりしていって下さい……」


 おばあさんはお茶を置くと、扉を閉めて出ていく……。おばあさんは歩いて持ち場に戻りながら、呟く……。


「東の都からねえ。一日で……。…………一日!?」


 おばあさんは大きな声を出し、振り向いたが……、『嘘だよねえ、聞き間違いだよねえ』と呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る