第41話魔物をテイムした。
あの後、彼女の学年とクラスを確認して直ぐにユミルたちと合流した。
彼女達は避難誘導にしたがって、学院の外。
兵舎訓練場を借り受けて集合していた。
心配掛けているだろうと思ったのだが、そうでもなかった。
「流石に一日くらいは掛かるものだと思ってました」
と、逆の事を言われてしまった。
揃って触手がどうなったかを聞かれた。だが、どうなったのだろう。
多分魔法で吹き飛んだと思うんだが、予測地点に魔石が見当たらなかったんだよな。
「フハハハ、流石私の英雄なのだ。じゃあボスも倒してきたのか?」
「それがねぇ。ここのボスは俺にはどうやっても倒せない系の奴だったんだ」
「「「――っ!!」」」
三人は言った瞬間目を見開いて、ゴクリっと、喉を鳴らした。
「ど、どんなやつ? ドラゴン? 魔王?」
と、エミリーが緊迫した表情で問う。
「うーむ、ドラゴンではないな。細い手足で真っ白な肌、銀色の髪で……そうそう、丁度あんな感じ……」
と、通りかかった少女を指差した。
「お前何、いきなり人を指差して……」
ご本人だった。
「おっす」
「……お前、何で一切動揺しねぇの?」
顔を真っ青にさせてよたよたと立ち眩みを起こしているようだ。
「ああ、そんなにふらついて、心配だよ俺の可愛いカーチェ。どうやったらキミをテイム出来るのだろう」
「何で名前まで知ってんだよ。怖えぇよ! もうやだぁぁ……誰かぁ……助けてよぉ……」
彼女は蹲って泣き出した。
本当にもう限界なんですと体全身でアピールしていた。
そう、うつ伏せじゃない。
幼子の様に大地に横になって丸まっていた。
「大丈夫だ。何があっても俺が助けるから」
「お前から助けて欲しいんだよぉぉぉぉ……お前じゃない誰かぁぁぁ……」
「おおう……」
流石にここまで切実に真っ直ぐに全否定されてしまうと返す言葉が無かった。
そして、ピンチに颯爽と現れたのが我が嫁、天使ユミルだ。
「ええと、私、今年入学したユミルといいます。この人の彼女でもあります」
「ほ、本当か!? ならこいつ遠ざけてくれよ。マジで怖いんだよ。泣きそうなんだよ!」
ぼそぼそと話し合う二人。
流石ユミルだぜ、頼りになるぅぅ。
「ケンヤさん、取りあえず、正座して貰えます?」
「えっ?」
「聞こえませんでしたか?」
「い、いえ」
どうしたんだろうか。
まさか、彼女が嘘を吹き込んだんじゃあるまいな?
俺はユミルに、冤罪が無いか洗いざらい聞き出した。
概ね、その通りだった。
「ちょっと待て、俺が入ったのはダンジョンのボス部屋な? そこが女の子仕様に改装されていただけだぞ?」
「そこは、怒っていません。何ですか? 犯すって」
「え? いや、だって……こいつが襲うって言うから、売り言葉に買い言葉で……」
「じゃあ、ケンヤさんは知らない異種族がいきなり部屋に入ってきて、私に向かって今日から飼ってやる。今からお前は俺の性奴隷だって言ってきたらどうするんですか?」
「全力で滅ぼす。その種族ごとこの星から消す」
「そこまでしなくとも……ではなくて、どうしてそれが分かるのに、彼女に無理やり迫るって選択肢が出てくるんですか。思いなおさなかったら今日から一緒に寝ませんからね」
「わ、分かった。優しく迫る。だからそれだけは……」
「反省してください! 馬鹿っ!」
「ユミル……」
彼女はバタバタと、走っていってしまった。
俺は、もう正座を解いても良いのだろうか?
アンジェ? 嵐が去ったからと、正座の上から乗っかるの止めようね?
「もう、カーチェはまたこんな所であぶら売って……ってケンヤ様どうして地面に座っていらっしゃるのですか?」
彼女に親しげに声をかけた相手を見上げれば、そこにはティファの姿があった。
「ハーレムメンバーじゃない奴を犯そうとしてユミルに怒られたのだ。フハハ、私が居るのに他行ったのだから仕方が無いのだ」
むぅ、今は仕方あるまい。嵐が過ぎるのをじっと待つのだ。
「ま、まぁ……その、お相手は?」
「そこで丸まって泣いてる奴なのだ」
と、彼女はカーチェを指差した。
お前、そうやって恥を振りまくの止めようね?
お前もお座り。いや……俺の上じゃなくて。
「……ケンヤ様は、やはりわたくしの事がお嫌いなのですね。アプローチを袖にしたその日に他の女を無理やり抱こうだなんて……」
ちょっとティファさん? あんた何もアプローチしてないからね?
しかも悲しそうに袖を噛むの止めて。
「おい、いつお前を袖にした。謝罪が迷惑だと言っただけだろ」
「では、こんな貧相で口が悪い娘より、私を選んでくださいまし」
ふむ、それはそれでありです。病弱姫、ありです。
ガイール悪いな。恋愛は戦なんだ。
「ちょ、お前、私は貧相じゃねぇよ。体型変わらないだろ?」
「俺は二人同時でもいいんだぜ?」
「お前ホント死ねよ」
「ケンヤさんはお茶目ですね」
表情を見るにお気に召さなかった様だ。笑顔なんだが血管が浮き出ている。
だが、友達が来てくれたからか、復活した吸血鬼であろう娘は同じ席に着くことをよしとした。
ティファに連れられて、俺達は兵舎のお偉いさんが集まる場所に招待された。
当然の様に離脱しようとしたカーチェも当事者なので無理やりに連れて来た。
そこで、何があったのかを事情聴取される。
「てな訳で、あのダンジョンはこんな感じでした」
「お、おまっ、何で全部言っちゃうんだよ! クソっ信じた私が馬鹿だった」
俺は、学院長やら、将軍やら領主やら代官やらの重鎮が集まった中で今回の騒動を説明していた。
流石防げたとはいえ、皇都のど真ん中に知らないダンジョンがありました。今にも溢れそうです。
と言う状態で隠せばメイベルさんの立場がない。
「いや、ダンジョンがあったのも信じられないのだが、その少女が魔物で、ダンジョンのボス……なのか?」
「そんな……カーチェ、どうして言ってくれなかったの?」
「こ、殺されるの分かってて言えるかよ。どうせお涙頂戴しようがなんだろうが、殺すんだろ? 危険だからって……」
そこで、将軍に視線が向く。
だが、彼が何か言う前に言葉を挟んだ。
「彼女の身柄については俺が全責任を持って預かります。勿論、彼女の了承があれば、ですけど。嫁に嫌われてしまうので……」
その一言で全員の視線が今度は彼女へと向いた。
悔しそうに睨みあげる美少女。目の端には涙が溜まっている。
「もういいよ……言われた通り股開けば良いんだろ!?
クソっ、好きに犯せばいいじゃねぇか。
この魔物フェチのこのクズ野朗」
この日、俺は国規模で魔物フェチのクズ野朗だという事が知れ渡った。
だが、それでも良いと思う。
彼女から好きにして良いと言い出してくれたのだから。
おっと、テイムするのは隷属魔法が必要だったな。
流石にそれは持ってないぞ。覚えなくちゃだな。
「……ダンジョンの方はどうする。一般開放するにしても、直ぐに冒険者が定着する訳では無い。軍で対応するかな?」
「ええ、我らは兵力を持っていないのですから、冒険者の方が時間が掛かるのでしたら将軍にお願いするしか……」
「いや、それは当然分かっている。ケンヤ殿、どのようにしたらいいかな?」
まあ、学校なら毎日行くわけだし。課外授業の予定もあるしな。
近場で狩りができるのはありがたいな。
「帝国に居る間は構いませんよ。取りあえず、一回最下層の二十階層まで殲滅はしてありますし」
「じゃあキミは、今日発見したのにも関わらず、殲滅してきたと言うのかね?」
小太りの叔父さんにお前は何を言っているんだ? と煙たげな視線を向けられた。
説明してるはずなんだけどな……
「最初にそう言いましたよ?」
「ああ、皆、忘れないでくれ。ケンヤ殿はSランク冒険者、その中でも最強の冒険者だ。ブラックオーガだろうが一瞬で殺す御仁だよ。どうか失礼の無い様に」
「お、おぉ……」
ガタガタ、ざわざわと場が色めき立った。
最初の説明では、話半分で聞いて居たのだろう。ハルードラ将軍の呼び方や気の使い方、そして説明によって、本物の強者だと認められたようだ。
「では、ケンヤ殿にお願いするとしよう。仮に何かが起きて見て居らなくなる場合はグラン学院長を通じて一言入れてくれれば直ぐにでも兵を出す。報告だけは忘れないでくれ」
「了解です」
と、話が進み一度解散と言う流れになったのだが、ティファ、リーンベルト、俺、学院長、カーチェがその場に残された。
「では、カーチェ君聞かせてくれるかい?
キミは、どれくらいの時を生きているのか、種族は吸血鬼で良いのかい?
あのダンジョンはどうして封鎖されていたのかな?」
「あん、そんなん調べれば分かるだろ?
14才だって学院でも言ってるんだから。
それに、あそこが封鎖されてる理由なんてしらねぇよ。
生まれた時から閉じ込められてて出れると分かったのが10年近く前で、それから色々学んで奨学金制度があるって知ったから学院に入った。
そんだけ。
ああ、吸血鬼だけど、お前達は勘違いしてるから言っとく。
血は大量には要らないし人間のじゃなくてもいい。
血何て肉には普通についてるだろ?
それと別にチョビットあれば十分だからな。
それも狩するか料理で使うって言って解体屋のおっさんに頼んで貰ってる。
私が言いてぇのはあれだ。
物語みたいに人一人の血を吸い尽くして干からびさせるみたいな事はできないからな」
「ありがとう。では、ケンヤ殿の監督付きにはなるが、この国で生活する事を認めよう。他の者もそれで良いかな?」
異論が出なかったのでそれで決定となった。
「ちょ、ちょちょちょ。ホントにホントか? 私殺されたりしねぇーの?」
「キミは学院に奨学金で通っている割りに勉強不足だね。
今までの歴史を紐解けば、魔物が人と共存した事など数え切れぬほどにあるよ。
この国でも条件付きで魔物を受け入れるという制度が元からあるくらいにはね」
「じゃ、じゃあ、こいつの奴隷になる必要ねぇんじゃん! やっぱやだ。絶対断る。断固きょーひー!! その制度使わせてくれ!」
「カーチェ、それは無理よ。公式な場所での宣言はそんなに甘いものではないわ。
自暴自棄になっていたから、自身が勉強不足だったから、は通らないの」
ティファはゆっくり首を横に振り、諦めなさいと諭した。
ハルードラ将軍が『ゴホン』と咳払いをし、話を本題へと戻す。
「皇宮内でヴァンパイアの噂は度々囁かれていた。
かなり昔から在る噂のようだ。
私も、その存在を突き止めようと動いた事がある。止められてしまったがね。
その出所がこれだったのかと今日初めて分かったよ。
14年前にって言ったね。
皇帝陛下がおかしくなり始めたのは16年程前からだ。
私はこれが繋がっていると思っている」
リーンベルトは深く頷いた。
「代替わりでカーチェさんが生まれた訳ですね。ですが、ヴァンパイアの先代はどうして亡くなったのでしょうか」
「私はね。そもそも、この帝国に根強く色づいた銀色の髪、それはヴァンパイアから来ているのではないか、そう思っているのだよ。
その考えが今日、確信に変わってしまったね。
どうりで髪の色の話を出した時、一部の反論が異常に強かった訳だよ。
失言には変わらなかったから、気にしなかったけど」
「「――っ!!」」
将軍の言葉に、ティファとリーンベルトが強い反応を見せた。
「それは、皇家が彼女の先代のヴァンパイアを監禁し孕ませ続けた、そう仰りたいのですか?」
「恐らく、だけどね。それがいつからいつまで行われていたのかは分からない。
だけど、王国に勇者を取られてからね、帝国は必死だったんだよ。
どうしても差が出てしまうだろう? だから、容姿にも能力にも優れる。
そんな人材をトップに据える必要性があった。
少なくも300年前までは遡れば遡るほど、それが顕著だった事だろう」
彼は語った。
その言葉は疑う必要が無いと思えるくらい想像に難くない事だった。
全世界が協力して倒した魔王。
それを代表した存在は勇者だ。
同じ人族の国でありながらその争奪戦に敗れてしまったが為に、外交でも商談でも、僅かながらも差が付き続けることになってしまったのだろう。
それでどうにかしようと奮起した結果がヴァンパイア拉致監禁だというのは情けない話だが。
あの名も無き村の爺さんが聞いたら言うぜ?
渋い感じに『まるでゴブリンの様に醜い』ってな。
「それにしても驚いたよ、ティファと親しい友人だとはね。
カーチェ君、これからも仲良くしてやって欲しい」
「……良いのかよ。偶然じゃない。私は下心ありで近づいたんだぜ」
「勿論ですわ。こんな素直で面白い子他にいませんもの。これからも、友達で居てくれますね? 私のカーチェ」
「いやいやいや、ふざけんなよ。そんなおもちゃとして丁度良いって言われて頷く訳ねぇだろ!! どいつもこいつもふざけやがって、人間ってホントろくでもねぇな」
彼女は言葉の最後に俺に熱烈な視線を向けた。
もう夜の事を考えて居るのだろうか?
「カーチェ、少し気が早いぞ」
「何がだよ、あのユミルって奴に言い付けるからな! 覚えてろよ」
「え? いや、それはダメだよ。テイムしなければいけなくなる」
「うぜぇよ。もうするって決めてんだろ。黙れよこのクズ」
「ぐぬぬ」
そろそろ、本当の事を教えてあげよう。
じゃないと俺がかわいそうな事になってしまう。
「一つ言っておくが、俺は合意が取れない限り何もしないからな?
お前の反応が楽しいから遊んでいたが。
だから、お前は殆どこれまで通りの生活に戻れるから、心配するなよ」
「はぁ……? じゃあさ、何……?
お前、私がこんなに苦しんでるのを楽しんでいたのかよ?」
「いや、うん。そうなんだけど……
そこは助ける方向で動いたんだから感謝する方向だと思うんだよ?」
「ホント信じられねぇ。最悪だよお前」
むう、嫌われてしまった。
だが、初のテイムモンスターだ。
これから一杯時間がある。
親密度を上げて最強の魔物にしてやるからな。
それはそうとして、一つ確認して置きたいかな。
「もしかして、ミラの母親が先代のヴァンパイアだったって事か?」
「……先代皇帝の目的を推察すると、可能性は高いと思っているよ。
私が知る限り、時期が一番被っているのだから。
それでも、あの頃はもうおかしくなっていたからね。
彼女の他にも手に掛けていてもおかしくは無い……
私の知っているあの女性がヴァンパイアだったのかも知れないしね」
「胸糞悪いな。まあ、こんなにクソ可愛いヴァンパイアの血ならいいか。寧ろ歓迎だな」
「く、クソ可愛いとかいうんじゃねぇよ。気もちわりぃなぁ」
うむ。この程度で赤くなってしまう所からして尊い。
「ハルードラ将軍」
「な、何かな?」
「助かりました。何かお返ししますのでお楽しみに」
今回、気を利かせてすべて俺の管理にして貰った。
このビップ待遇は普通はありえない事くらい俺にも判る。
「いや、これくらいは構わないさ。
だが、キミのお返しが何かは楽しみにさせてもらおう」
そうして、今回の事件は一応の収束を見せた。
緊急的な事態は過ぎたとされ、生徒達は寮へと戻される。
討伐は俺に一任されたが、当然図書館は封鎖。
入り口から外まで、兵の監視は付いていた。
生徒達が寮へと戻る流れに沿って、俺達も学院を出る。
将軍へのお返しもあるしと、買い物をしてから帰った。主に鉱石や宝石類だ。
軍だからポーションでも良いのかも知れないが、消耗品より残るものの方が良いだろう。ポーションなんて実際、数を飲めばいいだけだし。
用事を済ませ、拠点としている長期逗留を主とされる宿へと戻ってきた。
彼女を改めて紹介する為に、ユミルやアンジェの方へ向かせる。
「これから、うちのメンバーになったカーチェだ。皆仲良くしてやって欲しい」
「不本意だけど、そうなっちまった。
ユミル、宜しく頼むな。ホントに……頼む……」
「は、はい、大丈夫ですよ。こちらこそ宜しくお願いしますね」
「むう、私に挨拶が無いのだ。私のほうが年上なのだぞ」
と、変な方向へと進んだのでやり直しさせつつ、もう一度彼女に宣言した。
「一応、法律だからテイムさせて貰うが、自由に生きて良いからな。
別行動したって構わない。
分かっているとは思うが、この国の法律を守っている分にはだぞ?」
「お前を拒絶しても良いってことか?」
「不本意だけど、構わない。俺は主として衣食住の面倒は見るつもりだ。その代わり、ある程度は主として立てて欲しいんだけど、どうだろ?」
「意味が分からないぞ。拒絶しても面倒全部見てくれるのか?」
「主人になるってそう言うものだろ?」
「お前の利点は?」
「超絶可愛い美少女にいつでも会いにいける。それだけでも十分な利点だ」
「超絶……」
うんうん。やっぱりこういう初々しいのは最高だな。
「ああ、そろそろお金がなくなりそうだから、働こうと思う。明日からダンジョンで稼いでもらおうと思うんだが、良いか?」
と、告げると早速吸血鬼娘からジト目を頂いた。
ちょっと待て、何だその『金もねぇ癖に何が面倒みるだ』と言いたそうな顔は。
「いや、稼ごうと思えば一日金貨100枚くらい余裕で稼げるからね?
Sランク冒険者舐めないでね?」
「ハッ、魔物だって思って馬鹿にすんなよ。金貨ってのはな、そう簡単に稼げるもんじゃねぇんだよ。やっぱり口ばっかだな、この野朗は……」
「おい、何なのだ貴様は、ランスさまを侮辱するのはゆるさないのだ。
一度上下関係というものを分からせる必要があるのだ。」
『むふぅー』と肩を回しながら鼻息荒く立ち上がったアンジェに立ちはだかったのは、吸血鬼娘ではなかった。
「アンジェちゃん、止めなさい。ダメっ! アンジェちゃん。メッ! メヨッ!」
両肩を抑えられ、単発的な強い口調を投げかけられるアンジェ。
ビクリと怯えてオロオロする姿に思わず笑いそうになってしまった。
そんなアンジェを、舐める様に見つめるカーチェ。
「お前すっごく可愛いのな。耳の形が違う。エルフって奴か」
「そ、そうなのだ。偉いのだ。私は偉いのだ!」
誰も偉いとは言っていない。
さて、吸血鬼娘がどうでるか。
「そうかそうか。宜しくな」
「うむ」
あれ? すんなり上手くいった。
俺だけか。嫌われているのは。
「ああ、そうそう、皆分かっているとは思うけど、仲間内で殺し合いとかは何があっても、例え裏切られても絶対にするな。分かったな」
「おい、話がちげーだろ。殺されそうなら殺して良いって……」
「ああ、それは構わない。それをして来たのなら仲間と認識する必要がない。とは言え、操ったり出来るような世界だから、いきなり殺し合いはして欲しくないけど」
何て説明したら、と一度言葉を切ると、アンジェが補足を入れてくれた。
「簡単なのだ。
ランスさまのところに言って聞けばいいのだ。『殺して良い?』って。
ただそれだけの事なのだ。
殺されそうにならない限り、聞くの優先すれば良いだけなのだ。
殺されそうだと思ったらぶっ殺せばいいのだ」
うーん……まあ、大体あってる。
「まあ、うん。
俺としては『仲間皆が最初に殺そうと手を出さない』と言う約束を守ってくれれば、そもそも殺し合いにならないと言いたかったのだが。
何にせよ、そこをしっかり守ってくれれば、お前達の事は俺が守る。
国だろうが世界だろうが、関係無しに戦ってやる。
だから、種族が違おうが気にする必要はない。楽しくやっていこう」
「世界って一々大げさな奴だな。
カッコつけるのも良いけど、身の丈にあってねぇとダサいだけだぞ?
まあ、そう言ってくれるのは嬉しいっつうか、素直に受け取っておくけど……」
何故かニコニコと上機嫌のユミルが料理を運んできて、なんだかんだ、和気藹々とした空気の中、食事を取った。
面白かったのが、会話からカーチェが強い事を知ったアンジェが挙動不審になっていたり、ダンジョン発見が今日の朝で一時間も経たずにダンジョン内を殲滅した事を知ったカーチェがガクガクと震えてみせたりしていた。
一緒に居て飽きさせない二人だった。
そして、時は流れ、俺達はベットへと移動する。
アンジェとユミルが一緒のベットに座り、カーチェはそれをそわそわしながら眺めている。
「カーチェも寝るんだから隣で準備したらどうだ? まだ眠くないのか?」
「えっ!? いや、あー眠いかなぁ? うん。隣、いくね?」
分かりやすい挙動不審である。
今からしちゃうんだ? ホントに? と顔に書いてある。
だが、アンジェが居るから無理なんだ。部屋が足りない。
くっそぉ……あと一部屋空いてれば……
まあ、無理なものは無理。王国に居た頃と比べれば余裕だしな。
最悪、お口で……っ!? お口ならアンジェでも良いんじゃ?
いや、ダメだろ? うん、ダメだな。
取りあえずエロから離れよう。
そう思った俺は、いつの間にかなくなっていた悪鬼の仮面がを探し始めた。
そう言えば、あの仮面はどこ言ったんだ? と。
ごそごそと荷物袋の中をもう一度漁る。
「どうしたんですか?」
もう今では、数個在る荷物袋の中身をひっくり返して一つ一つ並べていく。
その姿をみたユミルが、ベットメイキングを終えて様子を伺いに来た。
「いや、悪鬼の仮面って名前の装備が無くなっててな。昼間も探したんだけど……」
「んあっ、気持ち悪い顔の仮面ならこっちに来る時に捨てたのだ」
足をパタパタさせて、ユミルの整えた部分を乱しつつも眠そうに声を上げた。
……はっ!?
「え? 何で勝手に捨てちゃうの?」
結構な高級装備だったが為に、唖然とし、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
こいつ、どうしてくれようか……
「ランスさまがあんなの付けちゃダメなのだ。あれは呪い付き装備なのだ」
と、アンジェの言葉に湧き上がった怒りが霧散した。
ど、どういう事? 俺の為って事なら怒れないけど、マジ?
アンジェは結構嘘の前科があるからな。
真偽を確認せねばなるまい。
「む、嘘じゃないのだ!! こんな嘘つかないのだ!! 魔眼でちゃんと確認して今まで見た事無いほどに酷い装備だったのだ」
お尻をモミモミしつつ、笑顔で問いかけたのが効いたようだ。
直ぐに覚醒してハキハキと言葉を返し始めた。
どうだい、母さん。とユミルを見る。何故か首を横に振られた。ダメか?
「うん。分かった。アンジェが本気で言うなら信じる。だけど、何でその場で言わない……」
「えっと、あの時は……呪いとか詰まらない話をしたくなかったのだ。
同行して直ぐだし、いきなり装備捨てろとか言い辛かったのだ……
それからは……忘れちゃってたのだ……ごめんなさいなのだ……」
じっと真剣な瞳で見つめ続けたからか、怒られてると思ったアンジェは尻すぼみになっていき、目がウルウルしている。
「うん。今度からは、ちゃんと言ってね?
あれ、本当はすっごく高い装備なんだよ。
呪いが、解ければ他に類を見ないものになっただろうし。
まあ、危ないものを知らないで使ってるよりよっぽど良いけどね。
ありがとう。だけど、今度からは隠さないようにね」
「えへへ、分かったのだ」
満面の笑みで顔をこすり付けてくるアンジェに尋ねた。
「呪いってどんなのがあるんだ?」
「物によるのだ。あの仮面は多分、悪意を振りまく感じなのだ」
「悪意かぁ、ヘイト寄せに使えたり? ヘイトは敵意……
……んんっ!? ちょっと待ってもっと詳しく頼む」
「うーんと、簡単に言うと嫌われるのだ。だから英雄が付けちゃダメなのだ」
おおう。
あの日、あの仮面を着けている姿を見たのがミラたち四人。
ユミルだけは後からだったから仮面を装備したままの俺を見ていない。
これは……もう、決定じゃないかな?
そろそろ王国へ帰る事になりそうだ。
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