第42話カーチェの家を大掃除。

 中々寝付けずにとうとう夜が明けてしまった。

 ベットで寝る二人にたまに視線を向けつつも考え事をしている。

 アンジェに聞いた事を考えては『絶対そうだ、ならばアレを壊せば』と悶々としていた。

 だが、その仮面は行方不明。

 とは言え『ディスペル』で効果を散らせるんじゃないか、とも思う。


 絶対解けない呪い。

 と聞いてしまって難しく考えてしまっただけなのかも知れない。

 早く試してみたい。だけど、これもダメだったらどうしよう。

 仮面を壊さないとダメで、もし見つからなかったら?

 などと考えて悶々としていた。


「おい、寝れねぇのか?」と『キィィ』と音を立てないようにゆっくりと扉を開け、カーチェが入って来た。

 何故か枕を抱えている。


「ああ、カーチェか。気になることがあってさ。そっちも寝られないのか?」


 いや、カーチェが何で寝てないのかは知ってるけど。

 エッチな事するのか気になって仕方ない彼女はずっと壁に張り付いていた。

 寝られないから『隠密』『音消し』使って確認してしまった。


「まあ、な。寝床変わったし」と、彼女は枕を抱えたまま対面に座った。


 寝床が変わった、か。王国に戻るのは、彼女にとってはキツイ事かも知れないな。

 環境が変わってばかりになってしまう。

 望んで出てきたアンジェとは訳が違うからな。

 知らない男にテイムされて国外へと運び出される美少女

 ……おおう。薄い本が厚くなるな。


 彼女はこちらをチラリと見て問う。

「何だよ、楽しそうだな……」


 心の内を見透かされたようでドキリと心臓が弾む。


「いや、そんな事より、そろそろ王国に戻ろうと考えているんだ。お前はどうする? こっちに残るなら許可取る手配するが……どっちにしても、生活の面倒くらいは見てやる。考えてみてくれ」


 一応本気をアピールするように真面目に聞いておいた。

 今までの生活に戻りたいと言うだろうと思っていた。

 だが、彼女の返答は考えていたのとは違った。


「いや、良いよ。付いて行ってみる。

 お前が本当に私を飼うつもりで居た訳じゃないってのは分かったから。

 連れの二人見ててそれは良く分かった。

 だから、今は付いて行くのも少し面白そうだと思ってる」

「良いのか?」

「しつけぇ」


 椅子の足を蹴りつつ悪態をつく。

 そんな彼女に俺はニヤリと汚い笑みを向ける。


「では今みたいにエロい声が聞こえてくるかもと悶悶として、寝られない日々が続くかも知れないぞ?」

「はっ、はぁっ!? そんなの全然気にしてねぇし? 普通に寝れるし?」


 反応を見るだけですべてがバレバレとか萌えだな。萌え。


 だが、そうか。一緒に来てくれるなら、彼女の事も計算に入れて予定を立てないとだな。衣食住だけでなく、小遣いくらいは欲しいだろう。

 何でも俺に伺いたてるんじゃ疲れちまうからな。

 あ、そうだ。


「お前、魔素は大丈夫なのか?」

「く、くれねぇのかよ……流石にずっと無しだと多分死んじゃうんだけど」

「え? あげる事出来るのか?」

「普通に魔力譲渡してくれれば良いだけだろ。魔物遣いはそうするって聞いたぞ?」

「じゃあ、はい」


 と、彼女の前に一本の指を出した。


「は、はいって、どうすれば良いんだよ……」

「しゃぶれ」

「分かった」

「――っ!!」

 

 えっ?

 ホントに?

 キレると思ったんだけど……

 そこまで計算に入れた問いかけだったんだけど……

 でもこれ、普通に魔力出せば良いのかな?

 出して良いのかな?


「おい、このまま出すぞ。全部飲めっ!」


 邪な心など一切気づかぬまま、コクリと加えたまま首を上下に動かすカーチェ。

 魔力を出して流し込んでみた。少しずつ量を増やして行く。

 すると、思いがけない反応がみれた。


「んんんんぅぅぅっ!? ダ、ダメぇ、濃すぎだってばぁぁ! あひっ、やだぁやだぁ!!」


 とてつもなくエロい顔に変わっていく。

 涎をたらし、口を閉じてられないだけでなく、僅かに舌も出している。

 そして、何故か腰をビクンビクンと揺らしている。


「ど、どうしたんだ? 俺、何か失敗したのか?」


 一応紳士に聞いておく。これは彼女の命に関わる問題だから。


「ううん。しゅごかったのぉ。あんな濃いの一杯流し込まれたら気持ち良くておかしくなっちゃうのぉ」


 おおう。この前の『腹話術一人芝居モード』の様に己の世界に入ってしまっている。

 多分この子、エロスイッチ入ると我を忘れるエロエロっ子だ。

 このまま俺も乗って、物理的に彼女に乗りたいところだが、これからの信頼関係を考えるとどうなのだろうか?

 我に返った時どんな反応になるのだろうか……そこが問題だ。


 取りあえずジャブで牽制しておくか。

「も、もっと欲しいか?」

「やだぁぁ……これ以上入れられたら、私、おかしくなっちゃうのぉ」


 ちょっと、我慢しようとしてる所でそう言う言い方しないの!

 よだれとか垂らしちゃダメ! エロ過ぎだから!

 まさか、ジャブ撃ったらストレートでカウンターを狙ってくるとは。

 こうなったら、クリンチで押さえつけるしか……

 いやいや、直ぐ後ろにユミルとアンジェが寝ているんだって……


 どうすんだよ。くっそう、せめて夜が明けてなければ……

 もう少し時間が有れば……

 流石にこのまま隣につれてって始めたら、起きてきたユミルにバレて怒られるだろうな。上手く隠す事は出来ないよな……

 いやいや、もう明け方。バレない訳が無いよね。

 仮にそこ乗り切れても、この素直娘だよ?

 危ない、孔明の罠って奴だ。抗いがたい……とても抗いがたい罠だな……


 よし、今からこのことを考えるのは禁止だ。紳士に行こう真摯に。

 とにかく、彼女の魔素は確保出来た訳だ。


 他に帝国出る前にやっておく事って何だろう。

 ハルードラ将軍に世話になったお返しとして贈り物するだろ。


 これはちょっと奮発したい所だな。

 何せ、ミラの事で犯人だって決めて掛かって結構やっちまったもんな。

 まさか犯人が死んだ皇帝だったとは。

 しかも病死……これは転生先見つけて不幸のどん底に落としてやらねば……


 いや、取りあえずそっちは良いとして、将軍の方か。

 彼本人としては、リーンベルトやガイールに対して世界を守る為にどうしてもその必要があって殺したという事にした手前、疑われるのは当然だと言う。

 実は結構良い人だったから、こちらの罪悪感が煽られてるのだ。

 こっちとしては気分的に謝罪をしっかりして置きたい所である。

 将軍にフォーク刺しちゃったのは不味かった。うん。


 あと、学院で知り合った奴らも折角だしちょっと鍛えてやるか。

 リーンベルトやティファは良いとしても、将軍の息子であるガイールとかは鍛えとかないとダメだろうしな。

 って、その前に今日はディアとの約束があったんだ。

 なら、ディアもレベリングに誘ってみるか。


 予定は決まったものの、まだ明け方なんだよなぁ。

 どうせ暇だし、皆の装備作るか。

 と、追加購入しておいた、ミスリルを使って装備を作成していく。

 サイズが分からないがいつでも調整できるから、カーチェ基準で作成していこう。

 さっきの魔力譲渡で腰砕けになっているから好き放題できるし。


 武器防具の他にも指輪や、ブレスレット、ネックレスも大量に作成して、カーチェに付けて具合を確かめた。


「うへへ、私、こんなに愛されちゃってる……」

 と、眠りかけの心ここにあらずな彼女が抱きついてきている。

 俺もインスピレーションを高める為に、モミモミしたり突起物を摘んだりしつつも作成を進める。

 そのお陰で結構良いものが出来たと思う。


 オリハルコンでは数が作れないから、ハーレムメンバーだけにするのでまだ作らずに取っておいてある。流石にオリハルコンは作り直しで半分になるのは避けたい。

 

 そして、完全に朝日が昇り、皆が起き出す頃には大量の装備が出来上がっていた。


「す、凄いのだ。私のもあるのだよな?」

「ああ、勿論だ。だが、付与はまだ入れてない。最低二つは入るから好きなの選んで一緒に決めよう。勿論ユミルもカーチェも」


 付与一個のものは処分せずに無詠唱入れて贈答品用の袋にぽいした。

 これを将軍とメイベルさんにあげる事にしよう。

 今回は余裕を持って鉱石を購入して良かった。

 お陰でお金がすっからかんだが。

 必要な事だったが『か弱き乙女』に依頼で金の大半をくれちゃったからな。

 金貨百枚もあれば十分だと思ってたんだけど、流石に鉱石や宝石ガッツリ買うとなくなるな。

 こっちに来て金策なんてしてなかったから、いい加減底を突いた。


「わーい、大好きなのだぁ」

「あう……うん。貰ってやるよ。私に合わせて作ってたっぽいし……大切にする」

「戦えない私もいいんですか?」


 なるほど。その考えは棄てて貰わんといかんな。


「言って置くけど、Cランクにって話は消えてないよ。直ぐに戦えるようになって貰うからね。そろそろ王国に帰るから、期間は減ったと思ってね。てかあの洞窟がリポップ早いうちにサクサクあげたいところ」


 戦った経験が無いだけで、これからも戦えない訳じゃない。

 その事をまず知ってもらおう。

 だけど、ユミルが強くなったら性格のほうは、どう変化するのだろうか。

 怖いけどちょっとどうなるか興味が……ってまあ、そこまでおかしくはならないだろう。


「私はCランクなら、最初から越えてる。Bランクからずっと更新してねぇから、Sランクでもおかしくねぇな!」

「私も余裕なのだ。Cランク程度なら超えてるのだ」


 と、余裕をアピールする彼女たちにユミルが少し恨めしそうな顔を向けた。

 だけどな、ユミル。アンジェの言っている事は適当だぞ。

 だってあいつCランクの人と顔合わせとかしてないし。


 参考に出来るのはカーチェくらいだろう。だが、こいつは腐ってもダンジョンボス。あの一撃しか見てないけど、それでもアンジェよりは強い。

 学校の人の魔力が低いから余裕だと思っているのだろう。

 まあ、俺は魔力とか見えないし、実際どうなのかは分からないけど。


「そんな事よりさっさと行くぞぉ。申請は出してあるから、今日はディアとの約束の時間まで授業じゃなくてダンジョン探索だ」

「うげ、私の家に行くのかよ。あそこ掃除してもしょーがねーだろ。直ぐ沸くんだからよ。雑草みてぇなもんだ。何度無駄な掃除したことか。出口ねぇし……」


 彼女は、封印されてて出れないと知らなかった頃、必死に探し回って永遠と洞窟内を彷徨っていたらしい。


「定期的にやらないと外に出て来るんだよ。学校の奴らじゃ死んじゃうだろ」

「そんな奴ら死ねば良いのだ……あっ、ちょっと可哀そうなのだ。助けるのだ」


 アンジェは、ユミルの空気が変わったことに逸早く気が付き言い直した。


「お母さん、躾が上手くなってきたんじゃないか?」

「もう、貴方が言ってくれないからっ……なんちゃって、てへっ」


 と、新婚さんごっこを楽しみつつ、準備を進める。

 途中店で、マジックポーションを作るための魔力草や瓶などを買ってダンジョンへと向かった。


「ふははは、雑魚なのだ雑魚なのだ。この装備なら余裕も良いところなのだ」

 アンジェはグリーンインプを蹴散らしながら高笑いをあげている。


 アンジェは片手槍を所望した。

 本当に使えるのかよ、と思ったが杞憂だったようだ。

 飛びはね回転してと、突きだけでなく多彩な攻撃を放っている。

 当然合間に魔法も使う。

 予想以上に強かった。

 確かにこれならCランクの『か弱き乙女』の誰よりも強い。


 と言うか、槍を突き出しながら弾丸の様に走り回るアンジェ、可愛い。

 フリスビーとか投げたい。そんな感じ。


「これ、私は見てた方がいいか?」


 うーん。予想外な余裕さ加減だしねぇ。

 カーチェには危ない時だけ頼むとお願いした。

 まあ、それも気分的なもの。

 『シールド』『マジックシールド』が掛かっているのだから。

 中級ダンジョン程度なら棒立ちでも大丈夫。


 そんな事よりも問題はユミルだった。

 

「えいぃぃぃ、え、えいえい、えいぃぃ」


 遠くから、剣を振っているだけだった。

 何をしたいのか、分からない。素振りだろうか?


「ユミルこっちを持って魔法使って」


 魔法攻撃力特化の装備と杖を渡した。

 何度も見せたお陰で雷の上位魔法も使えるようになった。

 付与チートアクセを付けても一発でMPが枯渇するし、かなり威力もしょぼいが。


「『ライトニングストーム』」

「『ライトニングストーム』」


 それでも一応、上位魔法ともなれば、ユミルの魔力でもダメージを与えるようだ。

 勿論倒せない。流石に、一桁レベルのユミルがいくらドーピングした所で高が知れている。あくまで手傷を負わせた程度だ。

 逆にMP全放出とは言え、一発でも打てる事を褒めてやりたい。


 足りない分のダメージは、彼女が撃った瞬間にもう一度重ねて撃って即死させている。

 ちびちびと魔力回復薬を煽りながら俺とカーチェで魔物を集めて範囲を放つ。

 数時間もすれば、一端の魔法使いが出来上がっていた。


「『ファイアーストーム』『ファイアーアロー』『ファイアーアロー』」


 ダメージが出て、自分で倒せるようになってからは魔法も変えさせた。

 悪魔系は火が通るので火系統で。

 因みに俺が火を使わないのは、回りに人が居ると余熱だけで危ないからだ。


 手本を見せるのに逆に苦労した。

 低レベルじゃ本当に余熱だけできついダメージを受けてたかも知れない。


 マジックポーションも50本用意したが、まだ消費は10本だけだ。

 ゲームとは違って、一口飲んで一発撃ってと節約した使い方が出来る。

 回復量が多いから本当に一口で全回復してしまうようだ。


 この様子なら、俺が居なくてもやれそうだな。

 アンジェとカーチェがついて居てくれれば安全だ。

 ボスなんて居ないし……いや、ここに居た。ボスなんて仲間だし。

 『シールド』も割れなければ何時間も持つから余裕だろう。

 そう考えて、絶対に三人で行動して助け合う事を言い聞かせてダンジョンに残した。勿論ポーション類も渡してある。

 これで、今日一日が終わる頃にはユミルもDランクくらいには余裕でなっていることだろう。


 という事で、ダンジョンから学校の寮へと移動しディアの部屋の前にやってきた。 

 あの高級宿は引き払ったようだ。

 最初は新生帝国派が何をしてくるか分からないから警戒していたのだろう。

 あの情勢なら俺でも同じくらい警戒しただろう。高級宿の必要性はそこまで感じないが。

 結構な額だったろうが無駄だったとまでは思わない。


「ディア、居るかな?」

 声を掛けてノックする。


 軽快なリズムでトットッとの前まで移動してくる音が聞こえた。

 そして、数秒待って戸が開く。


「えっと、来てくれてありがとう。入ってくれる?」

「ああ、お邪魔します。へぇ、こっちは質素にしているんだな」

「あれは、全部宿の物だよ? 私にとってはこっちが普通。何度レラに安宿に変えようと提案した事か……ってそんな事より、座って座って」


 急かす彼女に『はいはい』と促されるままにテーブルに着き、彼女がどうもてなしてくれるのだろうかと視線を向けた。 

 少し談笑を挟み、空腹度合いを確かめられた。

 何も食べていなかったので減っていると伝えたら、彼女は食事の準備を始める。

 目の前に鍋が置かれて強く食欲が刺激される旨みを感じさせる匂いがした。


「すごい好い匂いだな。これだけで食欲が沸く」

「でしょ。私の特技は剣とこの郷土料理だけだから、これしか持て成し出来ないけど、良かったら食べてください」


 丁度おなかがすいていた。そのせいもあって、笑われるほどにがっついてしまった。

 美味しかった。こっちの世界に来てから一番美味しいと感じた。


「最高だった。レシピを教えてもらえないかな?」

「え? えっと、言ってくれればまた作るよ?」


 流石に教えてくれないか。

 これ一品で店が出せるほどの味だったものな。


「じゃあ、機会があれば、お願いしようかな」

「うん、遠慮しないでね。喜んでくれるの嬉しいからっ」


 と、料理の話も一通り話し終わり、何の話題にしようかとお互い困り始めた頃、一つの提案をしてみた。


「俺さ、仲良くなった奴らをちょっと鍛えておこうと思っているんだ」

「や、やっぱり頼りない?」

「そうだね。もし、予言の災厄が起きたら、一瞬だよ。一つの抵抗も出来ない。それくらい差が在るね」

「予言って……新生帝国派の言ってるあれよね? 詳しく聞いても良い?」

「気になるよねぇ。でも、ごめん。上手く説明が出来ない。何て伝えたら良いのか……」


「言えない訳じゃなくて?」と彼女は首を傾げた。

 それに「うん。隠したい訳じゃない」と頷き、答える。


「だから、俺の本気を形にして見せるよ。是非受け取って検討して欲しい」と。


 そう次げて、彼女の前に一人分のミスリル装備一式並べた。


「え? 何で女物……これ……もしかして……」

「ああ、ディアにだ。受け取ってくれるかな?」

「え? あっ……えっと……いいの?」

「勿論。これは純粋なただの好意だ。関係をどうしたいとかそう言う打算は何も考えないで欲しい。友達の証として受け取ってくれると嬉しいかな」

「あっ、友達、ね。うん、着けてみて良いかな?」


 ディアに変な気負いが無くなり、装備の最終調整を行って、付与を二人で決めた。


「手作りだったなんて、カミノさん凄すぎだよ。何でも出来ちゃうんだね」

「何でもは出来ないよ。だから、ディアたちの事も本格的に鍛えたいんだ」

「うう、カミノさんにそう言われるとちょっと怖いけど、頑張る」

「大丈夫だよ。ただの宿屋の娘なユミルが今、初のダンジョンで頑張ってるくらいだし」

「え!? 今って、今!?」

「うん、そうだけど?」


 彼女は立ち上がり、「何で付いて居てあげないの?」と装備を付け出した。


「大丈夫。アンジェとカーチェについて居て貰ってるから。魔法もかけてあるし、ポーションも渡してある。まあ、ディアが付き合ってくれるんなら、これから一緒に行きたいとは思っていたけど」

「行く!! この装備も使ってみたいし、流石に宿屋の娘に勝てなくなるのは切な過ぎるもの」


 あー……もう勝てなくなってるんだよなぁ……

 無詠唱で上級魔法連発できる時点でもうね。火力もそれなりに上がってたし。

 まあ、態々言う必要は無いだろう。

 行って鍛えだせば彼女も嵌るはず。レベリングに。


 そして、ディアとのダンジョンデートをスタートさせた。


「すごいっ、何これ凄い切れる!! あはははは、すごいっ、あははっ」

 と、テンションマックスな彼女。こんな姿は始めてみた。


「じゃあ、次はね『バッシュ』と『パリィ』を使っていこうか。構えはこう、タイミングはここ、で『パリィ』弾いたら『バッシュ』」


 魔物の特色に合わせて取りやすいタイミングを教えて新しく覚えて貰ったスキルを馴染ませていく。


「こいつらは追いかけるだけ時間の無駄だから『飛翔閃』でガッツリ死ぬまで打ち抜こう。マジックポーションは作っておいたから」


 視界の先に居るのは、通称『かまってちゃん』小さな悪魔で先ほどアンジェが追い回していたグリーンインプだ。

 弱い単体魔法攻撃がメインで近づくと距離を取るが、逃げると追いかけてくる。

 アンジェほど早く、一撃で倒せればまだ良いけど……いや、それでも無視したほうが効率はいいのだけど、後を付けられての不意打ちがなくなる方が大切だ。

 恐らくだけど、彼女達には痛いだろうから。


「普段はどうするの? 無視?」

「うーん、剣士ソロならそうだね。

 下に進んだ方が効率がいいからポーション無しなら無視かな。

 完全に巻くのもコツが居るから一度でも発見されたら背後にも注意が必要になるけどね」

「分かった」


 どんどん先に進んで行く。

 ユミルたちが倒したはずの魔物が沸いている。予定通り良い感じだ。


「次は、難易度が高いけど、ダメージ効率が跳ね上がる『パリィ』と『パワースラッシュ』のコンボで戦っていこうか。モーションが大きいから『パリィ』で弾いた直後じゃないと反撃貰う可能性が出てくるから気をつけてね」

「うん。危なそうなら教えて。直すから」

「おっけぇ、その時は言うよ。今日は『シールド』でダメージ受けないから、色々な動き試すのも良いかもね……ってもうこんな時間だ。そろそろ帰らなきゃな」

「ええ、もうっ!? ねぇ、明日も、明日ももう一回」

「じゃあ、明日はガイールやファルケルも誘って良いかな?」

「ええ、勿論っ!」


 帰ることや明日の算段も付いた為、後はユミルたちと合流して帰ろうという話になった。

 ディアにお願いして抱っこさせて貰い、高速移動しつつ『飛翔閃』など、色々なスキルを見せながら移動。

 いつもなら範囲攻撃魔法をぶっ放す所なのだが、彼女達がどこに居るかも分かっていないのに撃つ事は出来ない。

 とは言え。もう12階層だ。直ぐに合流できるだろう。

 そう思っていると、アンジェとすれ違った。


「「あっ」」


 こいつ……単独行動するなって行ったのに……


「何があった?」

「違うのだ。ちゃんと最後まで皆でやって折り返したのだ。もう余裕になったから帰りは各自でって話になったのだ」

「馬鹿野朗!! それは危ないからダメだと言っただろうがっ! 言う事を聞けないならエルフの里に突っ返すぞ!!」

「ひゃいっ、ご、ごめんなさいなのだぁぁぁ……うぁぁぁぁん」


 全く……あっ、ディアまで驚いてフリーズしちゃってる。


「驚かせてごめんね。危ない事されるとついね」

「ううん。私も、肝に命じるから……怒らないで?」

「ごめんなさいなのだぁぁぁ」


「はいはい」と、調子の良いアンジェの頭を撫で、歩いて進むとカーチェとユミルが揃って走ってきた。


「あっ、やべっ、おいユミルあいつ来てたぜ?」


 むかっ。何だその物言いは!


「お前ら、俺はダメだって言ったよな? これはどういう事だ?」

「いや、アンジェが突っ走って行ったって言うか、余りに余裕過ぎたことを同意しただけって言うか……」

「そうか……きつい所が良いんだな? 俺のお勧めいくか。ここの百倍キツイ場所があるんだよ。まあ、俺一人でも余裕な場所だから問題ないだろ?」

「ちょ、何がガチ切れしてんだよ。ちゃんとユミルは守っただろ。アンジェは危なくないから放置したけど」


 む、そう言われると確かに。

 約束を破ったのは許せんが、危険にならない範囲でやっていた様だ。


「仕方ない。今回は多めに見よう。命は一つ、絶対に無くさない様に行動する。それは当たり前の鉄則だから忘れないように」

「ふふ、カミノさんはお父さんみたいだね」

「そうなんだ。こいつら子供でさぁ」

「ご、ごめんなさぃ」


 と、小さくなっていたのは珍しい事にユミルである。

 アンジェの話に寄れば、ユミルも結構強気になっていたらしい。


「次から気をつければ良いよ。

 場所によってはさ、ボスでもないのに一匹だけ飛びぬけて強いのがいるダンジョンとかもあるんだ。部屋で区切られてなくて、いきなり出てくるボスとかね。

 カーチェなら一人でどうにかできるかも知れないけど、アンジェやユミルじゃ逃げる事も叶わない場所は結構あるんだ。

 戦いに身を置くなら、常にそれを想定して無いとだめだよ」


「えっと、カーチェさんって強いの?」

「うん。まあまあかな。俺も危うく一撃貰う所だった。まあ、貰った所で大丈夫だけど、あれは焦ったな」

「食らっても平気だったのかよ! あのスキル不意打ちで使ったのに防ぐとかお前色々おかしいよ」

「あれなんてスキルなんだ?」

「んー? 『影移動』だぞ。多分、人間にゃ無理じゃないかな? そんな気がする」

「なら、なんでカーチェさんは使えるの?」


 おい、そこでヤバイって呟いて逃げるんじゃねぇよ。


「こいつヴァンパイアなんだ。俺の保護下って事で国に許可貰ってる感じ?」

「ああ、そっか。国に話つけたんだからもうビビる必要ねぇんだな」


 陽気にからからと笑うカーチェを見て、ディアが、困惑している。

 確かに、今魔物を殺して回っているんだもんな。

 しっかりと知性を持った魔物と共に討伐してるのは変な感じだろう。


「そうだ。だからカーチェも堂々としてろよ。その方が相手も疾しい事が無いって判ってくれるからな」

「了解了解。最初はホントクソだと思ったけど、お前結構いい奴だよな」

「いやいや、結構クソだよ? 昨日の夜お前の寝室覗いちゃったし」


 じっと見つめ合う。

 俺は、ニヤニヤと彼女が理解して言葉を返すまでじっと待った。


「いやいや、嘘だよな? 昨日の夜はお前と一緒だっただろうが」

「それは明け方だな。そういえば、壁と一体化していたのはヴァンパイア性質なのか?」

「な、何の事だよ!? そんなの記憶に無いからな!

 もう話は仕舞いだ。続けたらぶっ殺す」


 ふむ。これ以上やるといじけてしまうな。

 ついつい弄りがいが一番あるから苛めてしまうが、今日一番苛めるべきは調子に乗りすぎる幼女だよな。

 もう陽気な笑顔を浮かべ、わははと笑っている。

 後先を考えていない屈託の無い笑顔。


 守りたい、あの笑顔。 


 まあ、言うべき事は言ったのだから無理に苛めなくて良いか。


 と、思っていたのにも関わらず、アンジェは帰ってからも無謀な嘘や挑発を繰り返し、結局尻を叩かれるハメになった。







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 作者っす

 読んでくれてありがとっす

 気が向いたらで良いんで評価もお願いしたいっす。


 ストックが切れたので暫く書き溜めします

 少し時間が空くと思われます









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