第75話外出が認められたという事は、遊んで来て良いと言うことだろう③


「き、気持ち悪い」

「いや……そこは我慢してくれよ」


 彼女の第一声はそれだった。

 俺の事ではない。連れて来た狩場、その魔物の外見を見ての話だ。


 アシッドウルフ。


 溶けて皮膚が所々剥き出しになっている。不死系統で簡単に言うと狼のゾンビだ。

 火にとても弱く、武器との相性が良いのでここにした。


 魔物のレベルは140レベル前後。

 彼女達に倒させるにはかなり時間が掛かりそうだが、一方的に殴れればやれ無い事はないだろう。


「やだっ、これ速過ぎないですか? どう考えても無理ですよ!?」

「大丈夫。『ストーンウォール』『クリエイトストーン』」


 石でアシッドウルフを包み顔だけ出した。


「さあタコ殴りにするのだ」

「……これで本当に強くなれるんですか?」

「ミィもこれはちょっと……」


 渋る彼女達に「いいからやって。ちゃんと戦うのは明日だから」と言い聞かせて取り合えず殴らせた。

 一匹倒すのに時間がかなり掛かったので、鏡を崩してミスリルでブレスレットを作り、ダメージ特化と無詠唱付与をして渡した。

 そして、爪スキルである『パワークロウ』『ダブルクロウ』『ダブルステップ』を教える。

 そこからはアシッドウルフの顔面に『ダブルクロウ』連打だ。

 永遠と往復ビンタされ続けるウルフに全員で同情しながら狩りを進めた。

 こいつらは食えないし、買取の素材も無かったので魔石だけ。

 気持ち悪いが彼女たちが放置を嫌がったので俺が回収を担当した。


「倒すのが凄い早くなりました。これって強くなったってことですか?」

「攻撃力はね。戦闘技術が無いから、それを明日学んで貰う」

「ミィ、心の訓練かと思った」


 どうしてもミィは一方的に攻撃し続ける事に抵抗がある様だ。

 気持ちはわかる。

 けど、自我も無く問答無用で襲ってくる魔物なんだし気にすんな。

 そんな会話を続けながらも、狩りは続く。


 そして、とうとう日が暮れてきた。


「そろそろ終わりにして戻るか」

「あ、そうですね」

「また抱っこ?」


 おうっとミィに言葉を返すと飛びついて来た。受け止めて二人とも抱きかかえて走りだす。

 都市の入り口に近くなると、少し焦ったようにルルが声を上げた。


「あの、そろそろ降ろしてください」


 まあ、もうここまでくればと彼女を下ろしてギルドへと向かった。

 そして、変わらずおっさんが受付に座っていた。彼しか居ないのだろうか?

 そんな事を思いながら、今日の戦利品である、魔石を出した。

 何故か二人は近寄ってこない。

 昨日は荷物が一杯あったからなのか?

 もしかしたら、絡まれるかも知れないと心配しているのかも。


「へぇ、こりゃすげぇ。昨日の大きさ変わらねぇのが……八十五か。

 ちっと待ってろ」


 そして、差し出されたのは金貨四十二枚と大銀貨五枚だ。

 それを受け取って、取り合えず服を買いに近くの店に行こうと思ったのだが、何かルルの様子がおかしい。

 

「どうした?」と尋ねるが「何でもありません。その、早く帰りませんか?」と返事が帰って来た。

 良く分からないが、ここに居たくなさそうだったので、先に宿に帰して少し買い物をして宿へと向かった。

 買った物は布ととうとう尽きたミスリルだ。


 帰る途中、なにやら言い争っている男女が目に付く。


 どう見てもその片割れはルルだった。

 だから途中で降ろしてと言ったり、そわそわしてたりしていたのか。


 それで……身持ちが固かったのか……


 目に光を失い、地に膝を突いた。

 だよなぁ。お年頃であの可愛さだもの。そりゃ男の一人や二人いるわ。


 きっとあれだよ。

 俺とパーティー組んだのも、つけがあるのに断れないって思って女将さんの言葉で仕方なしにだったんだ……

 そう思って踵を返そうとした時、足が止まった。

 男がルルを殴ったのだ。


 はぁ? 何してくれちゃってんの?


 即座に『隠密』『音消し』を使い距離をつめて話を伺う。

 すぐにでも出て行きたい所だが、これでもし助けに入って男の味方をされたら心が死んでしまう。

 俺はちょっとだけ豆腐メンタルなのだ。そう、ちょっとだけ。

 だって、昨日あんなに欲情した相手なんだよ? 普通無理じゃん。


 と思っていたら、再び会話が再会されていた。

 胸倉を掴みあげて、殴る姿勢を見せるクズ男。


「お前誰に反論してんの? 良いから言うこと聞けって言ってんだろ?」

「無理だよ。マスタークラスの人だよ?

 こんなに良くして貰ってるのに騙せないよ」


 あぁぁ……やっぱりそういう感じか。 

 ヤンキー男にはまっちゃって美人局させられそうになっている清楚お嬢様的な……

 だけど、良かった。ルルは逆に嫌だって抵抗している側か。


「はぁっ? お前、その男とやったんか?」

「してない!! ホントだよ!?」


 あう、切なくなってきた。

 何か二人は関係がありそうな御様子。

 帰りたい……けど、心配で帰れない。最近こんなのばっか。


「なら、何で肩持ってんだよ! お前まだ殴られたいの?」


 うーむ。決定的な証拠でも出れば、俺が被害者なのだしぶっ飛ばしてもいいよね?

 こいつ、すげぇむかつく。


「もうやだぁ。もう関わらないでよぉ……お金なら渡したじゃない」


 あ、れ? 彼氏じゃないの? 元彼?


「ふざけんなよ、雑魚の癖に! ぶっ殺されたくなかったら言う事聞けよごらっ!」


 再びルルを殴ろうとした手を受け止め、男の前に立った。


「はいはーい。ストップストップ。こんな所で女に手を上げてんじゃねぇよ」


 颯爽、登場、俺参上!

 ルルが関係を絶ちたいのなら、何も怖いものはない!


 はっはっは、彼氏じゃなければさっさと死ね! いや、殺しはせんけど。

『ソナー』ありゃ? これは……初めて見るな。薄いオレンジ?

 まあ『カルマの光』は別にどうでも……

 いや、まだ魔人国入ってないから一応クリーンでいたいな。

 でも、手を出してはくれないよなぁ。結構頭きてんだけど。

 あ、ルルが青い顔で固まってる。まあ、ちょっと待っているのだ。問題ないのだ。


 この状態だと何処まで平気なんだろうか。

 一応反応はしてるんだよな。


「なっ、誰だてめぇ! 何処から出てきやがった。離せっ! ぶっ殺すぞっ!!」


 え? マジで? 顔は知らないの?

 爪つけて攻撃してきちゃったよ。あ、やったね、赤くなった。

 これで好き勝手こっちも攻撃できる。

 取り合えず、掴んでる手を握りつぶしておくか。


「誰だなんて聞くなよ、お前が騙せって言った男だろ?

 あと今のでカルマの光の判定で敵対関係になったからな?」

「ぎゃぁぁぁ、腕、腕がぁぁっ!」

「『ヒーリング』それで? お前はなんなの?」


 お、やっと俺の事を理解したらしい。


「ち、違う、俺じゃねぇよその女が悪いんだ!」

「待て待て、俺はもう全部聞いてる。ルルはちゃんと断っただろう?

 何故悪いんだ? 理由を言えなきゃお前の事はぶっ殺してもいいよな?」

「金……そうだ! 借金があんだよ! これはマジだ、証文もある!」


 ……意味がわからん。仮にルルに借金があっても、お前が俺を騙せって言ったなら悪いのはお前だろう?


「意味がわからな過ぎるな。もうちょっとわかる様に話せ。

 取り合えず、次意味分からない事言ったら足が無くなると思え」

「ま、待ってくれっ、違うんだ。俺だってやらなきゃ殺されちまうんだよ!

 だから、待ってくれって……な?」


 なんか頭来た。肩を掴んで来て、な? って何だよ!?

 意味がわからなすぎる。けどもうちょっと情報が欲しい。

 そうだ、五十点って事にしよう。なので足を反対側に折ってやった。


「『ヒーリング』取り合えずわかりやすく話せと言った筈だが、聞こえなかったか?

 もう一度だけチャンスをやる。お前が依頼された内容を話せ。

 ルルに手を上げたお前を殺す事に何の忌避感もねぇぞ?」

「ご、ごめ、ごめんなさいっ。お、俺はジャックさんに命令されただけなんです。

 良いもんつけてるから盗んでこいって……」

「良いもんって何?」

「そ、その……赤い爪だって言ってました……」


 え? それ、ルルが付けてるじゃん。あ、今は袋にしまってるか。


「んじゃそいつに言っとけ、やるなら堂々と来いって。

 決闘で爪を賭けるってんなら受けてやるから、ルルに手を出すんじゃねぇってな」

「か、勘弁してください。そんな事言ったら殺されちゃいます」

「はぁ……じゃあどうやったらそいつに会えるの?

 お前が言ったとは言わないでやるから教えろ」


 それから、そのジャックという男の居場所を聞いてルルの借金を肩代わりして、取り合えずルルに土下座させて開放してやった。


「これからルルには借金を返すまで俺のいう事を聞いて貰うとしよう。付いて来て」

「はい……」


 あれ、なんかルルがまっかっかだ。

 いや、そんな事より取り合えず説教だ。

 あんな男に引っかかるんじゃないと。

 なんであれに引っかかって俺はダメなんだよと!

『理屈じゃないの』なんて言われたらどうしよう。


 と思ったが、その前に付いてこない。仕方がないので優しく抱き上げたらド忘れしてる事に気がつく。回復するの忘れてた。

 ルルに『ヒーリング』を掛けて宿の俺の部屋へと戻った。


「さてルル君。キミは何であんな男を好きになっちゃったのかな?」

「えっ!?」

「ほら、言ってごらんなさい?」

「なってませんけど……」

「ん?」


 あれ? 何かがおかしい。めっちゃ真顔だ。


 なんであんな事になってたの?


 ふむ、ふむ、なるほど。


 どうやらあれはただの詐欺師だった様だ。

 騙されて借金背負わされて集金に来る度に『ヤラセロ』と執拗に付きまとわれていたらしい。

 強姦もカルマの光に触れるから、返済をしつつしっかりと断っていたのでそういう事もないらしい。だが、殴った時点で駄目なんじゃないの?

 そう問いかけたが放置しても自然と治るレベルの怪我なら問題ないらしい。

 

「そうだったんだ……」


 余りの勘違いに唖然としていると、ルルは深く頭を下げて「ごめんなさい」と謝ってきた。


「何に対しての謝罪なの?」

「私たちが爪を隠してなかったからこんな事に巻き込んじゃいました」

「いやいや、それを言ったら俺なんて何なの?

 ルルのより遥かに高い装備で全身包んでるよ?」


 まあ、装備の格的には同程度なんだけどね。火爪人気無いから。


「でも、それは強い人だから……」


 なるほど。確かにこんな国で弱いとそういう工夫が必要になってくるのか。

 これは間違ってるから堂々と持ち歩けとは言い辛いな。後の事もあるし。


「じゃあ、それは良いとして。

 さて、借金を今日中に返してもらうとしようか。フフフ。

 おーい、ミィ、おいでぇ~」

「え? あの、ミィだけは……あの子は関係ないんです」


 と、懇願するルルだが、バタバタと駆けずりながら話し合う時間もなくミィが登場した。


「おかえりぃ」

「おう、ただいま。今日の山分けするぞ」


 そう言って、金貨14枚ずつと大銀貨一枚配った。


「残りの大銀貨一枚は俺が貰っておくとしよう。魔石抜くの頑張ったし」


 あれ? 二人は何で黙ってるの?

 少なくともミィは喜ぶと思ったんだけど……

 何でそんな警戒心マックスなの?


「このお金……なに?」

「いやいや、今日の狩りの稼いだ金額の山分けだっての!」

「「ええ!?」」


 そこから気が付いてなかったのね。


「ほれ、はよう借金返せ!」


 うん? 何で全部出すの?

 ほい、三枚回収。


「もう、立て替えさせる様なヘマはするなよ?」

「ほ、本当にいいんですか? だって……」

「こんなに持ってるの怖い……」


 流石にそこは俺に言われても知らんがな。自分の金なんだから好きに使ってくれ。


「それとだ。今日は稼ぎが良かったから、プレゼントがある」


 そう、こいつらを着せ替え人形にして遊ぶ為に、肌触りのいい布を買ってきたのだ。試したら『クリエイトレザー』で弄れるみたいだし。

 俺好みの服を作って差し出してみた。 

 ルルには黒に赤いスカーフの旧式セーラー服。

 ミィはフリフリの白黒ゴスロリドレスだ。

 うむ。なんて便利なスキルだ。想像を再現してくれるとか最高だろ。


「まあ、見てたからわかると思うけど、俺がスキルで作ったから安物だ。

 着て見せてくれる?」


「すごーい、何かふわふわぁ!」ミィは渡した服に頬ずりをして声を上げる。


 あ、そういう感想なのね。

 見た目を褒めて欲しかったけど。


「凄い、さらさらしてます。えっと、着ていいんですか?」

「おう、見せてくれ!」


 と、深く頷くと、目の前で二人は着替えだした。

 なん……だと……

 これは凄い。うむ、とても興味深い。

「……もう一着作っていいかな?」


「え? やっぱり私が着ても駄目でしたか」

「ルルちゃん可愛いよぉ?」

「ああ、ミィも可愛いぞ。ただ裸が見たかっただけだ」


 あっ、いや……もういいだろ。俺よく頑張ったよ。

 どうせ明日一度帰る予定だし。もう耐えられねぇし。性欲耐性装備ほしいし。

 やばい。早く会話を流さねば。

 そうチャットログの様に。


「えっと、まあ、取り合えず鏡で見てみ?」


 早速買ってきたミスリルで大きな姿見の鏡を作って二人に自分を見せた。


「わぁぁぁ、ミィお姫様みたーい!」


 おう。この素直な幼女が言うとこんな言葉も可愛く聞こえるな。

 あ、なんかルルがまた赤くなってる。自分に見惚れたのか?

 もうちょっと自信持った方がいいので俺も褒めておこう。


「ほら、最高に可愛いだろ?」

「えっ!? あ、ありがとうございます……

 あ、あの、今日もその、お湯をお願いできませんか?」

「おお、いいぞ。ルルも目覚めてきたな」


 そうして湯を用意したのだが、何故かルルはミィに先にと勧めた。

 大喜びで脱ぎだして「洗ってぇ」と強請る。


「おう、いいぞ。ほれ、頭だせ」

「はーい!」


 そうして洗い終わるとブラッシングも強請られ、櫛が通りやすくなった頃にはもう寝ていた。


「一度、ミィを部屋に寝かせてきますね」

「ああ、もう殆ど乾いてるけど、このままじゃ寒いもんな」


 ルルがミィを抱っこして部屋を出た。

 一人になり、自然と色々思い浮かべてしまう。

 うーむ……黒髪猫耳のセーラー服の清楚系美少女と夜の宿で一緒に居ると思うと……駄目だ! 考えるな!


 今だけはダメだろ?


 だって今は言えないじゃんよぉ。

 今『ヤラセロ』なんて言おうものなら、ルルの心の中であのカスと同格になるんだぜ?

 待てよ……俺はもうクソ野朗だしあるいは……待て待て待て待て!

 だ・め・だ・ろ?


 悶絶しながら煩悩と戦っているとルルが戻ってきた。


「あの、私も今日は全部お願いしてもいい……ですか?」

「おう、おう? おう、おう?」


 おう? どういう事だ?

 まさか、今日は言う事を聞けとか言っちゃったもんだから?

 ここは顔をよく見て、どういうつもりなのだかを知らねば。


「あの、そんなに見られると恥ずかしいです」

「ご、ごめん」


 な、なんだこれ! 空気が……あ、あ、あまーーーーーーい。

 これはいっちゃっても良いんじゃないでしょうか?

 いや、待て。まずは洗ってからだ。

 うむ。真偽を確かめなければならぬ。


 そう、俺はミラに学ばされた。

 そして、教訓として心に刻まれたのだ。思わせぶりを真に受けるなと。

 あのアホ毛の子に誘われて居なかった事ではっきりと思い出したぜ。

 そう。今は無心で洗ってあげればいいのだ。


「はーい。痒い所はないですかぁ?」

「はい……気持ちいいです……」


 そう、こうして突き出された頭を優しく洗いながら……

 ん? 何か肌色が多いな……

 って、服脱いでるーー!! 何も着てないーー!!

 俺の無心返してーー!!


「あ、あのう、ルルさん?」

「え? あ、はい?」

「えっと、その……これは良いよって合図?」

「えっと、まあ、はい……」


 もう駄目だ。止まれない。いや、止まる必要が無くなった。

 俺はそのまま桶を拡大させ、二人で悠々と入れる広さまで広げた。

 即座に俺もお風呂へとインする。


「あの、私、経験ないので……その……」

「ああ、任せろ」


 もう俺は童貞ではない。

 そして、もっと酷い性欲地獄を知っている。

 数十分理性と激闘を続けながらも、優しく導いてやるくらい朝飯前だ。

 あ、朝飯前もまたしよう?

 だ、だめか。ミィの教育上良くない。


 この日、俺は属性盛りだくさんの美少女を堪能した。

 美少女お嬢様、猫耳、借金娘、囚人服からのセーラー服、ガード固い系からの攻略してみれば従順すぎるという素敵要素まであった。

 これが素敵じゃないはずが無かった。

 ちょっとハッスルしすぎたな。

 うむ、これはいいものだ。


 だが、不安要素もある。

 この先、どうすればよいのか……

 流石に帝国には連れて行けないだろう。ミィも居るし。国際問題もある。

 というか、紹介するの怖いし。


 とは言え、やり逃げはしたくない。と言うか一生面倒みたい。

 うむむむ。

 なんかいい案は無いかな……


 大切な事だ。深く考えてみよう。


 えっと、ソシャゲーとかだとゲットして使わなければ倉庫にぶち込んでおけば……

 いやいや何を考えているんだ。

 む・り・だ・ろ?

 この考えはダメだ。発想が酷すぎた。


 えーと、単身赴任で転々と妻を作る感じ? 

 いやいやいや、それ絶対、破綻するから!


 洗脳でもできればあるいは……

 いや、精神魔法系はもうこりごりだ。関わりたくもない。


 何か良い案はないのか。軍師、軍師はおらぬのかぁぁ!?

 はい、居ませんね。

 俺はあれだ。将軍どころか一平卒タイプだし。


 一平卒……兵隊……あっ! それだ!

 世界を救う為、その育成の為に全員で一緒に住む。

 そんなスタイルでいけば、きっと大丈夫。

 うむ。うむ。これならきっと許される。


 ってそんな訳あるかぁ!

 もう体の関係持っちゃってんだよ!

 だがしかし、他に案が無いのも事実。


「どうか、したんですか?」

「おうわっ……お、起きてたの!? な、なんでもないよっ!?」


 もう寝てるかと思ったのに……まさか、聞かれてたか……


「やっぱり、行っちゃうんですね。

 けど、私の事を連れて行きたいと思ってくれて嬉しいです。

 このまま捨てられる覚悟もしていたので」


 おうふ。これはもう全部言うしかないか。


「あー、うん。俺さ、実は嫁が一杯居るんだ――――」


 恐る恐る全てを話した。

 異世界から来て、今までにあったことをぽつぽつと。

 後になって言えば言うほど良くないとユーカに学ばされたのだ。

 逆に全てを知って貰い、自分の意思で先を決めて貰う方が負担をかけないで済む。


「それで、こっちの事知らなかったのですね。

 貴方に出会ってから、驚かされてばかりです。

 あ、あの……私はたまにでも会えればいいですよ?」


 予想外の返答に「え?」と声を上げると、彼女は頬に優しく触れてきて

「それでも……少しの時間でも私は貴方と繋がりを持って居たい」と泣きそうな顔で言った。


「わかった。ルルも嫁の一人と思っちゃってもいいか?」

「うれしいです……大好きっ!」


 あれ? 怒られない……

 少しくらい嫌な顔はされるかと思ったんだけど。


「あ、こっちと常識が違うんでしたよね。

 こっちではマスタークラスともなれば結婚相手を一杯作るのは当たり前ですよ?

 稼ぎで養えるだけ増やすという人も居るという話も偶に聞きます。

 逆にトラブルの話も絶えませんが」


 なんだってぇ!

 ふむ、獣人国、良い国かもしれない。


「じゃあ、もう離さないからな」

「はい。一杯相手が居るのは構いませんけど、忘れず会いに来て下さいね?」


 当然だ。だがそうなるとあれだな。移動が大変だ。ドラゴンが欲しい。

 俺は、そんな事を考えつつ眠りに付き、夜を明かした。

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