第88話同士発見
「ちょっと、待ってくださいよ。
出られなくなるようなら引き返すって言ったじゃないですか!?」
俺は、余りに強引な引っ張り方に、身の危険を感じて声を上げていた。
「待て、勘違いするな。手続きがまだ終わっていないだけだ」
その言葉を素直には信用できず警戒していたが、次の言葉を聞いて納得した。
「もう結構前の話しになるが、人族が禁忌目録を持ち出して逃げた事があってな。
それから、現在位置を知らせる魔法を掛けさせて貰う事になったんだ。
余り気分のいいものじゃないだろうが、害があるわけでも無いし決まりだ。
受け入れてくれ」
ああ、そういう事。そんなの全然いいよ。
何であんな風にタイーホみたいに連れて行くかね。
「……わかりましたけど、もう少し優しく引っ張ってくださいよ。
牢屋にぶち込まれるかと思いました」
「今の段階で逃げられたら面倒だからな。これが終わればもうこんな事はない」
って言うか現在位置を知らせる魔法って何だ?
「じゃあ、今からやるから受け入れろよ。『パーティー作成』」
はぁ? いやいや、はぁ? あったの!?
うん。まあ、別にいいけど……
光の玉が目のまえに来て、止まった。そしてゆっくりと胸に吸い込まれていく。
なんか怖いと思ったら、ちょこっと光がはみ出た。繰り返しても同じ結果になる。
なるほど。受け入れようと思ってないと弾かれるのね?
「おい、遊ぶな!」
「あ、すいません。なんか面白くて」
などと、衛兵さんに怒られつつも、事は円滑に運んだ。
その後はここに来た目的などを聞かれた。
仕方なく正直に答えた。
「傷心して、彷徨っている内に辿りつきました」
「……それで目元が真っ赤なのか。
しかし、彷徨っている間ずっと泣いていたのか?」
「んな事聞くなよ!」
「いやっ、すまない。だが、事情聴取だからな?」
ちょっとは気遣って! と、ご立腹な顔を見せていたら間を置かず釈放となった。
「偶に、監視として軍部のものが尋ねるかも知れんが、逃げたりするなよ。
流石にそれをすれば悪事を働いて無くとも捕まるからな」
なんて注意事項を貰いながらも了承の意を示して漸く町へと入ることを許された。
まあ、元の世界と比べればこれでも緩いから有り難い話なのだろうが、その代わり何をされるか分からない不安があるからどっと疲れた。
溜息を吐きながら適当に道を進んでいけば、余りの発展具合に驚かされた。
おお、建物に普通にガラスが使われてるよ。
しかし、変わった作りだなぁ。これ多分錬金術スキルでだろ。
って事はこっちでは『クリエイトストーン』普通に使って大丈夫かな?
今の俺じゃまともに使えないのか……ははは……
キノコの様な丸っこい建物を見上げながら歩く。そして、ふらふらと商店であろう建物に入った。
アンティークショップとかにありそうな古めかしい作りを意図的に出した、そんな感じがする店だった。
要するに、日本と比べてそこまで遜色を感じさせない建物だ。思わず感動した。
どうやら、ここは魔道具の店らしい。
「いらっしゃい、何をお求めだね?」
「いえ、申し訳ないのだが、魔石を売れる店はどこにあるのだろうか?」
「……そんな事を聞かれたのは初めてだな。魔術師組合でもここでも色々な所で買取をしているよ。大口であれば組合に行くといい」
こっちは魔術師組合なんだな。いや、他にもあるのかな?
魔石の買取の場所聞いただけだしな。
「これ、買取だと組合の方がいいですかね?」
重すぎて、もういい加減持っていたくない。
一番重量のある魔石袋を差し出した。
「おお、なんて等級の高い……半分程度うちで買取してもいいかい?」
「ええ、お願いします」
店主は計りと紙を用意して一つ一つ計量して記載している。
すげぇな。アルールなんて目分量だぜ?
まあ、大きさで何の魔石かわかってたからかも知れんが。
「金貨11枚と大銀貨4枚だ。それでいいかい?」
それに了承の意を示して金額を受け取る。
正式に審査も受けているので、他所から来た事を告げて色々情報を聞いた。
どうやら、冒険者ギルドは無いらしい。魔術師組合がその代わりだとか。
他には商人組合や錬金術師組合があるそうだ。
魔術師組合は士官候補生が幅を利かせているらしく、一般からだと嫌な思いをするかもしれないと忠告された。
魔法学校上がりで軍の入隊希望者らしい。
一人で外に出るにはどのくらいの強さが必要かと尋ねたら、A級魔術師以上だとか。
ランクと一緒で考えていいのかな? 後で調べよう。
宿や飲食店の情報を訪ねた。
余りに長時間邪魔するのも悪いと思って店を出る。
さて、荷物も軽くなったしもう一頑張りしますか。
この程度の荷物で歩いただけでこれとか。そう考えた所で心が沈む。
どうしてもその事の根元がぐるぐると頭を巡る。
気を紛らわすように、この発展具合なのに馬車なんだなと呟いてみたり、肌の色が白い人が多いんだなとか、兎に角別の事に思考を働かせた。
そのまま、お勧めされた宿で部屋を取り身軽になってベットに身を投げ出した。
「やべぇ。この布団やわらけぇ……」
そのまま、横になっていたら、いつの間にか眠りについていた。
起きてみれば、改めて家具の作りやドアの装飾などに目を見張る。
今は早朝。やっと日が昇りだした所だ。
ここから、引き篭もり生活の始まりだ。そう思って横になり続けようと思ったのだが、数分もしない内に落ち着かなくなってきた。
今まで活発に動きすぎたせいか、何もしていないのが逆に辛い。
気分転換で散歩に出かけよう。
身軽な状態でなら何一つ体が重く感じることはなかった。
足取り軽く、とはいかないが淡々と歩を進めた。
それにしても、ホント綺麗な町だな。石畳一つとっても段差が無いし。
建物がやたらと丸っこいのが違和感あるが……
昔の漫画の未来都市みたいな感じか?
だが、服が頂けんな。皆基本的に魔女のローブ見たいの着てる。
もっと体のライン出して行こうよ!
ってどうでもいいか。もう女なんて……
いかんいかん。リアと約束したのだ。一週間で復活すると。
そんな事を考えて歩いていけば、段々と寂れた場所へと迷い込んでいった。
建物に丸みが失われ、俺が作った建物の様にドアも無し窓も無しの四角い建物が並びだした。
「すげぇな。ちょっと繁華街抜けたらこれか」
そう。数十分程度だ。近未来都市が、いきなり砂漠の寂れた町の様な空気に代わった。
後ろを振り向けば、すぐそこに綺麗な町並みがある。
何やら切なさを感じさせた。
と言うか多分こっちは治安悪いよな。引き返そう。
ただ踵を返すのもと思い道を曲がりつつも、繁華街方面に進んだ。
そして、貧民街と繁華街の境目だと思われる場所に、まるで大仏の様な女が座っていた。俺と同レベルのブサイクさだ。
その彼女からどうしても目が離せない。
立ち止まって凝視する。
廃墟の様な家の壁に背を預け、目を瞑り、修行僧の様に佇んでいる。
やつれた目にふくよかな体、年ももう若くはない。三十くらいだろう。
じっと見てそんな分析をして見たが、そんな事はどうでもいい。
何故、こいつはそんな年になってまで学校で使われていそうな赤ジャージを着ている。
って言うか、もう間違いないよね? 日本人だ。
もっと見ていけば、靴を履いておらず、傷だらけになっている。
思わず俺は声をかけた。
「おい、大丈夫か? おい!」
彼女は薄目を開けてこちらをみた。
「お、お恵みを……」
力なく呟いたその言葉に涙があふれそうになった。
男の俺のほうがもっと上手く事が運んだぞ。
もう少し召還した奴に気を使えよクソ女神!
「ああ、任せろ。一緒に来いよ。飯食わせてやるから『エクスヒーリング』」
「――っ!? え? なんで? 本当ですか?」
彼女のその表情は恐怖だった。
そうだった。一足飛びに言い過ぎた。
「俺はカミノ・ケンヤ。これでわかるよな?」
「え、ええ!? わ、私はコンノ・アキホです。で、でもほ、本当に日本の人?」
「ああ、多分そっちも一緒だと思うが、いきなりこっちに飛ばされた。
ある程度長い時が立つからもう大分生活も落ち着いてる。
取り合えず、一緒に来いよ。心配はいらないから」
その言葉で彼女はボロボロと涙を零した。
元々外見が宜しくないであろう三十代女性がボロボロに泣くさまはとても見苦しかった。
だが、苦しくなるほどに親近感が沸いた。
「まずは靴だな。俺の時も部屋の中に居たから靴がなくてかなり困ったし。
あぁ、でもまだ開いてないか?」
「だ、大丈夫、大丈夫です。歩けます。慣れましたから」
「いやいや、慣れないでよ。こう見えて金はあるんだ。少なくとも、多少自立できるまでは面倒見るよ」
遠慮しちゃう気持ちもわかるが、これは俺が見てて辛い。
何でいきなり拉致られた俺たちがこんな思いさせられてんだよと、強い憤りと怒りを覚えた。
本当なら、背負ってやりたいくらいだが、それを女性にいきなり言うのもと思ってしまう。
あと丸々してるし、持てなかったら気まずい。
いや、こっちがメインかも……俺今多分レベル一だし。
背は高くないんだけど、横に広い。
「あの……どうして、どうして私はここに連れてこられたのでしょうか?」
「この星の自称女神が日本人を拉致ってるらしい。
それもゆっくり話そう。取り合えずは宿に行こうよ」
か細い返事を返しながら、歩きにくそうにちょこちょこと付いてくる女性。
細い目の周りはどれだけ泣いたのだろうか、そう思うほどに目元が傷ついていた。
彼女を宿につれこみ、ベットに座らせた。
「取り合えず、休んでて。俺、昨日この国に来たばかりだから、時間掛かるかもしれないけど、飯とか色々買ってくるから」
不安そうに見上げるコンノさんが返事をする前に俺は急げと走り出した。
色々走り回ってみれば、店は問題無く開いていて、飯だけじゃなく服や靴、を結構な数を買い漁った。サイズが分からないから適当に。
これ以上はある程度まともな格好になってから、一緒に買いに行けばいいだろう。
そして、戻って来て見れば、彼女はまだ同じ所に座っていた。
寝ててもいいのに。
「色々買ってきたから最初にご飯にしよう。それからお話という事でいい?」
コクコクと顔を強張らせながらも頷く。
選んだ飯はパンの上部を切り開いて野菜や肉をつめたサンドイッチだ。
定番ではあるが親しみやすい一品。
それを六本ほど買ってきた。
どれだけ食べたいかも分からないので多めに買ったのだが、一本しか口にしない様子。もういいのと尋ねたら、胃が驚いたのか入らないそうだ。
「えーと、残りはお昼にしようか。食べられそうだったら幾らでも食べていいから。
で、次はお互いのこれまでを話し合う感じでいい?」
「お願いします。聞きたいです」
そこからは彼女も積極的に話してくれた。
俺と同じように、あの動画を見ていたらいきなり飛ばされた様だ。
俺とは違い、この国に直接飛ばされた様だが、働く場所も無く詰んでしまったらしい。
シャイニングストーン経験者だよね? と問いかければ、俺と同じくらいの歴があった。
「なら、魔物と戦ってって言う選択肢はなかったの?
獣人国には弱いのも居たけど、ここって強いのしかいないのかな?」
「ち、違うんです。居るんですけど……装備というか、一番安い武器すら買えなくて……リアルだしこの体型だし流石にそれじゃ無理かなって……」
あぁ、なるほど。
俺は運よく服を欲しがったミレーヌさんと最初に出会えたもんな。
「じゃあ、良かったらパーティー組まない?
こっちの人って俺たちの定石がわからないから……」
レイドボスのやばさも分からないんだと言おうとしたのだが。
どうしても、強く思い出してしまって言葉が止まってしまった。
「ど、どうしたんですか? 何かいけない事しちゃいました?」
「違う違う。嫌な思いをしてさ……それで、どうかな?
勿論、ソロでやりたいならそっちでもいいよ。当然装備は全部揃えてあげるから」
俺にはもう魔力チートもないし、彼女と組めるなら有り難い話。
彼女は怖くない。
外見の悪さも変わらないし、そもそもそういう感情がない。
たとえ裏切られても、金を取られるくらいだろう。最初だけ、多少レベルを上げるまでの間だけでも普通のパーティー活動できればどう転んでも問題ない。
もう俺は、この世界での金の稼ぎ方を知っているから。
それよりも、この自分と重ねてしまうこの存在をどうにかしたい。
そっちに神経を集中して考えないようにしたい。そんな風に思っていた。
「あの……その……私、コミュ障で、色々迷惑かけちゃうかも知れないんですが……頼れる人がいないので……どうか、よろしくお願いします」
あう、泣くなぁ! 削られるから!
「わかったから。わかってるから。同じ目にあったんだよ。大丈夫、任せて」
そう告げたら更に泣き出してしまった。
な、なんでぇ!?
頼むから泣かないでくれと釣られて泣きながら土下座スタイルで頼み込みまくったからか、彼女は恐縮して縮こまってしまった。
「あ、俺さ、共感覚が強いらしくて人の辛いとか痛いって感情に引きづられてしまうんだ。逆もまた然りなんだけど。だからその、別に怒ってたりしてないよ?」
「ごめんなさい……」
うーむ。泣き止んでくれたが、どうしたものか……
「えーと、じゃあ次は俺のときの事を話そうか。興味あるでしょ?」
そう問いかければ何度も大きく頷き、言葉の続きを待っている様子。
そこから、ゆっくりとあった事をぽつぽつと話していく。靴もなく、レウトとアルールの中間地点にいきなりいて、ここがどこだかも、人里がどっちだかもわからず彷徨った事から始まり、時間をかけて思い出しながら話を続けていった。
だが、そうなると必然的に彼女達の話しに触れる。
とは言え、ここで話を止めるには不自然すぎた。
なるべく深く考えないようにと話しているうちに涙が零れる。
彼女はそれに驚いていたが、真剣に「はい、はい」と相槌を打ち続けた。
話を続けていけば、不思議なもので聞いて欲しいと共感して貰いないだろうかと口早に事細かに話し込んでいた。
そして、とうとう女神が出てきたあの日まで話が到達した。
「それって……もはやアカハックレベルじゃないですか……
私ならキーボード叩き割りますよ……
というか恋人にそんな事されたら自殺するかも……」
「だ、だよなぁ? 誰も悪びれもしないんだぜ?
いきなり距離取り出して、気持ち悪いおっさんって目で見てくるし……」
「それは……涙も出ますよね……ハーレム作った罰というには酷すぎます」
「……あ、はい。すみません」
そうだった。言わなくても良かったのに、普通にハーレム男の烙印を自分から押してしまった。
「あ、いえ、責めてないですよ!? だって同意だったんですよね?
私は幸せなら何でもいい派なので……なんか、すみません」
優しい人だ。断罪されるかと思った。
彼女は長い話に多少なれが出たのか、表情が柔らかくなった。
俺としてもとても気が楽だ。
「気にしないで、言いたい事は言って。出来れば優しく」
「はい。ありがとうございます。
でも、本当にここシャイニングストーンの世界なんですか?」
どうやら、まだ彼女はそこら辺は何も知らないみたいだ。
初めて知ったと身を乗り出し問いかけた。
「ああ、うん。似た世界ね。所々差異はある。けど、基本は一緒っぽいよ」
「って事は、異世界ヒャッハーとか出来ちゃう系です?」
「出来る。コンノさんは普通に出来ちゃうね。俺はもう魔力チート奪われたから」
「あっ」と口元を押さえる彼女に、それでも知識がある分現地人最強くらいにはなれるからと笑いかけた。
「でも、お互い一レベルスタートみたいですし、これはちょっとワクワクしますね。
さっきまで絶望のどん底に居たのに、私、現金過ぎますね。あはは」
「いやいやいやいや、勝手に放り込まれたんだし、元とってやろうぜ?
多分、獣人国辺りで力を見せ付けてやればモテモテだぜ?」
「と……取れますかね? 男はまだいいですけど、女は外見が良くないと……」
あれ? 外見変わるの言ったよね?
多分レベル上げればコンノさんは良くなると思うんだけど……
俺は魔力チート奪われたし、どうなるのやらだが……
「横幅、そこに有効ですか!?」
「そ、それがあったぁ!」
「ちょ、少しは否定してくださいよ!」
そんな砕けたやり取りを交わし、全然コミュ障じゃないじゃんと問いかければ、同じ引きニート相手なら余裕ですと返されてしまった。
「は、ははは、どうせ、引きニートだよ。おっさんだよ、気持ち悪いし……」
「お互い様です。傷を舐め合いましょう。ペロペロ」
「嫌だよ。ペロペロ」
多分、部外者が聞いていたら、ドン引きだろう。
実際に舐めては居ないが、俺たちがペロペロと言ってる絵面でもうヤバイ。
「さて、これからどうするよ。大仏君」
俺は買ってきた靴を並べて、どうぞと手を出しつつも、こんな関係で行こうといわんばかりに笑みを向けて言った。
どうやら、その意図を受け取ったようだ。
すくっと立ち上がり、安そうな靴の一つを選ぶと額に青筋を浮かべ胸を張った。
「そうですね。さっさとすね齧らせろ。このハーレム野朗」
「じゃあ、取り合えず武器防具そろえるか。あ、パン食う?」
「仕方ない。両方頂こう」
どうやらさっきの小食キャラは作っていたらしい。ムシャムシャとパンを消費していく。
「つ、作ってないです。腹落ち着いただけだし。別に心許しちゃったとかじゃないんだからっ!」
「おい馬鹿、リアルツンデレは止めろとあれだけ……
いや、この世界ではありなのか?」
パンが残り二つになると、両手に持ってさあ行こうとドアへと向う。
だが、戸が開けられないとパンをジャージを開き懐にしまおうとした。
俺は思わず頭を叩いた。
「阿呆! ばっちいだろ。んなのいくらでも買ってやるっての」
「仕方ない。買わせてやろう……ありがとうございます」
ちょっと調子に乗りすぎたと思ったのだろうか、途中で言いなおす。
気にすんなと叩いた所を撫でつつも買い物に出かけた。
スキルなどの存在を教えつつ、バッシブスキルをオンにさせたり、してあーだこーだと喋りながら向う。
彼女はダンサーやら弓手などを持っていた様だ。俺の使えないスキルもあった。
「そう言えば、カミノさんそれってってオリハルコン装備ですよね?
装備要求レベル無いんですか?」
「言われて見ればそうだな。めっちゃ重く感じるけどつけれたぞ?
まあ、アクセサリー幾らでも装備出来る世界だからな」
「な、なんだってぇ!? って事は、付与も?」
「重複三つが限度だが、全スキル三つとかいける」
口をぱっかり開けて「うっひゃー」と何故か腹を突いてくる彼女。
テンションマックスである。
ずっとこの気持ちを分かちえる相手を探していたので俺も割とハイテンションだ。
「しまったなぁ……私、錬金術師スキル持ってない。
お願いします作ってください! なんでもしますからぁ!」
「おう。と言ってもレベル一だからなぁ、すぐには無理かもしれん」
「うっはぁ、もうカミノさんには頭上がらないな。
よし、美人さんになったら抱かせてやろう」
「ぷよぷよ」
「だから、もしなったらだって言ってんだろっ!!」
うっは、ガチ切れ。この大仏ちょっと怖い。
俺はちょっと恐縮しながらも、見つけた武器屋を指差す。
「あ、あそこではないでしょうか?」
「や、止めてよぉ……敬語という暴力」
いや、だってお前怖いし。
そして、俺は、値札を見て冷や汗をかいた。
くっそたけぇ……そうだった。俺自作してたから殆ど値段知らないんだった。
「あー、うん。鉱石買いに行こう。無理だこれ。こっちの国の金じゃ足りない」
武器屋のおっさんに鉱石が売ってる場所を尋ねつつもコンノさんに告げた。
「え? 換金って出来ないんですか?」
「多分無理じゃないかな? そもそも国同士の交流がほぼない」
そこで彼女は何かに気が付いたようだ。はっとして声を上げた。
「ちょっと待って! お金、私に使ったら拙いんじゃないの?
レベル一で今は稼げないんでしょ?」
焦っているのか、口調がとても自然だ。いつもこれでいいのに。
「いや、別にいいよ。気にすんな。
あっちのなら金貨百枚あるし、移動する為の足もある」
「そっかぁ、わかった。本気で身体で返す」
ええぇ……困ります。僕、脂身苦手なんで。
「ちっげぇよ! 支援キャラになってやるって言ってんだよ!」
「いや、一言も言ってねぇよ?
まあ、自分が育てた全職業のスキルも魔法も使えるから、後衛やってくれると助かるけど……ヒーラーと火力後衛持ってた?」
「え? あ、はい。支援と弓手と魔法使いとダンサーを育てましたね。後は商人とアサシンを」
へぇ、元々後衛型じゃん。助かるわぁ。
俺、メイン前衛だし。魔力なくなったんなら前衛がいいわ。
「俺は、剣士、アサシン、魔法使い、支援、錬金術師、商人だな。メインが剣士だ」
「メイン盾キター。助かります。私はメインはないですね。サブがいつの間にかメインになってってどれも結構長い事やりました。最終的には魔法使いと支援でしたね」
そっか。歴が一緒ならそりゃ全キャラほぼ育成終わってるよな。
そして、アイアンを鉱石で買ったが、自作の方も上手くいかなかった。
仕方無しに杖だけ買って他は諦める事にした。
正直防具なんて要らないしな。
ただ、俺だけ付けてると不安にさせそうってだけだし。
「すまん。ちょっとレベルあげてきたい。場所知ってる?」
「あ、謝らないでくださいよ。
えっと、場所はわかるんですけど、勝手に入っていいかまでは……」
「あー、そうだね。じゃあ魔術師組合行こうか」
「そうですね。タイーホされても困りますし」
そんなこんなでやってきた魔術師組合。お昼時だが人が大勢居る。
王国とかと違い、清潔で広い空間に隣接された飲食店も明るい感じだ。
取り合えず、と受付に向かい、話を聞かせて貰う事にした。
「そのお年からとなると、かなり危険ですよ? 最低でも経験者を混ぜませんと」
などと、忠告されまくったが、後学の為にと話を聞いていけば、勝手に入っていいらしい。ただ、依頼を受ける事が出来ないから稼ぎはかなり減るだろうといわれた。
コンノさんが登録したがったので一緒に登録する事にした。
「うっは、キタコレ。冒険者カード!」
「ちげぇよ。魔術師組合のカードな! 冒険者ギルドは人族の方」
「同じようなもんでそ?」
「まあな」
ネットで使うような口調を自然に混ぜてくるものだから、ちょっとした会話だけでも楽しい。そして、彼女からもその気持ちが伝わってくる。
さっさと行こうぜと宿に装備を取りに行ってから街中にあるダンジョンへと向った。
レベル的にも問題はない。色々違う事はあったが、やはり『アビリティギフト』を使っていたので、何段階目かわかればすぐにレベル帯もわかった。
「しかし、不思議なもんですね。ゲームで無かったダンジョンがあるとか」
「俺たちをこっちに飛ばす為に作ったゲームなんだろうな。
多分、全部を知らせる目的じゃなくて戦わせられればそれで良かったんじゃない?
相当言ってる事クソだったよ」
ダンジョンの中に入りつつも、変わらず無駄口を叩いて進む。
取り合えずと、魔法の使い方を教えた。
といっても、使えるという事を教えただけだが。
「これ、武器いらないじゃないですか……」と数日前までの自分を思い出したのだろう。かなり凹んでいた。
肩をトンと叩き、取り合えず狩ろうと先を促す。
そして、出てきたのはグリーンスライムだ。
本当の雑魚で安心した。
ブルーよりは強いといっても、ゴブリンよりも遥かに弱い。
「ああ、これなら余裕ですね。ゲームと一緒ならこれで十分かな? 『エアカッター』」
スパッと真っ二つに割れて魔石へと変わる。
気を取り直し、ドスンドスンと飛び跳ねるコンノさん。
「こ、心がピョンピョンするんじゃぁ! 次いきますよ!」
「お、おう」
大地はドスンドスンだけどな? これは怒られそうだから止めておこう。
そこから交代で倒していき、さくさくと進んで行った。
本当に止まる必要性が無く。狩りというより、会話の方に集中するほどだった。
「だから、カッコいいポーズだって言ってんじゃないっすか!」
「いやいや、これカッコいいだろ?」
などと倒す時のポーズをこだわり始めて話が変な方向へと進んでいく。
「もうダメダメです。これはみっちり指導しますからね?」
「あれ? コンノさん痩せたね……」
「そんな煽てで逃げられると……あ、ホントだ。お腹の肉がめっちゃ減った。
やべぇマジか! おい、徹夜でやんぞ! 飯食ったか!?」
やばい、変なスイッチは言った。
「俺は食ってないぞ。お前が全部食ったからな」
「……徹夜は止めておきましょう。でももうちょっとやりたい」
「ここ制覇して、飯食って寝て次のダンジョン制覇でいいんじゃね?」
「そっか。もうすぐここ制覇か。了解! ありがと」
それから、俺たちは狩りに没頭した。
帰って寝て、飯を買い込んで起きていられるだけ籠もる。
まるでゲームの様に順調にいっていたが三日目で問題が発生した。
「魔物、いないね」
「ダンジョン一杯あるみたいですけど、狩する人もいますもんね」
「だな。今日はもう帰って寝るか」
そう、ダンジョンの魔物が殆ど狩りつくされた後だったのだ。
一応下の階層まで見に行ったが骨折り損となってしまった。
まだ、帰るには早かったが、俺にはやりたい事があった。チートアクセ作成だ。
この頃にはミスリルでシンプルなアクセくらいは作れるようになっていて、コンノさんにも付与チートアクセが追加された。
だが付与成功率が低く、かなり苦労した。
そして、何より重要なのが、今の段階でも結構な可愛い子に変身し始めて居た事だ。
同じ部屋に寝泊りする身としては、正直ちょっと困るレベルになって来た。
一応異性なのだから、最初から部屋を分けるべきだったな。
「襲えるもんなら襲ってみろやぁ!」と元気良く言われて「いいだろう。可愛くなったらその挑戦を受けてやる!」と答えたのだが、何故か当然の様に同室で寝ることになってしまった。
まあ部屋を別にと言った瞬間コンノさんが恐怖に顔を歪めたからってのもあるが。
お互いに自分の外見を深く理解していて、それを平気でネタに出来る様になってからは、加減を知らない感じになってきている。
俺たちは今日も同じ布団で背を向けて眠りに付いた。
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