第98話くそう……お前関係ないじゃん。嫌ですってなんだよ……

 思わず見上げて声がでた。


「やべ、強そう……」


 二十メートルほどだろうか。皇都に出たグランドクラーケンよりも小さいが、黒ずんだ銀色の人型ボディーに醜さを押し出しながらも、引き締まった体。

 これは厄介そうだと自然と感じさせられた。


「ケンケン、撤退。取り合えず釣って、手の内見ながらやろ。初見はムリポ」


 アキホ言葉に深く納得する。レイドボスはひたすらにHPが多い。

 全力攻撃で即殺なんて訳にはいかない。まずはどんな攻撃手段を持っているか知る所からだ。


「ああ、だな。このまま北に行くぞ。

 んじゃ今から『隠密』で隠れながら進んでくれ」


 山を登る形になるが、南には魔人国がある。

 レイドボス戦をやるなら明らかに誰も居ない北がベストだと移動を始める。

 取り合えず、ある程度離れて威圧か魔法でタゲ取りをと思っていたら、悪魔が徐に口を開いた。


 その直後、頭上を飛び越して光の線が山を切りつけた。

 半端に切り取られ、土砂崩れが起きて岩が転がってくる。


「うぉぉぃ! 相変わらず規模がでけぇな!」


 こちらの進行を阻む様に打ち込まれたので被害はない。

 だが、威力を見るにこれは喰らってはいけないやつだ。

 悠長に引っ張っている場合ではない。

 そう思って『心眼』を起動して北東に方向を変えてなるべく平地へと誘うが、悪魔は徐に足を止めた。


「クカッ! これは現実か? クカカカ。これで、これでやっと世界を壊せる!

 クカカカカカカカ」

「「きもっ……」」


 あ、こらっ、アキホ! 『音消し』忘れてる。『隠密』解けたぞ!?


「あっ、忘れてた! つい、きもくて……

 でも、もう良くないですか。ここでやるんですよね?」

「あっ、うん。でも出来るだけ視界に入らない場所から頼む。

 自我が残ってるって事はあいつ超馬鹿だからさ」

「なるほど……最後に良い仕事したのかもしれませんね。

 難易度を下げて、それでもケンケンが心配してくれるシュチュ作ったのですから」


 いや、やるの今からだからな?

 気持ちはわかるが、安心しきるの止めて?


「コロスコロスコロス……全てコロス」


 あっ、なんか大技するっぽいな。


 悪魔は腰を落とし、両腕を広げると、掌から黒い光を発する玉を二つ作り出した。

 その黒い玉は光を侵食するように広がっていく。

 そして、悪魔の全身を包んだとき、悪魔は膝を突いた。


「「……はっ?」」


 俺とアキホはまたも思考停止させられた。

 悪魔はジタバタともがき、黒い光を霧散させると立ち上がる。


「こ、こいつ、自爆しましたよ!? あんなポージングして!!」

「だ、だよなぁ? でも、いくら馬鹿でもそこまでか!?」

「だ、だまれぇぇぇぇぇ!!」


 再び白い光の線が地を切り付ける。

 その光が通った場所は先が闇となるほどに深く抉られている。

 だが、怒りに任せて無造作に出された攻撃は避けなくとも当たらないレベルの精度だった。


「うっわぁぁ、恥ずかしいぃぃ。

 さっきと同じ攻撃しちゃったよ。しかも当たらないときた! ダッサ!」

「きっと出来ないんですよね。何て馬鹿で雑魚なんでしょう!

 そりゃぁ、女だって見向きもしませんよねぇ!?」

「グギギギギ……コロス、コロスぅぅぅ!!

 影移動……っ!? か、影移動!!

 なっ、何故だぁ! 何故出ない! ふざけるなぁぁぁ!」

「あははは、馬鹿じゃーん。種族スキルが使えなくなるの当然じゃーん」


 大声で俺たちは魔力を使わないヘイト管理を試み続ける。

 もう、考える事を放棄するほどに怒り狂っているのか、カエルの様に飛びついて来た。


 な、何て無様な……

 けど、今のアキホを狙ってたな。


「おい、アキホ! ヘイト取り過ぎだ! そこまで本当の事言っちゃダメだろ?」

「まぁまぁ! そうでした! とは言え本当の事ですしぃぃ!?」


 もういいだろうと距離を取りつつも、挨拶代わりに限界まで重ねた『飛翔閃』を放ってみた。

 だが、ガキンと音がして攻撃自体が弾かれる。

 ……え?

 マジで?

 これはやばくない?


「『虚栄の歌』『アシッドアロー』『ホーリーベル』『ディバインジャッジ』

 ケンケン、これでもう一回」

「おう! 『飛翔閃』」


 胴体に目掛けて放ったが、掌で受け止められた。

 今度は一応切り傷を与えた。だが、これでは埒があかないほどに小ダメージだ。


「フハハ、ゴミが! ゴミがぁぁぁ!」


 おい、それじゃ知能がうちのアンジェより低いぞ……


「『叡智の歌』『腐敗の歌』『魔力増幅』『フレアバースト』」


 アキホの恐らく全力重ねであろう魔法攻撃が炸裂した。

 レイドボスだし弱点ではないのだろうが、火を選んだみたいだ。

 そのダメージはクロスさせた腕を無理やり開かせ、肉を削ぐほどの威力だった。

 そのまま後ろにひっくり返り、大きな音を響かせた。


「『魔力増幅』『フレアバースト』」

「うぎゃぁぁぁ、な、何をしたぁぁ!!」


 教えて欲しいの? 『フレアバースト』だよ?

 後ろに転がり距離を取るように起き上がったが、何故か問いかけるだけで何もしてこない。

 これ、アキホだけで終わるんじゃないか……?


「アキホさん、俺のアンデンティティーは?」

「どうやら、私の時代が来たようですね。

 ケンケンはずっと避けながら馬鹿にしててください」


 あ、はい……

 んじゃ、全力で煽ってみますか。


「この粗チン野朗! 下手糞過ぎてお前じゃ気持ちよくなれないってよ!」

「ふざけるなぁぁぁぁ!! そんな、そんな訳が……」

「『魔力増幅』『フレアバースト』」


 おお、俺の言葉で大ダメージ! やったね。

 って、アキホ、態々股間狙わんでも……


 見事に股間にクレーターが出来た。

 海老みたいに体を折り、吹き飛んで木を倒しながら転がった。

 コントかと言いたくなる程に滑稽だ。


「そう言えば、お前『余を選んでくれるか?』なんて言って盛大に振られたんだってな。気持ち悪いって皆言ってたぞ! 大笑いだったわ!」

「ウギ……ウギギギ……ウギャアアアア!」


 ただ貶める為だけに吐かれた口撃に元皇帝だった者は頭を抱え込みのた打ち回るが遠慮の無いアキホの魔法が突き刺さる。

「『魔力増幅』『フレアバースト』」と、打ち出す様は淡々としていて少し楽しそうな視線を向けている。


 あれ、本当にもう死ぬんじゃね? 

 撃たれるたびに体の一部を抉り取られてるし……

 弱すぎるんだけど……

 まあ、こいつの事だから戦闘なんてしないでレベリングしたんだろうな。

 それにしたって酷すぎるが……


「なぁ、言い返してみろよ」

「う、嘘を……」

「『魔力増幅』『フレアバースト』」


 あ、言わせないのね。

 蹲った奴に魔法を嬉々として撃ち続けるアキホさん。ぱねぇっす。


「次は聞いてやるから、ほれ、言ってみろ」

「ウギ……」

「『魔力増幅』『フレアバースト』」


 こいつ、メンタルやられると動けなくなるタイプか。

 ヴァンパイアの時も血管千切れそうなくらい浮き立たせて固まってたしな。

 もう『ウギギ』と言うだけで蹲っちゃったし……


「わかったよ。代わりに言ってやるよ。ウギギ」

「ぶはっ、ケンケン酷い。『魔力増幅』『フレアバースト』」


 何言ってんだ。俺は必死にタゲ取りをだな。

 待てよ……何もしてこないんだし俺も魔法撃つか。


「『フレアバースト』」と、最大まで重ねて撃ってみた。

 だが、焦げた程度で殆ど効いていない。そこまでの差が出るのか……


「ケンケン、わざとやってる? 『魔力増幅』『フレアバースト』」

「何がだよ……あっ、え? 『魔力増幅』重ねて使えるの!?

 ダメだった記憶が……」

「普通に効果でてるよね? 『フレアバースト』」


 アキホが増幅せずに撃った『フレアバースト』は明らかにダメージが減っていた。

 俺は、頭を抱え込んで蹲った。

 もうこういうしかない。


「ウギギ」

「ふ、ふふふふ……ケンケン、一応頭は上げよう? ふ、ふふ……」


 余りの恥ずかしさに、早く終わらせたくて『魔力増幅』と『フレアバースト』を連発した。一応俺の魔法でもしっかりとしたダメージは出る様子。

 アキホの半分くらいだが、それでもクールタイムがあるので打つ意味は大きい。

 抱え込んでいる頭を集中して狙い、漸く頭部を破壊できた。


「『クリエイトレザー』……頭部破壊されてまだ死んでないんかよ」

「取れる皮が無いんじゃないですか?

 金属っぽいし……『ソナー』うん。反応は消えてますね」


 そっか。倒したか。

 けど……前回あれほど苦戦したのに、嫁に馬鹿にされないかな。

 これじゃ、俺はただ話しかけただけじゃん。


 それもこれもこいつが雑魚過ぎた所為だよな。

 危ないよりはいいけど……

 そう思いつつも、俺は『魔力増幅』『フレアバースト』で攻撃を続けた。


「ケンケン? 何してるの? 得意の死体蹴り?」


 得意じゃねぇよ! それだけの恨みがあったんだよ!!

 そうじゃなくてだな……


「いや、前回は倒した後に光の玉が出てきたんだよ。

 それを死体から抜き取ったら女神出てきたっぽいし……

 女神出てきてもぶっちゃけ嫌なんだけど、復活されても嫌じゃん?」


 と、アキホに告げてみたら、彼女も協力してくれた。

 そして、丁度心臓部に同じような光の玉があった。

 同じく支柱を壊してから触れてみれば前回同様に体に吸い込まれていく。


「え? ケンケンそれ大丈夫なの?」

「多分……まあ、女神に聞いてみるべ。やばそうなら報酬で取り除いて貰おう」

「みるべって……何語?」

「うっさい!」


 てか、アキホの話し方戻ったな。

 もう一度やるか? あれを……『スリープ』からのお尻ペンペン地獄。

 ほれ、待っていたんだろう?

 帰ったらやってやるからなと、アキホに問いかけてみた。


「さて、ラース様戻りましょうか」


 おい! 無視すんなよ!

 え? 普通がいいです? 普通を知らなかっただけ?

 そ、そう。初めてだったんだもんな。

 ……ご、ごめんね?

 あれはあれでいい思い出?

 うむ。ならば仕方あるまい。




 そして、俺たちは我が家に帰って来た。少し、不完全燃焼のご帰還である。


 屋敷に入り「ただいまぁ」と声を上げた。

 だが、誰の返事もない。

 え? 何で誰も居ないの……?

 背筋が凍った。


「あの、寮に行けって言いましたよね?」

「……っ!? し、知ってたし!」


 何を言ってるんだ。冗談に決まっているじゃないか。

 ほら、早く連れて来るぞ!



 

 寮に到着してみれば「ご主人様ぁぁぁ!!」とユミルに飛びつかれて、後に続いた皆が飛び乗ってきた。

 だが、今回は浮気した訳でも無いし倒れてやる必要はない。

 全員気合で受け止めてやった。


 そして、屋敷に戻り、一息ついた。

 するとやはり黄金の光に包まれて女神が光臨した。


「神獣の討伐、ご苦労様でした。

 こちらも予想外の事態に困惑しておりますが、討伐した事に変わりはありませんので報酬を授けたいと思います」


 ああ、うん。そうだよね。


 俺は、女神の顔を見てイラっときながらも気持ちはわかるので頷いた。

 他の皆は前回同様平伏した。

 だが、アキホは我が物顔で堂々とソファーに腰掛けている。


「一つ聞きたいんだけど、討伐やらせといてなんでケンケンの力奪ったの?

 報酬の権利渡したって力をケンケンから奪う必要なくない?」

「……私、ハーレム野朗嫌いなんですよ」


 …………言葉が出なかった。

 皆も同様に絶句している。

 俺、何て返したらいいだろう……

 ちょっと前のつらい時ならキレただろうが、落ち着いた今、何て返していいかわからなかった。


「なるほど。嫌いだから干渉するほどには俗物なのですね」

「……人が考える神という存在がおかしいのです。何でも出来て何でもしてくれるのが当たり前、そんな解釈をされても応えられませんし、腹立たしく思いますね」


 言いたい事はわかった。けどさ……


「無理やり召還して、目的果たさせておいて、それはないだろって言いたい気持ちすらもわからない?」


 冷めた目で睨むように問いかけた。


「無理やりではありません。仮に死んでも行きたいと願う人物に限定しています。

 それと、貴方の心を汲んだつもりですが?

 例え自分がどうなっても、伴侶を生き残らせたいと。

 そこから繋がり、貴方の力を譲渡するかと問いかけたのです。

 ただ、そこからの事を考えればそう言いたい気持ちもわかります。

 あれは不本意でした。

 ですが、私にどうして欲しいのですか?

 謝罪としてハーレムに加われとでも言いますか?」


 この野朗! なんだその言い方はぁ!!

 だが、神か……おいしいのだろうか……


「おいしくはありません。そもそも食べ物ではありませんが……?」

「――っ!? な、何もしなくていいよ!

 ああ、そうだ。錬金術師のスキルの覚え方教えてくれる?」

「……構いませんが、私を求めないのですか?」

「何を言ってるのかな? 心読めるんだろ?」


 じっと見詰め合う。こうして見ると可愛い。


「可愛いと思っていますね……ですが深層心理は見えません」

「わかった。俺は愛し合っていない相手を求めるつもりはない」


 はっきりと告げたら少し呆れ顔で「なら一先ずは許してあげましょう」と言った。めっちゃ腹立つ……


「ここに居るもの全員に錬金術師のスキルを習得させるという事で宜しいですか? 

 スキル熟練度無しであれば、即座に習得させられますが」

「うん。報酬って言ってもあの雑魚だし、それでいいよ」


 正直変な事になっても嫌だし、穏便に便利なもの貰って終わらせたい。


「……わかりました。余った力で過去に召還した者達を復活させましょう」

「ちょ、待った待った! 何それ!?」

「顕現しているのにも結構な力を使うのですが……

 今まで召還した者達は死ぬ直前に回収して凍結してあります。

 呼び出してただ死なせるのは忍びないので、安全になってから異世界を楽しんでもらおうと配慮した結果です」


 何それ……絶対俺が面倒臭い事になるじゃん!

 絶対絡まれるよね!?

 嫌だよ! 絶対止めてね?


「そこは貴方の一存で決められる事ではありません」


 いやいや、俺の報酬の余った力使うんだろ!?

 一存で決めさせろよ!!


「嫌です」

「女神、嫌です言った……アキホ助けて」

「いやぁ、嫌われてますね。流石ハーレム王。

 私としても是非とも止めて欲しい所ですが、それって今すぐ生き返らせないと拙いのですか?」


 おお! アキホが会話を変わってくれた。ありがたい。

 絶対俺が話してたらおかしな事になるし。

 黙って耳を傾けてみよう。


「ええ。初期の頃に凍結したものはそろそろ復活させてあげないと魂が痛みます。

 私としても、状況が許す限り蘇生を行いたいと思います」

「そうですか。それは昔の人なのですよね?」

「いいえ。

 この世界は形を変えては居ますが、ここ十数年を永らく繰り返してきました。

 お陰で私の力は常にないに等しい状態で、討伐された神獣の神力を吸収してその分で報酬を出している状況です」

「……なる……ほど。

 でも神様、ケンケンのこと嫌いなのはわかりましたけど、彼らはチート貰っているんですよね?

 死んでしまった彼らは力を持っていて、功績を挙げたケンケンが力を持っていないのは不公平が過ぎるのでは?」


 そうそう! ドンドン責めて!

 え? 黙ってて? はい。すみません。


「いいえ、必要がなくなっていますし、復活後に加護は与えません。

 もう神獣も復活を無理やりさせない限り、少なくも数十年は出ないはずですから」


 ちょっと、前回分からないって言った! 嘘、良くない!

 え? 正確な所は分からない? そ、そう……


「では、もう一度リセットして加護をつけますか?」

「あー、そうして貰えます?」

「はっ!? ちょ、おまっ!」

「わかりました。貴方の反論は受け付けません。錬金術師のスキルは覚え方の知識だけに変え、魔力ともう一つ与えましょう。では、報酬を実行します」


「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁ!!」


 心からの叫びも虚しく、黄金の光が俺とアキホに降り注いだ。

 そして光が収まった頃、女神が消えていて、隣には大仏君が居た。


「おい大仏! お前何やってんの?」

「はっ!? 体が重いっ!! 大仏?

 うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! おに、お肉がもどってきたぁぁぁ!!」


 ふざけやがって馬鹿野朗! 思い知ったか!


「リア……頼む、魔人国へ送ってくれ……魔石も買わないと……」

「何やってんですかあのクソ女神!! ぶっ殺してやる!」

「てめぇ! 人にはやっておいて何言ってんだごらぁぁ!」


 俺たちは醜いぶよぶよの体で争いを始めた。

 平伏していた嫁達がおずおずと頭を上げて混乱している。


「あ、アキホさん……なのですか?」

「いぃぃぃやぁぁぁぁ!

 見ないで下さい触れないで下さいこの場から消えてください!!」

「いやいや、消えてってお前が消えろよ」

「ちょっとケンケン!? 私はケンケンの為にですねぇ……」


 二人でもみ合いをしていれば、何故か俺だけ押さえつけられた。

 そして、一人一人口付けをされた。

 や、止めろよ! この気持ち悪い状態で触れ合うんじゃねぇよ!


「馬鹿ランスが前回変な勘違いしたから、これは証明」

「当然なのだ! ランスさまは英雄なのだ!」

「私は外見よりもそのお心が好きです。ご主人様……」


 ミラ、ルル、アンジェが傍に侍りそんな事を言う。


「あ、ありがとう……でも、無理するなよ、気持ち悪いだろ?」

「変な顔だけど可愛い……面白い? 良く分からないけど、気持ち変わらない」


 エミリー……無理するなよ。余計傷つくから……


「まあ、兎に角レベルあげましょ。私はどっちも欲しいもの」

「はぁ……ミレイあんたは本当に……」

「まぁまぁ、ランス様の素敵な所が僅かに減ったのは確かなのですし、それを取り戻すのはいい事ですわ。当然、私も外見くらいで気持ちは変わりませんけど。

 一生おしどり夫婦で居るつもりですもの」


 本当だったんだな……この外見でもいいのか?

 いや、良くねぇだろ。流石に戻るってわかってるからだろ……?

 それでも嬉しくて泣きそうだけど……


「ミィ、今日おにいちゃんと一緒に寝る。また、あれして欲しい」

「ず、ずるいのだ! こんな時じゃなきゃして貰えないのだ! 私もなのだ!」

「じゃあ……私も……」


 幼女勢が群がってきた。

 うん。もうロリコンでいいや。

 いや、最初からロリコンだし。

 精神的に拙く感じて我慢してただけだし。やりたいし。


「ケ、ケンケンも証明して……こんな私でもいい?」

「……やだよ。お前が勝手にレベルダウンさせたんじゃん。しかも俺だけにするつもりだっただろ。お前が言っていたアカハックレベルな事やったばかりだぞ?」


 当分は苛めてやる。

 絶対簡単には許さん。


「か、体だけだったのね……」

「いや、体の方がいらな……なんてな」


 おっと、これは流石に言ってはいけない一線だった。

 怒り心頭でつい……


「そこまで言って止めた方が辛いだろうがよぉぉ!!」


 お前が有り得ねぇ事するからだろ?


「それはそうと主様よ、送らなくて良いのか?」

「魔石なら、私たちが集めてきたのがありますよ。

 出来ればパーティーには混ぜて欲しいですけど……」


 おお、そうか! ユミルたちは行きたがって居たから魔石集めてたのか。

 もうレイドボスもでないみたいだし、ゆっくり全員で上げられる。


「よーし! じゃあ、全員で上げんぞ!

 ある程度上がったらカーチェとリアは俺と一緒に旅行しつつレベル上げだ」

「おお、それは良いのう。楽しみなのじゃ」

「当然だな。わたしらだけが裏切ってないしな」

「カーチェ黙って! 私達敵に回す気?」


 そんな光景を眺めて、前回との余りの違いに逆に笑えてきた。

 苦しんでいたのが馬鹿みたいだ。


 そ、そう言えば加護二つになったんだよな?

 もう一つって何?


 疑問に思った俺は、一つ一つ調べていくが、良く分からない。

 魔力がチートな所為で魔法に寄る診断方法が難しいのだ。

 取り合えず、レベル上げればわかるか。

 そう考えて、嫁達限定でリアに魔人国まで飛んでもらった。

 使用人ももう嫁みたいな存在になりつつあるが、重量の問題で今回はお留守番を頼んだ。


 帝国への報告はスルーした。

 気が向いたら伝えてやってもいいが、取り合えずレベル上げ優先だ。


 にしても、本当に心が軽いな。

 めそめそ泣いてるアキホがちょっと可哀そうになってきた。

 こいつはレベルなんてすぐ上がるから、チートを取り戻させたいって思って居たんだもんな。

 今回、こいつは損しかしてない。

 まあ、レベルダウンに関しては自業自得だが。勝手にやったのには腹立っているが。だが、想っている事の証明くらいはしてやるか。


 俺は深く深呼吸をして、恐怖に顔を引き攣らせながらも、干上がったトドの様に寝転ぶアキホにキスをした。


「う、嬉しくねぇよ! ふざけんなよ! 余計傷ついたわ!」


 ジタバタと暴れるアキホの頭をポフポフ叩き「これは勝手に決めた罰だ」と笑いながら言ってやった。

 そう伝えれば、心の折り合いがついたのか、ぐったりと横たわった。


「けど、凄いわね、この髪どうなってるの?」

「これだけ巻かれているのは見たことありません」

「触れんなって言ってんですよ! やめろぉぉぉ!」


 などと、皆でアキホを弄っていればすぐにキレ芸を発揮して元気になっていた。


「お前ら、覚えてろよ! 絶対に仕返ししてやるからな!

 ケンケンの食事全部に精力剤混ぜてやる!」

「「「「「止めて!!」」」」」


 俺は、アキホの頭を優しくなでて親指を立てた。

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