第71話クリスマスイベント勃発⑥
え?
何で今ディアは泣き出したの?
俺は、困惑の中に居た。
どう見ても、安堵からの涙ではない。
クッソォ、どうしてこうなった。
皇都が見えたと思ったら、クリスマスイベントが勃発してやがるし。
皇宮周辺を殲滅してハルードラ将軍見つけたら泣かれるし。
嫁達は言う事も聞かず生き生きと戦いを求めて俺の元から離れて行ってしまうし。
ディアたちのお父さんから娘を無理やり奪って焦って居たからか、マッチポンプな決闘の件を自分から掘り返しちまうし。
普通の会話してたはずなのに、もう嫌だとディアが泣き出すし……
「と、取り合えず、食料取ってくるから。な? もう泣くなよ。
お腹一杯になれば落ち着くからさ?」
そう言って即座に移動して将軍から食料の場所を聞いて盗む様に持って来た。
だが、まだそこには泣いているディアが居た。
オウル教員や学院長、ガイールにリーンベルト、病弱姫まで居る。
お、ガイールが病弱姫の隣に立っている。
上手くやったのか?
「メイベルさん、食料パクって来たよ」
カートにたんまりと乗せた食料を見せながら伝えた。
「ああ、本当に有難う。貴方にはもう何度も助けられて……」
「いや、身内なんだしそういうのいいからさ。気にせず使っちゃってよ。
将軍もいいって言ってたし」
これからどうしようか。確か、あのイベントは出落ちボスのグランドクラーケンを倒して終わりだったから、もうボスは出ないと思うけど……
懐かしいな。出てきた瞬間チャットログがアホみたいに流れたんだよな。
『いや、お前蛸だろ?』と『よっわ、くっそよっわ』って言葉が大半だった。
HPの桁間違ったんじゃないのかって長い事言われ続けたな。
結構後半のイベントだったのにも拘らずドラゴンゾンビよりもHP低かったからなぁ。どう考えても皆でやるボスのHPじゃなかった。
それにしても、せめて順番さえわかれば被害が出る前に助けられるんだけど。
今回は洒落にならんな。街が崩壊しちゃってるじゃん。
多分、かなりお亡くなりになったんだろうな。
将軍は魔物の足が遅かったから多くの人を助けられたって言ってたけど……
知ってる面子は全員助けられたってのに、ちっとも爽快感が無い。
というか気が重い。
誰もそんな事はいわないだろうが、どうしても俺がもっと早く来てればなんて想いが頭を過ぎるな。
「兄上、ありがとうございます。ほ、ほんとに……こ、怖かったです……」
ありゃ、リーンベルトもボロボロに泣いちゃったよ。
もうしょうがねぇな。お父さんモードにでもなるか。ブレット喜んでたし。
「よーしよしよしよし。良く頑張った。偉いぞぉ」
と、彼をあやして持ち直した事に味をしめて、ディアにも同じようにしてみたら、がっちりと抱きつかれた。
やめて。お前の父親が目の前にいるからっ!
「私、強くなりたい。強くなりたいよぅ」
あ、そこ? なんだよ。最初から言って。
「ああ、わかった。当分こっちに居るから」
「わかったって?」
「また一緒にダンジョン行こう。ディアなら簡単に強くなれるから」
「うんっ! 約束だよ!?」
わかったから、離れようね。
視線が痛いんだ。精神的にさ、チクチクするんだ。
「なぁ、話が着いたんなら早速いいか?
お前が伝説の悪魔を倒したって言うSランクなんだろ?
剣の腕すらすげぇって聞いて、ずっと立会いしてみてぇって思ってたんだよ」
あー、うん。腕試しね? そっちなら当然歓迎だよ。
良かった。娘を取るなと嫉妬されてなくて。
「んじゃ早速行くぜ?」
その言葉に頷き、ある程度強さを知ろうと避けに徹する。
お、おお。何この人、結構強い。
逃げ場が減らされる感じがする。
遅いから全然余裕だけどやりにくい。ライルより全然強いじゃん。
なんだよ、居るじゃん!
そうそう、このくらいは普通に居るだろって思ってたんだよ。
バッシブスキル無しで考えたらレベルも多分180くらいあるな。
「凄いな。戦った人の中で一番つよい」
「はっ、お褒めに預かり光栄だな!?
だけどよ、手加減は失礼ってもんだぞ?」
うーん、ステータス差での強引なごり押しはこっちからすると大人気ない気持ちになるんだが。
まあ、そうして欲しいのならするか。
「じゃあ、行くよ?」
「おうっ!」
下手に攻撃当てたくないし『瞬動』で後ろに回り首筋に剣を這わせた。
「今のはなんだ? スキルか?」
「『瞬動』だね。一瞬だけ速度が数倍に跳ね上がるスキル」
このスキルが重ねられれば怖いもんなしなんだけどな。
「……なるほど、あんたの数倍は俺にはろくに見えもしないのか。
くははは、愉しくなってきたじゃねぇか!」
あー、なるほど。ステータス差がかなりあるし、そうなるのか。
けど、この人とは仲良くなれそう。気持ちわかるよ。
いや、でもリアルでも俺はそう思えるのだろうか……
「また手合わせ頼むぜ。ガッツリ鍛えてくるからよぉ」
「ああ、うん。俺もこういうの好きだし、待ってます?」
俺も剣術とか学んでみようかな?
今はただ最短で当てる事だけしか考えてなかったけど、これはかなり有効だわ。
それから取り合えず『ライトニングボルト』で学院内とその周りに居る魔物を全て殲滅した。
何を使っても街を破壊しすぎるので、冷や汗を搔きつつも撃ち続けた。
一杯居過ぎだろこれ。
本当なら、救出の為に走るべきなんだろうが、将軍曰くもう他の生き残りは居ないらしい。
それだけの強度がある建物は他に無く、あの大群に耐えられるものも居ないとのことだ。魔物は人の魔力を感知できるので自然と寄って来るし無理してまで殲滅を急ぐ事は無いと言われた。
外にある貴族がティータイムに使いそうなテーブルセットに腰掛けて、いつもの四人とティファを交え、この五日の冒険譚を聞いていた。
どうやら俺が作ったポーションが大活躍したようで、今度は倍作ってやると約束すると大はしゃぎされた。
話に聞けば、中ボスとディアが単身でやりあったという。
腹に大穴を空けられたなんて話を聞いて冷や汗をかいた。
そんな無茶するなと言い掛けたが、状況は聞いて居たので逆に褒める事にしたのはいいのだが、何故かディアが甘えんぼモードだ。
同ランクの魔物数十万が攻めてきたのだ相当に怖かっただろう。
良く五日も対処できたもんだ。
「兄上が、育成しておけって言っていたのはこの事だったのですね」
ふいにリーンベルトがそう言った。
え、何言ってるの。
違うよ?
「待て、この程度の事なら対処も出来ず即殺されるなんて言い方はしないぞ?
俺が居ても対処が厳しい事が起きそうなんだよ」
ちょ、そんな目で見るなよ。俺の所為じゃねぇぞ?
「それって時間の余裕あるの?」
「わからん。今すぐ出てきても不思議はない。
なんて説明したらいいかわからんが、時系列もわからずに断片的に未来が見える感じが近いか?
だけど、まあそのうち出てくるだろうなぁ。あの蛸も出てきたんだし……」
うん。
イベントすら再現されてるんだからレイドボスだけは例外ですとはならないだろ。
「一刻も早く強くならなくちゃ……」
「うん、そうだな。逃げるくらいは出来る様になってくれ。
その間に何とかしてみるから……多分、いけると……思う?」
最近ちょっと弱気だ。
勝手にあの悪魔が例外みたいに考えて居たが、差異は所々にある。
蛸もここまでの数が一気に出た訳じゃないし。
もしかしたら一撃は余裕で耐えられるって考えがそもそも間違いな可能性もある。
まあ、一番時間の掛かりそうな事前準備は整ったんだ。
後は俺のレベリングを進めて装備をガッチガチに整えればいい。
そう、嫁達をある程度強くした今、少なくともこの国や王国の人や魔物なら問題なく撃退できる。
ディアたちの育成も嫁達に頼めば暇つぶしに丁度いいだろ。
下手に自由行動させて他の男に行かれたら俺死んじゃうし。
いや、信じてはいるけど、この世界イケメン多すぎんだよ!
何か生き方もカッコいい奴多いし。
こんなの、ほれてまうやろーって状況が割りとある。
話を詳しく聞いてみたら、ライルとかレックとかカッコ良過ぎだったし。
できれば、新しい出会いがある時は俺が隣に居る状態がいい。蛇の様に威嚇してやるわ!
小さい男と思われそうだから皆には言えんが。
「という事で、ある程度場を整えたら、おれ自身を鍛えに行こうと思ってる。
あっ、さっきの大きいのより強いのがわらわら居る所だから、そこに連れて行けないぞ?」
ジトッとした目を向けるディアに一応前もって断りを入れたが、お気に召さない様子。
「一緒にダンジョンは?」
「ああ、場を整えるって言っただろ? 一緒に行って手ほどきはするよ。
そこからは自分達の努力がものを言うのはわかるだろ?」
「ケンヤそうじゃねぇだろ? ディアさんはなぁ、お前と一緒に居たいんだよ」
「お前は黙ってろ。ティファ、ガイールが何か言いたい事あるって」
「まぁ、ガイール。聞かせて頂戴」
お? なにやら二人の空気が出来上がっている。
一応面識はあったんだな、この二人。
そんな状況で何で逃げ回ってたんだこいつは……
「あっ、そうそう、ガイールがね? 頑張ったからチューして欲しいんだって。
僕は命が掛かってたから頼んであげるって約束しちゃったんだ。
嫌じゃなければしてあげてくれないかな?」
ひ、酷い。これは流石に可哀そうなんじゃ……
ってあれ? 脈ありか? ティファも赤くなってる。
「お、おまっ……」と、続きを言えなくなって固まっているガイール。
「おすわり」
「は、はいっ! すみませんでしたぁぁ」
え? 何この関係、床に正座しだしたんだけど……
「わ、私のキスを強請るにはまだ足りません。これからも頑張ってくれますか?」
「当然であります!」
「では、せめてディアさんよりは強くなって下さいね?
そうしたら、その……キスくらいは許してあげます」
おお、カップル成立じゃないかこれは!
「やったじゃん、ガイール。お前も当然ダンジョン行きだから、頑張れよ」
「あ、ああ! 頼むぜ。ま……マジかよ。生きてて良かった……」
おいー、お前も泣くんかいっ!
あ、ティファは笑ってる。クスクスなんて仕方の無い子って顔だ。
正座させて見下ろしてるから、何か悪女感がヤバイ。何この温度差。
一応聞いておくか、後から騙されてるとか知ったら気分悪いし。
「お前、それ付き合うって事でいいんだよな?
こいつもマジでやる気だし、優先して鍛えるけど……」
「ええ、私は私一人を本気で愛してくれる人がいいもの。
それにハルードラ家なら入るのに何の心配もないし。
でも、ガイールが頑張った所を一杯見せたらの話よ? 先のことは分からないわ」
まあ、それもそうだな。耳が痛いと言うか不安に駆られる言葉が混ざっているが。
「ふふーん、皆速くSランクの僕に追いつくことだね」
「ああ、言っておくが、Sランクになってからが始まりだからな?
Sランク程度はすぐなれるが、そこからが長いんだ」
「もうっ! そういう事言わないでよぅ。折角、皆を引き離せたのに」
知らんわっ。そんなみみっちい事でドヤ顔するんじゃありません。
後衛が早くランクが上がるのは当たり前なんだからな?
この世界パーティーでの経験値平均化とかねぇんだから。
ああ、だからヒーラーが居ないのか。なんてシビアな世界だ……
「ねぇ、カミノさんこのスキル知らない?」
え? 何? そんな目を細められても……
やっぱり知らないかぁ? いやいや、何?
目を細めただけじゃ分からない。
「えっとね。すっごく集中すると客観的に自分を見ているような状態になって、動きが凄い良くなるのよ。パパもスキル以外ありえないって……」
「「パパ……」」
「もうっ、それはいいから!! レラ! あんたなんで今更言うのよ!」
いやー、そう言われてもなぁ……全部のスキル説明覚えているわけじゃないし……
ああ、あれかな?
『心眼』
心を研ぎ澄まし全てを見渡す目を得る。
スキルディレイ短縮
確かこれ、表記は無いけど回避率アップが付いていた筈。
何でそれでスキルディレイ短縮? って疑問に思ったから覚えてた。
この世界スキルディレイなんて無いから使ってなかったけど、試しにオンにしてみるか?
「ぶっ、ケンヤ似合わねぇ」
「あ、お前置いていこうかな」
こいつめ。ガイールの癖に。
まあ、オフるか。そしてこれは封印しよう。嫁にダサいとか思われたくないし。
「『心眼』だね。回避率が上がるってくらいしかわからないけど」
「うわぁ、やっぱりわかっちゃうんだ。それにカミノさんも出来るんだね。
これ凄いよね。攻撃がどこに来るとかわかるし」
え? なにそれ?
ふむ。封印を解くか? いや、駄目だ。もしもの時だけにしよう。
そうそう、普段から頼る良くない。
と思ってたら、エミリーが走ってきた。
雑魚相手でも単独行動はダメだよ?
「あー! ケンヤ! 一人でゆっくりしてる! ズルイっ!」
「いやいや、お前ら勝手に飛び出したんだろ!?
危険は無いから放置したけど俺は悪くないぞ。
あと、お前おしおきな。こんな時に一人で歩き回るなっての」
「あ、エミリー先生だ! おかえりぃ。殲滅してたんだよね。終わった?」
「もうちょっとですわね。皆さん、お元気そうで何よりです」
だ、誰!?
てか、それまだ続けるのね……
「お婆様がこちらに居ると聞いたので寄りましたが、あなたが居たのなら安心です。
ふふ、私の為にこちらに来てくれて居たのですね?」
うっわぁ、似合わねぇ。
「……酷い」
「ご、ごめんごめん。メイベルさんは無事だよ」
「ケンヤあれ、凄かった! 出てきても近寄るなって言った意味がわかった……」
ああ、あの出落ちボスね。
言っておくけど、お前らが勝手に行っちゃうから結構気をつかったんだからね?
『ソナー』で場所確認しつづけたり、取り合えずでタゲ取ったり。
「よかった。エミリー先生もあれには近寄れないんですね。
凄く強くなっているみたいだから追いつけないほど引き離されたかと思いました」
「それは勘違い。もう追いつけない。私ケンヤの猛特訓受けた!」
とうとう我慢しきれなくなったな。
うん。爆発させるくらいなら自由にしてろ。
「試しに手合わせお願いしてもいいですか?」
「いいだろう! 相手になってやる!」
親子だなぁ。ってそう言えば彼らはどこ行ったんだろうか……
「お父さん達なら兵の所に行ったよ。無駄に消耗を出す訳にはいかないからって。
でも僕が思うにケンヤ見て戦いたくなっちゃったんだろうね」
連れて来た兵の所戻ったのか。
確かに街の外に居たな。あっちは敵も残ってるし存分に暴れている事だろう。
にしても、エミリー大人気ないなぁ。
まあ『シールド』掛かってるから問題ないけどさ。
けど、ディアも結構やるな、殆ど避けてるじゃん。
反撃の余裕はなさそうだけど。
「カミノさん! 私も! 私も猛特訓がいい!」
「ふむ。結構厳しいけど、ディアなら出来るだろ」
「ちょ、ちょっと待てよ! そんな事したらディアさん抜かせないだろ!?」
おい、お前そういう自分本位な事を……
「それでも超えるくらいの気概見せろよ……ティファに捨てられるぞ?
実際に抜かせなくても、意地でも超えるって頑張ってるだけで受け入れてくれると思うぞ?」
「ほ、ホントか!? そ、そうだよな。ティファさんは素敵な人だし……」
「まぁお上手」
「す、すみませんでしたぁぁ」
いや、何故そこであやまる……
帝国メンバーは濃いなぁ。
いや、ファルケルは王国だから……うん、それでもこっちの奴らのがおかしい。
エミリーもこっち側だし。
アナスタシアちゃん見習えよ。常識人でありながら天使なんだぞ?
「それにしても困ったな。新居を構えにこっち来たんだけど……」
「そ、そうだったのですか!? 兄上是非、是非建てましょう!」
いや、リーンベルト何故お前が嬉しそうなの?
頼まれても流石に一緒には住まないよ?
「いえいえ、兄上とたまにこうして会えるだけで私は嬉しいのです」
「そうか。だが、男の道には走るなよ? 俺全力で逃げるからな?」
「し、しませんよそんな事!」
いや、皆笑ってるけど、実際になったら洒落にならんからな?
王妃の席に男が座るんだぞ!?
「そう言えば、皆にこの場所伝えてないな。
今の内に合流しないと場所がわからなくなりそうだ」
そう言って、合流して戻って来ると告げてその場を後にした。うん、これだけ減ってきたら将軍の部隊とかも出撃しそうだしな。
それから『ソナー』で街中の魔物が大きく減っている場所に向かった。
そこでは、群がる蛸相手に無双する嫁達の姿があった。
「お前ら、勝手に行くなよ。せめて話を最後まで聞いてからにしろ。
これは良くない事だから罰を与えるからな?」
一応、ちょっと叱る事にした。
戦闘中だというのに、全員こっち向いた。
いや『シールド』掛かってるけど、それはダメだよ?
「ごめんなさい。人命救助を急がなきゃって思って……」
「むぅ、ランスの説明長いのが悪い」
あ、ミラちゃんそういう事言うの?
もう、知らないよ?
「嘘! 嘘だよ? 嘘だよね?」
え? なにその三段活用……
何で嘘だよねになるの?
「だって、もう知らないって……」
いや、捨てないよ。そんなことをする訳がない。
それにしても、もうちょっとちゃんと話そう? ビックリするからね?
え? お前もだ?
ふむ、ここで皆も頷くか……
う、うん。ならば仕方あるまい。
「さて、問題は解決に向かったけど、新居どうする?」
「そうだね。街が機能しないんじゃ不便だね。
ゆっくりするつもりならここじゃなくてもいいんじゃないかい?」
「そうよね。どっちにしても知らない街だし、お金はあるんだし」
そう言われればそうだな。
そのうち獣人国方面にレベル上げしに行くんだし、そっちに近い街でもいいかな?
まあ、新居で嫁を堪能しまくってからだけど。
「んじゃ、そうするか。っとその前に罰を言い渡さないといけないな?」
うん? 何で赤くなってるの?
エロい事じゃないよ?
「「「ええっ!?」」」
ちょっと、そんなに驚くの止めて!
「ゴホン、お前達には帝国の友達を鍛えて貰う。それを罰としよう。
一応、お前達も戦闘訓練になる場所を選ぶ。
鍛えるついでに連携をしっかり慣らしてくれ」
「……女性ですか?」
「男女二人ずつだな。後で紹介する」
疑わなくても大丈夫だよ?
あー、ディアはちょっと大丈夫じゃないかも?
けど、これ以上は……
基準的には合格もいい所なんだが。
まあ、考えるのはやめよう。なるようになるさ。
なーペトラ。怖くなかったか?
えっ、ドラゴンのが怖い?
あー、ペトラは頭がいいなぁ。
よしよし。
それにしても、こんな状態じゃ今日はどこに泊まればいいんだろう。
「ああ、ケンヤさん、それなら寮に行ってみたらどうですか?
こっちに居た頃の話ですが、空き部屋があると進められましたし」
「丁度そっち行くし都合いいな。よっし、じゃあ皇都魔法学院に出発だ」
って俺はさっきまで居たんだけど。
「「「はーい」」」
それにしても雑魚が面倒だな。魔法使うと石畳破壊しちゃうし。
学院周辺直すのですら面倒だってのに……
『飛翔閃』なんて使ったら家ごとぶった切っちゃうしな。
ああ、あるじゃん。都合良さそうなのが。
「『ハデスの抱擁』」
「「――っ!?」」
お、良かった。ちゃんとイベントモンスにも効くみたいだな。
けど、余り広範囲にはやれないな。人が居たらと考えると怖い……
「な、なにしたの?」
「範囲即死魔法だよ」
「もうお前、無敵だな。わかってたけど」
無敵じゃないから。強い奴には効かないんだよ。
全く、カーチェは馬鹿だなぁ。
「いや、お前より強い奴が居ないだろ……
これは間違ってないからな!」
「間違ってますぅ! カーチェがものを知らないだけですぅ!」
「このやろうっ!」
はっ、喰らわねぇよ!
「お兄さん、早くゆっくり出来るところ行こうよ。
もうこの蛸飽きた。弱いし」
「ほう、ゆっくり出来る所とな……それはお誘いかな?」
さあ、行こう。すぐに行こう。
そうして先ほどの場所に戻って来て見れば、大勢の人が居た。
泣きながら飯食ってる。
近寄りがたい……
「ああエミリー、おかえりなさい。街の様子はどうでしたか?」
「酷いものです。復興には暫くかかるでしょう。
ですが、魔物の討伐は二、三日で終わるはずです。安心してください」
「だ、誰?」
そう言ったのは俺ではなくミラだった。
だが、ミラはエミリーにとって天敵。口を尖らせるが次の言葉が出てこない。
「ん~~!!」
「はいはい。どっちのエミリーも可愛いぞ?」
「んふぅ」
あらあらと、嬉しそうにこちらを眺めるメイベルさん。
「兄上、もう戻られたのですね。――っ!?
あ、姉上……ですか?」
リーンベルトが顔を青くさせてミラに問いかけた。
どうしてわかったんだろう。ああ、髪の色か。
「もう、グラヌスの名は捨てた。だから違う?」
「そう、ですよね。謝って済む問題ではありませんが、申し訳ございませんでした」
地に頭をつけて謝罪するリーンベルト。
知っているか? それ、すっごい迷惑なんだぞ?
ほら、ミラちゃんオロオロしちゃってるよ。
「おい、頭を上げろ。ミラは、もう全部知ってるんだ。
悪いのはお前じゃないって判ってるんだからそうされても迷惑だぞ」
「……はい、すみません」
「まあ、ランスを兄だと呼ぶのなら私は姉なのは当然」
……いや、お前と結婚するからって兄と呼ばれてるんだが。
まあ、いいか。リーンベルトの顔が晴れたし。
いや、泣きながらだけど。うれし涙ならよし、だ。
「へぇーあれがミラちゃんの弟君かぁ。姉より優秀そう。
まあ、うちは妹の方が優秀だけど?」
「まったくだね。もうちょっと聞き訳が良くなって欲しいところだよ」
こらこら、そんな風に言わないの。ほら、ミラもユミルもむきにならない。
ラーサの言葉はまあ、俺も思うんだけど……
と、たどたどしくも、会話を続ける二人を眺めつつ感想を漏らす。
「ミラ、お前が今こっちで思われてるのは概ねこんな感じにだ。
お前が許すか許さないかってだけだからもう、不安にならなくていいからな?」
「ふ、不安になんてなってない! ランスはそういう所がうざいの!」
むぅ……久々にうざいといわれてしまった。
「まるで父親と娘の様だね」
「あっ、それなんかわかりますわぁ」
あ、ディアとレラ発見。丁度いいから紹介しとこう。
「あの二人と、ミラの弟とあそこにいるでっかいのが鍛える面子だから」
「……ねぇ、あの子、ランス様に惚れてない?」
え? 何でひと目で?
これが女の感ってやつか。怖い。
「いやいや、すっごくわかり易いから。ミレイお姉ちゃんでもわかるくらいだよ?」
「ちょっとユーカ、どういう事よ!」
じゃれつき出した二人は放っておいてこっち来る前に必要なことを言っておかなければ。
「先に言っておくが、色々あって最初は仲違いしてたのもあって、そういう関係ではないしその予定もない。ぐれぐれも苛めるなんて事がない様に頼むな?」
「まあ、それも全部ケンヤさんが悪いんですけどね」
うっ、それを言われると痛い。
ちょっと内緒話止めて! 特にその話でされると怖いからっ。
「あー、これは酷い」
「それを聞いた後じゃ、きつい事は言えないね」
「けど、謝って仲良くしているのですから、そこまで酷くは……ない、と思います」
エリーゼ、ありがとう。自信なさげでも何か救われた。
皆で視線を送っていたからか、彼女達も気がついて歩いてきた。
あ、ガイールも寄ってきた。
多分置いてかれるとか思ってるんだろうな。顔が必死だ。
「先ずは紹介しよう。エミリー、カーチェ、アンジェ、ユミルはお互い知っているから省くとして、この大変可愛らしい子がエリーゼ・アルール。男爵家の長女だな。
次に、ミレイ・ルーフェン、子爵家の……子だ!
そして、この天使みたいな子がミラ・ルー・グラヌス。まあ、名前聞けば後はわかるな?
次に、ラーサ、この中で一番腕が立つ冒険者だ。常識人で恥ずかしがりやだな。
その次が、なんとユミルの妹ユーカだ。愛らしいが棘を持つ。触るのは注意だな」
「ちょっと! 私の説明が雑すぎ!!
……子だって何よ! 褒め言葉も無いじゃない!」
「お兄さん!? 棘なんてないでしょ!!」
「ランス様……うふふ、嬉しいですわ」
「恥ずかしがりやじゃないよ! ランスさんが変な事をしすぎるからだ!」
おおう。俺の紹介は概ね高評かな?
「初めまして、私は辺境伯爵家、嫡子、ユークディア・オリヴァーと申します。
皆様よろしくお願い致します」
「僕、ローレライ・ルジャール。この名前嫌いだからレラって呼んで」
「将軍家のガイール・ハルードラだ。ケンヤには世話になってる。宜しく」
ガイールの紹介になると、皆が「ああ、こいつの親ね?」という顔をした。
どうしても将軍にフォークぶっ刺した事が印象に強いらしく、よく話しに上がったからだ。
「お前達は準備を整えたら、まずは死の谷を攻略してもらおうと思う。
ディアたちにはかなり厳しいから、覚悟をしておいてくれ。
と言っても、嫁達だけでも途中までが限界だろうがな。
因みに、ボスだけは俺が美味しく頂きます。以上」
うん? ディアが何か言いたそうだな。
「ユミルさんに危ないから行くなって怒ったのよね?」
「ああ、言ったな」
「まだ、数日しか経ってないよ? あ、元々強かった人がこの中に居るのか」
「いや、この二週間で皆Sランク超えてもらった。ユーカなんてEからSだからお前らも頑張ればすぐ追いつくよ」
あ、流石にドラゴンと比べたら最下層でも経験が格段に落ちるか。
うん、それは嫁だから特別って事でいいや。
「私、頑張る。頑張るからねっ!」
「お、おう。応援するよ」
気合の入り方が凄い。
大丈夫? 俺刺されたりしないよね?
まあ、それはないか。
こうして、帝国で仲良くなった人たちの紹介も終わり、寮の部屋を借りたり、皆で雑談したりと、ゆったりとした空気で休む事が出来た。
そして、今日はエリーゼを部屋にお迎えした。
ちっちゃくって不安に駆られる時もあったが、今ではもう慣れたもの。
癖のない真っ直ぐなイチャラブをしてくれる彼女に甘え、夜を明かした。
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