第74話外出が認められたという事は、遊んで来て良いと言うことだろう②
あれから数時間、森のネズミ半数近くを倒して、今日は終わりにしようかと問いかけたら、彼女達は泣きながら怒り出した。
「酷いですよ! これ、どうするんですか!」
「もうやめてって何度も言ったのに……」
えぇぇ、強くなりたいって言うから頑張って押し付けたのに……
そこから、解体地獄が続く。
俺も覚えさせられて閉門時間一杯まで永遠と解体する事になった。
それでも数体残り、その場を離れる際勿体無い勿体無いと呟きが響いた。
そう言えば、ラーサが言っていたな。持って帰れる分しか狩らないのが当たり前なのだと。
ハンターギルドのカウンターでおっさんに「こんなに量持ってこられてもなぁ」と渋られ、全部は買い取って貰えなかった。
それでも二人は、魔石だけでもいつもの数十倍だと大はしゃぎしていた。
残りは宿の女将さんに押し付けて部屋へと戻る。
信用が少しは出来たのか、彼女達も誘えばすんなり一緒に部屋に入ってこれからの予定を話し合う。
「えっと、まずはこれ、どうしましょうか?」
そうして差し出されたのは、今日の稼ぎだ。
大銀貨で一枚と銀貨7枚だ。あれだけ苦労してこれか……
「パーティーだし均等に分けようと言いたい所だが、まずは二人の服を買おうか。
女の子だしもうちょっと着飾ろうぜ?」
「え? いやいや、ランスロットさんが一番働いたじゃないですか」
「何言ってんの? 倒したの君たちでしょ?」
あれだけ酷いだのなんだのと責めておいて……むぅ!
ルイズちゃん元気かな……きっと今頃宿であんあん言ってるのだろう。
いかん。考えるのは止めよう。今は嫁が近くに居ないのだ……
「わかったわかった。均等に分けよう。それならいい?」
「……本当にいいんですか? うれしいですど」
そこで、後ろから戸の開く音がする。
「馬鹿だねぇルルは。借金あるのに遠慮してんじゃないよ!」
そこには、料理を手にした女将さんの姿があった。
さっき食材提供したから、気をきかせて作ってきてくれたのだろう。
だが、ノックくらいしようよ。
女将さんは「差し入れだよ」と料理をテーブルに置くと二人に掌を向けた。
「ほれ、二人とも半分よこしな。
はぁ……やっと少し回収出来るね。この調子で頑張りなよ」
あん? どういう事?
借金なんて言うから悪い人に連れて行かれちゃう的な発想をしたけど、どうやら違うらしい。
「その……恥ずかしい話、宿代が出せなくてつけって形で私とミィの二人で一部屋借りてるんです」
なるほど。
でも別々にギルドに来たよね?
「えっと、その……あの時は信用できるか分からなかったので……すみません」
「ああ、いいよいいよ。当たり前の事だし」
けど、次からはバレない嘘にしようね? 同じ宿に居たらバレるからね?
いや、嘘ではないか。言ってないだけ。俺がよく使う手だ。
それで女将さんとあんな感じの関係なのか。それならあの人は良い人っぽいな。
俺をパーティーに勧めたのも二人じゃ厳しいと心配してたのかな?
回収したのも半分だったし。
あ、これ結構美味しい。
野菜炒めプラスあの肉のサンドイッチを頬張りつつ色々納得した。
「因みにつけはどれくらいあるの?」
「……大銀貨で六枚以上です」
「ああ、なんだその程度か。んじゃ、さくっと稼いで払っちゃおうか」
と言うか俺が金を出してさっさと着飾らせたい。
この格好は問題がある。色々とだ。
だけど、この子の性格からして受け取らないだろうな。
安全面からそうする方が良いのだから、これを無理強いするのもなぁ。
「これからも今日みたいに一杯稼げるんですか?」
「いやいや、もっともっと稼げるから。
俺が二人を守れる限界まで引き上げれば一日で終わるよ?」
うん。一匹で終わる。
「中級より上に行くの?」
ありゃ、ミィが少し泣きそうな顔になってる。スパルタ過ぎたか?
そんなに不安そうにしなくても大丈夫なんだが……
でも、魔法で育成しちゃうと俺が居なくなってから苦労するだろうし。
どうやら、倒し方でステータスが自動振りされるスタイルっぽいし。
爪を選ぶなら種族特性生かして近接戦闘で育成するべきだし。
ああ、火爪渡してあるんだし、火に弱い所連れてけばいいか。
こっちは動物系多いし火に弱いのは比較的多いからな。
丁度いいのが居るだろ……って居るのか?
そう言えば、こっちはフィールドでも高レベルばかりじゃないか?
いや、ダメージさえ通れば問題ないか。押さえつけててもいいし。
あ、やべっ。考え事してたら二人とも俯いて無言のままだ。
「言っておくが、ダメージを喰らう場所には連れて行かないぞ?
怖いのは我慢して貰うしかないが」
「ホントにホント!?」
「ああ、本当だ。
それにあと二日くらいしたら俺は居なくなるから、それまでに自分達で稼げるくらいまで強くなって貰いたい」
「「えっ!?」」
あ、そうか。これ言ってなかったもんな。
まあ、一日目で言ったんだからまあ問題ないだろう。
「だから、余りあとの事を気にせず頼りまくっていいぞ。
そうだな……取り合えず帰る前に尻尾を堪能させてくれれば」
「あっ! いいよ? はいっ!」
そう言ってミィがお尻を向けてスカートを持ち上げながら尻尾をピンと上に上げた。
なに!? 早くも目的達成した。
と思ったら、お尻丸出し!? まあ、子供だしセーフセーフ。
「おお! じゃあ、ちょっと洗う所からさせてくれ。綺麗にしよう」
そして、俺は昔ミラと作った時の様に風呂を作成した。女将さんに頼んで暖められる魔道具を借りて良い感じのお風呂になった。
気にせずスッポンポンになって飛びこんだミィを持参の石鹸で綺麗に洗っていく。
「はーい、痒い所はございませんかぁ?」
「なーい! 暖かくてきもちぃぃー!」
ミィは素直ですっごい和むな。
ルルはかなり心配そうにしているが、流石に幼女に手は出さないよ?
まあ、下手にこの話題に触れても危険だから、行動で示すだけにするが。
大体綺麗になったので、タオルでごしごしと体中を拭いていく。
物凄い事案的光景だが、彼女の無垢な笑顔がその場の空気を浄化する。
「よーし、綺麗になった。後は乾かさないとな」
「大丈夫ー!」
ぶるぶると前進を震わせて水気を飛ばす。
「わっ、こらっ、冷たいだろ」
「あははは! わーいっ!」
「もう、ミィってば……」
ルルもこの光景になれたのか、諦めたのか、少し笑みを取り戻した。
そう、これを狙っていたのだ。
だが、まだルルにこれを勧めてはいけない。ゆっくり針に食いつくのを待つのだ。
もう俺は勘違いをしない。誘われていなかったのだ……
「ミィのしっぽどぉ?」
「うーむ……まだぬれてるな。よし、待ちついでにブラッシングするか」
「ぶらっしんぐ?」
万能スキル『クリエイトストーン』でブラシを作り、優しく櫛を通していく。
あれ? なんかルルが青い顔してる。これはダメなの?
「あぅぅ、何これ……気持ちぃぃ。眠くなる……」
うん。大丈夫そうだよ?
「ありゃ、もう寝ちゃったか……」
「あはは、疲れてたんでしょうね。どうしましょう?」
おろ? なんか普通に戻った。最近の子は難しい。
「まあ、暫くすれば起きるだろ。
起きないようだったら、悪いが連れて行ってやってくれ」
うーむ。この選択肢で間違ってないよな? セーブしたい、セーブ!
くっそう、リアルギャルゲ難しいぞ。
「そ、それより、ルルも洗ったらどうだ? 洗って……やろうか?」
……あっ、これ失敗した。早すぎた。
なにやらまた空気が変わった。
くっそう、あたりは来てたと思うんだけどなぁ。ロードだロード。
「えっと、私は大丈夫です。その、濡れちゃいますし」
ですよね。知ってた。表情でわかってた。
「ああ、そうだよな」
うっ、微妙な沈黙。嫁なら一緒にお風呂なんて言えば頬を染めてくれるのだが……
この顔は困惑と恐怖。どうにか払拭できないだろうか。
視線を這わせれば、気持ち良さそうに眠るミィが映る。
頼む、君の和み力をもう一度借りさせてくれ。
「そう言えば、二人は髪色が凄く綺麗だよな。
ミィは絶対洗えば綺麗な白になると思ってたんだ」
「え!? あ、はい。ミィはいいですよね。羨ましいです」
「いやいや、ルルもいいだろ。
綺麗な黒だ。洗えば絶対艶々して色っぽいと思うぞ?」
あっ、ヤバイ。色っぽいはダメだろ。ロードだロード!!
くっそう、メニュー画面ください。
「本気で言ってるんですか? 黒なんて人気ない色なのに」
なんだと!?
いやいや、髪って言ったら黒でしょ! いや、それは日本人だからかもだけど……
因みに何色が人気なの? 赤?
ほう、それもまた女性に映える良い色だな。
「わかった。じゃあ、髪の毛だけ洗わせてくれ。証明してみせる!」
「え? 嫌ですよ」
え?
ナチュラル拒絶!? 何かこの塩対応なつかしい。
いや、普通の対応とも言えるが。
「……ど、どうしても?」
「そ、そこまでじゃないですけど……どうしてですか?」
「そりゃ、折角可愛いのだし、勿体無いし?
もふもふに触れてみたいし? ホント洗うだけだよ?」
「何ですかもふもふって。
そこまで洗うだけだと言うなら構いませんけど」
おお! ちょっと困り顔だが了承は貰ったぞ!
セーブだ! セーブ! うん、俺の性欲をセーブ。
そして、下心を見せない様に強引に事を運び、再び湯を温めなおしてルルの髪を丁寧に洗う。
「あっ、ホントだ。凄い気持ちいい」
「だろう。ああ、痒かったり痛かったりしたら言えよ」
ゆっくり丁寧に洗い続け、拭く時も優しく水気を取った。
少し、服が濡れてしまったが、ちゃんと綺麗になったと思う。
「あれ? ミィ見たくぶるぶるしないのか?」
「しませんよ。というかそんな顔して、して欲しいんですか?」
「いや、やっと緊張が抜けたみたいだからホッとしてるだけ」
「……何で、そこまで良くしてくれるんですか?」
いや、そんな真顔で問われても……
なんて答えようか。三択くらいの選択肢ください。
「ほ、惚れてほしいから?」
うーむ、これならばきっと大丈夫。いや、そんなはずないよね?
駄目だ。この微妙に拒絶された空気が俺をおかしくする。
俺はプレッシャーにも弱いのだよ。
ムムム……まあ、大丈夫だろ。害は無いとわかって貰えば。
「……私たち下級ですよ?」
「何それ、関係あるの?」
「ほ、本気で言ってるんですか?」
どういう事?
教えてくれる?
ふむ、ふむ。
どうやら、この国は強さこそが正義で、モテ要素でもあるらしい。
それは男女問わずだそうだ。
『カルマの光』があるから気をつけていればそこまで手酷く虐げられる事は少ないが、さまざまな格差が生まれるらしい。
ほ、ほほう、モテ要素とな。これは是非マスタークラスとやらにならねば。
「強さなんてどうでもいいよ。誰だってやれば強くなれるんだし。
俺は精神的な繋がりの方が大切だな。あとエロさとか」
あっ、しまった。ロード……
エロさとか……これは致命的だ。死んだ。
「けど、それだけじゃ生活出来ませんよ。ううん。出来ても嫌な思いを一杯します」
なにっ! 大丈夫、だと!?
俺はどうやら失敗を乗り越えたらしい。
などと考えていたら、ルルは更に語る。
鍛冶師とか、魔道具師とかそういった需要の高い職業にでも就かない限り、弱い者に幸せなんてないのだと。
聞けば、国の継承権すらも、王族の中で戦い奪い合うのだとか。
「そんなんでよく国が成り立つな。まあ俺強いし、そんなのどうでもいい」
なんか、余りにルルが頑ななので、ちょっと偉そうに強引な言い回しをしてみた。
「そう、ですよね。強ければ何でもありですもんね……」
あちゃぁ……結局そこに戻るのね。言葉間違えた。
まあ、それでいいや。
強くするつもりだし。別にこの国の常識なんてどうでもいいし。
それよりも、髪が乾いたみたいだし、仕上げで結ってあげよう。
ミラとの同棲生活の頃から嫁で鍛えたこの技術、とくと見よ!
と言っても余り難しいのは出来ないけど。
両サイドに細い三つ編みを作り、後ろでかなり緩く纏めた和風の清楚なお嬢様仕様の髪型を作った。
うむ。かなりいい。だが、お洋服が頂けない。
これじゃエロ過ぎるんだよ!
だって、こんなお嬢様風なのに猫耳つけて囚人服だよ?
『さらわれた女子高生お嬢様、拉致監禁され数年後編』だよ……
「さ、さて、出来たぞぉ?」
「無理しなくていいですよ。
私が綺麗にしたくらいじゃ良くならないのは知ってますから……」
む、エロい事を考えていたら、違う方向に話が流れてしまった。
ちょっとぉ、誰か鏡持ってきてぇ!
って、少しだけならミスリル持ってたよな。この装備加工して鏡にしよう。
「ほれ、見てみ。これが可愛くないって言うなら感性疑うぞ!?」
顔だけなら何処からどう見ても、正統派美少女である。
「うそっ!? わ、私だ……」
わ、私だ、って……表情動かして確認せんでも……
あ、鏡見たこと無いのかな? 高そうだしその可能性はある。
「……これは身体で払えって事ですか?」
「ちょっと、いい加減にしようか。俺はやりたいんだからね?」
「……何をですか?」
嘘です。逆に和むかと思ったんです……睨まないで下さい。
「ご、ごめんなさい。わかってて聞きました。
でもそれは爪が壊れちゃった時だって……」
「ちょちょちょ、違うから。性欲を煽るような事言わないでって意味だからっ!
いいよって言わない限り、ちゃんと我慢するから」
「え? その為に格好を整えさせたんじゃないんですか?」
あー、そうか。
そういう風に繋がってあんな返し方したのか。
「うむ、間違っているぞ。ルルよ良く聞くのだ。
ミィの寝顔は可愛いな? そして癒されるだろう?」
「はい。気持ち良さそうですし、可愛いと思います」
「うむ。それと同じ事が俺にも起こる。ルルを見ていてもだ。
目の保養になるんだよ。それがこうして戯れながら髪を洗うだけで得られる。
やらない方が勿体無いとは思わないか?」
まあ、可愛い女の子の髪を洗うとか、ご褒美だし?
それがケモ耳っ子だぞ?
金払うわっ!
「なる、ほど……少し、わかった気がします。
思ってたよりは私の外見も飾ればまともな様でしたし」
「良かった。
まあ、ルルは疑り深い様だから、強者の戯れとでも思っておけばいいよ。
どうせ長い間じゃないし」
「いやぁ、それにしても自分から強者とか言うの結構抵抗あるなぁ……
まあ、何にせよ最初からやらせて貰えるとか思ってなかったし。
きゃっきゃうふふな空気で尻尾を堪能させてくれればいいんだよ」
「あ、そうだったんですね。疑ってばかりでごめんなさい。
さ、触りますか?」
あー、また声に出してしまった。
どうも嫁との会話でこれが普通になっちゃって気を抜くと口に出ちゃうんだよな。
あの子達は俺の気持ちちゃんと考えてくれるから、そうしてた方がお互い都合が良かったから癖になっちゃってるな。
って、ちょっとルルちゃん!? なにしてんの!?
ぐはっ、何これやばい。エロ過ぎる!
服に尻尾穴なんてないものだからお尻が出ない様にスカートで隠しながらも半分くらい出ちゃってる。
あれ? これ下着なくね?
「そ、その前に綺麗にしたいな……」
「あ、すみません……」
いや、別に汚いとかそういう風には思ってないよ?
そんな顔しないでよ!
「いや、責めてないんだってば!
このままだと絶対手を出してしまうからっ!
こんな状態を続けて我慢なんて出来る訳ないだろぉぉぉ!
別の事して気を紛らわせたいんだよぉぉぉ!」
「ご、ごめんなさい」
もう色々遅いので、心の声そのままに叫んだそのとき、ガチャリと戸が開く音がした。
「あんたら、煩いんだよ。初々しいのはわかったけど、もう少し静かにやんな。
あんたらだけじゃないんだから」
「「す、すいませんでした」」
とても気まずい空気になり、今日はお開きにしようかとミィを隣の部屋に寝かせて解散した。
俺の目はギンギンに冴えていた。
ヤバイ。これ、ミラの時を思い出す。
黒髪猫耳美少女とか、反則でしょ……
次の日の朝、若干の眠気を押して、ハンターギルドへとやってきた。
今日は遅刻していない。だが、やはり混み合っていた。
「おっ、あんちゃん、今日はどこいくんだ? もうネズミの肉はいらねぇぞ?」
「あー、昇格試験ってどれくらい時間掛かるかな?」
「あん? 三十分くらいじゃねぇか? まあ、戦闘時間によるけどよ」
そのくらいなら、待っててもらえるかな?
「ちょっと受けてみてもいいかな? すぐに狩り行きたい?」
「え? 昇格できるんですか!? それならした方がいいですよ!」
「ミィも見たい!」
ふっふっふ、これであのアホ毛の子にリベンジできるぜ!
さりげなく、ハンター証見せれば相手してくれるはず!
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「おう。うちのギルドマスターが力見てくれっからよ。
マスタークラスだから強えぇけど頑張れよ」
ほほう。こっちの人の強さも見れるし丁度いいな。
「あ、そうだ。昇格試験にゃ、大銀貨で五枚掛かるが、払えるか?」
ちょっと、あとだしすんなよ。
あー、魔石はまだあるから大丈夫か。
「んじゃ、これ換金して」
と、適当に取り出したらラミアの魔石だった。
やべぇ、これじゃちょっと大きすぎる
ちょっと待った。こっちじゃない。あったあった。
「ちょっと待った。ごめん、こっちで」
死の谷の低層の雑魚魔石を三個だした。
マスターなら150レベル前後の魔石でも不思議はないだろ。
「いや、あんた、それ……どこのだ?」
「まあ、強い所?」
「……簡単には教えてくれねぇか。
ダンジョンなら場所によっちゃドロップ情報も買う。気が向いたら声掛けな」
セーフの様だ。
ボスが異常に大きいから、弱い所のボスとも取れるしな。
受付のおっさんはお釣りだと金貨一枚と出すと呼んでくると奥へと引っ込んでいった。
暫く待てば、外見年齢二十歳くらいの女性が現れた。
「貴方が挑戦者ね? 準備はいい?」
「いいですけど、ここでですか?」
話が早いのは有り難いけど、まだ後ろでは決闘が続いているよ?
皆、何故こんな狭い所でやりたがるのか。
「まあ、見せたがらない奴も居るけどちゃんと示して貰わないと受け入れられないからね。昇格したいなら諦めて戦いなよ」
おおう。無駄な深読み乙。
「まあ、かまわないんですけどね? それで、どうなったら終わりなんですかね?」
「へぇ、吼えるじゃない。別にいいわよ?
死んでも文句は言われないから全力で来なさい。
私は、試験料金の分、命だけ取らないであげるから」
ほ、吼えるじゃないとか言われちゃったぁ!
ちょっと面白いぞこの人。何かミレイちゃんっぽい可愛さがある。
戦闘にかこつけて悪戯したい所だが、皆見てるもんな。
「それで、貴方獲物は?」
「えーと、取り合えずこれで。昇格できなければできないでいいので」
ちょっとカッコつけて握りこぶしを見せてそう告げてみた。
彼女は爪を装着しながら鼻で笑う。
「まあ、それでいいなら私も仕事が楽でいいわ。じゃ、いつでもいいわよ」
さて、どのくらいのレベルで攻撃したら良いのやら。
あんまりに弱く攻撃して速攻で『ハイ駄目ぇ!』とか言われても嫌だし。
ディアの父ちゃんレベルで行くか。
「では、いきますよ」
多分これくらいだったと、ワンステップで近寄り軽くジャブを放つ。
「はっ、速いっ。ぎゃっ!?」
ギリギリの所で片腕で防いだが、そのまま後方に飛ばされつつも、倒れずに態勢を持ち直した。
あ、やばい、やり過ぎたか?
ありゃ、ガードした腕が折れちゃったっぽいな。
「お、終わりでいいですかね?」
「ふ、ふざけないでっ! これで終われる訳無いじゃない。今度はこっちの番よ!」
えぇぇ、ガチ切れすんなよ……試験なんだろ?
彼女は腕を振りかぶり爪で攻撃をしてきたが、想定していたよりも遅すぎた。
こいつこれでSランクなの?
爪って事はスピード特化だぞ?
いや、この世界で言えばそれが主流とも限らないのか?
取り合えず、これ以上怪我を負わせず終わらせたいので『パリィ』からの顔面パンチ寸止めでもしようかと思ったのだが……
「『パリィ』」
「ぐはぁぁぁぁぁ」
彼女は、空中で錐揉み回転して天井にぶつかり、地に頭から落ちた。
あれ? どうしてそうなる。
あっ、そうか。ディアの父ちゃんレベルでの速さについて来れてなかったのに、その想定で力込めてスキル使っちゃったからか……
なるほど。ダメージの無い『パリィ』でも力入れすぎたらこうなるのね……南無。
嫁達の育成には傷つけない様にハリセン使ってたからなぁ。半分ネタだけど。
「決着で良いですよね?」
「……反応ねぇし、疑いようがねぇな」
問いに言葉を返したのは、受付のおっさんだった。
良かった。問題無く昇格できたっぽい。
「「「うぉぉぉぉ」」」
え? なんぞ!?
いきなり、観衆が沸いた。
決闘すら止まっちゃってるけど、こいつがそこまで強い扱いなの?
それじゃ、この地のレベルで生きていけなくない?
あ、聖光石の力があるから生き残ることは出来るのか。シャイニングストーンと同じなら獣人国も一個持ってるはず。
とはいえ、あれが効力持つのって王都くらいの面積だろ?
その前に、ここの町じゃなかったと思うんだが……
「あんちゃん、とんでもねぇな。
あれでもうちのマスターはこの都市のハンターギルドで五本の指に入るって言われてんだぜ?」
マジかよ……
こっちも、強い奴はそんなに居なそうだな。
安心した様な残念な様な……
「ま、これなら文句なしで昇格だな。ほれ、ハンター証だ」
「あ、どうも。んじゃ、行こうか」
「マ、マスター昇格だったなんて聞いてませんよ!? だって、中級だって……」
え? 差が有りすぎると組んじゃいけないとかあるの?
そういう事じゃない? 恐れ多くて一緒に行けない?
「いやいや、約束しただろ? 強くしてやるって。いいから行くぞ」
むむ、モテるって聞いたから受けたのに。距離が開いちゃうとか……
仕方が無いので少し強引に背中を押すようにハンターギルドを出る。
そして、やっと彼女たちも自ら歩き出した所で女性三人組に声を掛けられ足を止めた。
「ねぇ、さっきの見てたよ。すっごい強いね?」
おお、モテるって本当だったのか!?
こういう時は……嫌味じゃない程度に謙遜か?
「えっと、そこまででもないよ?」
「うわぁ、ギルドマスターが聞いたら泣いちゃうね。ほらっ、強者はもっと堂々としなきゃ」
お、なんだなんだ? いきなり距離が近いぞ? 尻尾もぶんぶんだ!
うむ。犬系か。これもまた可愛いな。
「ねぇ、そんなどう見ても下級の奴なんて放っておいて私たちと行こうよ。
一応もうすぐ上級だしさ。ね?」
「そうそう。下級との約束なんてどうでもいいじゃん。
ぶっちぎっちゃおうよ。てかお前らめざわり、早く消えろよ」
あー、これがなければなぁ。宿を教えてもらう所だったのだが。
「ごめん。俺さ、身内を悪く言われるの嫌いなんだ。
俺と敵対したくないのならやめてくれる?」
おおう、距離が離れてく。終わった。俺のモテ期。
「え? あ、も、もしかして家族とか?」
「えっと、あはは、ごめんなさい。い、行こう」
「うん。怒らないでね?」
ほっ、王女みたいなのじゃなくて良かった。
一応「もうやめてくれればそれでいいよ」と笑顔で手を振っておいた。
まあ、もう近寄ってこないだろうな。
ああいう事言うやつは近くに置きたくないからいいけど。
「良かったんですか? きっとすぐに尻尾触らせてくれましたよ?」
お、それはあれかな? 私と違って尻の軽い女だと言外に言いたいのかな?
「俺は、ああいう風に人を見下す奴嫌いなんだよ。その前に約束もあるしな」
「ミィもホントはああいうの嫌い。嫌な気分になる」
「だろぉ? と言っても、この街全体がそうなんじゃ慣れるか強くなるしかないし。
さっさと狩り行こうぜ」
ミィの「わかったぁ」と間の抜けた声が響くと、ルルも少し気を取り直した様だ。
そして、都市を出て直ぐにルルに壁ドンしてみた。
さっき強い所見せたし、ちょっと押してみようと思ったのだ。
ほら、マスタークラスになればモテ期到来らしいし?
「ルル、抱きしめてもいいか?」
「え? 普通に困りますけど」
駄目だった。
知ってた。俺じゃ無理なの知ってた。
「何でですか?」
「いや、二人が良ければ、俺が抱きかかえて移動しようと思って……
それが出きれば直ぐに狩場に着くからさ」
「あ、そういう事でしたか。構いませんよ」
え? じゃあ何で断ったの?
いきなりこんな所でそんな事を言われても普通断る?
うん。考えてみたらそうかもしれない。
「ミィもいいよぉ?」
「おお! ミィは優しいなぁよーしよしよし!」
「わふっ、わふっ!」
耳の辺りを優しく引っ掻くように撫で回したら、くすぐったいのか変な反応をした。
すっごい可愛い。萌える。
もう我慢できないと抱き上げてくるくると回る。
キャッキャとはしゃいで居たら、ルルに疑問を投げかけられた。
「どうやって二人も抱えるんですか?」
「それはこうやってさ」
「きゃっ」
両腕に座らせる様に持ち上げてそのまま走り出した。
本当はだいしゅきホールドをして欲しいが、頼んでも無駄だろうと口にもしなかった。
高速で景色が流れていき、暫く走ると狩場に到着する。
怖かったのか、結局強く抱きついてくれて、色々捗った。
「ど、どんな脚力してるんですか……ビックリしましたよ」
「ふはは、こんな脚力だな」
と、多少力を入れてしこを踏んでみたら、ズンと地が揺れた。
「……本当にマスタークラスなんですね」
ルルは未だに信じられないといった顔をしている。
だがそれは、俺の事が信じられないと言うより、どうして自分に良くしてくれるのか。そっちの方にシフトはしてくれたようだ。
これは勘違いではないだろう。
ルルが「貴方に何の意味があるんですか?」と、嬉しいけど困ったなと言った顔で言葉を続けたから。
よし。じゃあ、この調子でいってみよう。
「じゃあ、始めるぞ」と、声を掛けて狩りをスタートさせた。
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