第89話消えた大仏君。誰だよお前。すげぇな異世界!

 次の日、また新たなダンジョンへと足を延ばしていた。

 ここは問題無く魔物が残っている。

 だが、ここはゲーム時にもあったちょっと特殊なダンジョン。別に魔物が居なくても良かった。

 先にあるもの考え、お互いに満足した笑みを浮かべてなれた様に倒していく。


 そんな時、コンノさんが気になる一言を口にした。


「食らえ! あっきー砲!」


 あっきー砲? なんかそれ聞いた事が……ああ!

 クランメンバーだったあっきー砲か?

 サブの名前コンの助だったし間違いねぇな……

 なんだー……こいつかよ。

 めっちゃ安心した。もう完全に信頼しちゃっていいや。


「なぁコンの助、それは『エクスプロージョン』だぞ?」

「いいんですよ。気分です気分!」


 うっは、こいつ気がつかねぇ! 取り合えず放置しよ。


「それより、ケンケンは決めポーズちゃんと考えてきました?」


 それは、俺のキャラ名だった。

 え? 気がついたの俺のほうが遅かったの?


「「……」」


「いつから気が付いてたんだよ!!」

「こっちのセリフだバカヤロー!!」


 してやられた。

 と思いつつもちゃんと聞いてみたら今呼ばれてもしかしたら、とあてずっぽうで言った様だ。名前と歴は知っていたからもしかしたらと言ってみたらしい。


「まあ、なんにしても、これでコンの助の事は前面的に信用出来る様になったし良かったよ」

「もう二回も一緒に寝たのに、信用されてなかったのね……」

「待って。最近それ厳しくなってきてるし、ネタにするの止めよう?」


 彼女は口をパカっと開けて驚いた顔を向けた。

 まずったか? 逆に意識しちゃう? それとも気持ち悪いとか?


「まさかのブス専? ちょっと前の方が良かった?」

「ふ・ざ・け・ん・な! 可愛くなってきたから困ってんだよ」

「ふむ。別に構わんよ私は。

 まあ、昨日までの私を知っていて手を出せるのであればな! ふはははは」


 うーむ。余裕で出せるのだが……

 俺もそうだが反則だろ……何この変わり具合。漫画やアニメばりの可愛さなんだけど。

 何この和風可愛い系お嬢……大仏どこいった?

 まあ、ここまで伝えたのだ。なんだかんだ言ってもちゃんとするだろ。


「そんな事より、そろそろ召還の間じゃないか?」

「そうですよね。そんな事ですよね。経験豊富なハーレムクソ野朗ですもんね。

 ってホントだ。祭壇ちゃんとあったじゃん。それ早く言えよ」


 くっ、こいつめ……仕返ししてやる。絶対にだ。覚えてろよ……

 まあ、今はいい。折角ここに来たのだ。これが使えるかが重要なんだ。


「一先ずは我慢してやる。取り合えずこれを試すぞ」

「え……おこ? ごめ」


 ちょっと……いきなりしおらしくなんじゃねぇよ。

 もういいや、取り合えず試そう。


 召還の間といわれる、魔法陣が地に描かれた広間にある。祭壇の様な場所に魔石を置いた。


 ここはゲームにもあったダンジョン。

 祭壇をクリックしてお金を入れれば魔物を呼べると言うものだ。


 金額によって超強敵も出せる。

 だが、この世界ではあのゲームのお金イコールこっちの金じゃない。

 だってそもそも魔物からドロップするものだもの。

 なら、魔石なんじゃないか? という話しになって見に来たのだが、祭壇の上はやはり魔石が入りそうな穴が一杯開いてあった。


「ねぇ、おこ? ごめん、どうしたらいい?」

「わかったよ。許すから。その可愛くなった顔で子犬みたいな顔しないで!」

「クゥーン。ペロペロする?」

「……っ!? おいっ、狙ってんじゃねぇよ!

 本物に謝れ! 思わず許しちゃった俺に謝れ!」


 と言っている間にも魔物が召還された。魔石を入れたのは二十個ほど開いている穴の中で下から五番目に小さい穴だ。出てきた魔物はブラックオーク。


 俺たちはまだレベルが低い。ソロであったならもっとしたから始めただろう。

 だが、前回のダンジョンでの魔石で召還できし、そのダンジョンもレベル100前後の所だったが余裕だった事もあり、これを選んだ。


 アンデットに手ごろなのが居らず、『ターンアンデット』が出来なかった為、前回よりも時間が掛かっている。恐らく、今はまだ五十レベル程度。

 どっちにしても俺は魔力チートがないからその手法は厳しそうだが。

 それと比べてブラックオークは130レベル程度だ。

 かなり格上の魔物だが俺たちの知識と一致していたので気にせず戦闘を開始する。


 魔力チート持っているのだから重ね撃ちでもすれば彼女一人でもいけるくらいだ。

 コンの助だとわかった今、前置きの説明すらもいらなくなった。


 そして、一番危なそうな俺も、普通なら装備できないオリハルコン装備。加えて付与チート。バッシブ全職業も残ってる。

 急所さえ守れば彼女が回復してくれる。


「『パリィ』をミスって頭に喰らうのだけは止めて下さいよ?」

「ああ、こっからはガチだ。

 おっし、行くぜ『パリィ』『パワースラッシュ』

 ……あっフル支援頼むな」

「ラジャ。って突っ込むの早いよ! オラオラしないで! 

『スロウ』『影縛り』『戦いの歌』『叡智の歌』『シールド』『フォートレス』

 ゲームと一緒で魔法攻撃ないよね?」

「おう! 十分だ。後は掛けなおしと火力で頼む」


 そして、二人で激闘してブラックオークをフルぼっこにしていく。

 彼女は支援歴が長いから、絶妙なタイミングで『アースバインド』や『スワンプ』を混ぜてくる。


 これだよこれ! ちょーやりやすい!

 百レベル近く格上のブラックオークが余裕過ぎる。

 攻撃し放題じゃねぇか!


「『アイスジャベリン』」


 ブラックオークを円状に包むように冷気が舞い、その円が形成されると氷の槍が全方位から突き刺さる。

 かなりな格上相手に、まだやり始めたばかりだというのに、その一撃で魔石となった。

 あー、魔力チートつよ。せめてアイスランスの方にして欲しかったなぁ。

 俺、置いてかれそう。


 しかしそうか。ゲームでは『アイスランス』のがクールタイムの兼ね合いでメインで使われてたけど、こっちではそっちのがいいな……


「こらぁー、次だせ次ぃぃ!」

「自分でやれっての!」

「ちょっと、後衛前に立たせないで!」


 むぅ。そう言われると痛い。仕方が無い。


「じゃあ、ここからは聞かずにどんどん行くから、止めたくなったら言ってくれ」

「大丈夫、餓死寸前までやる」


 はは、そうそう。ゲームだとこっちのノリが普通だったな。

 とはいえ結局誰かしらが四時間程度で落ちて、テンションが下がっていって七時間程度で終わる事が多かったっけ。

 懐かしいなと思いつつも、一匹ずつブラックオークを出して殲滅してと間を空けずに続けていく。


「前衛ビビってるヘイヘイヘイ!」

「うるせぇな。わかったよ出せばいいんだろ。出せば!」


 慣れてきたので一度に三匹出して殲滅速度を上げた。

 イメージ的にはゲーセンでコイン投入する感じだ。魔石は丸い玉だが。


 経験値がダメージを与えた量で決まると伝えてあるからか、彼女はある程度攻撃するとほぼ支援に徹して経験値を譲ってくれる。

 コンの助こういう所はホント気がつく奴なんだよな。ありがたい。


 三匹サイクルを何度も何度も続ける。段々と無言になっていった時だった。


「あー、ちょっと待って。なんか魔力減ってきた感じするけどあとどれくらいかわかんない」

「それな。じゃあ、二匹に減らすよ。一人でも殲滅できそうだし」

「舐めプだめ。絶対! という事で青ポください」


 舐めプってお前の十八番じゃなかったっけ?

 マジックポーションなぁ……あるにはあるが……

 いや、コンの助ならいいか。ここぞって時に使ってくれるだろう。


「んじゃ、渡しておくけど、これ完突品な? もう作れないから大事に頼む」


 重量の問題もあって二十本程度しか持ってきてないんだよな。

 今、何してるのかな……


「おお! 完突って5000? 流石魔力チート!」

「いや、もう作れないけどな」

「大丈夫。舐めプが駄目なだけで使うつもりないし、これからはあっきー砲がついてる。

 錬金術師スキルはないけど『叡智の歌』フルで使ってれば早々切れないでしょ」


 ああ、こいつでよかった。

 そう思ったら、いつのも癖で昔の俺なら言えなかった言葉を口に出していた。


「こっちで会えたのがお前でよかった。嬉しいよ」

「う、うん。こっちのセリフ?

 会えなかったら死んでたし……運命過ぎてちょっとクソワロ?」


 めっちゃそわそわしちゃってる。

 なんか悪い事したな。好意向けてくれてるっぽいけど、まだちょっと女怖いし。

 可愛くなってきたこいつに入れ込むのは今は怖くて無理だし……


「いいから次出せや! ほらぁ! 倒せるんでしょお!?」

「悪かったよ。ほれ、いくぞ」

「え? いや、その……別に悪くは……」


 何か言っていたが、気にせず次を出してコンの助の魔力が切れるまで続けた。


「魔石まだまだあるね」

「だな。これが切れてミノタウロスに変わるまでがたるそうだ」

「うん。けど、後で足りないってなるのは目に見えてるしやらないとね」


 そうなんだよなぁ。本当はもっとやるべきなくらいだ。

 とはいえ、ここだけでレベリングするわけじゃない。狩場がない時のつなぎで使えばいいくらいだ。ドロップ無しの魔石も増えないから金銭的厳しいし。


「ほれ、帰るぞ」

「うん。帰ろう!」


 何やら上機嫌な御様子。

 まあいいかと宿に戻った。


 そして、帰り途中珍しく別行動したいと言って街中に消えていった。

 ブラックオークあれほどやったんだから、何も心配はいらないだろう。


 だが、あいつ服がだぶだぶじゃねぇか。パンツごとずり落ちるんじゃねぇか?

 仕方ねぇ。パンツは落ちてもいいがスカートまで落ちるのはちょっと可哀そうだ。

 つい先日買ってやったばかりだけど、また買ってやるか。

 そう思って、布を色々買って宿へと戻った。


 さて、どんなの作ろうかなぁ?

 もうさすがに普段着を作るのならどんなんでもいけるだろ。


 うーん。どんなのがいいだろう。やっぱりピンクの柔らかそうな部屋着にも使える

 おへそ出ちゃうビスチェにホットパンツか? 

 それとももっときちっとした清楚系の……

 待て、あいつの系統からしたらゴスロリとか好きなんじゃね?


 うん。ならば全部作っておこう。選ばせればいい。

 嫁達にも俺が作ったのの方が着心地がいいって……もう嫁じゃねーし……

 いかんいかん。もう後二日しかないのだ。


 うむ。俺は約束を守る男。元気になってリアと一杯遊ぶとしよう。


 って、考え事してるといつの間にか作業が終わってる。もうこれは癖になって来てるな。うむ。恐らくは中々いい出来だ。着せて見ないとだが。

 と、思いきや、コンの助が帰って来た。


「ただいまぁ。って、何それ……」

「いや、だぼだぼだったじゃん?

 スキルで作れるからどうかなぁって思ったんだけど……

 まあ、いらないんならいいけど」


 視線を向けてみれば、新しい服に身を包んだ彼女が驚いた顔で作った服を見ていた。

 って、コンの助も買ってきたのね。被ってた。

 そりゃそうか。本人が一番最初に気がつくよな。


「待った待った! 服は幾らあっても困らないんですよ!

 着て見せろって事ですね? 出てて貰えます?」

「いやいや、無理すんなよ。別にいいよ。適当に作っただけだし」

「いいから出ててくださいよぉ! 見せつけてみたいんだよぉぉ」


 おおう。心の叫び。

 別人に変身したほどに可愛くなれたんだから気持ちは凄くわかる。

 仕方が無い。コンの助の必死で嬉しそうな顔に思わず笑みが浮かび立ち上がる。


「わかったよ。『クリエイトミスリル』ほれっ、姿見」


 大きな鏡を作り、そう告げて部屋の外に出て戸を閉めた。『隠密』は無しだ。

「だ、誰こいつ! ホント誰だこいつ! お前か? いあいあ、私だ!」と驚く声を上げながらどたばたする音を楽しみつつドアに背を預けて待つ。

 しかし、俺の姿も前回通りのイケメンに戻ってたな。

 ……嬉しいんだけどもやもやする。


「は、入って来いっおらぁ!」

「……お前はどうして照れ隠しでキレるの?」

「ご、ごめんなさい。勢いが大切だって昔ケンケンって人が……」

「そ、そう。そんな事確かによく言ってた気がする……」


 でも、それゲームの話しじゃん? 

 まあ、いいや。品評するとしよう。

 ふむ、やっぱりゴスロリドレスを選んだか。

 似合うな。これは良いものだ。

「大仏だと思っていたが、その面影が一つもねぇ」中々どうしてやるではないか。


 ちょ、ガンつけんな! でも、可愛くなったおかげで怖くねぇぜ。


 だがな?

「パンチパーマレベルでくるくるしてた髪が何でゆるふわウェーブになってんの?」

 俺もだが、年齢が十代にしか見えねぇよ? 顔自体別人だよ?

 それどんな原理?

 しかも肩下まであるし。頭の上でそんなにクルクルしてたのね……


「し、仕方ないじゃないですか。勝手にクルクルしちゃってたんだから……」


 うむ。モジモジするのもまた良いな。

 だが、もう少しサービスがあっても良かったか?


「まあ、なんにしても可愛いな。グッジョブ俺!」

「確かに凄いです。私も錬金術師育てれば良かった……」


 姿見でスカートの後ろとかをクルクルと回りながら見ている。

 その姿はさながら、アニメの中の美少女アイドルが舞っている様だ。

 たったの三日で良くぞここまで変わるもんだ。異世界おそろしす。


「俺の趣味趣向で良ければまた作ってやるぞ?」

「では、一生手元に置いてあげましょう。わかってんな? 逃げんじゃねぇぞ?」


 はぁ、初日は素直ないい子だったのに。

 何でこんなキレ芸を覚えてしまったのだろうか。

 まあ、大仏だった時は怖かったが、今はちょっとムカつく程度なので別にいいのだが。


「それで、これからどうするんですか? 力奪った奴ぶっ殺します?」

「止めろ……もう会いたくもないって……ていうか正直に言うと会うのが怖い。

 ここなら会わないだろうって引き篭もる為に来たんだし……」

「そうでしたか。じゃあ、私と一生引き篭もりましょうか。得意ですし」


 うん。俺も得意。だけど、約束があるんだなぁ。


「リアと待ち合わせしてんだよ。二週間でここを出る事になる」

「リアって誰ぞ? 嫁捨てたって言っとらんかった? 私、嘘つき嫌いだよ?」

「もうその話題止めろ。リアは俺のテイムモンスターだよ」

「そ、そうでしたか。ごめんなさい」


 ゴスロリドレスのコンの助……あっきー砲の方がいいか?

 いや、ゲームの世界じゃねぇし、もうアキホでいいか。略してアホでいいかも。


 まあ、とても見目麗しくなった彼女と雑談を続け、リアの事を話した。

 当然彼女も闇竜の事は知っている。


「ボステイム可能とか、何それずるい!」


「出来るんだから文句言う前にお前もやれ」と隷属魔法の使い方を教える。


「イメージしつつ真似しろ『戒めの鎖』ほれ、これを覚えればテイムできるから」

「真似しろってそんな簡単に……『戒めの鎖』って、はぁ?

 こんな簡単に覚えられんの!? ちょっと『クリエイトレザー』教えて!」


 いや、いいけど、そっちは多分無理だよ。何て話しながら色々レクチャーしていく。

 やはり、そっちは簡単に覚えられない様で、いつまで経っても出来る様にはならなかった。

 そんな事をなんだかんだしている間に夜もふけてきた。


「そうだ。二部屋取るか? そろそろ寝る場所分けた方がいいだろ?」

「えっ、でも、一人で寝るの怖いし……

 そのちょっとした臭さが癖になってきたし……」

「お前、絶対何か無理やり何かくっつけるよね。そんなに臭くねぇよ? 無いよね?

 まあ、お前がそれで良いってんならいいけどさ。何かあっても知らんぞ?」


 赤い顔でコクコクと頷くアキホ。

 どうでもいい奴なら取り合えずやっとこうって思うんだけど。いや、どうでもいい奴とはまず一緒に寝ないか。

 こいつとはもう長い付き合いだし、ふざけた事はしたくない。


「んじゃ、寝るか。っておまっ! 何してんの!?」


 アキホはドレスを脱いで、下着姿になると布団にもぐりこんだ。

 顔だけちょこんと出して「さ、寒いんだからあくしろよぉ!」と、キレ芸を発揮。

 まあ、こんな感じなら欲情せずに耐えられるだろう。と布団に入った。


「あの、その、都合の良い女でいいから、置いていかないでください……」

「いや、そんな空気一つも見せてないだろ。付いてくるなら勿論歓迎する。

 ただ、面白いかはわからんが」


 そう告げると、背中にギュッと抱き着いてきた。


「えっと、俺、ラブラブエッチ以外はしないから。

 まずはそういう関係になってからね?

 置いていったりとかしないから……って違うな。今は怖いんだ。女が」

「……全面的に信用していいですよ? 私は、あの時のメンバーを裏切らない。

 その中でもケンケンは特別。いっつも時間取ってくれました。

 その、するしないはどうでもいいんです。

 私はただ、私の存在を受け入れて欲しい。引き篭もる癖に一人が怖いんです」


 ああ、これは本心だ。そう思った。

 存在を受け入れて欲しい。俺もずっと思ってた。

 自分が駄目なやつだからこそ、それを渇望した。


 寝返りを打ち、彼女と向き合った。


「正直、のめり込むのが怖いって思わなければ今すぐにでもやりたい。

 それを我慢するのが辛いから、部屋分けようかって言ってただけなんだ。

 けど、よく考えたら俺のブサイクな姿とかも知ってるんだよな」


 俺も、自分の本音を出来るだけ正確に言葉にした。

 彼女は安心した様に笑うと、その笑みが引き攣っていき、俺は少し困惑した。


「はい。お互いに悲しいほどに……

 だと言うのに、大仏君って言われた時はさすがに切れそうでしたが。

 女の子に大仏君ってなんですか? チャットじゃないんですよ?」


 あー、うん。そうだった。余りに似てたから……いや、嘘です嘘。


「す、すみません。その……早く距離を近づけたくて……」

「ぼそぼそと似てたからって言わなければ素直に許せたんですけどね……」

「そう言うなよ。俺もいつもお前のキレ芸に付き合ってるだろ?」


 あれ、結構イラっとくる時あるからな?


「お、お互い様って事で手打ちにしましょう。

 それで……しないんですか?」

「あー、うん。我慢の限界までは止めておこうと思う。

 あっきーほは大切な仲間だし、利用するみたいな体の関係は出来るだけ避けたい」


 うん、今やったらずるずるいっちゃうし、のめり込むし。


「しないと言い切らないところが流石です。ハーレム王め。

 って言うかあっきーほってなんですか!?

 そこまで言ったなら言い切りましょうよ」


 あっきー砲って言い辛いんだよ。まあ、言えっていうなら言うけどさ。


「わかったよ。あっきー砲。今度からはちゃんと言い切るよ。

 って、いたたたたっ、なんで抓ってんの!?」


 あっ、アキホって呼んで欲しかったのか、素で勘違いした。

 うーむ。今から言うのはなぁ……

 うん。そうだよ、リアも名は簡単に呼ぶものじゃないって言ってたし!


「取り合えず、置いていかれないって思ってていいんですか?」

「そこは約束する。一生一緒でも良いくらいだ」

「……んじゃもう抱けばいいじゃん! メルヘンなの?」

「うるせぇ! 黙ってろ! ……って何でそんなに嬉しそうなの?」

「うるせぇ、意気地がねぇならさっさと寝ろ! この根性なし!」


 そう言ってアキホは背を向けて寝に入った。

 ちょっとイラっと来たので悪戯してやった。後悔はない。

 そして、俺はやってやったぜと満足してさっさと眠りについた。


「……あれ? どういう事? なんであそこまで揉みしだいて放置?」


 結局寝に入って早々叩き起こされたが、クリンチで押さえ込んで寝に入った。




 朝起きてみたら、何故か俺は裸になっていた。

 まさか、あんな事を言って置きながら、寝ぼけてやっちまったのか!?


 と、思いきや下は脱いでいなかった。


 ふむ、これは逆襲を受けたということだろうか?

 まだ、寝ているアキホの寝顔を観察しつつも、反撃に出た。


 ポヨンポヨン ピンピン クリクリ ピーン


 ほう、全然起きないではないか。俺の悪戯スキルが上がっているからか?

 そうか。悪戯はこの時間にすればいい。そこまで考えて思い至った。


 それは、性欲を溜め込み自分の首を絞めるだけではないかと。


 うむ。あんな性欲地獄はもういやだ。そろそろ社会科見学をするべきだろう。

 もう童貞じゃないし、俺メルヘンじゃないし、夜のお店に行っても良いと思うんだ。


「うーん……なにぃ? もう……あしゃなのぉ?」


 ……俺ではない。と言うか、お前もか!

 二人して寝起きが悪いとかこれ大丈夫なのか?


「ああ、そうだぞ。朝だ。だけど眠ければ寝ててもいいぞ?」

「ほんとぉ? じゃあ寝る」

「じゃあ、俺は先に狩り行ってるからな」


 そして、朝食を取って出かける準備をしている時に彼女は起きた。


「おはよ。さっき言ってた通り先行ってるからな」

「な、なんですか? さっき言ってたって」

「お前がまだ寝るって言い張るから先に行くぞってな。ゆっくり準備して来いよ」


 あの祭壇のダンジョンであれば、もう一人でも余裕だ。

 ブラックオークも一体ずつならもう余裕で戦える。

 置いてかれそうだからちょっと一人で頑張りたい所だったのだが……


「ま、待って……置いていかないでっ。すぐ準備するからっ!」


 彼女は下着姿で飛び起きて、そのまま準備を始めた。

 むぅ、これは仕方ないな。うん。生着替えを見ないわけにはいかない。


「ほら、待っててあげるから、ちゃんと下着も替えなさい」

「ちょ! そこは流石に出ててよ!?」


 アキホ、真面目な半泣きである。

 彼女は必死に考えた結果、スカートをはいて下着をかえるという行為で乗り切った。

 結果、何か逆にエロ過ぎて俺のほうにダメージが来た。なかなかやりおる。

 涙目になりながら赤い顔で下着を履き替えるとか流石に反則だよね。


「じゃあ、行くか」

「なんで手を出さないのに態々辱めるの……もう泣きそうだよ」


 お、おおう。女の子とは難しい。

 だが、レベルを早く上げたい所だから急いでいるというのあるのだ。

 次のレイドボスがここに出るかも知れない。いや、今そうなったらアキホ連れて逃げるけど。

 流石に今戦っても無駄死ににしかならないし。

 とはいえ逃げ回っていたら世界が滅びてしまう。


 なのでレベル上げは急務である。いつ逃げられない状況になるとも限らんし。


「という事で、今日も頑張るぞ」

「青ポ買ってく?」

「そうだなぁ。そろそろ自動回復で追い付きそうな感じするし、買ってくか。

 ちょい待てば溜まるのが一番勿体無く感じるし」

「だね。了解、金よこせ!」


 うむ。流れるほど綺麗なすねかじりだ。

 もう殆ど無いんだけどと思いつつも、金貨二枚渡した。

 受け取ると颯爽と走り、数分で戻ってきた。

 何やら、安い方を大量に買った様子。飲み切れるのか?


「馬鹿野朗、徹夜だぞ?」

「無理だよ。敵がリポップしな……召還するからいけるか。じゃあやっておくか?

 食料は、って買ってあるのか。こいつ、やる気すぐる」

「たりめぇよ。カミノさんの専属支援になるんだから。これくらいして当然」


 いや、俺そんなにすごいもんじゃないよ?

 サーバー内どころかクランでもトップじゃなかったし。

 上には上がいるのだ。


「大丈夫。そいつらは居ない。最強は我が手に」

「えぇ? あ、お前の手に、なのね? 了解」

「そう、シナリオ的には私を攻略すれば最強に至れる」

「ギャルゲかっ!?」


 俺の突っ込みに、「どう考えてもエロゲだし」と満足そうな表情を返した彼女は、足早にダンジョンへと移動し始めた。


 と言うか走り出した。叫びながら……

 お前……ダンジョンは逃げないんだからさ……


「はっ!

 これぞ木を見て森を見ず。ダンジョンは逃げなくとも時間が逃げるわっ!」

「ちょっとぉ、キャラがぶれ過ぎてついていけないよぉ? 帰っておいで」

「むむ、どのキャラが一番良かったですか?」

「うーん、あの顔を赤らめながら下着替えてた時?」

「それキャラと関係ねぇよぉぉぉ……どうしろっつんだよぉぉぉ」


 あらら……統一してくれればどんなアキホでもいいのに。

 あ、キレ芸エンドレスは止めて欲しいな。うん。そっちを選ぶようなら止めよう。


 そして、弄る側と弄られる側が段々とはっきりしてきて、少しずつ彼女はからかわれる事に慣れていった。

 そう、あれから二十四時間永遠と俺にからかわれ続けたのだ。慣れもするだろう。

 彼女はからかわれると嬉しそうにする節があるのでMなのだろう。

 遠慮なく弄らせて貰った。


「もう好きにしてくださいよ。あ、ちょっと待った。

 ここで変な事するのはだめです。お外だめーぜったいー」


 全く、言葉以外は何もしていないってのに。

 ちょっとエロ方面のネタ振りすぎたか?

 ミノタウロスを三匹相手にしてんだ、そこまでの余裕はねぇってのに。

 てか、流石にそろそろ止めてあがるか。


「食料足りませんでしたね。って、眠気ももう結構きてるかも」

「だなー。んじゃこれで取り合えず終わろう」

「青ポ買い過ぎたぁぁ」


 いや、それはしゃーない。MPの量すらわかんないのに計算なんて出来ないもん。

 俺が後で美味しく頂こう。魔力かなり減っちまったもんな。

 アキホがダンサースキル『叡智の歌』で魔力自動回復強化してくれてるから、ある程度はスキル撃ててるけど、本気で全部スキル攻撃に変えたらすぐ無くなるだろうなぁ。

 いくら、剣士スキルが魔力消費少ないとはいえ無理がある。


 なんにせよ、今日で一週間か。

 うん。隠せる程度には楽になって来た。アキホが居てくれるからだが。


 宿に戻り、長時間戦闘に疲れて即効で装備を脱ぎ捨てて布団にダイブした。


「あぁ、あと一週間でどれだけ上げれるだろ……すげぇペースではあるが……」

「二百四十レベルくらいならいけちゃうかもね?

 ゲームの時はあれほどの格上は無理だったし。

 攻撃がまず当らないし、近づいた瞬間死ぬし」


 確かにな。こっちみたく『パリィ』してれば必中とかじゃねぇし。レベル補正の力がやばかった。こっちだと純粋な強さがものをいう感じだな。 

『パリィ』マンやるにも敵選ばなきゃ通常攻撃の合間にランダムで入れてくるスキル攻撃がタイミング合わせられなくて死亡だわ。

 スキルが状態異常とかで装備で耐性つければやる自信はあるが。いや、厳しいか?

 ブラックオークも一匹目は結構早く感じたしなぁ。『スロウ』『影縛り』込みで。


「それはねぇよ。知ってるだろ。流石にそんなに甘くないって。

 それと、カンストは無いぞ? 言ったよな?」

「カンストがない……よし、早く寝よう。ほら、抱き枕になってください」


 むぅ。むらむらしてしまう、ここは町。ならば……


「あ、そうだ。俺ちょっと夜の店で抜いてくる」

「ふざけんなよ? やりてぇんならいいって言ってんだろ? 舐めてんのか!?」

「ほら、その可愛い顔に似合わないから止めなさいって」


 行ってはダメか……ならば仕方あるま……

 いやいや、待てよ。お前俺の女じゃねぇし。

 いや、これを言うのは止めよう。なんか宜しくない気がする。


 取り合えず、寝るか。寝れば忘れるだろ……

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