第105話魔戦武闘会⑥

 大会当日、俺たちは兵士達と合流し彼らにもお小遣いを与え、皆で大会を楽しもうと盛り上がりつつ会場を目指した。

 現地人である彼らにお勧めのお菓子屋さんを教えてもらったり、始まる前からなんだかんだでテンションがハイになりつつあった。


 魔戦武闘会の会場となる巨大な建物がある場所にたどり着いた。

 それはもう東京ドームとかそういったレベルの建物だ。

 こっちの世界にもこれほどの建物があるんだなと感心した。


 入場口の受付で料金を支払いつつ、大会に参加する為の登録をした。

 実は当日じゃ無理ってのを期待していたのだが、問題無く参加できるそうだ。


 参加資格はA+級以上。

 そこはアリアちゃんたちに聞いて居た。

 なので参加者の俺たちは登録や更新をして全員A+にしてある。

 どうやらA級以下の人は死亡率が高くなってしまう為に参加を断っているらしい。


 とはいえ、だから死亡者が出ないという訳でもない。

 当然故意に殺すのは禁止されているが、魔法戦となると手加減できるものでもないので、参加者は死んでも文句言わないと証文に名を書かされる。


 魔法戦と言っても物理攻撃もありだ。

 要するに何でもありのガチ戦闘という事になる。

 そんな殺される事前提の試合と聞いて不安に駆られてくる。

 どんな風に試合するのかを色々尋ねた。


 中はギルドの訓練場と同じように、回りに観客席、中央の四角いリングがあるというオーソドックスな決闘場だという。


 観客席と試合のリングの間には魔法を通さない結界が張られていて、外からの手出しは出来なくなるそうだ。

 人は通れるから中に入れば魔法は使えるが、妨害に入ると金貨百枚の罰金が科せられ、試合の方も仕切りなおしになるのだとか。


 ふむ。試合を止めたい場合、金貨百枚払えば殺される前に止めに入る事も可能という事か。 

 てかその前に俺より強い奴が居たら止められなくね?

 やべぇ。色々不安になってきた……


「あー、俺不利だなぁ。殺しとかやれない俺不利だなぁ」

「ケンケン……今からいい訳作るのはみっともないから止めて下さい」

「でも、本当にそうですよ。

 僕らは軽く当てる所から始めないといけない訳ですから」


 おお! 心の友よ!

 やっぱり同じ立場っていいよね。

 アキホは一つも気にしないだろうからわかってくれないし。


「じゃあ、僕らはこっちですね。申し訳ありませんがコンノさん、皆を頼みます」

「ええ。

 こちらも申し訳ないのですが、シャーロットさんも娶る話し、お願いします」

「いや、それは出来ないと……」

「こらっ! 止めろって言っただろ」


 頬を引き攣らせ笑うアリアちゃんとシャーロットちゃん。

 ホントごめんね。うちの馬鹿嫁が……


「そ、その前に別に私とダイチさんはそういう関係という訳でも無いですし……」

「え? ヒューイット少佐も乗り気だったじゃない」

「ちょ、ちょっとぉ!」


 それ言わないでよぉ、とまたもやラブ臭を発しつつも皆と別れて控え室の方に入った。


「凄いね。昨日の今日でもう脈有りじゃん」

「ははは、彼女の性格とか知ってるからですかね?

 とはいえいきなりお泊りでかなり緊張しましたけど……」

「え? まだやってないの!?」

「ランスさん……それを聞くのはマナー違反だろう」


 ラーサにそう窘められつつも、驚いて思わず口を付いた。

「あ、そうか。

 けど、この反応はまだやってないと見た」と。


「いや、僕達はまだ付き合って一ヶ月って所でレイドボスが出てきたんですよ。

 最初は学校通ってたりして出会っていませんでしたから」


 へぇ。って学校でいい人出来なかったのか?

 ああ。学校の奴等は魔法使えない人を見下す傾向にあったな。

 ダイチ君、魔力チート持ってるのに不憫すぎた。

 きっとかなり苛められたんだろうな……


「ええ、そうですよ! 最悪でしたよ! 言わないでください……」

「ああ、うん。ごめんね。けど、もう魔法使えるしさ」

「そうですね。ただ、もう向こうも覚えていないのでそこは残念極まり無いですよ」


 などと話していれば、選手達が集う控え室へとたどり着いた。

 そこで知った声が聞こえてくる。


「あーー!! やっと見つけた! んもう、何処に居たのよぅ!」


 そう声を掛けて来たのは爆発娘レラだった。

 その彼女が声を掛けた相手はディア。選手達の注目を浴びる。


「あんた、どうやって来たの。後衛一人で来るなんて危ないじゃない!」

「ふっふーん、私ほどの魔導師に掛かればこのくらい余裕だよ?」

「いや、ダメだろ。これからは俺が居るからさ。

 ああ、いきなり割って入って悪いな。

 俺はレラのパートナーになったシュウ・アキツキ。

 キミが親友のディアだろ? 色々聞いてる。宜しくな」


 ディアが驚いて彼に視線を向けると、日本名を名乗った彼は少し苦い顔をして頭を搔きつつも自己紹介をした。 

 恐らく、前回レラと良い仲だったのだろう。ならばディアの事も知っていて当然。

 ……まさか、ディアとも恋仲だったとかじゃないよな?

 いや、まだ分からないのだ。友好的に挨拶くらいはしておこう。


「あー、レラのパートナーとなったのか。なら俺も挨拶しておかないとな」


 と、前置きをして彼と向き合った。

 彼は警戒心をむき出しにしてこちらを睨む。


「えっと、レラとは友達だからな。

 ディアと付き合っている。というか結婚する予定だ」


 そう伝えれば「あ、そうなんだ」と警戒心を解いてくれた。

 良かった。ディアとはただの友達だったっぽい。


「あはは、被らなくて良かったですね。僕はダイチ・イガラシ。宜しくね」

「はっ!? まさか……」

「おう。俺はケンヤ・カミノだ」

「マジかよ! これどういう事? なんでこんなに召還されてんの?」


 一頻り混乱する彼に当たり障り無い情報を与える。

 当然すべて真実だ。ただ、こちらの戦力や付与チートなどの情報はまだ伏せた。

 悪い奴じゃなさそうだが、ある程度人となりを見極めてからにしたい所。

 ダイチ君と色々話して伝える人は選ぼうという話しになっているのだ。

 彼の話を聞いて色々納得した。話せる相手でも、内緒ごとが出来ない人も居るし、最初から言うべきじゃないと言われたのだ。

 それでもシュウ君は疑問が解消されてすっきりした様子。


「そうか、そうだったのか。

 レイドボスを誰かが倒したから必要がなくなってチートが無くなった訳ね。

 流石神様、超ありがてぇ。折角異世界に来てあれで終りじゃ悲しすぎだし」

「ですよねぇ。取り合えずケンヤさんとは協力関係という間柄に落ち着いたんですよ」


 ダイチ君が話をしてくれる様なので、俺は聞きに回りうんうんと頷く。


「そっか。ディアの彼氏なら俺も無関係じゃないし、宜しく頼むよ」

「ああ、こちらこそ。と言っても世界規模の脅威は一先ず排除されたらしいし、敵対しないって事くらいだけどな」

「そっかそっか。了解」


 お互い、緊張感が抜けて落ち着いてきた頃、あの男が近づいてきた。


「ほう、逃げずに来たようだな。お前ら全員ぶっ殺してやるから覚悟しておけ」

「……誰こいつ。こいつも召還されたやつ?」


 あー、言っちゃったか。まあ、その程度別にいいけど。


「うん。多分ヒャッハーし過ぎて自分が最強で何しても良いって勘違いしちゃってる感じの奴だから、注意してね」


 そう告げると、シュウ君はレラをチラリと見て彼女の近くに寄った。


「あー、そういうのか。けど、殺すとかガチ?

 俺、殺しに掛かって来るやつには容赦しないよ?」

「え? 魔導協会の訓練場の時めっちゃ手加減してたよね?」

「え? 見てたん? うっわぁ……やめてよ恥ずかしい」


 うん。めっちゃ見てたよ。あんな面白そうなの普通見るじゃん。


「僕らそこで知り合ったんですよ。二人で観戦して中々良い手加減だなぁってね」

「うん。あの無駄なポージングも良かった」

「ちょ、お前らぁぁ! 無駄言うなよ! 通り抜けて拳振りぬいたポーズで敵がバタバタァって倒れるのはロマンだろ?」

「む、一理ある」

「わかりますが、古くないですか?」


 和気藹々と雑談していると未だ立ち去って居なかった彼が激怒していた。

 何でまだ居るの? さっきの発言捨て台詞全開だったよね?


「てめぇら……今のうちだけだぞ。この偽善者共が!

 ほう。それがてめぇらの女か? 馬鹿だな弱点晒してこんな所に来るなんてよ」

「……かまってちゃん?」

「どうやらそうっぽいですね。けど、邪魔ですよ?」

「レラに手出す気なんだな。お前には手加減無しだ。逆に覚えとけよ?」


 ギリッと悔しそうに歯を食いしばる彼。

 どうして三対一の状況で強気なのだろうか……


「一つ聞いておきたいんだけど、同じ召還者なんだよ?

 三対一で勝てると思ってるの?」

「この前のあれが本気だとでも思ってるのか?

 いや、まあいい。

 どれがランスロットだか知らないが、全員殺せば良いだけの話だ。

 だが、ランスロットなんて偽名使いやがって。恥かしいやつめ」


 ぐはっ……!?


 彼は、クリティカルヒットを残してその場を去っていった。

 ダイチ君があちゃぁと言わんばかりにこちらを見ている。

 追い討ち、止めて下さい。


「ま、まあ、偽名で使っただけですし?」


 やめてぇ! 下手なフォローしないでぇ!


「ん? ダメなの? 俺もホークって偽名使ってたりとかしてたよ?」

「――っ!? 友よ!!」


 よかったぁ。仲間が居た。


「ねぇ、折角空気読んで黙っててあげたのに、いつまで僕を放っておくつもりさ!」

「はいはい。悪かった悪かった」

「シュウじゃないよ! ケンヤに言ってるの!

 僕だけのけ者にして置いて行っちゃってさ!

 こんな面白そうな事自分達だけでやってるなんてずるいよ!」


 レラのその発言にシュウ君が「はぁ?」とこっちを睨みつけた。

 え? どういう事? 俺悪いの?


「えーと……お前嫁じゃないじゃん?

 国を出るなら友達は普通置いていくだろ? 挨拶もしなかったのは悪かったけど。

 でも良いパートナー出来たみたいだし、そっちと遊んでるんだから良いじゃん」


 うん。そう。そんな感じの関係なので、嫉妬止めて?


「ちょっと待ってよ。僕の前衛を任せては居るけど、シュウとは付き合ってないよ」


 おい馬鹿止めろ! こっちに火種くんだろ!

 というか居た堪れないから止めて!


「えっと。ダイチ君、助けて?」

「いや、誰がどんな関係かすら知りませんし……」

「あそっか。えっと、だな……」


 と、皆に向けて関係を説明した。

 今までの事を語り、師弟関係の様なもので特に異性の仲にはなっていないという事を。

 それにレラも納得した事で彼の怒りは静まった。

 この面倒な状況止めて欲しい。レラたちも前のこと思い出してくれれば楽なのに。

 いや、俺の嫁が昔の男の事思い出しても嫌だし、このままのがいいのか。

 どっちにしても面倒だけど。


「そういう事なら、俺も含めて輪に混ぜてくれよ。

 それならレラも納得するだろうし」

「ああ、それは全然構わないよ」


 と、話が落ち着いたのは良かったのだが「全く、二人とも僕を取り合って、仕方が無いね」とレラがいつも通り空気を読まない発言をする。


 うぜぇ。


 これから先の事がちょっと不安なので、シュウ君にちゃんと説明した。彼女とは友人として関係が落ち着いているので間違っても手を出すような事はないからと。


「あ、そろそろ開会式が始まるみたいですよ」


 進行係の人から、集まってくださいと声がかかり、俺たちは試合するリングの周りへと集められた。

 リングの上には三賢人の一人であるお爺ちゃんが拡声魔道具を持って立っていた。 


『今年は色々とあったが、皆の協力によって今も国は支えられ、こうしてこの日を向える事が出来て嬉しく思う。

 ここは強さを示す場ではあるが、人の心を忘れる事が無いよう出場者には切に願いたい。

 まあ、長話もなんじゃ。始めるとしようか。

 では、只今を持って魔戦武闘会を開催とする』


 お爺ちゃんの手馴れた開催の声が響き終わると、観衆からの歓喜の声が沸いた。

 控え室の時から思っていたが、参加人数が少ないな。

 二十人も居ない。えっと……二十名か。

 まあ、Sランク以上しか出れない大会だし、全員が出るわけじゃないと考えればこんなもんか?

 イレギュラーな俺たちを抜かせば十三名だ。

 一都市と考えれば、帝国や王国と比べれば逆にかなり多いのか。

 いや、帝国は知らんけど、王国なんてSランク全員集めても五人程度しか居なかったらしいしな。


 開会式が終わり、控え室に戻っていいらしいが、ほぼ全員が観戦席の方へと歩いていく。

 それに習い、俺たちも皆の所へと戻った。

 観客席を見渡せば、会場の一角を占領するかの様に嫁や使用人、兵士の皆が場所を陣取っていた。


「あー、こっちこっち」


 と、ユーカの元気な声で向え入れられ、レラが皆を驚かせるように挨拶したり、シュウ君の事を紹介したりして同じく席に付いた。

 すると、リングの上にあのバードン対シュウ君の模擬戦を実況した騒がしい男が立った。


『さぁて、今年も始まったぜぇ! お前らぁ、見る準備は出来てるかぁ?』

「「「おおおおぉ!!」」」

『んじゃ、早速一回戦いくぜぇ! 今年は人数が倍近いし、さくさく行くぜ。

 どれどれ、おっ、早速SS級が出てきたぞ。

 魔導協会の昇級記録を大幅に更新した男、ハルト・カトー!

 対するは……おーっとこちらも大物だ。

 同じくSS級氷の魔女フォーリン様の光臨だぁぁ!!』


 そんな姦しい声に更にヒートアップする観衆。

 俺たちは日本人ぽい名前に反応してリングに上がる男に目を向けた。


 それは、思っていた通りヒャッハー君だった。

 名前がわかればと進行係から受け取ったトーナメント表を広げた。


「あ、やった! よかったぁぁ……」


 同じく表を見ていたダイチ君が脱力した。アリアちゃんとは当たらない場所に居たからだ。

 だが、俺は愕然としてしまった。

 次でユミルと当たってしまうのだ。

 一回戦の表だけだが、この並びのままだと次の戦いで当たってしまう。


「ユミル、棄権しよ? 危ないよ」

「嫌です。あれを倒せば隣に立てるんでしょう?」

「いやいや、隣に立っていいから、あれはダメだって!」

「それでは居るだけで何もするなって意味じゃないですか……

 私は出ます。そして勝って見せます」


 うぅ……せめて此処から魔法が通れば最悪な事になる前に守ってやれるんだけど。


「ランスさん、流石にここは止めないでやってくれよ。

 私らだって本気で鍛えてきたんだ」

「わかってるよぉ。でも怖いんだよ……」


 口を尖らせてラーサの太ももに頭を置いた。

 だが、慣れた風にポイっと放り投げられた。


「カミノさん、大丈夫。魔法を使って良いんだからね。

 この魔力があれば、『シールド』張り続ければ死ぬことは無いよ」

「そ、そっか。そうだよな。ユミルは回復も出来るし」

「回復も出来るんですか。僕らより強いとか、流石に理不尽ですよね」

「え? マジで? そんなに強いの?」


 それでも不安だが、少し気持ちを持ち直せた。

 けど、目の前で命がけの戦いされるとか怖すぎるって……

 なるほど。嫁達はこんな不安を抱えて居たのか。そりゃ暴走もするわな。


「あ、決着付いた。けど、倒し方酷い」


 ミィが小さく呟いた。

 そう言えばユミルの事が気になって見てなかった。

 うっわぁ、対戦者めっちゃ大やけどじゃん。……何があったの?


「いえ、詠唱に入る瞬間にファイアーボルト連発して『マジックシールド』突破したら攻撃を止めてたんです。

 煽りに煽って魔法を唱えるたびにそれですよ。

 最後に頭踏みつけて何か言ってましたね。流石に聞き取れませんでしたけど」

「……ユミル! やっぱり棄権しよ?」

「大丈夫です! 私も無詠唱使えるんですから」


 むう。


『なんという事だぁぁ! 期待の新人は期待を越えたかなりの実力者だったぁ!

 ああ、ご心配なく。フォーリン様はこちらで責任を持って回復させます。

 さて、お次のカードは……おっと、知らない名前だぞ。

 なんと魔導協会登録が前日の超新生、A+の女性だ。その名はユミル!

 対するは……こちらは俺も知っているぞぉ。

 最近やっと昇級できたA+の女性。ベッキー・ランゼスだ。

 これは安心して見て居られる戦いになってくれるだろうか!?』


 ああ、良かった。とりあえずは安全そうな相手だ。


「では、行ってきますね」

「お姉ちゃん、がんばれぇ!」


 ユーカを筆頭に皆の言葉を受けて颯爽とユミルはリングに上がった。

 対する女性もリングに上がる。

 彼女は帯剣すらしていない。生粋の魔導師なのだろう。

 相手の女性が割と歳がいっているからか、ユミルの方に注目が集まっていて『ユミルちゃーんがんばれぇ』なんて知らない人からの声援を貰っていた。

 流石大天使ユミルン。知らない人すら挽きつけるらしい。

 声を大にして彼らに言いたい。俺の嫁! 俺の嫁! と。


 そんな中、試合は始まった。

 筈なのだが、声援が止まった。

 開始直後、ユミルは剣の柄で『シールド』を割り、パリーンと大きな音を響かせて彼女の首に剣を突きつけていた。

 確かに彼女はお遊びをするタイプではないが、一瞬過ぎて観衆も反応しきれない。

 と思いきや、暫くの間を置いたあと「おおおお!」と観衆の声が響いた。

 そんな声に一つお辞儀をするとユミルはリングを後にした。


「お姉ちゃん、流石に空気読もうよ。あれじゃ対戦者が可哀そうだよ」

「ユーカ、勝負の世界は非情なの。そういった油断が悲劇を呼ぶのよ」


 いや、うん。

 概ね間違っていないけど、これは試合ね?

 別に負けてもいいんだよ?


「おいダイチ、あれ、カッコよくね?」

「ええ。あれなら自然ですし、インパクトも強いです」


 と、二人にはユミルの決め方は好評だった模様。


『何という速攻! 司会進行としてはありがたいが、もうちょっと見せてくれてもいいかも知れない。

 さあそろそろ拮抗した勝負を見せて欲しい所だが……おやおや、またもや情報が無い二人だ。同じくA+の二人。

 シュウ・アカツキ! それに対するはランスロット!』


 ……うん。知ってたけど、とうとう来ちゃったか。


「えーと。宜しく?」

「まあ、試合だし気負わず行こうぜ」


 う、うん。けど、俺何故か負けちゃいけないみたいなんだよ。

 勝ち、譲ってくれない?

 それは出来ない? レラにいい所見せたい?

 ふむ。


「「「ならば仕方あるまい!」」」


 おおう……独り言すら言わせて貰えないのか……

 じゃあ、行ってくるよ。


 二人で移動してリングに上がり、大観衆の注目を浴びてちょっと気圧された。

 騒がしい男が騒がしく試合をスタートさせる。


「よっし! じゃあ、行くぜ!」

「お、おう。よっしゃこい!」


 出来るだけ開き直り、ディアたちと手合わせする時の感じで『瞬動』で動き捲くり、イケそうだと思った瞬間フェイントを入れる。


「おっ? っと、危ない。つーか、早いって。『瞬動』」


 良かった。異常な程強い訳じゃなさそうだ。

 そう言えば、前衛っぽいけど……俺、魔法使って良いのかな?

 空気読めない男になりそうだし、前衛として戦うか。


『うぉぉぉ! 速い! 速過ぎるぅ!

 そうだ。俺たちはこんな戦いを待っていたぁ』

「「「うぉぉぉぉ!!」」」


 おお。良かった。受けた受けた。

 んじゃ、ちょっと派手に『飛翔閃』の超連打でもするかと放って見た。

 ガガガガガガと断続的な音を立てて打ち落とす彼。


「こ、殺す気か!?」

「いやいや、『シールド』張ってるだろ?」

「え? 張ってないけど?」

「ちょ、お前マジか!? 支援持ってないの?」

「ねぇよ! あったらレイドボスだって倒してるっての!」


 いや、それはどうかなぁ……なんて思いつつも、そういう事ならと急所への攻撃は避けようと決めた。


「ちょっと待って。お前『シールド』張ってるの? ずるくね?」

「いやいや、正当な権利だろ?

 お前こそ『シールド』無しでどうして出てきたの? 危険だよ?」


 そんな言い合いをしつつも『飛翔閃』を撃ちまくって来る彼。

 それを避けて弾いてと距離を詰める。

 至近距離になり迂闊に剣を振れなくなってお互いに動きを止めた。


「なぁ、『パリィ』無しの剣術勝負しない?

 ほら、その方が見てる人も楽しいし?」


 そんな提案を彼から受けた。

 確かにそういったちゃんばらの方が俺も好きなので「いいよ」と乗ってみる事にした。

 だが、それは失敗だったかも知れない。

 結構強かった。

 多分、レベルじゃ大幅に負けてる。きっと彼はカンストは到達しただろうという所までキッチリ上げたようだ。きっと余裕をもってやったのだろう。

 付与チート無しでこの動きだから間違いないだろう。

 それに戦い慣れしてるから、かなりギリギリの所での打ち合いとなった。


「やっべぇ。どんだけガチで鍛え上げてんだよ。

 これに付いて来るんじゃ俺魔法無いし、超負けてね?」

「こっちだってギリギリだっての!」


 この速度になってくると、もう反射速度がものを言う世界だ。

 ゲームで言えばFPSの感覚に近い。そんな戦いなのにお互いに自然と笑っていた。

 そう。面白いのだ。反応出来る事に感動し、相手がそれを対応するのにも驚愕する。


 避けて弾いて切って避けられて、それが暫く続くと、漸く決着の時が来た。


「やっべ、ミスったぁぁ!」

「ふはは、勝ったぁぁ!」


 肩にトンと剣を当てて止めた。

 そう、この戦いに勝利したのは俺だ。

 最後の攻撃、剣で受けてはいたのだが受けた場所が剣先過ぎた。

 なので力で押し切ればすっぽ抜けてそのまま肩まで通った。


 だが、決着が付いたというのに、司会の勝敗を告げる声が響かない。

 二人して彼に視線を向けてみれば、司会の男は固まっていた。


「おーい。決着付いたけど……」


『え? あ、はい。そ、そうだった。

 おーっと何という戦いだ。これは決勝戦じゃなかったはずだがぁ!?

 思わず俺も見入ってしまったぜぇ!

 勝者、ランスロット!

 だが、これは対戦相手の名前も覚えておくべきだろう。

 シュウ・アカツキ! この二人は歴史に名を残すんじゃないだろうか!?』


 おお。流石プロ。立ち直ればすぐ姦しい男に戻った。

 兎に角、これでリングを降りれると二人して観客席へと戻る。


「凄いよシュウ! こんなに強いなんて知らなかったよ!」

「あー、うん。でも勝ちたかったなぁ……」

「いや、あれがおかしいんだよ。あんな理不尽とやりあえるなんて凄いよ!」


 いやいや、お前な……

 って、何でユミルたちはそんなにへこんでるの?


「ケンケンの本気が此処までとは思ってなかったみたいです。

 私も驚きましたよ。惚れ直しました」

「え? うん、ありがとう。でも何でへこんでるの?」

「一緒に戦うにはまだ足りない事を強く実感したんでしょうね。

 私は土俵が違うので平気ですけど」

「『パリィ』無しならいい所までいけると思ってたのにぃ……

 カミノさん、何処まで凄いのよ!」


 あー、そういう事。

 でも、ディアは『心眼』あるし、もうちょっとじゃない?


「カミノさん『心眼』使ってなかったじゃない……」

「あー、存在忘れてた……まあ、勝ったし、セーフセーフ!」


 シュウ君に聞こえないように小さく呟き話を流すと「ふははは、ランスさまは最強なのだぁぁ!」とアンジェの元気な声が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る