第84話おい、お前たちどうしたんだよ!?


 マジやばかった。あれ死ぬって……

 いや、普通死んでるでしょ。何で生きてるの俺。

『心眼』使っても近接時は回避不可に近いほど精度高いし、『シールド』一発貫通で普通に体貫かれるし。幾ら『エクスヒーリング』で全回復できるからってあれじゃ意識が飛ぶわ!


 アダマンタインとの戦闘が終わって、精神的に落ち着いてみれば思った事はまずそこだった。


 だって、あれだけ引き裂かれて、肩から先が吹き飛んだりしてんだぜ?

 終わった今思い出しても足が震えてくるわ……

 戦闘中はアドレナリンで何とかなっていたのだろうか。

 これは本当に次の来たら死ねるな。


 しかもなんだよアダマンタインの皮膚はよぉ。

 あれ、ドンだけ耐性ついてんだって話だよ。思わず全部剥ぎ取っちゃったよ。

 絶対使えるだろ。あとで『クリエイトレザー』で装備作って試そう。


 でも今回は死にはぐったけど本当に勉強になったな。

 重ね撃ちは百発とか重ねると結構なクールタイム発生するみたいだ。

 それに百回以上は重ねられなかった。

 連射ならどれだけやっても問題ないのに……

 

 そんな縛りがあるなら教えておいて欲しいもんだよ。かなり焦ったっての。

 その所為で次の広範囲スキル撃たれて押しつぶされる破目になったし。

 あんなん逃げ場ねぇわ! いや、地中に逃げれたけど……


 今まで重ねまくった魔法を連続で撃つ必要がなかったからなぁ。

 まあ、そのお陰で『メテオ』を打ちすぎる前に殆ど効いてない事に気がつけたんだけど。

 いやぁ、色々失念してた。

 そりゃ何百人かでやってるんだから全職業の全デバフが付いているって事を失念してた。殆ど効かないものばかりだろうけども。


 きっと魔法耐性を下げるデバフは効いたんだろうな。

 予想以上に耐性が高すぎて冷や汗搔いた。


 まあ、皮剥ぎ取れば効いたから良かったけど。


 俺は、小一時間アダマンタインの死体蹴りをしながらそんな事を考えていた。

 本当に腹立つこいつ!


 ゲシゲシッ!


 めっちゃ痛かった!


 キックキック!


 いや、痛いって次元じゃねーし!


 オラオラァ!


 いや、そろそろ蹴るの止めて帰ろう。嫁が心配してしまう。


「ハル……ルイズちゃん……二人とも、仇は討ったからな!」


 俺は踵を返し、クールに立ち去った。


 と思ったのだが、目の前にリアが居た。

 おい、お前何してんの? 危ないだろ?


「かかか、ちゃんと終わったの確認してから近寄ったわ。

 にしても、凄い戦いじゃった。そのあとが情けないかぎりじゃがな。

 じゃが、これだけ興奮したのは生まれて初めてじゃ」


 ぐはっ!! 見てたのかよっ!?


 ……うるさいな。

 あんだけ痛い思いさせられたんだぞ? 死体蹴りくらいするわっ!

 と、彼女に見られてた事の照れ隠しで悪態をついてみたが、一向に気にした様子は無かった。


「まあ、乗るが良い。疲れたじゃろ?」

「ああ、疲れた。本当に疲れた……あっ! そうだ!」

「なんじゃ!? まさかまだ何か出てくるのか!?」

「いやいや、ありがとな。色々気を回してくれて」


 テンパって居る時、リアは色々気を利かせてくれた。

 あれは本当に助かった。

 ああいう気遣いって心にくるんだよな。

 彼女の腰を抱いて、一切の性欲を捨てて優しく抱きしめた。


「な、なにやら面映ゆいのう。それよりも、はよう戻るぞ?

 まさかこの期に及んで竜の姿になるなとは言うまい?」

「ああ、流石にそれは言わないって。頼むよ」


 脱ぎ脱ぎしていくリアをじっくり観察して変身を待った。

 そして、大量のアダマンタインの皮を持ってリアの背に寝転び、心地よい風を受けて空を舞う。


「あー、すっごい楽。いつも俺が皆を乗せて走ってたからなぁ」

「主は阿呆なのか!? 普通は長が丁重に運ばれるものだろうが」

「いや、お前なら気持ちわかるだろ。それじゃ遅すぎんだよ……」


 リアは、飛びながら少し上を向いた。「ああ、なるほどのう……」と重々しく同意する。なにやら、過去に思い出がある様子。


「それはそうと、他には魔物回ってないかな?

 あのブラック集団だけでも町が滅ぶんだよな……」

「はぁ、主以外はほんに弱いのう……後で軽く回って見て来てやるわ。

 正直、普通に飛び回るだけなら日常茶飯事でさほど疲れんしの」


 あー、そうなのか。人で言うなら座っているか歩いているか程度の違いくらいか?

 この前は重い物乗せすぎたか。


「さて、そろそろじゃな。着いたらわらわはどうして居ればよいかの?」

「ああ、一緒に居ようぜ?

 人型になれるんだから、何も気にする必要ないしな」

「うむ。正直見世物になるのは好かんでな。そうしてくれると助かるわ」


 そして、寝つつも高度が下がっていくのを感じて優しく着地を決めてくれたのか、特に衝撃も無く止まった。

 もうちょっと寝てたい衝動に駆られつつも背から飛び降りた。

 そこには、数千の兵士が膝をつき、嫁とライエルたちが出迎えをしてくれていた。


「英雄ランスロットよ。世界を救ってくれた事、心より感謝する」


 国王がそういうと、ライエルたちどころか、嫁達まで頭を下げた。


「疲れてんだけど、疲れること止めてよ……普通でいいってば」


 ホントに。それ、やられる方はただ疲れるだけだから。

 ただ、ご苦労様でしたって言って嫁とベットを用意してくれればいいんだよ。


「それでは気が済まぬが、強行すればただの自己満足になってしまうな。

 では後にでもかまわぬ、ゆっくり出来る所で話を聞かせてくれぬか?

 何があって、どういった対応が正しいのか。後世に残さねばならぬ」


 なるほど。

 そうしないと聖光石の加護があれば安泰なんて勘違いが続いちまうもんな。

 精神的には疲れてるけど、もう痛みも引いたし付き合ってやるか。


「そりゃごもっとも。そういう事なら付き合いますよ。

 ただ、何度も来るのは大変なので今からでも良いですかね?」

「うむ。こちらとしても都合が良いくらいだな。では、参ろうか」


 そして、国王に引き連れられて、何度か訪れている応接間に通された。

 何故か嫁が大人しいのが気になるが、国王と宰相の問いかけに答えて行く。


「それは、厳しいな。手だてが無いのか……」

「元々、それくらい厳しい世界に居るのを失念してただけですよ。

 今回のは世界最強クラスなのでまた別ですけど。

 対策なんて国家規模で人員を育成しやすいシステムを作るしか無いと思いますよ」


 なんて俺が楽になる方向に話を持っていきつつも、今回の事の報告を終わらせ王宮を出た。なにやら嫁達がホッとした顔をしている。

 もしかして、あの王女の一件があったから怖かったのだろうか……

 違う場所に居させればよかった。


「エリーゼ、ミレイごめんな。そこまで気が回らなかった」

「え? どしたの急に……」


 あれ? 王族と居るの嫌だったんじゃないの?


「いえ、流石にもうそこまでの信用を持っていませんが、王女単独の事だと知っておりますし、王女以外には恨みはありませんよ?」


 なるほど。じゃあ、勘違いかな?

 あ、そう言えば、マクレーンに行って村に戻っていいよって教えてあげなきゃいけないのか……

 避難は二日だけで良いとか言ってそのまま放置じゃ可哀そうだよな。

 はぁぁぁ、めんどくせぇ。


「次はマクレーンだ。そこで報告を終わらせたら帰ろう」





 そして、再びリアにマクレーンへと飛んで貰って領主の屋敷に着いたまでは良かったのだが……

 なにやら見慣れたレッドスカイドラゴンがお座りしていた。

 それを見た瞬間少し頬が引き攣った。

 きっと止むにやまれぬ事情があってここに居るのだろう。

 そう思って屋敷を訪ねた。


 マクレーン伯爵は快く招き入れてくれて、ハルたちを呼んでくれた。


「あ、ランス来てくれたっすね? ホントたすかるっすぅ!」


 寛ぎながら片手を挙げたハル。

 かっちーんときた。この間抜け面どうしてくれようか。

 そう思ったが、ハルはラーサに顔面パンチを食らって吹き飛んだ。


「あんたねぇ、冒険者舐めてんじゃないよ?

 救援信号出してその場にも居ずに放置、挙句の果てになんだいその軽い対応は!」


 うむ。俺が言いたいのもそこだ。

 俺はハルが死んでしまったかと思ってかなり気を病んだというのに。

 顔面パンチを食らったハルは、鼻血をたらして唖然としている。


「ルイズ、貴方が居て何故わからない。

 応戦がきついならきついなりに対応の取り方はあったはず」

「ご、ごめんなさい。ランスさんなら余裕かと思って……」

「ふざけないでっ! 余裕なら雑でいいの!?」


 おおう、ミラがガチ切れ。俺が怒る隙間がない。

 と言うか、言いたい事言ってくれてすっきりした。


「まあ、今回はそれでいいよ。かなり苦労したけど、何とか全て解決できた訳だし」

「ランスが苦労したって一体……」


 あれ? こいつあれ見てないの?


「俺がずっとやばいから鍛えるって言ってたあの魔物が出たんだよ。リードは全壊だぞ。リード伯のおっさんも生きてないだろうな……いい人だったんだけど……」

「あん? 俺ならここにいるじゃねぇか」

「ああ、今でも思い出せるよ。こんな風に幻聴がきこえ……って生きてたぁぁぁ!」


 おおう? ど、どういう事だ?

 ちょっと、今回の騒動の発端から説明くれる?


 えっと、ホールディから救援受けて応援に行ってもう落ちてて、その魔物の種類で即座に全面撤退を決めたのが六日前?

 王都に報告行ったの一昨日って言ってたよ?

 うん。どうせ傍観だから、避難を優先した? なるほど。

 けどライルたちはリード伯からの依頼を受けてって……

 ああ、ここで依頼出したのか。


「まあ、なんにせよ、お前たちが無事で良かったよ。

 ハルがいい加減な救援だすから、かなり大変な目にあったけどな?」

「う、申し訳なかったっす。次からは何所を気をつけたらいいっす?」

「まず、魔物の種類、状況、場所、落ち合う場所、それくらいははっきりさせてちゃんと来い。俺はお前の使いっぱしりじゃねぇんだからよ」


 全く。ドラゴンが居るなら、周囲で待機も余裕だったろうに。


「ケンヤ、凄い心配してた。今まで見た事が無いほど焦ってた。反省が必要」

「そんな……私たちの為に……」


 ちょっとエミリーそういう事言わなくていいから。

 でも、アンジェが黙ってる。何かおかしい。


「あぁ……わりぃけど、町がどうなったか聞かせてくれねぇか。燃えてたってのは聞いたが、ブラックタイガーが居て引き返してきたらしいからしらねぇんだわ。

 情報があるならすぐに欲しい。いつまでもここに居る訳もいかねぇんだ」


 リードのおっさんが申し訳なさそうに問いかけてきたが、そうだよな。

 ただ全壊と言われただけじゃどれほどだって話だよな。言い辛い。


「……大変申し上げ難いのですが」

「んな事はわかってんだよ。にあわねぇ言い方すんなって。かまわねぇから言ってくれ」

「何と申し上げたら……更地です」

「は……?」

「ですから、更地ですと……」

「おいおい、冗談じゃねぇのか? 外壁は? 建物は?」

「欠片もございません」


 超気まずい……気を使う余裕なんて一切無かったけど、俺があそこで戦闘始めたからだもんな。釣れる余裕なんてなかったけどさ。


「な、何があったか聞かせてくれ」


 放心状態で問うリード伯に真実を告げた。

 

「それ、冗談だよな?」と、時折挟まれる言葉を否定しなければならないのが辛かった。

 余りの申し訳なさに「復興を俺が全面的にサポートします」と約束してしまった。

 話を全て聞いて居たハルとルイズちゃんに再び謝られ、一応最初の目的であった村人の帰還もある程度周囲の索敵が終わればもういいと思うと伝えてマクレーンを後にした。


「あぁ、三日後にかなり面倒な用事が出来ちまった……」

「言わなければ良かったのに……」

「そうです。世界を救ったのですよ。そういうのは国が請け負うべきです」


 うん。ユーカとユミルの言うとおりだね。

 けどさ、あいつらも金持ってねぇんだぜ?

 リード伯があんまりにも可哀そうじゃん。一応俺がした戦闘で壊れたしさ。

 俺、あのおっさん好きなんだよね。面白いし気楽だし。

 まあなんにせよ皆生きててよかったな。子供達もまだリードに連れて来てなかったみたいだし。王都で紹介できる仕事は概ね手をまわしてくれたようだけど。


 そして、そんな話をしながら空の上で風に揺られてディアに膝枕して貰いながらゆったりと帝国へと帰った。

 そして、降り立つと、何故かハルードラ将軍が居間にて茶を飲んでいた。


「やぁ、お邪魔しているよ」

「……何故に? いや、いいけど何かあったの?」

「……キミには恩が沢山あるけどね、これは報告して貰わないと困るよ!

 勇者を名乗る者が乗ってきた赤いドラゴンだけでもパニックだったというのに今度は黒いドラゴン。

 救援を受けたキミが何か知らないかと思ってきてみれば今度は獣人だよ?」


 あぁぁ……そうだったぁぁ……


「す、すみません。えっと、獣人国にはあっちの王にしっかり許可は貰いました。

 なので、それを許して貰う為に向かおうと思っていた所で王国から救援を受けまして、それがちょっとヤバイ強さの魔物だったので時間が……」

「そ、その話も気になるね。いや、順を追って頼むよ。それで、獣人の話は理解したよ。こっちでも話を通して欲しいってお願いだね?」


 そうそう、駄目なら王国に恩売ってきたし、そっちに戻るけど。


「王国も困ると思うけどね。まあ、キミが話を通してきたというのなら一先ずは国家間の問題にはならないのだろうね。

 だけど、勘違いしたものが、そちらに赴いた時が問題だよ。

 そこまで力がある者は少ないから先々の話しだろうけど……」


 うん。生息地を知っていれば普通にいける。知らなければ運次第で死ぬね。


「どうします? 折角だからここにもう少し居たいんですけど……」

「遠慮がなくなったよね……いや、最初からかな……」


 うっ、そう言われると痛い。


「まあ、エルフも居るし今更だね。ガイールにそろそろ引継ぎ始めようかな」

「ええ、そうしましょうよ。俺も気がらくっ!」


 うんうん。それがいい。

 あれ……将軍が睨んでる……イケメンが台無しですよ?


「はぁ……それで、黒いドラゴンの事は知ってるかい?」

「わらわの事じゃな。

 済まぬな。余裕が無いようだったので人目を忍ばず飛んでしまったわ」


 お、目と目が合って通じあっ……ては居ない様だ。


「済まないが、どういう事かな?

 そう言うのだからカーチェ君の様に人種と変わらない見た目の魔物だという事だろうとは思う……だけど巨大で黒いドラゴンだと聞いたのだけどね」


 手っ取り早いのが見せることなので、庭で見せて中へと戻った。

 彼はおでこをさすっている。


「理解はしたよ。うん。見たままにね。納得は出来てないのだけど。

 あー、もういいや。次は王国がどうなったかを聞かせて欲しい」


 俺は、今日初めて彼の素を見た気がする。

 特に宙を見つめ『あー、もういいや』といった時に。


「それはですね。

 まずは簡潔に言うとホールディとリードが壊滅しました。完全に落ちたそうです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!

 ホールディはまだわかる。だがリードが落ちたのかい?」


 うん。規模もでかいし外壁も結構しっかりとした町だからね。


「ええ、リードはこの目で確認してます。完全な更地です。

 外壁から何から人の建造物は一切残っていません」

「ど、どれだけの魔物が出たんだい? それはこっちには……」

「討伐は一応終わらせて来ました。雑魚が残っていても、三日後にリードに行く約束もしているので、その時殲滅する予定ですね」


 それから、ハルードラ将軍に今度は細かく説明した。

 流石に信じられないねと何度も言っていたので信じる信じないは任せると伝えた。

 だって、普通に居る魔物と桁が違いすぎて信じられないのが普通だもの。


「取り合えず、もろもろ理解したよ。獣人の事は……そうだね、取り合えず耳と尻尾を大々的に人に見せないよう注意を払ってくれ。衣服等で隠せるだろう。

 ドラゴンはせめて町を出てからにしてくれ。

 これから王国の勇者として触れを出すから。

 後、その王国の件だが、悪いが橋渡しを頼めないかな?

 これほどの危機に面したならリードやホールディ復興の援助を申し出れば謝罪の話が通るかもしれない。せめて話し合いの席について貰うくらいにはさ。

 キミはそれくらいで信用を落とすくらいな存在感ではなくなっているだろうしね」


 あー、戦争の件か。

 どっちにしても三日後に行くんだし、一応リードの事も宜しくねって言いたいし、言うだけ言ってくるか。


「わかりました。色々迷惑掛けますし、そっちは出来る限りやってきますよ」

「助かるよ。こっちも出来る限りはやろう。何を言われるか怖い所だけどね」


 と、痛み分けの話し合いが終わった。

 将軍の方が大分痛そうだったが……すんません。嫁の為だから引けないんです。

 そうして彼を外まで見送り、居間へと戻ってソファーに座る。

 

 そして、皆を呼んで獣人の子達について決まった事を説明した。


「という事だから、えっと、俺からは一人歩きは暫くは禁止する。外や来客時は耳と尻尾を隠す。その二つを守ってくれ。

 まあ、仮にバレてしまっても怒りはしないから正直に教えて欲しい」


 隣に腰掛けたルルを抱き寄せて頼むなと告げると嬉しそうに返事をしてしがみ付いてきた。他の嫁達に遠慮してる様に見えるので後でちょっと時間取らないとな。

 そんな事を考えていたら、嫁達が周りを囲んでじっと見ていることに気がついた。


「ど、どうした?」

「ランスさん。正直に答えてくださいね?

 アダマンタインとの戦い、どうでしたか」

「え? 余裕だったけど、なんで?」


 うん? なにやら良くない空気を感じるぞ?


「余裕、だったのですか?」

「痛い思いはしたけどな。考えてたよりきつかったのは確かだし。

 でも、結果的には余裕だった。作戦勝ちだな」


 ちょっと! だから何よ!

 なんで一々一言終わる度に皆で視線まわすの!?


「痛い思いしたのに余裕なのですか?」


 ユミルさん? いい加減にしようか?


「じゃあ、ケンヤさん?

 私がブラックランドドラゴンと一人で戦ってきたとします。

 別に余裕でしたと言って信じますか?」

「そ、それとこれとは話が別だよね?

 俺はやりたくてやりに行ったわけじゃないよ?」


 なにやらユミルの意見は皆の総意みたいに見えるが、本当にどうしたんだ?


「ユミルさん、そのくらいにしましょう。

 ランス様は皆を救ってくれた。これは私たちの我侭なのですから」


 おう? エリーゼ、どういう事?


「ランス、私は家出する」

「はぁぁぁ!? ちょっとミラ、何でだよ!」

「ああ、あたしはエロい事禁止だ!」

「そうだね。私も禁止させて貰えるかい?」


 ちょちょちょちょ! カーチェとラーサまでどうなってんの!?


「あ、私にはいーーーっぱい甘えてくださいね?」

「お、おう、ありがとう……けど、どうしたんだよぉぉ!!」


 え? 何々? 戦いを見てた……またまた……


「ま、マジで?」

「ええ、大マジですわ」


 さぁぁぁっと血の気が引いた。

 ユミルは俺が嘘をつかないかを試してたんだ……

 そして俺は盛大に嘘をついてしまっていたと。


 だけど、ミラは? カーチェとラーサは何であんな事を?

 嘘をついたから怒ったにしては様子がおかしい。

 ミラは本当に怒ってる。

 けど、二人は仕返しをしてやったぜ的な余り怒ってない様子。


 何度かどういう事か聞いてみるけど、一向に誰からも言葉が返ってこない。

 いや、ディアは心ここにあらずでぽけっとしてるだけだけど。


 あー、もういいや、面倒だ。

 言いたい事言おう。俺が一番嫌いな空気だ。学校でしかとされた時思い出す。


「お前らさ。いい加減にしような?

 俺さ、頑張って命賭けて泣きそうな思いして来たばかりなんだよ。

 仕事が大変だったとか、毎日愚痴られても嫌だろ?

 軽く余裕だったって言うくらいおかしくないだろ?

 もう正直疲れてるからさ。こんな事言いたくないけど、面倒だわ」


 と、思わず機嫌の悪い妻を怒る仕事帰りの亭主みたいな事を言ってしまった。


 あう。

 皆泣きそうな目は止めて……別に怒ってるわけじゃないし……

 もう今日は精神的に削られるのはこりごりなんだよ。


「ランスがアダマンタインより、私の方が厄介だって言うからじゃない!」


 うん? あ、言ったような……けどそれは売り言葉に買い言葉だろ?

 いや、それもなんか違うけど、兎に角本気で言った言葉じゃないじゃん。


「知らない! 厄介者なんて言われた嫁の気持ちなんてランスにわからない!」


 あう。珍しくミラがまともな理由で怒っていらっしゃる。流石にこれは俺が悪い。

 けど、悪い意味じゃねぇんだけどな……


「ミラ、一つ忘れないでくれ。厄介だと思ってしまうほど、愛してるんだ。

 好き過ぎるんだ。ミラが俺を想ってくれるならこの気持ちわからないかな?」

「……わ、わかる。けど、それなら魔物の厄介さと同列にあげるのおかしい!」


 あー、うん。ちょっと前提忘れてないかい?

 って言うかこの反応、気がついたな。自分にも思い当たる節が一杯あるのだろう。

 何度うざいと言われた事か……


「人との話し合いならともかく独り言だぞ?

 ある程度適当にこじつけの様な言葉並べたっておかしくないだろ」

「……で、でも私はすごく嫌な思いした! 責任取って!」


 ほっ、どうやら怒りは収まった様子。

 ミラのこれはもう許しています。甘えたいですという事なのだ。

 二人きりになればすぐに可愛く甘えてくれる。

 全く、流石ツンデレの血筋よ。


「ほほう。いいだろう! 

 明日だ。明日。精力剤準備しておく。あと、デートもしような」

「ちょちょちょ!? 待って! 使って欲しいとか言ってない!

 デートだけでいい。寧ろそっちがいい!

 そんなもの……そんなもの私一人に使われたら……はわわわ」


 やっべ、おもしろっ。こんなミラは珍しいな。

 まあ、明日の事は明日だ。兎に角今はディアを攫って部屋に行こう。

 これ以上嫌な事を言われたら今日は言い返してしまいそうだし。

 本当に面倒な事や嫌な事があり過ぎた。殆どが勘違いだったけど。


 その勘違いも殆どがハルの所為だ。嫁に怒るわけにはいかん。

 今日はディアちゃんに癒されてまた明日だ。

 そう思ってディアをお姫様抱っこで抱き上げた。


「ひゃぁぁ」

「さ、行こうか。約束通りここからは二人の時間だ」

「はぃぃ……」


 よいぞよいぞ。そうだな。そう言えばディアは出会った当初から恥ずかしがりやだったな。

 これは滾るではないか。さて、どんな事をさせてしまおうか。


 そんな事を考えながらも、出来るだけディアの希望に沿うように頑張った。

 余りの初々しさに、俺も釣られて少し緊張してしまった。

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