第72話二週間の外出が認められた。


「さて、これからどうしようか」


 聖光石の欠片の数を数えながら呟いた。



 あの災害から、一週間が過ぎた。


 結局の所、リーンベルトや将軍の押しに負けて新居は皇都に作る事にした。

 土地から何から世話してくれると言っていたが、時間が掛かりそうなので土地だけ貰って俺が『クリエイトストーン』で建てた。

 ただ、全て石と言うのは俺的に嫌なので、木造のも建造を依頼している。

 改装も同時に頼んだので出来上がるのが楽しみだ。

 取り合えず、ちゃんと寛げる状態になってから嫁に見せたいので今の所は寮で生活して貰ってる。


 と言っても今、嫁たちと帝国メンバーは死の谷で頑張っている訳だが。

 蛸の殲滅に丸一日取られてしまったが、死の谷までの道を作り移動用カートも置いてきた。

 今のレベルなら交代で引けば自分達での移動もさくさく行けるだろう。


 当然、ポーション類もアホみたいに作ってきた。


 レラが作ってと煩かったから、将軍に頼んで素材のギルド買取分を全部回して貰い、国にも三百本ずつ寄付してきた。

 最初は材料が無いから無理だという話になったのだが、将軍が薬草の買取をいつもの五倍に設定してくれたおかげで、かなりの量が回ってくる事になった。

 魔法瓶も今回の襲撃で中身を消費されたものが余るほどにあったので材料を気にすることなく作り捲くれた。


 彼女達には計三千本ずつだ。使いきれるなら使い切ってみろと。

 まあ、結構な人数が居るし一切節約せずに本気で使い捲くれば四日と掛からず消えるだろうが、それをやれば死の谷程度の魔物なら一掃されるだろう。


 そこまでしてやったのに、レラに何故か「どうして全部マジックポーションにしないんだよ」と文句言われお説教に時間が取られた。

 なんで作ってやったのに文句言われなければならないのか。

 素材が違うこと知らんのか?

 全く、信じられん奴だ。爆発娘め。

 正座させて泣くまでくすぐってやったわ!

 さりげなく身体もモミモミしてやったわ!


 と、そんなこんなで深層域までバフありで軽く体験させて、戦い方が固まるまでは付き合い、無理は絶対にするなと言いつけて一階層に置いて来た。

 帝国メンバーにも付与チートアクセ完全版を渡してきたし、ラーサ、エリーゼ、ユミルに問題児のお目付け役をがっつり頼んできたから大丈夫だろう。


 ああ、ドラゴンゾンビも討伐を観戦もさせたりしてかなり盛り上がったな。

『シールド』系以外の魔法を封印して近接のみで戦ったのが良かったらしい。

 ラーサが珍しく声を上げるほどだった。

 嫁に褒め称えられるのはとても気持ちが良かった。


 さて、現実逃避はそろそろやめるか……


「に、しても……死の谷周辺のボスは全て倒したが、圧倒的に足りんな」


 そう、それは聖光石の欠片。

 イベントボスの出現に触発されて、遊んでいる場合じゃないと今更思い出した。

 装備強化、レベルカンスト、両方を達成させてからじゃないとまったりするのは駄目だと思い直したのだ。

 いや、レベルは計れないのである程度大雑把でもいいが、その分装備強化はしっかりしたい所。


 今の所、四十七個。

 ステータスがみれないから、成功率がどのくらいなのかも分からない。

 だが、さすがにプラス十を目指すとなるといくらあってもに足りない。

 だって、カンストで全てそれように装備整えてステ振っても成功率五パーセント切るもの。勿論九から十の強化一回でだ。

 因みに、失敗時はゼロからのやり直しとなる。


 状況見て、プラス七か八程度で止めるにしたって、最低あと百は欲しいんだけど、ボス巡りは時間が掛かるしたるい。

 レベリングもあるし。

 じゃあ、やっぱりあそこかな……


 獣人国領域、『十王の森』


 そこは、地下ダンジョンの様な入り口だが、入ってみれば別マップ。

 ビックリするほどの広大な森が広がり、十のボスがランダムに徘徊している。

 そして、マップ移動はあるが繋がった作りだったからか、雑魚のレベルが一定の265レベル。

 ここから初めてボス以外でも聖光石がドロップされる様になった。

 かなりの低確率だが。


 多種多様な耐性持ちや特殊攻撃持ちが居て、適正だけだとかなり痛いマップだ。

 やっと、カンスト後でも金策の為に引率で遊びに行く様なマップまで到達したな。

 いや、まだ行ってないけど、問題なくやれるはず。


 そう言えば、入り口が都市の中にあったけど、大丈夫なの?

 行ったら滅びてたりとかやだよ?


 そう考えると生存してれば、獣人はかなり強いかも知れない。

 ちょっと警戒した方がいいかな。


 いや、本気で警戒しよう。ケモ耳っ子は強敵だ。勝てるわけが無い。

 何も出来ずにやられてしまう。

 小さな俺が。


 ホント楽しみだなぁ。


 再度これから起こるであろう災害と、装備の強化やその対策にレベリングしたい事を話し二週間の自由貰えたのだ。

 これを期に行くしかあるまい?


 うん。ディアも皆に受け入れられたから安心だし。

 と言ってもさすがに手は出してはいないし、お互いそう言う事を確認した訳でもないが。


 あ、待てよ……二週間も自由貰ったけど、どうやって性欲発散するの?

 もう、俺は知っちゃったんだよ? 自家発電には戻れないよ?


 ……仕方ない。一週間で一度戻ろう。

 そんなにもつかな?


 何にしても、取り合えず向かうか。




 へぇ、ここが獣人国の最大都市バルドラドか。

 丘の上から街を見渡し、思わず足を止めた。


 エルフの所みたく森って訳じゃないが、自然溢れる良い所だ。

 街も人族と変わらずに発展した作り。

 日本と比べちゃったら残念極まりないが、それなりの生活水準が期待できそうだ。


 俺はウキウキと都市の入り口へと突っ走る。


「通行証を出せ」


 門番の男が立っていた。紛う事なき獣人だ。


 おー!! 最高だ! 最高なパターンだ!

 ケモ耳と尻尾はあるけど他に毛が無い。

 うん。これが一番俺は好き。

 通行証出すから早く中に入れて! 女の子カモン!


「はい、どうぞ」


 あっ、待てよ……これ、人族のじゃん。


 出しちゃった……


 あ、字は読めてるな、文字は一緒か。

 って言葉も一緒だし……大丈夫だったりしない?


「なんだこれは。お前、これどこのだ?

 偽造にしては書いてある内容がめちゃくちゃだ。冒険者ランクSってなんだ?」

「す、すみません」

「はぁ……何にせよこれでは通せん。

 年齢と名前、後は『カルマの光』で審査だ。

 行っておくが、いくらなんでも怪しすぎる。引き返そうとしても逃がさんぞ」


 あれ? 人族でも大丈夫っぽい?


「年齢は36です……」

「おい! 嘘つくな、その見た目でそんな訳ないだろうが」

「いやいや、本当ですって。名前はランスロット」

「まあ、年齢はいいか。

 だが、言っておくが後からの変更は手続きが面倒だからな?

 名前はランスロットと。じゃあ、これに触れろ」


 差し出された『カルマの光』に触れる。その水晶は白い光を放った。


「……問題、なさそうだな。って事は偽造でもないのか。

 これが通行証だ。それ使えないから、これを無くすなよ。

 手数料で金が銀貨一枚だ」


 これ、流石にお金も違うよね。

 今の所外見ではばれて無いみたいだし、ちょっとしらばっくれてみるかな。

 もしかしたら、人族も中には居るのかも知れないし。


「これではダメですか? 魔物の魔石なんですが……」

「なんだ、持って無いのか……って、結構でかいな。流石にこれじゃ結構な釣りが出る。ちょっと待ってろ、計っていくらになるか調べてくるから」


 お、問題なさそうだな。

 んじゃ、このままさくっとダンジョン攻略して、思う存分ケモ耳っ子を視姦するかな。

 いや、もうここまで来たならお店と言う手も……


「ほら、釣りだ。無くすなよ」

「ありがとうございます。助かりました」


 外壁を越えると、南国風味な光景が広がっていた。

 椰子の木みたいな木とか、色鮮やかな花を咲かせた木など、整えられた道の脇に綺麗に並んでいる。

 上から見たときより、かなりインパクトがある。

 そして、見せ付ける様に尻尾をフリフリと練り歩くケモ耳っ子たち。

 そんなに誘わないで欲しい。俺は用事があるんだ。


 キョロキョロとあちこちを見渡しながら街中を進む。

 中央にある広場に付き、そこから少し西へと移動した。


「あったあった。けど、これはどういう事だ?」


 そこは、人も居なければ建物も少ない。

 先ほどとは打って変わって寂れた場所だった。

 一応降りる階段はあるが、少し下りれば行き止まりとなっていた。


 封印されてるのかな?

 取り合えず掘ってみるか。

『クリエイトストーン』で変形させ続ければ楽に掘れそうだし。


「ねぇ、貴方。それは何? 魔法?」


 試しにやっていたドリル形の変形をチャレンジしつつ振り返れば、求めていた可愛らしいケモ耳っ子が俺を誘っている。

 まず尻尾の動きが誘っている。アホ毛が立っている所が誘っている。

 髪型も結構決まっている。

 一度、後ろで束ねて頂点のアホ毛の横に一纏めにされていた。

 ダブルアホ毛みたいでそれもまたよしだ。

 顔が小さいから耳が余計にインパクトがあって大変宜しい。猫の様なしっとりとした綺麗な感じだが、狐の様にピンと長めに立っている。


 これは逆ナンだよね?

 だって、行き止まりの階段態々下りて来たのだもの。


「えっと、教えるのは構わないけど、代わりに尻尾触って良い?」

「……良い訳ないでしょ。

 教えたくないからってレディーにそんな事言うなんて最低! 死ねっ!」


 行ってしまった。

 どうやら誘っては居なかったようだ。


 大丈夫。まだ始まったばかりだ。

 うん。まずは聖光石の欠片を集めてから。

 追い出されたら堪らないし。


 ここ掘れワンワン。


 そのまま巨大ドリルを走らせて下へ下へと下っていった。


 だが、暫く下った所で光に包まれ足場が崩れた。


「おわぁぁぁぁぁ! な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」


 スカイダイビングの様に風圧におされながら俺は空中に居た。

 大丈夫。街に入る前から防御バフは付いている。

 だけど、これ、本当に大丈夫?


「あ! こんな時こそ『クリエイトストーン』」


 気球の様な半球の下に乗れるような籠を連結させてみた。

 急激に落下速度が落ちてぶんぶん振り回されたが、落ち着いたようだ。


 一緒に落ちてきた石が凄い光を放っている。

 なるほど、これが太陽の変わりか。けど、熱は感じないな。


 精神的に落ち着いて、周りを見渡してみれば、予想通り望んでいた世界があった。


「へぇ、十王の森って全部繋がってるとこんな感じなんだな」


 と、暢気な感想を漏らしているが、どうやって地上に戻ろう。

 ちょっと天井高すぎませんか?


 若干の恐怖が甦りながらも落ちていった。 

 ゆったりと下に落ちて、地を踏みしめる。

 ああ、安心する。と同時に思いついた。


「ああ、クリエイトストーンではしごでも作って戻ればいいじゃん。

 とんでもなくアホみたいな高さになるが……」


 だが、戻れないわけでもないし、帰りはそれでいこう。

 と、決まったならさっさと目的果さないとな。時間は有限。

 あの子を探してもう一度アタックしなきゃ。


 うんうん。と頷いていたら地面から爪が生えて襲ってきた。


「おわぁっ!?」


 あっぶねぇ。いや、バフかかってるんだったか。

 けど、いきなりはビックリするってマジで。


「あー、わかった。いきなり出てくるモグラが居たな。名前は忘れたけど。

 けど、ちゃんと移動する時は地面モコモコさせようぜ?

 流石にそれも無しは卑怯だって『ソナー』『アースストーム』」


 広範囲にばら撒いてみた。一応土の耐性が凄く高いから、死なないはずだし、これで怒って出てくるだろう。

 と言うか出てきてくれなくては困る。聖光石の欠片を集めに来たんだから。

 

「お、来た来た。『アイスランス』」


 出てきた端から『アイスランス』が突き刺さる。『ソナー』で場所はわかっているのだよ。

 ふはは、リアルもぐら叩きだ。

 今度は是非ともハンマーを持ってここに来たい。

 いや、ネタがわかってくれる人居ないから逆に寂しいか。


 そう言えば、ここなら自然破壊気にしなくていいな。

 火系統の魔法もソロだしガンガン使える?


 いや、止めておこう。

 うん。森の中だしね。


 ハイ、そこ! 『アイスランス』

 フフフ、甘いのだよ。『アイスランス』

 もぐら叩き神級だよ? 『アイスランス』


 こんな密封空間で大火災なんて起きたら流石に窒息で死ぬわ。

 すぐに出られる状態でもないし。


 いや、消火はすぐ出来るし大丈夫かな? 生きてる木は燃えないし。

 ……取り合えず、ボスで必要になればその時だけやってみるか。


 さて、モグラの殲滅は大体完了したかな。

 まあ、この程度の数じゃ流石に出ないと……出てるぅぅ!


 はぁ? 何か一杯出てる。どういう事?

 ドロップ率違うのか?

 ……まあ、ありがたい事だ。頂こう。


 えっと、百数十匹程度で合計十七個か。ウマー!


「そう言えば、ボス狩りも一番最初の一匹目のドロップだけはかなり良かったな。

 ベヒーモスくらいだよな完全に外れたの。

 長期放置で魔素溜まってる状態だとドロップ率上がったりするんかな?」


 よし! これはボスやるべきだろ!

 ここのボスで当りドロップは……ああ、属性武器と属性鎧とMPアクセか。

 もし出たら嫁にMPアクセあげたいなぁ。

 けど人数分なんてどうやっても無理だし、回復持ちのユーカへプレゼントかな。

 うん。取らぬ狸の皮算用はボス泥を思い浮かべてやると愉しいな。


 ここは地盾と、火剣に火爪も出たか。後は……風槍と……駄目だ思い出せん。

 属性鎧は四属性全部出たはず。

 レイドボスの巨大亀が地だし、聖光石の欠片のドロップ次第でそっち強化も考えるべきだな。

 強化後回しにしといて良かった。強化してない今ならまだ方向転換できる。

 いや全部のレイドボス考えれば、どっちにしてもオリハルコンアーマーも必要なんだよなぁ。物理特化のムスペル様が一番厄介だし。


 おっと、今はそこじゃない。

 取り合えず、走りまわるか。ボス固定沸きじゃないし。

 雑魚も殲滅しながらドロップ確認しなきゃならんし。


 俺は、縦横無尽に走り回った。そして十王の一角を発見した。

 この領域はラミアという蛇の魔物の区域。

 ボスの名前は確か、ヨルムンガンドだったか。

 一匹目だ。ちょっと慎重に行こう。


「キシャァァァァァァ」

「なんだなんだ? キシャァァァァ」


 取り合えず威圧を掛けつつ言葉を返した。

 ふざけてるけど、結構慎重に対応はしている。

 物理や毒ブレスの射程外。魔法は『マジックバリア』も張っているから問題ない。

 杖を装備して『アイスウォール』で包みこみ『フレアバースト』を百回分ほど重ねて打ち込んだ。

『アイスウォール』は重ねてない。丸く穴が開き着弾と共に燃え盛り一瞬で溶けた。

 イベントでもレイドでもなければこれで死ぬだろ。


「うん、流石に死ぬか。もうゲーム時より数倍の威力だもんな。

 流石にダンジョンボスじゃ数百発も耐えないからな。

 いや、ここまでくれば百二百程度なら耐えるか。

 にしても、重ね撃ちホントやべぇな。

 これ、MP回復手段整えて、全力重ね撃ちすればレイドボス即殺なんじゃ?」


 おおう。ありえる。まあ、そこまでのMP回復手段が無いのだけど。

 てか、HPの量がわからないからなぁ。

 数百人単位で数十分以上攻撃してたってくらいしか……

 

「さて、何が出るかな何が出るかな」


 小躍りしながら近寄ってみた。


「よしゃーー! 水鎧出たぁ! 取ったどぉ!」


 ヤバイ、出だしから好調過ぎる。

 てかドロップ殆ど出たんじゃないのこれ。

 水鎧だろ、欠片だろ、毒ナイフだろ、ゴミ牙だろ。

 あー、でも後二種類は何かあるな。

 大体ボス泥は六種類から八種類くらいだからな。

 だが、これほど出てくれるなら全属性揃えるのも不可能じゃない。

 さー、次行って見よぉ!


 って、あれ? もう一匹居るぞ……ヨルムンさん。

 何してんの? 死んだでしょ?

 まさか、コボルトロードと同じ感じか?

 一杯居るのかなぁ? 美味しいぞ。これは美味しい!


 もう、これで倒せるのはわかってる。

 即殺だ! 『フレアバースト』


 さぁ、次だ次だ!




 それから、炎虎、ハティ、グリンブル、マーナガルムとどんどんボスを倒していった。大体四匹から五匹ほど沸いていた。


 どれもこれも即殺だったので、雑魚とかわらなかった。

 だが、ドロップがヤバイ。もう、うはうはである。

 ここ最高すぎだろ。解体要らずでドロップ拾うだけだし。


 マジで配れるほどに出たぞこれ。

 欠片ももう百五十個超えたんだけど……

 逆に持って帰るのが大変なくらいだ。

 ……そう言えばどうしようか。天井まで上るんだよな。


 よし、丁度半分制覇した所だし一度帰ろう。

 まずは嫁に……いや、この街で宿でも取ってそこに一時保管だな。

 うん。ケモ耳堪能してないし。


 う、浮気じゃないよ?

 ……そうか。その心配は要らないんだった。


 ふっ、どうもイカンな。


 何故、俺はクソ野朗のレッテルを自分に貼ったのか!

 この為である!


 よし……取り合えず上に戻ろう。


 俺は、『ストーンウォール』をアホみたいに積み上げた。

 そう、それだけで天井に届くんじゃないかってくらいに。

 だが、それでもまだ遠かった。


「これ、ホントに『クリエイトストーン』で届くのか?」


 ちょっと心配だがやるしかない。

 取り合えず、一度全部を融合させてかなり太い電柱の様にした。

 一度で全部を変形させないとくっ付ける事が出来ない。

 この高さでそんな所を作れば、崩壊するだろう。

 久々に『開運』やら『クリエイトソウル』など、精度が上がるスキルや魔法を全部使ってからの変形を試みた。 

 取り合えず、中をくり抜いてその分を上に足して中に梯子作って……


「あっ、やべぇ崩れた!!」


 バラバラと石が落ちてくる。退避して暫く待つと収まり、再度挑戦した。


「駄目だ。この大きさじゃそこまで複雑には無理。取り合えず、凹凸のある柱を天井まで伸ばそう。『ストーンウォール』」


 再び積み上げて、落下してきた石も全部使って太い柱をひたすらに上に伸ばしていった。


 ズンっと音が響いた。しっかりとは見えないが届いている様子。


「成功……したよな? あー良かった。帰れなくなるかと思った。

 さて、登るか……遠いけど」


 俺は、女性の股間をパンパンしちゃう少年の様に、石の塔を登り始めた。

 あの時はまだ俺は子供で衝撃的だったな。そんな所パンパンしちゃっていいのかと。ならばいつかやってやろうと。

 あっ、帰ったらやろう。


 これがまた結構骨だった。装備の山を『ストーンウォール』で纏めて背負える様にしたはいいが、かなり気を使ってないと引っかかるのだ。

 解決策も思い浮かばなかったので我慢して登り続け、とうとう天井が見えてきた。

 とは言え、光が強くてよく見えないが。

 それでも落ちてきた場所は確認できた。結構遠いがそこは考えてある。

 天井から『ストーンウォール』を生やしまくり、その中を『クリエイトストーン』で空洞にしつつ、繋げていった。

 これで漸く、悠々と歩いて向かえる。


「よし、また来るんだし、どうせだから入りやすくしておくか」


 軽く周りを補強して、階段をその通路と繋げた。


 そして、階段を上がり、空を見ればもう夕刻。

 手持ちの金で宿に泊まれるかなと心配をしつつ、宿を探した。

 華やかな通りの方だろうとそっちへと向かう。


 そこで少しみすぼらしい格好をした女の子が目に付いた。

 年の頃は女子高生と言う言葉がしっくりくる容姿。


 いや、そのみすぼらしさは少しではなくかなりと言えるだろう。

 ゲームとかだと囚人が来てそうな灰色っぽく野暮ったいワンピースだ。

 どうみても、貧民層に見えた。


 黒くぼさぼさの髪で僅かに細い目。少し日本人ぽい感じが気になってしまう。

 猫耳が付いている時点でありえないのだが。

 先ほどの彼女とは違い、普通の猫の様な高さは控えめな耳だ。

 尻尾も細く見てると凄く触ってみたくなってくる。


「あのう、すみません。宿屋が何処にあるかお尋ねしても?」


 これはナンパじゃない! 

 違うのだ。黒髪に惹かれてしまった訳じゃないのだ!

 裕福そうな人を選んで、もし偉い人で博識とかだと『何で人族がここにいる!』なんて言われそうだから選んだのだ。

 そう、これは策略。


「えっと、ただ宿と言われても結構ありますけど予算どのくらいですか?」


 おお! なんていい子だ。適当に教えてくれても良かったのだが。

 ……えっと、これは銀貨四枚かな?

 ちょっと見栄張って多めに出そう。物価わからんし。恥かきたくないし。


「三枚程度で泊まれます?」


 無一文も嫌なので、掌に三枚乗せて、見せながら尋ねてみた。


「えっと、それほど高級な所になると……ちょっと分からないかも……」

「え? あ、一般的な所でいいです。

 田舎ものでして……ボロ屋でも何でもいいんです。一晩夜を明かせれば」


 そう尋ねると、彼女はクスリと笑い「じゃあ私が泊まっている所に案内しますよ。もう戻る所でしたし」と優しく微笑んでくれた。

 うむ。優しそうだ思ってたのだ。策略なのだ。


「あそこです。かなり古い建物ですけど、一泊銀貨一枚だから結構お得ですよ」


 そうして案内されたのは、さっきのダンジョンのすぐ近くだった。


「へぇ、けど、外から見た感じ全然悪くないですよね。穴場なのかな?」

「ええ、そうなんです。

 食事も安い食材使ってるけど、腕がいいから普通においしいんですよ。

 田舎から出てきた見習い狩人にはもってこいの宿です」


 狩人か。名前からして冒険者みたいな感じかな?

 取り合えず、色々教えてもらいたいな。

 けど、出会って早々部屋で話さないとか言っても無駄だろうし。

 ロビーに座る場所とかあればいいけど……

 そう思いながら、宿屋の戸をくぐった。


「はぁーい、いらっしゃい。って、なんだいルルが男連れ込んだだけかい」

「ち、違いますってば! お客さん案内してあげたのにひどい!」


 宿の女将とじゃれ付いている。まるで親子みたいだな。

 中を見渡すと、結構ボロボロだが丸いテーブルが二つあり、椅子も四つずつ置いてあった。

 あ、座れる場所あるじゃん。


「そりゃ失礼。一泊銀貨一枚だけど、どうする?

 ああ、ルルの部屋に泊まるんだったら食事代で銅貨十枚でいいよ」

「だから、そう言うのじゃないってばぁ!」

「一泊お願いします。あ、ルルさんって名前なんですね。

 良かったらそこで少しお話できませんか?」


 ど、どうだ? なるべく自然に振舞えたと思うが……


「え? あ、別にそこでなら構いませんけど……

 って、何でいの一番に女将さんが座ってるんですか」

「どんな話するのか気になるじゃないか。それとも、そういう仲なのかい?」


 笑みを浮かべ試すような視線を向ける女将。「別に構いませんけど、脈絡が無かっただけです!」と呆れて言葉を返した。


 ふむ、少し聞き辛くなったな。まあ、折角だし聞くけど。


「それで、お話ってなんですか」

「別にこれと言ってある訳じゃないですけど。あっそうだ。狩人ってなんですか?」


 ……あれ、ジト目が帰って来た。むう、俺の会話技術が低すぎたか?


「本当に知らないんですか?」

「もう馬鹿だねぇあんた。

 ルルと話したいだけならもうちょっとマシなネタ用意しなよ」


 困惑していると「えっ?」っとホントにそうなの? と問いかける様に首を傾げ視線を向ける。

 

「すみません。田舎もの過ぎて本当に詳しく知らないのです。

 馬鹿にしてる訳じゃないんですけど……」


 これを逃したらもう聞けない。そう思ってルルの方の問いに答えてみた。


「なるほどね。そりゃ悪かったね。いいよ、私が教えてあげる。

 狩人ってのはね。

 魔物を倒す為の組織の名前であり、個人の職業の名称でもある。

 まあ、単純に魔物で食ってる奴らの事さ」

「今は組織名で言う時はハンターギルドって呼ばれてますけどね」


 あー、冒険者ギルドの依頼が魔物の事のみにした感じか?

 あっちだと護衛だったり、荷物届けたりとか、肉体労働まで依頼にあるし。


「俺でも登録出来ますかね?」

「出来ますよ。誰でも問題ありません。でも、稼げるかは腕次第ですけど」

「なるほど、有難うございました。明日登録に行こうかな」


 うん。女遊びには金が掛かるのだ。


「じゃあ、一緒に行きます? 私も狩人ですし」

「あ、助かります。今日この街に来たばかりで知り合いもいませんし、地理もさっぱり分からないので」

「良かったじゃないか。あんたら組んでみたらどうだい?

 ルルも女二人は何かと不便だよ」

「そんな知り合ったばかりの人に頼めませんよ。私も登録したばかりですし」


 うん。それはそうだよね。

 俺も取り合えず、先に十王の森ダンジョンを先に制覇したいし、後一つくらいは255レベル上のダンジョン制覇して置きたいし。

 あ、でも二週間ならちょっとくらい遊んでからでも余裕だな。


「ペアでやってるのですよね。

 もし相手方が了承してくれるのなら、暫く組んでも構いませんよ?」

「え? あ、うん。じゃあ聞いてみようかな……

 でもこう聞くのもなんだけど、戦える?」

「あっはっは、あんた。良くみなよ。

 こんな馬鹿みたいに重そうなもん背負ってんだよ。

 私は中級以上はあるとみたね」


 あ、そっか。石の塊背負ったままだったか。


「ちょっと、持ってみても良いですか?」


 ああ、いいよいいよ。壊れ物は入ってないし。


「あ、上がらない……」

「どれ、む……ホントに重いね。あんた……これを片手で軽々持ってたね?」


 女将さんはひょいっと両手であげて眉をひそめる。

 そんな重いの持てたくらいで訝しげに見なくても……


「悪いけど、通行証見せてもらって良いかい? 面倒ごとは嫌だからね」

「あ、はい。どうぞ」

「へぇ、今日審査したんだね。なら安心だ。疑ってごめんよ」

「いえいえ、気にしないでください。流石に怪しい問いかけしちゃいましたしね」


 そう言って、宿代の銀貨一枚を渡した。


「はいよ。一泊だったね。部屋はルルの隣が開いてるから、一緒にいきな」


 女将さんは立ち上がり奥へと入っていった。


「じゃあ、部屋を教えて貰っても?」

「う、うん。ってあれ? だって……」


 なに? 何なの?

 と思って首を傾げていたら、女将さんが再びやってきてお釣りだと硬貨を九枚渡された。

 なるほど。あれは大銀貨か。大きさがこっちは全体的に小さめなんだな。

 そう考えるとこれからも色々不具合が出そうだ……


「あはは、ボケてました」

「もう、駄目ですよ。悪い人だったらそのまま持っていかれちゃうんですからね」

「き、気をつけます」

「はっはっは、もう尻しかれちまってるね」

 

 あれ、今度は赤くなった。まるっきり興味なしな反応してたのに。

 何か意識する要素あった?

 重いもの持てるくらいでそれはないだろうし……だが、いけそうならいくぞ?

 いやいや、勘違いだろ。最初の子もあれだけ誘ってるって思ったのに違ったし。


 そんな事を疑問に思いながらも久々に一人寝をした。

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