第52話手を繋ぐなら女の子が良いのだけど。


 マクレーンから戻って五日、ミラたちを強くする為に全力で行動した。

 ハルと、その彼女もその強化合宿に参加した。

 彼は気合を入れて彼女の家族に話を通し、婚約までしてきたらしい。

 彼女曰く、中々の男っぷりを見せてくれたとの事。


 生き生きとしてお調子者の顔を輝かせている。

 いや、顔がそうなだけでそこまでお調子者では無いが。


 ランクの確認に行きたいと冒険者ギルドに行くと、手紙を預かっていると言われて受け取ってみれば、ディケンズ侯爵からの物で依頼が完了したというものだった。

 それすなわち、謁見の準備が整ったという事だ。


「へぇ、最短で一週間って言ってたのに、きっちり一週間後だとは思わなかった。

 どれどれ……ってこれ今日じゃねぇか!」


 幸いまだ朝だ。一応間に合うが、了承の返事を伝えてない。

 キャンセルとかされてないといいけど……


 皆に侯爵からの返事が来たことを伝えて、今日は休みにしようと決めた。

 勝手に魔物と戦いに行ったりしない事をきつく言いつけてから移動する。




 侯爵家の門の前に着くと、苛立たしげに門の前に立つ侯爵の姿があった。


「すみません。最短で一週間と聞いて居たので先ほど確認して飛んできました」

「む、そうか。なるほど、確かにそう言ったな。それでその格好か……」


 侯爵は使用人に『すぐに着替えの用意を』と伝え、俺は初めて他人に着替えさせられるという経験をした。

 小さな子供に戻った気分だ。


「では、参ろう」

「はい、作法は多少調べて来ましたが、本日はよろしくお願い致します」

「……うむ。

 話は通してあるので少々の事なら咎められはしないが、一つ誓って貰う。

 何があっても、誰に対しても、攻撃をするような真似はするなよ?」

「ええ、判りました。ですが、一つだけ……

 身内に手を出されない限り、とだけ条件を付けさせて頂きます」

「……それならば良い」


 あら、随分と物分りがいいな。

 気分を害した様子もないし。

 献上品として頑張って作った付与三つアクセが功を奏したかな?

 皆の話だと、間違いなく国宝として宝物庫に送られるらしいし。


 侯爵閣下付き添いの元、馬車で王城まで案内されて謁見の間入場前の控え室にまで辿り着いた。

 その間もミラから教わった通り、歩く場所から人とすれ違う時の対応などを気をつけて進んだ。


「どうやら、本当にしっかり勉強してきた様だな。

 陛下の前でも粗相をしない様と頼むぞ」

「プレッシャーかけますね……出来る限りは頑張りますが……」


 あー、俺こういうのダメなんだよ。

 形式ばった場所で人前に出るってほんと苦手。

 兵士と王だけだと思っていたら、貴族達も参列するらしいし。

 マクレーンで活躍したのが無駄に効いてしまったらしい。


「さて、準備が整ったようだ。行くとしよう」


 兵が門と言えるほどの大きな扉を開き、侯爵に続いて絨毯で出来た道を進む。

 両サイドには王座に体を向けた貴族達がチラリチラリとこちらに視線を送り、それを通り越すと隣に見えるのが貴族から兵士に変わる。

 そこまで辿り着くと膝をつき、頭を下げてただひたすらに時を待つ。

 後ろをチラリと伺えば、貴族達も同じように片膝をつき頭を下げていた。


「ふむ、そなたがSランク冒険者ランスロットであるか」


 ファサリと布の擦れる音がした後、比較的若い声が聞こえた。

 騙されないぞ。俺は聞いたんだ。ここで顔を上げちゃダメだって。

 まだ頭は上げないからな!


「はい、この度はこの様な機会を下さった事、伏して感謝申し上げます」

「よい。Sランク冒険者と言えば、武で国を支える者達の中枢と言って良い程だ。

 して……いや、その前に言わねばならぬ事があったな。

 表を上げて良いぞ。皆の者も楽にせよ」


 待っていた言葉が聞こえたので頭を上げる。

 だが、何やら後ろがざわざわと騒がしい。

 チラリと隣の侯爵に視線を向けたが、彼はこれといって何かを気にした様子はない。


「ふむ。思った以上に若いな」


 それはこっちの台詞なんだが……

 王様の外見年齢がどう上に見ても二十代後半程度なんだけど。

 もしかして、もう代替わりしちゃったとか?

 えっと、言葉を返した方が良さそうだな。じゃあ、一応訂正しておくか。


「いえ、この様ななりをしていますが、もう三十を越しております」

「そうであったか。

 では、本題に入るとしよう。

 マクレーンでのブラックオーガ討伐、真に大儀であった。

 マクレーン伯からも詳細は確認したが、そなたが一人で4体のブラックオーガを倒したというのは真か?」


 その問いに再びざわざわと場がざわめく。

 ちょっと王様、躾けがなっていませんよ。

 それに、オーガ討伐はもう前にやってるじゃん。

 まあ、一応はちゃんと応えるけども……


「はい。間違いございません」

「では、褒美をやらねばならぬな。何か希望はあるか?」


 これ、断っちゃいけないんだよな。


「では、一つ。叶うならばお願いしたい事がございます」

「うむ。申してみよ」

「市民門の外にいる物乞いの子供たちに今一度チャンスを下さいませんか?

 もう、犯罪行為をさせないように致します。

 どうか市民門の通行許可を……」


 これが叶えばすっごくありがたいなぁ。

 そうなれば、あいつらも出来る事が一気に広がる。

 やっぱり、自分がしたい事させてやりたいし。


「……それだけか?」

「はい。それが叶うのであれば十分でございます」

「わかった。そのくらいの事であれば構わぬだろう。

 だが、街を救った英雄への褒美がそれだけでは足りぬな。

 報酬として後に金一封を送るとしよう。

 いや……いっその事、爵位でも受けるか?」

「いえ、身に余ります。願いを聞いて頂くだけでも過分な事でございますれば」


 うへ、ございますればっ、とか言っちゃったよ!

 大丈夫だよね? 引いてないよね?


「ふむ、そうであるか。

 一つ、余からもそなたに依頼を出したいのだが、聞いて貰えぬだろうか?」

「はっ、魔物の討伐でしたらご期待に添えると思います。

 お申し付けくださいませ」

「で、あるか。では、この後少し付き合って貰おう。

 事の説明をせねばならぬからな。

 その仕事は……ライエルに任せるとしよう」


 玉座よりも低い所に腰を掛けている少年。

 明らかにハルよりは年上だが、まだ十代だろうと思われる。


「畏まりました」

「ちょっと兄上!? 私にお任せ願えないでしょうか!」


 彼は貫禄のある余裕の笑みで了承するが、間髪入れずにその隣に控える女性が声を上げた。

 可愛いというより綺麗という言葉が似合う、金髪の美女。

 鋭い目つきと態度に少しキツイ印象を受ける。

 少しご立腹の様子。


「……アイリスよ、今はお加減の優れない父の代わりにここに居る。いや、よいか。では二人に任せる。それで良いな……それで良いな? ライエル、それで良いな?」


 何故三回も言った! ちょっとそれほどに危ない子なの?


「かし……こまり……ました」


 どっち!

 了承したの?

 困ったの?


 顔を見てみれば一発で判った。

 彼は、困っていた。


 にしても、やっぱり息子さんの方だったか。

 俺は君達のお父さんに用があるんだよ。


 貴族達のざわめきもいきなり王太子殿下が王座に座っていた事が原因だったのだろう。

 お加減が優れないの件で「おいたわしや」などと声が後ろから聞こえて来てたし。

 そこはよかった。俺が原因とか言われても困る。


「うむ、ではしっかりと勤めを果せ」


 玉座に座る彼は、良い笑顔で告げると近くに控える兵に視線を送り頷いた。


 兵士達が揃った動きで、此方に向かい合うように並び国王が立ち上がる。


 再び兵士を除いた全ての者が地に伏せた。

 それに合わせて頭を下げる。

 暫く頭を下げていると、隣から声が掛かった。


「もうよいぞ。良い受け答えであった。この後もその調子で頼む」

「そうですか。安心しました。ですが、後ろがやけに騒がしかったですね?」


 未だにざわざわとその場で内緒話を続ける彼らに軽く視線を送りつつ、侯爵に問う。

 多分推測は間違っていないと思うけど、一応確認を取っておきたい。


「うむ。今のは次期国王であるブレット様だ。

 だが案ずることはない。

 陛下が代行として任されたのだから、今の言葉は国の威信にかけて遂行される」


 いや、うん。

 確かにそれも重要なんだけどさ、それじゃ今日の目的が達成されないんだよね。

 って、それを言う訳にもいかないし、如何したものか……

 流石に第二王子に『ちょっとお父さんに会わせてくれない?』とは言えない。


 ……今は流れに身を任せるしかないか。


 そんな考え事をしていると、侯爵が誰かと話し始めた。


「これは、ライエル様、待っていてくだされば私が……」

「良いですよ。これは私が任された仕事ですから。

 では、これから依頼の説明をしたいと思います。構いませんか?」

「はい。出来る事であれば……」


 余りに面倒な事なら断るけど。

 まあ、今の所は従順な子で居よう。できる事なら仲良くしたいし。


「ああ、余り深く考えなくても大丈夫です。

 無理なら断って頂いても構いませんから。

 ただ、謁見の場ので了承をしたと言う事もありますので、その場合、受けて終わらせた事にして頂きます。

 私達としては、貴方が持っている情報を教えて欲しいだけですから」


 彼は、小声で後ろに聞こえないように言い、こちらに笑みを向けた。


 こつこつと、革靴で歩く音が響く。

 王女殿下が此方に向かって颯爽と歩いてきた。


 隣に彼のお姉さんが立った瞬間その笑みに陰りが差す。


 彼女はこちらをじっと見つめ、ニコリと営業スマイルを一つ浮かべる。

 侯爵が慌てて俺のわき腹を肘で突いた。

 ああ、そうか。こっちから挨拶しなきゃいけないか。


「失礼しました。私は先ほどご紹介に預かりました、ランスロットと申します。

 以後お見知りおきをして頂ければ幸いに御座います」

「私はアイリス。アイリス・フォン・ハウラーン。貴方の事が気に入った。

 これからは、ちょくちょく会いに来い。

 大丈夫だ。心配しなくても、その手筈は整える」


 う、うん? どういうこと?

 謁見の受け答えが良かったの?

 いきなり過ぎてちょっと訳分からないんだが?


「あ、姉上、もう少し、もう少し待って下さい。ささ、移動しましょう」

「は、はぁ……わかりました」


 彼はしきりに後ろにいる貴族達の視線を気にしていた。

 なるほど。姫がうかつにそんな事言っちゃダメだよな。

 俺が知る物語だと姫は他国とか自国の最上位にいる貴族に嫁ぐものばかりだし。


 なるほど。だからやんちゃと囁かれるんだな。

 などと考えつつ、ライエルの案内について行き、それはもう豪華な応接間に案内された。

 何かもう、キラキラしてます。所々で使われている装飾された金やら銀が新品みたいにキラキラ輝いているし、置いてある物にも色とりどりの宝石が使われている。


 余りジロジロ見るのも失礼だろうから、すまし顔で案内に従い話し合いの席に着いた。


「さて、ここまで来れば安心です。

 ここならば、誰の耳にも入らないので、楽にして自由に発言してください。

 簡単に言うと、無礼講と言う奴ですね」

「はぁ、ありがとうございます。ですが、宜しいのですか?」

「気にしないでいいわ。

 私達の暗黙の了解でね、この部屋の中だけは自由に振舞っていいって決めてるの。

 そうね……平民のお友達くらいに思ってくれて良いわ」


 何かライエル王子がビックリした表情を向けてるんだけど、ホントに大丈夫?

 侯爵は……何かこっち向いて頷いてる。どういうこと?


「えっと、申し訳ないのですが姉上、こちらは簡潔に済ませますので長くなるであろうそちらの話はその後と言う事で……」

「いいわ。でも、無理を言っちゃダメよ?

 お姉ちゃんがコツンってしちゃうからね?」

「ゴ、ゴツンは嫌です……」


 微妙な笑みのやり取りをする二人。

 ああ、うん。これは俺でも分かるよ。良く分かる。

 このお姉ちゃんは弟に理不尽な奴だ。


「ゴホン、では、早速。ランスロットさんには探して欲しい人が居るのです」

「ひ、人探しですか?

 そういったスキルは持っていないのですが。魔物探しならまだしも……」


 無理難題来た。

 そんなの兵士使ってやってくれよ。

 そんな表情が表に出ていたのか、彼は言葉を変えてきた。


「はい、最初に申し上げた通り、それは断っていただいて良いのです。

 ただ、その人物について知っていたら隠さず教えていただきたい。

 前もって言わせて頂きますが、その方に依頼したい事があるだけなのです」

「分かりました。知っているなら構いませんが、流石に名前を聞かない事には……」

「勿論です。

 ただ、先に害をなす事は無いと伝えてから質問したかったものですから」


 ああ、なるほど。

 まあ、ミラやエミリーでもない限り、別に問題ないかな。

 流石に帝国の子達は何かあったら怖いから連れて来れない。


「ライエル、お前はじれったいのよ。

 ねぇ、ケンヤって名前のSランク冒険者知らない?」


 ……俺の事だったぁぁ!

 どうしよ。

 いや、丁度いいんじゃないか?

 目的達成してないし。


「もしかしたら、私の事かもしれません。

 その名前で活動していた事もありますので」

「「――っ!? 本当ですか!?」」


 おおう。凄い反応だ。

 どんな依頼されるんだろ。


「で、では、マジックアイテムで精神被害にあった患者を治せたりしますか?」


 ……あれ? これ、もうバレてね?

 まあ、どちらにしても取り合えず国王は治してあげないとだしな。


「ええ、恐らくは出来ると思います」

「「――っ!?」」


 なるほど。父親がおかしくなってそれが治せるかもってなれば相当不仲でもない限り、強い反応を示すよな。


「出来なかったとしても害があるものではないので、治療できるか試させて頂けますか?」

「是非っ、是非お願いします!」

「わ、私、兄上連れて来るっ!」


 テーブルに両手をついて声を張り上げるライエル王子。

 アイリス王女は立ち上がると凄い速度で部屋を飛び出して行った。


「ち、因みにその方法とはどの様なものか聞いても?」


 気持ちが急いているのだろう。前のめりになって口調も少し速くなっている。


「ええ、『ディスペル』という魔法の効果を散らす魔法を使うだけです。

 それに行き着くまで苦労しました。

 私の場合、最愛の人が自分を嫌う呪いにかけられてしまったので……」

「それは……さぞ辛かった事でしょうね。ですがその最愛の人とはその後……」


 彼はその続きを聞きたそうに言葉を止めて伺う視線を送る。

 気になるよな。俺もすっごい気がかりだった。

 泣きそうなほどに。いや、泣いたけど。


「はい。今は元通りです。

 解けた瞬間に自覚があるようで、すっかり元に戻ってくれました」


 気持ちはよく分かるので、聞きたいであろう言葉をそのまま伝えた。

 すると彼は思わずといった風に口元を緩めた。


「おお! それは……それではっ!

 っと、失礼しました。

 まだ分からないのにこういう事を言うものではありませんね」


 そこで、バンと扉が開かれる。

 アイリス王女のご帰還だ。彼女の手には第一王子の胸倉が握られていた。 


「ま、待つのだアイリス。せめて状況の説明をだな……」


 なるほど。見つけて早々に引っつかんで引き釣り回してきたと。

 流石おてんば姫だ。


「兄上……彼があのSランク冒険者でした。これで、これで父上が……」

「な、なんだとっ!? ほ、報酬なら弾む、頼む。父上を、父上を治してくれっ!」


 やっべぇな。

 これで系統が違って『ディスペル』が効かなかったら居た堪れない。

 それに何を言われるか分からないから気が重い。


「落ち着いてください。彼は快く引き受けてくれました。

 後は兄上の権限で後宮の立ち入り許可を取ってもらうだけなのです!」

「そ、そんなもの、出すに決まっておるだろうが!」

「じゃあ早くしなさいよっ!」


 あたふたと慌てふためく王子たち。

 慈愛顔を浮かべながらもまだ冷静な侯爵が彼らの背中を押す。


「そちらには私にも入る権限はない。

 先ほども申したが、くれぐれも失礼のない様に頼むな。

 仮に何があったとしてもだ。

 では、私に構わず、皆様は陛下の元へ早く行ってあげてください」

「うむ。うむ。付いて参れ!」


 何故か王子に手をギュッと握られ連れ出された俺。

 そういうのはせめて王女に……いや、今ばかりは良いだろう。


 そうして、手を握られ歩き、馬車に押し込まれて移動する。

 その移動も大した時間も掛からずに終えた先には、帝国と同様、貴族街を切り取った様な場所がそこにはあった。

 帝国でも思ったけど、王宮の敷地ってかなり広いもんなんだな。

 聞いてみれば、王城、後宮の他にも法衣貴族などが住まう場所もあるらしい。

 てっきり貴族街から毎日通っているものだと思ってたわ。


 その中でも一際立派な建物の中に挨拶も案内も無しに足早に入って行く。

 足早に歩を進めていく彼に周りが声を掛けるも「黙っていろ」の一言で切り捨てられていく使用人らしき人たち。

 握られた手は今も離されることなく、じっとりと汗ばんでいた。


 もう、離そうよ……


「父上、ブレットが参りました。失礼致します」


 あ、そうだ。うちの子と同じ名前なんだよな。

 あら、いやだわっ。うちの子と同じだ何て!

 ……止めよう。ガチな彼らに失礼だな。


 扉を開き、部屋の中に入った。そこには病室の様な空気があった。

 清潔な真っ白な寝具を膝にかけて、誰も居ない宙をただ眺めるだけの老人と言うにはまだ早い五十代付近に見える男が居た。

 居た堪れず、断りを入れて即座に魔法を唱える。


「いきます。『ディスペル』」


 数秒の間を置き、その男の視線が動くとブレットを捕らえた。


「ブレット……私は、私は一体……これはどういう事だ?

 ずっとまどろみの中に居たような。その靄が漸く晴れた」


 もう、耐えられないと涙を流すブレット王子。

 アイリスが彼をどかす様に前に出た。


「父上、私の事も分かりますか!?」

「当たり前であろうが。ずっと見えてはいたのだ。

 いつも、心配してくれていたな。ありがとう。迷惑をかけた。

 ライエル、こっちへ来て顔を見せなさい。

 お前だけは泣きつかれて来なくなってしまったからな」

「ち、父上……ご、ごめんなさい……」


 ライエルは泣きながらベットに縋りつき、しゃくり声だけを響かせた。

「全く、顔を見せろと言っておるのに」と優しい笑みを浮かべ、頭をなでる。

 まだ、完全には覚醒しないのか、少しうつろな目でこちらに視線を向けた。


「……隠し子を作った覚えは無いが、お前は何者だ?」

「国王陛下の治療の為に呼ばれた医者ですかね?」

「なるほど、それはすまなんだ。

 余りに若いのでその様に見えなくてな。

 それで、私の病状はなんだ?

 長い時が経ったのは分かる。だが、思い出せぬ事ばかりだ」

「父上、帝国です! 帝国がっ!」


 アイリスが、怒気を発して何があったのかを告げる。

 帝国が送ってきたマジックアイテムが呪い付きだった事。

 それを知るまでの調査で被害にあった者の名を挙げていく。

 彼女は最後に、戦争の準備を進めていると国王に告げた。


「確かに、これを許すわけにはいかぬな……」

「当たり前だ!!」

「おいアイリス! 父上に向かって無礼であろう!」


 激高するアイリスにブレットが怒鳴り声を上げ、ライエルは未だにベットにしがみ付いたまま。


 うん。カオス空間。


 俺、帰って良いかな?

 いいよね。一応目的達成したし。

 戦争するってなったら止めてって言いに来よう。

 うん。今は家族の時間って事でね。


「では、治療の方も成功したようですので後は家族水入らずと言う事で……」

「待て、お前の診断をまだ聞いておらぬ。

 案ずるな。恩人に牙を向ける気などありはしない。

 だが、何があったのかを正確に把握したいのだ。

 アイリスはそそっかしい所がなおっていない様でな。

 真実を頼むぞ?」


 意識が完全に覚醒したのか、顔つきが少し変わった。

 微笑みながらも、相手を見据える目だ。


「診断結果と言われましても、魔法の効果を散らす魔法を唱えただけですからね。

 自分もマジックアイテムの被害に合ってまして、それで必至に解決策を探した結果これで解ける事が分かっただけですので」


 説明を終えると「ふむ、そうか」と呟く国王。

 その言葉の後に第一王子が再び目の前に立つと、手を握る。


「本当に良くやってくれた。礼を言うぞ。ランスロットよ」


 心の底よりの感謝だった。


 全て知っている手前、騙しているようで少し気が引けるが、ここで将軍の依頼だって言っても余計に拗れるだけだろう。

 取り合えず、今日の所は恩を売れるだけ売って帰ろう。


「こちらとしても、問題がなさそうなので一安心です。

 先ほどの話に寄れば、他にも被害者が居るのですよね?」

「ああ、そうであった! そちらも頼みたい。勿論報酬は別途出すのでな」


 この場もいらないって言っちゃダメなのかな?

 正直もう欲しい物なんてないんだけど。

 いや、お屋敷が欲しくはあるんだけどその場所は嫁達と吟味して決めたいし。


「ありがたいお話ですが、今の所は特に思いつきませんね。

 先ほどお願いさせて頂いたばかりですので……

 取り合えず今は治療の方を先にさせて頂けますか?」

「そうか、そうであったな。では、頼む」


 その後、十数人の被害者に『ディスペル』をかけて回った。

 公爵やら、国の中枢の者達にそれはもう感謝され、開放されたのは夕刻に差し掛かってからであった。

 最後に、正式に発表できる事ではないので今回の報酬は応接間にて話し合う事になってしまうと謝罪され、追って連絡を入れると言い渡された。

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