第118話結婚式

 あれから二ヶ月の月日が流れた。

 俺は今大勢の人間と向き合っている。


 そう、時が過ぎるのは早いもので気がつけば結婚式場の壇上へと上がっていた。


 場所は学校の体育館だ。

 セキュリティーの問題でここが一番都合が良かったらしい。

 元々平民と貴族の両方が行き来する為に、外壁とは別で壁が設けられているから誰何が楽なのだろう。


 その体育館の壇上に一人立ち拡声魔道具を持って佇んでいる俺は、かつて無いほどに緊張していた。

 こっちの結婚式は男が最初に壇上に上がり、呼んだ相手への挨拶をして挙式を宣言するそうなのだ。

 それはまあいいんだ。来てくれた人に挨拶するのは当然だし。

 けど、何でこんなに一杯人来てんの?

 確かに、連れて来る人数を制限したりはしないと言ったけども……

 総勢で言ったら千人越えてないか?


「ゴ、ゴホン。ほ、本日は私たちの為にお集まり頂き真にありがとござっ……ございます」


 目を下に向ければ、王国の国王陛下のみならず帝国のトップや魔人国の三賢人の一人である屋敷を貸してくれた人まで居る。

 いや、帝国はいいんだ。皇帝と言ってもリーンベルトだし。

 他にも何人か来てるけど全員知り合いだし。

 賢人や国王を見下ろしながら挨拶するとかめっちゃ緊張するわ。

 一番嫌なのは王国の貴族達だ。一杯来すぎだろ!?

 招待状出してねえよ? いや、流石に今更帰れとか言わないけどさ。


「ランスゥそんなに一杯嫁貰う奴が緊張なんて似合わねぇっすよぉ!

 しっかりするっすぅ!!」


 ハルの野次に会場にささやかな笑いが起こった。

 ありがとよ……もの凄くイラッ来たお陰でちょっと楽になった。


「「「おにいちゃーん! 頑張れぇぇ!」」」


 おお、我が子供達の応援で心が浄化されるわ。

 ハルの奴めどうしてこういう風に出来ないんだ。後で覚えてろ。


 俺は、彼らの応援にに軽く手を振って応えた。

 それに応じる様に会場のざわめきがピタリと止まる。


 いや、いいよ? ざわざわしてて?

 そんな思いに苛まれながらも何とか言葉を紡ぐ。


「わたくし、ランスロットことカミノ・ケンヤは、本日結婚をする事になりました。

 そのご報告とお披露目をさせて頂きたくご招待させて頂きました。

 ならびにご家族の皆様にご息女を全力で幸せにする事をここに誓わせて頂きます。

 そして、どうか皆々様方の祝福を頂けることを切に願います」


 深く頭を下げると会場から祝福の声と共に拍手が鳴り響いた。

 喜びと安堵に息を吐いて壇上の目立つ所にあるテーブルの席に着いた。


 そして入れ替わる様に壇上に上がり前に出たのはライエル君。

 今日の司会を担当してくれるそうだ。


「簡潔でありながらも、皆が安心できるとても良いスピーチでしたね。

 では、お次は新婦の入場となります」


 一人一人壇上に上がっては軽い自己紹介と共に馴れ初めを話して席に付く。それの繰り返しだった。

 皆俺が作ったゴージャスドレスで着飾っている。


 うん。凄くいいね。

 特にいつも格好を気にしない勢は驚くほどに綺麗だ。

 俺の嫁さん達は絶世の美女と言って差し支えないはず。


 とはいえ、人数が人数だからダレるかなぁと心配していたが、皆も話を考えて来たお陰で割と来場者達も興味深そうに耳を傾けていた。

 と言うか、エルフとか獣人が出てきたからざわざわしまくっていたけど。


 自己紹介タイムが終われば次は縁の深いものから順に壇上にてこちらに向けてメッセージをくれるようだ。

 縁が深いとか言ってたけど、実際は偉い順だけどね。

 王国が主催という事で国王王族一同、次が皇帝リーンベルトや将軍とティファ、その次が賢人様だった。


 皆一様に国を救って貰い感謝するという言葉をつけて祝福すると言ってくれた。

 彼らの話が終わると次は嫁さんの家族に移る。そう、義父さんたちだ。


 トップバッターはエミリーのお婆ちゃん。将軍と一緒に頑張って来てくれた様だ。


 エミリーを貰ってくれてありがとうねと深く感謝された。

 そう言えば、最初はとんでもないじゃじゃ馬……と言うか理性が弱い子だったな。

 それが心配だったが、実際に俺と一緒に来てからはそんな事一度もない。

 アンジェとかやんちゃ勢との模擬戦を抜かせば、ハンスに剣先を向けたくらいだ。

 メイベルさんにこちらこそとお礼の言葉を返えすと彼女は壇上から降りていった。


 次に家族を引き連れたミレイパパやエリーぜパパから涙ながらのお話を頂いた。

 余りに感情を込めるものだから思わず釣られて泣かされてしまった。

 ディアのお父さんも来てくれていた様で、クリスマスイベントの時の話を少ししてから祝福の言葉を貰った。


 最終的には彼らも詰まる所、助けてもらったと言う話しに落ち着いた。


 そう、壇上に上がる人上がる人全員がどういう事で助けてもらったエピソードをまるで自慢話の様に話すものだから少し頬が引き攣った。

 悪い気分ではないのだけど、流石に同じ様な話が続き過ぎてくどいのだ。

 その関係でか気を利かせてレラやガイールは簡潔な言葉を送るのみに留めてくれた。


 そしてとうとう下っ端連中の時間になり、ハルが壇上に上がった。


「ランスは俺の師匠っすよ。これからも宜しくたのむっス。

 えーと……あっ、結婚おめでとうっす」


 ざ、雑!!

 お、お前……ちょっとくらいは考えて来いよ。

 こいつさっきから舐めてるな。よし、仕返ししてやる。


「よし。じゃあ、ハル、祝福してくれるってんならそこで一曲歌え!

 お前の自慢の美声を聞かせてくれ。出来るよな?」

「んっ……? はぁっ? いやいや、何いってんすか? はぁっ?」


 小声で『無理っす無理っす! 出来ないっすよぉ、出来ないっすよぉ』と叫ぶハルをニヤニヤと見つめてやった。


「ランスさん、それくらいにしてあげて下さい。パパになるのに大人気ないですよ」


 と、ニコリと笑いながらも窘めて来たのはルイズちゃんだ。

 実はこいつらとは式の前に顔を合わせている。

 なにやらアダマンタインの一件が尾を引いていた様子でおどおどしながらのご対面だったが、こちらが何も気にしていないことに気がつくとすぐいつもの調子へと戻っていった。


 そんな彼が壇上から降りると、お次はエドウィナやエレオノーラ、アナスタシアの三人から言葉を貰った。

 因みに、貴族の息女であるエドウィナが後なのかと少し不思議に思って聞いてみれば今は三人で仲良くやってるからその関係でだそうだ。

 彼女の父親であるマクレーン伯やお婆さんに当たる学園理事長、それとリード伯と娘のマーガレットからはもう既に言葉を貰っている。


 さて、概ね終わったかな。と思っていれば壇上にさえない男が上ってきた。

 

 彼の顔を見た瞬間思わず「あ、何か見たことある」と口走ってしまった。


「お、お前、空気読めよ! 冗談でもそんな事言われたら何て言っていいかわからなくなるだろ!!」


 と激高するのはファルケル君だ。うん。思い出した。


「お、おう。歌うか?」

「歌わねぇよ! ……いや、まあ、結婚おめでとうな」

「おう。ありがとな」


 あぶねぇ……そう言えば居たなぁこんなやつ。

 そんな目で見ていれば、ジト目を送ってきた。

 ふむ、ジト目なのに声も話し方も普通でお堅い感じで結婚式の場を弁えた対応だ。


 お前、不器用じゃなかったのか? どうした?

 あれっ……? こいつ空気が読めないんじゃないの?

 まさか今まで知ってて読まなかったって事?


 そんな事を考えている間にファルケルのお話タイムは終わっていた。

 終わってみれば、印象に残ったのは彼のジト目だけだった。


 続いてミアーヌさん夫妻やハンスが壇上に上がると、なにやら頑張って俺へ口撃を試みていたが不発に終わっていた。

 ミアーヌさんは……うん。俺が貧乏でスライム討伐で一日いくら稼げるかと聞いてきたという話しを頑張って言って居たが、誰も信じてくれてなかった。

 ふふ、もう少し話を考えてくるべきだったな。


 ハンスは俺が世話してやったのにうちの騎士団長を掠め取っていきやがってと愚痴っていた。お酒を飲んでくだを巻くかの様に……

 当然、こんな日に何を言っているんだと皆が普通に不快な視線を向けていた。


 最初に会った時はすっげぇ良い人だと思って軽く尊敬すらしてたんだけどな……

 仕舞いにはエリーゼに下がりなさい言われてしまっていた。

 多分こいつはこのあとラリールさんに怒られるだろう。

 

 次は『千の宴』の面々だ。

 ライルとリンを筆頭に堂々たる佇まいで壇上へ上がる。ベインとレックの腕に手を回しているアーミラさんとサシャちゃん。どうやら上手くやっているようだ。

 ミレイちゃんがアーミラがこんなに長続きする男は初めてじゃないかと言って居たが、何にせよ幸せそうで何よりである。


 リーダーが代表して祝辞の言葉を述べた後、アーミラさんが「次は私よ。ご祝儀弾んでよね」と告げてサシャちゃんが「アーミラには何も要りません。あ、私の時も来て頂けるだけで十分ですから」と雑談の様な会話を交わした。


 そして、何故か最後に回されていた勇者勢。

 と思っていたらライエル君が〆は彼の同郷である方々が良いでしょうと言って居たので最後は最後で意味のあるポジションだったみたいだ。


 それはいいんだ。それよりも、散々来ないでくれとたのんだユウキが意気揚々と壇上にあがってきたんだが本当に大丈夫なんだろうか……

 頼むからへんな事言うのは止めてくれよと懇願するような視線を向けてみた。


「大丈夫よ。今日くらいはハーレムなんて作った最低野朗なんて言わないであげるから」


 と、大きな声で彼女は言った。


 いや、実際俺の嫁たちは気にしてないのがわかったからいいんだけどね?

 それに、この式が終われば名実共に俺の嫁だし。

 結婚は人生の墓場? いやいや、一杯居るし皆優しいから大丈夫。ふはは!


 そんな下らない事を考えてユウキが言う言葉から目を背け続けた。

 やはり彼女は日本では一夫一妻なのだと強く語った。

 ここ日本じゃねーしと強く思いながらもスルーして居れば気が済んだのか形ばかりの祝辞を述べて降りていった。


 次にタカ、ユキトが言葉をくれた。

 彼らともここ二ヶ月の間で帝国の屋敷の方で何度か顔を合わせている。二人とも、特に悪癖がある訳でもなく割りとフレンドリーに接しられている。

 だが、タカはどうにかして女神に会いたいと思っている様で、神獣復活させたりしないかが少し不安だ。


 ユキトのほうはやっと二人目のお相手をゲットしたらしい。

 だが、何故か反発し合っているらしく相談されまくった。

 じゃあ、本人に聞いてみればとうちの嫁達に問い掛けたら、嫁全員からのろけ話を聞かされてげっそりしていた。

 そんなエピソードをちょいちょい混ぜ、笑いをしっかりとって壇上を後にした。


 そして、次に上がってきたのはダイチ君とシュウの二人。

 あれ? フーちゃんからかなと思ったんだけど……と思って見渡してみたら、彼女は何故か獣人の子達と使用人の列に並んでいた。

 どうやら彼女はもううちの人間らしい。


 そこにさり気なく忍びっ子も居た。

 好きにしていいんだぞと言っているがなにやら俺に仕えてくれるらしい。

 彼女は相も変わらず世間知らずで生真面目な美人OLみたいな顔をして、キリッとすましていた。時折見せる八重歯が幼く見せて愛らしい。


 視線を戻せば、ダイチ君が『実際に僕が見た、余り大きな声で言ってはいけない話なんですが』と銘を打ってから大声でスピーチを始めた。

 あれだ。魔人国軍の大佐をシメちゃったお話だ。

 それ言っちゃう? 大丈夫?

 と三賢人の一人である彼を見てみれば、楽しそうに笑いながら聞いて居た。


 良かったどうやら問題ないらしい。


 そして最後に二人は『今度はこちらが招待するのでよろしく』と結婚の宣言をかまして壇上を降りた。

 なるほど。ダイチ君とアリアちゃんも上手くやってるんだな。

 頑張って手を回した甲斐があった。

 まあ、あの二人は俺が何もしなくても問題無く結ばれたんだろうけど。


 そして、お披露目とスピーチは終わったのでこれから立食パーティーへと移行する。


 丁度良い。


 人数の兼ね合いか年齢のせいか、うちの子たちが上がってこなかったから元気にやっているかと聞きにいこうと思っていたのだ。


 そう思い立ち上がればふらりと足がもつれた。


「ほら、しっかりおしよ」

「ああ、わるぃ緊張しすぎて体が固まってた。ラーサは緊張してない?」

「してない訳ないだろ」


 ぶっきらぼうに言葉を返しつつも、彼女は支えてくれていた手をそっと離した。


 改めて着飾った彼女に目を向ける。


 彼女は黒のドレスを着ている。こちらでは自分で選んだ好きな色のドレスを着るのが定番で、庶民はちょっと豪華な普段着でやる場合も普通にあるそうだ。

 勿論うちの嫁たちは全員ドレスだ。細部まで拘って本気で作ってやったぜ。


 なのでどんな衣装かを一番知っているのは俺なのだが……驚いた。

 ラーサがスカートを履いている事すら稀だというのにドレスな上に華やかな物だ。

 いつもの姉御肌の空気を出そうとしても、一風変わって受け取れる。


 あれだな。

 がさつでいつもすっぴんのヤンキー女が身奇麗にしてお化粧しちゃった感じ。


「うん。めちゃくちゃ可愛いぞ」

「ば、馬鹿! そういうのは他のやつ言え!」


 そう言いながらも、隣を添うように歩いて付いてくるラーサ。

 他のみんなは一緒には来ない様子なのでそのまま壇上を降りた。

 王国民は挨拶まわりがあるのだろうし、他の面子は殆ど知り合いがいない状態だろうから余り動き回りたくないのかもな。

 丁度いい。全員でぞろぞろ歩きまわるのもあれだしな。

 そんな風に思いつつもミラは大丈夫かなと視線を向ければ、皆で囲んでユウキをシメていた。あれだ。ちっちゃい子がやる皆で囲んでの言葉攻めだ。

 なにやら調子に乗りすぎてたから数で思い知らせる作戦らしい。


『貴方、なにをしたのかわかっているのですか?』

『私たちの幸せを壊そうとして楽しい?』

『ここまで最低な人だとは思いませんでした……』

『人の心ってものがわかってないよね。ここは一からの教育が必要かな?』


 などと腕を組んだ嫁達に囲まれ滅多打ちにされている。

 ユウキは強がりながらも割と効いている事が見て取れた。

 いいぞ、もっとやれ。と心の中でほくそ笑んでいたらキャーキャー言いながら飛びついて来た子供達。


「おお、良く来てくれたな、お前たち。元気にしているか? 辛い事はないか?」


 飛びついて来た奴らを抱えつつも、しゃがんで目線を合わせて聞いてみたが、毎日が楽しくてしょうがないと思っている子達が大半だそうだ。

 特に給料が貰える事が嬉しいらしい。

 今までは手伝いしても硬貨ではなく、食べ物を貰っていたそうだ。

 なんか安心した。リードの方へ行った子達ももうすっかり順応している様だ。


「まあ、お前たちは俺の息子……というか弟の様なもんだ。

 何か本当に困った事があったら言いに来るんだぞ?」


 余り実感が出来ないんだけど、息子……というか子供が出来るんだよな。

 だ、大丈夫かな? いや、大丈夫だろ? 嫁さんは一杯居るし。うん、数は力だ。

 近くにいる子供達の頭を一つ撫でて、飯を好きなだけ食べて来いと彼らを送り出した。


「お、おーい。本当におらもここにいてええんか?」


 少し遠慮気味に声を掛けて来たのは子供達に畑の事をレクチャーしてくれたロドさんだ。


「勿論ですよ。食べ放題飲み放題なんだから我を忘れない程度に楽しんでいってよ」

「んだどもよぉ……何処さ行けば酒くれるんだぁ?」


 あ、場所がわからなかったのね。

 彼に酒を出してくれる区画の場所と、その辺を歩いている王国メイドに声を掛けるだけでも持ってきてくれる事を教えてあげた。


「まじかぁ? 手本たのむわ。

 メイドを呼ぶなんておらにはハードルがたけぇんだわ」


 まあ、まわり貴族ばかりだしね。俺でもこわいし気持ちは分かる。

 なのでメイドさんを手を振って呼び寄せ、酒の注文を入れた。

 彼が満足するまで出し続けてやってくれと。


 そして、メイドが持ってきたお酒に口をつけるとロドさんは「こりゃうめぇ」と連呼してお酒に夢中になったので「じゃあ楽しんでください」とその場を離れた。

 その際、ラーサまでもが酒の方へと行ってしまった。

 いや、いいんだけどね……

 知らない人への挨拶まわりするより酒を呑んで居たかったのだろう。

 

「お、挨拶まわりしてんすか?」そう言って軽い感じに話し掛けて来たのはお調子者のハルだ。


「おう。そういえば最近お前ら何してんの?

 国で聞いてもこれと言って何も依頼してないらしいけど……」


 そう、浮いた話どころか話題にも出ないのだ。もっと酷使されるものだと思っていたのに。


「そりゃ、魔物たおしまくってるっすよ?

『千の宴』の面々と一緒に秘密の特訓中っす。

 今度があれば自力でどうにかしたいっすからね」


 へぇ、いい心がけじゃん。

 まあ、何かあっても無理するくらいなら呼んでくれていいんだけど。

 そんな事を話しながら歩いていれば、帝国の面々が居るブースへと到着した。


「おっと主賓のご登場の様だね。ケンヤ殿、先ほども言ったがおめでとう。

 君たちが末永く幸せで居られることを願っているよ」


 と、ハルードラ将軍がイケメン風を吹かせながら言った。


「な、なんすかこのイケメン……」

「いやいや、お前会ったことあるだろ? 帝国の将軍だよ?」

「――っ!? ばっ、それを早く言うっす!」


 え? お前、アダマンタインの時将軍の所に行って俺を呼び出したんじゃねぇの?


「いや、正確にはうちの使用人にだね。

 ただ、ドラゴンに乗っている姿は遠くから拝見させて貰ったから顔は知っていたけどね。改めて宜しくお願いするよ。王国の勇者様」

「と、トンでもないっすぅ!

 この前は失礼をして申し訳ないっす。緊急事態で……」


 将軍がハルとの友好を育もうとしているのでさり気なくフェードアウトして他に目を向けた。

 そして一目散にディアの父親へと挨拶に向った。


「本日は遠い所ご足労頂きありがとうございます」

「ああ、俺から言う事は一つだけだ。ディアを頼む。あの誓い忘れるなよ?」


 結婚式の開幕で言ったあの言葉は俺自身がしたいことでもある。自信を持って深く頷く。


「まっ、それはそれとしてよ。今度魔物の討伐ツアーでもいかねぇか?」


 なにそのハイキングみたいなノリ。

 いや、いいんですけどね?


「へぇ、面白そうじゃん。僕も混ぜてよ。

『十王の森』であんな事があった所為で二人だけだとシュウが嫌がるんだよね」

「いや、別にそういうんじゃねぇけどよぉ」

「ライちゃん、こんな意気地なしはやめよう。考えなおすんだ」

「ちょ、おじさん、俺は意気地なしじゃないよ?」


 レラの親父さんがなにやらヒートアップしてきたので、今度ディアも混ぜて皆で話しましょうと告げて離脱する。

 そして今度は義理の弟や姉たちの所へ移動した。


「あ、兄上!」

「やっと来たのね」

「いやぁ、ケンヤもとうとう結婚かぁ……」

「まあ、俺はこいつの結婚は早いだろうなと思って居たけどな。エミリー先生からユミルさんたちまで手を付けるのが一瞬だったしな」


 リーンベルト、ティファ、ガイール、それと何故かファルケルが同席していた。


「まぁな。ってユミルは帝国に来る前から付き合ってた彼女だっての」

「まぁ、そうでしたの。それにしてもガイールの意気地なしが直らないのですが、どうにかなりませんか?」


 はぁ? そんな事を俺に言われても……といいながらもガイールを横目でみた。

 こいつ、本当にへたれだからなぁ。

 この前可哀そうな事になってたし、ちょっとくらい手伝ってやるか。


「がっついてきて貪ってくる様な獣がいいのなら相手変えた方がいいかもな」


 男はガイールだけじゃないし。と呟いた。


「ば、馬鹿野朗! なんて事言うんだ!

 ティファさんに捨てられたら俺は生きていられないんだぞ!?

 俺を殺す気か!? 殺す気なのか!?」


 必死なガイールが涙目で胸倉を掴み上げてきたが余りに自業自得なのでちょっと同情は出来ない。

 だって、誘ってきた自分の彼女に恥をかかせて土下座して終わりじゃな。

 せめて、気が付いたんならキスくらいしてやれよ……

 お前はあの時、自分が恥ずかしいから怖いからで、その代償をティファに押し付けたんだぞ。

 それでいて尚、男を見せないのならそう言われても仕方ないだろ?

 と、ティファに聴こえない様にガイールを煽った。


 思いの他俺の言葉が効いてしまった様で「俺は……そんなつもりじゃ……」とガイールは後ずさる。

 大丈夫だ。まだぎりっぎり間に合うぞ? 


 お前に一つアドバイスを送ろう。


 付き合っているのであれば、確認を取る必要はない。

 強引に、だけど優しくだ。

 相手がいやだったかどうかは後から聞いて改めればいい事だ。


「ま、マジかよ……そういうもんなのか……?」


 いや、言わんけど本当は違うよ。

 本当は遠まわしに意思疎通をするもんだよ。

 けどそれはもうティファがしてるからね? お前の場合は大丈夫。

 てか、ティファ相手ならその方が上手く回るだろうし、こいつは一筋だからそう思っていてもなんも問題ないだろう。


「皆さんは凄いですね。

 なんだかんだ言っても、自分の力で伴侶を作っているのですから」

「ほう。よし、じゃあ行くぞリーンベルト。ついでにファルケルも付いて来い」

「え? いや、そういう意味で言った訳では……兄上?」

「ついでってお前なぁ……」

 

 と、なんだかんだ言いながらも素直に付いてくる二人。

 そそくさと移動して王国のエドウィナたちが座っているテーブルに勝手にお邪魔した。


「あら、この度は招待して頂きありがとうございます。

 おめでたい事で何よりですわ」

「「おめでとうございます」」


 エレオノーラやアナスタシアちゃんからも言葉を貰い、こちらこそ着てくれてありがとうと返した。

 視線が連れの方に向き「そちらの方は……」と尋ねつつも「あっ……!?」と自力で気が付いた様子なエドウィナ。


「私は帝国の皇子……いえ、今はもう皇帝でしたね。宜しくお願いします」

「は、はひっ」

「こ、皇帝陛下……」


 恐縮する三人。エドウィナは緊張して声も出ない様子。顔も真っ赤だ。

 自己紹介も厳しそうなので変わりに俺がさくさくと全員分終わらせた。


「お、お前……

 何で俺だけ空気が読めない男とか、訳のわからない評価を付け足すんだよ!」

「いやいや、正当なものだよ? そんな事より空気読んで楽しい会話しようぜ?

 ほら、三人も今から面白いショーが始まるからさ」


 よし!

 これで反論すれば自ら空気読めない男だと認めているみたいだから出来ないだろ。


「兄上、ショーってまさか……」

「ああ。察しがいいな。さっきガイールを煽りに煽ってきたんだよ。

 ここからなら良く見えるし丁度良いだろ?」


 アナスタシアちゃんが天使な顔で小首を傾げたので概要を簡潔に説明する。


「あー、つまりだな。帝国の姫と将軍の息子が恋に落ちたんだがな。

 将軍の息子がへたれ過ぎて何もしてくれないんだと」


 そいつに今、男を見せないとそろそろ捨てられるぞと煽ってから離脱して来た所だと皆に伝えた。


「お、お前は本当に……鬼か?」

「いやいやいやいや、ティファも多分そろそろ限界きてるからあんな事言ってたんだろ? 応援して見守るのが仲間じゃん?」


 ファルケルは「確かにそうだが……」と言いながらも納得が言っていない様子だが、他の面々は違った。


「お姫様の恋物語……素敵です」

「へぇ、結構カッコいいじゃん。流石お姫様のお相手ね」

「そうでしょうか? 私はもっと線の細い方が……」


 早くも女の子三人は食いついた模様。


「なるほど。二人を応援する為にファルケルさんも誘っての席移動だったのですね。

 流石兄上です。後はガイールが男を見せるだけという事ですね」

「ああ、そうだ」


 こうして俺たちはティファとガイールを観察しながらの同席をする事となった。

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