第40話このボスは倒せない。無理だ……

「なるほど、討伐訓練の実施ですか。貴方が付いていって下さるのなら、どこへ行っても問題無いでしょう。それで、どちらに赴かれる予定ですか?」


 学院長の許可も問題なく下りそうだ。

 だが、おかしな事を聞くな。

 直ぐ近くに丁度良いのがあるのに態々遠くに行くつもりはないんだけど。


「大図書館、地下の迷宮ですよ。彼女達を連れて行くのに態々きつい所に行く必要はないですしね」

「えっと、何を仰っているのか。大図書館といいますと?」

「まさか、ぼ……ボケてしまったのですか?」


 メイベル学院長の目から笑みが消えた。


「フフフフフフ、可笑しな事おっしゃるわぁ、そんな訳無いでしょう……?

 一度目ですからね。聞き流しましょう。

 で……? 何でしたか?」


「いや、あの、ここの大図書館地下にあるダンジョンに潜りたいのですが」

「どこで聞いてきたのかは知りませんが、そんなものはありませんよ?

 そもそも、そうであれば敷地内に学校を作るわけがないでしょう?

 討伐していれば出て来ないとは言えね」


 いや、そんなはずは……


「因みに、この学校って何年くらい前に作られました?」

「15年前ですわね。皇帝陛下が御自身の直轄地である天領を民に開放すると同時にこの学院の設立をして下さいました」

「因みに、ダンジョンって討伐を一切しないとどのくらいで魔物が溢れるものですかね?」

「5年ですわね。ですから、ありえませんわよ?」


 ゲームとの差異って事?

 皇帝が絡んでるってキナ臭いんだけど……

 しかも15年前ってミラの年考えるともうおかしくなってる頃だよな。

 だがしかし、仮にそうだとすると皇都に魔物をばら撒く事になるよな。

 自分のホームだった町を潰す事に何の意味が?


 まあ、場所は分かってんだ。

 取りあえず、ダンジョンが在るのか無いのか、そこを確かめてから考察するべきだろう。


「自分の目で確かめさせて貰えます? 取りあえず地下への立ち入り許可だけ貰えれば良いんで」


 と、メイベル学院長に尋ねたのだが、帰って来た答えは予想外なものだった。


「いえ、ですから、そもそも地下が無いのです。調べたければ御自由うになさって頂いて構いませんが……」


 ええ……作りがあれだけ一緒なのに、地下だけ無いの?

 まあ、調べて良いってんなら見てみるから良いけどさ。


「そうですか。じゃあ、取りあえず確認してきます。下手すると国が落ちるレベルですからね」


 そう告げた瞬間、メイベル学院長はギョっとした目を向ける。


「どうやら、謀っている様では無いですね。貴方がそこまで言うのであれば、同行させていただきます。その方が何かがあっても円滑に事が運ぶでしょうし」

「そうですね。絶対とはいえませんが、確度が高い情報を基にしているのでそうして頂けると助かります」


 ちょっと大げさに言ってみて正解だったな。

 責任者が居れば何かあっても安心だし。

 と、俺達4人パーティーに学院長が追加された。

 何があるか分からないから最強装備を装着しようとしたのだが、何故か仮面だけが見当たらなかった。

 無いならないで仕方がないとオリハルコン装備を纏い図書館の1Fに移動した。

 そして、ゲームの世界では地下への入り口があった正面奥の部屋へと移動する。

 その場所は講堂としても使える教会、の様な作りになっている。


 その最奥には、小さな教会には似つかわしくない聖遺物を奉納する棺がドンと置いてある。

 ゲームと同じであれば、その巨大な棺の底が抜けていて下る階段があった。


「この下ですね。開ける、もしくは移動させる事に問題があったりしますか?」

「いいえ。ですが、最大限、丁重に扱ってください。私は敬虔な信徒ではありませんが、それでも守るべき節度がありますからね」


 そう言う事ならと、棺自体に『シールド』をつけて傷が付かない様にした。

 そして、棺の戸を開けた。



 ……なんだ、これは……?


「学院長、中身、これで良いんですか?」

「し、知りません。こんなおぞましいもの私は……」


 黒く蠢く力伸びた一本の触手の様な物。

 それは、地を棺ごと割り地上に突き出た、そう主張するかのように根付いていた。

 触手は外に出られた事を歓喜しているのか、左右に体を揺らし這うように体を棺から出していく。

 車のタイヤくらいの太さの触手がミミズの様に体をくねらせている。

 一本の触手は卵を飲み込んだ蛇の様に、体を大きく脈動させて、周囲に黒い煙を吐き出し始めた。


 だが、一向はその様子を時間が止まったかのように眺めていた。


 ヤバイヤバイ、これは不味いって。

 メイベルさんがおばあちゃんなのに触手でエロ担当になってしま……

 ってそっちじゃねぇよ。

 次ぎバレたら二度目だ。これは黙っていよう。


「取りあえず、臭いものには蓋。『ストーンウォール』『クリエイトストーン』」


 まるで、石化の呪文の様に石が触手に張り付いていく。

 

「おい、お前ら動け! 取りあえず離れろ! 外に向かえ外に」

「で、ですが、これはどうするのです? こんなものが外に出たら……」

「学院長、あんたは避難誘導だ! パニックを起こさない様に纏めて移動させろ」


 学院長はオロオロしながらも、やるべき事を把握して動き出した。


「これ……ケンヤでもヤバイ?」


 エミリーが石に包まれて動けなくなったそれから未だ目を離せないまま問いかける。

 正直、分からない。

 不確定過ぎるから出来るだけ、迅速で安全な対応を求めた。

 それだけだ。

 いや、一つ分かっているとすれば、5年であぶれるダンジョンの魔素が15年分以上溜まってしまっているという事だ。

 最悪の最悪はこれを切っ掛けに大型レイドボスが出てきてもおかしくない。

 そうなれば最悪の結果は免れない。

 そう、皇都の陥落。


 今出てこられたら、ユミルたちを絶対に守れるという自信はない。


「最悪の最悪が起これば、死ぬかもな。とは言え、今この場で尻尾巻く訳には行かない。安全を見るって事で、言う事聞いてくれるな?」


 今の内に離脱して安全な所に行ってくれれば、お互いに安全度が上がる。

 だから、早めに逃げて欲しいんだが……

 ユミルが余りに想定外の事が起きたからか、少しパニック気味になっている。


 彼女は人指し指の背を噛んで、縮こまるように震えている。

「や、止めて……このままじゃあの日のお父さん、お母さんみたく……」


 ゆっくりとこちらに手を伸ばしたユミルの手を、アンジェが掴んだ。


「ユミル、大丈夫なのだ。ランスさまは最悪の最悪と言ったのだ。それが起こっても死ぬかも? 程度のなのだ。私達の安全の為に言っただけで、死ぬ訳ないのだ!」 

「良い事言うな。アンジェは。まあ、正直もったいぶったけどその通りだ。だからちょっと非難しててくれ。多分そろそろ割れるから、急いで」


 エミリーも多少気が落ち着いたのか、体は触手に向けたままだが、こちらに近づいてきた。


「ちゃんと聞いてたから。ユミルは私が運ぶ。これでも学院講師、多少は動ける」


 完全にまともな精神状態ではないユミルをエミリーが抱えて離脱する。

 そうして、漸く一人になれた。

 だけど、どうしようかねぇ。


 バキッ バキバキッ


 固めた石が割れ始めた。

 埋めてしまう事も出来そうだが、それだけでは長く持たないだろう事も想像に難くない。

 棺の裏にはびっしりと魔法陣が描かれていた。

 多分あれで密封してたから大丈夫だったのだろう。

 恐らくはサンクチュアリの様な結界だ。


 おっし、『サンクチュアリ』を学院全土に敷いちゃうよ?

 食卓にテーブルクロスをかけるみたいに……


 ってふざけてる場合じゃねぇ。

 アンデットの大群ならばそれが一番手っ取り早く安全だが。

 その他の場合は無駄も良いところだ。


 アンデットじゃなくとも雑魚ならば、このまま入り口を『ストーンウォール』で固めても問題ないから態々MPを無駄にばら撒く必要は無い。


 ってことは、ちょっと怖いけど……

 いや、正直めちゃくちゃ怖いけど、この触手を地下に押し戻してそのまま地下がどうなっているのかの確認を一番最初にするべきだな。


 んじゃ、覚悟を決めて、滅多にメインにならないあの魔法を使いますか。


「『アースストーム』」


 スキルツリー上は『メテオ』の下位。

 地魔法の上位魔法で制約が厳しいが、条件が合えば大ダメージ確定な魔法だ。

 条件は地中、もしくは地に根付いて居る対象には大ダメージ。


 それでも滅多にメインにならないのは何故か。地に根付く魔物は地の耐性が凄く高い場合が多いからだ。

 でも、あの触手、見る限りは地というより闇系統だ。

 種族も触手だし、悪魔系だろう。

 なので、この魔法を採用した。

 一応範囲を狭めて、連続使用してるんだけどさ……

 触手ってダメージ入ってるんだかわからないよね……


 だが、中に押し込む事には成功した。

 そのまま自分も飛び込んだ。


「こ、ここは『ライト』使わずとも明るいんだな。って、ゲームと同じなんだから当然か。ここは系統は悪魔、マリオネットだったよな。『ソナー』……うわっ!!」


 視界が全て赤で埋め尽くされた。

 パニックになり、自分の周囲全てを指定して『ブリザード』を連発する。

 そして、直ぐに意識を『ソナー』の点から逸らせば良いだけだと思いだす。

 が、そうするまでも無く、視界が開けて一面の氷の世界が目に映る。

 周囲に居た魔物が全て死んだようだ。


「なるほど、雑魚も一杯居るのね。取りあえず、殲滅だぁぁぁ」


 俺は、取りあえずヒャッハーする事にした。


「フハハハ、今日よりここは氷の洞窟とする。超位魔法『永久凍土』」


 と、何やら大それた事を言ってみたが、そんな事は出来ないし、そんな階位も魔法も無い。ただのノリである。

 それでも、湯水の様に掛け流されていく『ブリザード』で一面全てが凍りつき、一匹の魔物も残らず殲滅がなされていく。


「へっへっへ、こんな状態ならひとっつも怖くないぜ。皆連れて来ても良かったくらいだ。さて次は『ソナー』……へっ!?」


 驚いた事に、入って来た方向に赤点が生まれだしている。『ソナー』を唱えなおす度に赤点が増えている。

 要するに生まれているのだ。

 まるで、ゲーム時のリポップの様に。

 少し、はらはらした気持ちになったが、取り敢えずはスルーする事にした。最奥までの殲滅。それを優先するべきだろう。

 で、出てくるときに溜まってたのをもう一度ぶっ飛ばして、皆と相談だな。


 地下9階10階と下っていく。

 ここは大迷宮ほどのダンジョンではなく、中級ダンジョンだ。

 階層も地下20階層が最下層となる。

 問題は、そのボスが何か、という所だ。

 通常であればここのボスはヴァンパイアだ。

 ヴァンパイアは色々な所でボスとしてチョイスされたが、その中でも初期段階からあるここが初登場の場所だ。

 その初期段階の強さで出てきてくれれば良いのだけど。

 とは言え、仮に最終進化であるトゥルーヴァンパイアクイーンに進化していても、戦えない事はない。

 流石に大型ボスや封印の悪魔と比べれば格下になる。


 たどり着いたボス部屋をちょこっと空けてチラリと覗く。

 俺は、トンでもないものを見た。思わず見たものが信じられずそっと閉じて数歩後ろにさがった。

 頭を横に振り、再度扉を開く。


「いやいや、そんな馬鹿な。見間違いみまちがっ……」



 そこには、ピンクのフリフリで飾り付けられた、女の子の部屋があった。



 下着姿の女の子が姿見の前で服を体に当てて、どれにしようかと選んでいる。

 もう一度、そっとボス部屋の扉を閉じた。


「おかしいな。何故こんな所に銀髪の超絶美少女が?

 居るわけないよね? しかも、ちょっとミラに似ている……

 こんなの無理じゃね?

 俺、あれを倒すのだけはやだよ?

 お前やれよ。いやいや、お前がやれよ」


 余りにありえない状況に、自問自答が止まらない。

 とうとう頭の中で人格分裂して押し付け合いまで始まった。


 ……と言うか、対処したくなくてそんな遊びをして時間稼ぎを始めた。


 そして、チラリチラリと覗き見してはそっと閉じ、数十分の時が過ぎた。


「っち、そろそろ下着も抜げよ。あっ、でもそのポーズは良いよ! 色っぽい」


 ただの覗き魔と化していた。

 そのミラ似の超絶美少女は長い髪を手櫛で押さえポニーテールを作る。

 下着姿で両手を頭の上に乗せ、腰はしなを作りニコリと笑う。

 そのさまは、最高に可愛く、エロくもあり、滑稽でもあった。

 そんな彼女と目が合った。

 偶然だった。

 いや、必然ともいえた。

 そう、俺……いやいや、この男は『隠密』を忘れていたのだ。

 『音消し』も使わずに『っち、そろそろ下着も抜げよ』とか言っていたのだ。

 それは見つかるだろう。

 両膝を地に着け、頭を抱え、自問自答した。

 何やってんのと。どんだけ馬鹿なのと。


「「恥ずかしくて死にそう」」


 ハッとして状況を思い出した。目の前には恐らくだが、ヴァンパイアのボスであろう存在が居るんだった。

 と頭を上げる。

 彼女も同じポーズをしていた。

 そう言えば、声も被って居たように感じた。


「「お前もかーい」」


 おかしい。これだけ被せてくるという事は……


「お前、ヴァンパイアじゃなくてドッペルゲンガー?」

「いやいやいやいや、私、女の子だし! お前男の子だし!」


 焦る様も可愛いな。


「ほ、褒めても覗いたの、許さないから」

「おっと、声に出てた?」

「うぜぇ、あざとい。死ねよ」


 最後の『死ねよ』の言葉に攻撃してくるかなと少し身構えたが、口を尖らせた下着姿の女の子は『はぁ』と溜息一つと共におでこに手を当てて呆れているだけだった。

 羞恥心も無くただ立っているだけだと、折角の下着姿が残念な事になっているな。


「えっと、服、着ないの?」


 いざ、エロさを感じなくなると、彼女だけ服を着ていない状況に何やら申し訳なさを覚えた。

 急激に真っ赤になった彼女は急いで手近な服に手を伸ばした。


「あ、待ってこっち。こっちのが良かった。ポーズも良かったよ。ただ……もうちょっとサービスあっても良かったかな」


 覗いていた俺……男が悪びれもせず、一人ファッションショーの品評を始めた。

 呆気にとられ「あ、ああ……」と、進められるままにその服を着るヴァンパイアであろう少女。


「いや、待て待て待てぇい! 何でお前服選んでんだよ! 何で何も言わねぇんだよ!」


 メルヘンチックなピンク色でフリフリ全開の衣装をさらりと着こなしながらも、突っ込みを入れてくる美少女。


「待った。言わない方が良いことってあると思うんだよ。今まで世の中平和だった。それで良いだろ? それ以上聞けば、俺はキミをテイムしなければならない」


 そんな優しい提案に驚いた彼女は、数秒間の硬直の末、動き出した。


「いやいやいや、そこは滅しろよ! テイムとかすんなよっ!! 何されちゃうんだよ、わ・た・し!」


 ノリノリじゃないか。要するに、テイムされたいという事でいいのかな?


「ふむ……テイムを希望するのか。俺もテイムを希望するから万事解決だな」


 彼女は元気良く『言ってねぇよっ!』と突っ込みを入れると小さく溜息を吐いた。


「ふっ、何が言わない方がだよ……本当に見逃す気があるってのかよ」


 少女はたそがれて、少しニヒルな感じに問いかける。

 ピンク色のフリフリの衣装で萌え萌えアピールをしている癖に。


「そっちは希望してないよ? まあ、人を襲うつもりが無いなら攻撃するつもりは無いが」


 その言葉に、再度ニヒルに「フッ」と鼻で笑う。

 チラリと視線を向け「襲うかもよ?」と挑発的に呟く。


「ならば俺も犯そう」


 仕方ない。そうなっても仕方ないよな。

 彼女がそう望むのならば!

 と、思っていたのだが、ピンク色の萌え萌え美少女はお気に召さないようだ。

 大きな動作で手を前に出して、止まれとアピールする。動いていないのに。


「ちょっと、待て! 言葉が変わったぞ!」


 変わっているのはキミの動きだとは彼女の鬼気迫る怒りの前では口に出来なかった。


「お、襲うのだろう?」

「いや、お前犯すって言ったじゃん」

「同じ事だろう?」

「ちげーよ!」


「そんなこんなで心の内を吐露しあった二人は仲良しになった」


「なってねーよ!! ざけんなっ!!」

「ダメか。じゃあどうする?」

「今の生活を続けたい。けど、お前は信じられねぇ。襲った方が早そうだと思っている」


 最初から思っていたが素直な子のようだ。

 だが、今、どんな生活をしているのかがすっごく気になる。

 『隠密』で密着24時したい。

 だから、戦わない選択を進める事にする。


「良いのか? お前、負けたら俺にテイムされるんだぞ? 今は俺を信じて、ちょっとづつテイムされていった方が抵抗少なくて済むぞ?」

「どっち選んでも変わんねぇのかよ! ふざけんなよっ! あーもー、絶対信じらんねぇ。お前が悪いんだからな」

「ふっ、俺はただ、お前の緊張をほぐす為にだな」

「悪いけど、もう問答は止めた。ホントにごめんなさい」


 彼女が謝った瞬間にその場から消えるように居なくなったと思えば、真横から手刀が首筋目掛けて飛んできた。 

 その手刀に合わせてこちらも手を振り上げる。

 剣を抜く余裕など一切無い。


「『パリィ』っとはっや。メルヘン少女はやっ!」


 やはり、何故かキンッと金属音がなり、火花みたいな光が散る。


「は、弾かれたっ!? 今の攻撃が?」


 どうやら、驚いていたのは俺だけじゃなった模様。

 てか、今の瞬間移動かな? どうしよう。かなり危険。

 いや、攻撃は重くなかったから『シールド』掛けなおしを気合入れてやれば大丈夫なはず。スキルにふざけた強さのもんが無ければ……


 ユミルたちにカッコつけたくてオリハルコン装備つけて来て良かったぁ。

 まあ、最悪の想定して来たのだからカッコつけるも何もないんだけど。


「……今更やっぱり止めたとか言う訳にはいかねぇよな」


 美少女は泣きそうな表情で呟く。


「よっし、止めよう。止めた止めたっ! じゃあ、俺帰るから。後この扉ももう開かないよう塞ぐから。一つだけ誓ってくれ。自分が生きるのに必要な時以外、人を殺さないって」

「必要だったら良いのかよ……」

「そりゃ、出来れば止めて欲しいけど、人だってそうだからな。異種族だからダメーって言うのはずるいだろ? だけど大量虐殺とかは止めろよ。人類の敵になったら流石に容赦出来ん」

「お前の知り合いを殺すかもよ?」

「残念、俺の知り合いはこんな女の子を殺そうとしません」


 少し、信じる事が出来たのか、彼女の目じりに涙が溜まってきている。


「テ、テイムは良いのかよ。犯すんだろ?」


 あれ? いつの間にか好感度上がっちゃった?

 良いなら是非、お願いします。

 ヤバイ、めっちゃうれしいっ。

 人数的にもう十分とか思ってたのに、それを飛び越えるほど可愛いし。

 と言うか、覗き見してたらムラムラしてきたし。

 また村を探しに行かなきゃ行けなくなるかと……

 何て俺には大天使ユミル様が居るから必要ないがな。フハハ


「い、いいの!? するする!」


 ハーレムの何より素晴らしいのは、ここですると言えちゃう所だよな。

 普通は『あっ、でも俺彼女居るし……』ってなっちゃうけど、俺にはその必要が無い。


「良い訳あるか!!」


 おいおい、そっちが誘ったんだろ?

 今更?

 もうシュミレーション終わってんだけど。


「っち」

「あっ、舌打ちしやがった……」


 そりゃするわ!


「あ”あ”? 自分から言って来た癖に、期待だけ持たせやがって!! これだから自己中なメルヘン女はよっ! もう帰るわ。卑怯者過ぎて超萎えた」

「なっ……!?」


 俺は、一度出て『隠密』を使い中に入りなおしてからバァンと大きな音を立てて扉を閉めた。即座に『音消し』を追加で使う。念のため『匂い消し』も使った。

 少女は強く閉められた扉の音にビクリと泣きそうな顔で俯く。

 先ほど怒鳴りつけられて涙が出てきそうな状態になっている御様子。


 もうちょっと優しく弄るべきだった。可哀そうになってきた……

 まあ、一度出した言葉はもう取り返しはつかない。これからの関係で取り返すしかない。だから、彼女はどこの誰だかを知らなければいけないのだ。


 ヴァンパイアの超絶美少女に『密着』24時、なのだ。


 じっと彼女が次に何をするのかを観察する。


「だって、仕方ないじゃん……私……人間じゃないんだし……ヒグッ……ヒック……」


 ああ、直ぐに出て行って涙を拭いてあげたい。

 だが、我慢だ。

 どうにもミラ不足に陥っているからか、少し似ている彼女に我慢が効かない。


「もうそろそろ、討伐されちゃうのかな……

 もう少し、生きて居たかったな……」


 彼女は服を脱ぎ捨て、天幕つきのピンクベットに横になった。


「尊厳捨ててテイムされれば生き残れるのかな……ハハハ……

 けど、絶対エッチな事されちゃうし。

 あいつ変態だし。

 ちょっとかっこ良かったけど、それ以上に変態だし。

 けど、実際にどんな事するつもりだったんだろう……

 私、人じゃないのに……」


 何て分かり易い子だろうか。心の内を全て口に出しちゃうなんて。

 チョロ可愛い。

 だが、安易に密着24時とか考えてしまったが、ユミルたちが心配するから帰らねばいけない事を思い出した。

 とは言え、この閉じた空間で二人きり、バレずに出て行く事は不可能である。

 ならば、どういう形でバレていくか。それが重要だろう。


「ねぇミーたん、私どうしたら良いと思う?」


 ん? ミーたん? そう思って彼女の視線の先をうかがえば黒猫の人形が置いてあった。


「ンフフ、体で篭絡しちゃえば良かったんだよぉ」


 ……何と、彼女は腹話術の使い手だった。

 一人で会話を始めてしまった。


「無理だよぉ、そんな恥ずかしい事出来る訳ない。だって、チュウもした事ないんだもんっ」

「フフフ、大丈夫だよぉ、夜な夜な一人でやってることを思い出せば良いだけさ」


 ファッ!?

 夜まで居ようかな……いや、一度帰ってちょっと遅くなるって言ってこよう。

 ま、待てよ……この流れだと今から始まるんじゃないか?

 ほら、ここ結構な地下だし? 時間とか余り関係なさそうだし。


「いやぁぁん、そんな恥ずかしい事言っちゃダメダメぇ。きゃぁーん」


 あっ、ちょっときつい……

 何か、なりきり過ぎて痛い。ちょっときつくなって来た。

 なんかもう良いや。

 ユミルを心配させてまですることじゃない気がしてきたし。


 帰ろう。


 だが、どうやって帰るか。

 ああ、いきなりドアを開けて、忘れ物~とかいって顔を出せばいいじゃん。

 そうすれば、ここに居た事はばれないし、次回警戒されずに済むだろ?

 と、思っていたのだが、壁に空いている穴から人の声が聞こえて来た。


『カーチェさん! 居ないのですか!? あらら、また帰ってきていませんの? 緊急の全校生徒召集が掛かってますのに』

「やっばぁ、あいつのせいで時間忘れてた。って、まだそんなに遅くも無くない? まあ良いや、さっさと部屋に戻ろ。魔素も結構吸収出来たし」


 ん? 魔素? あー魔物はそう言う制限があるんだっけ。

 って一度溜まれば大丈夫なんじゃ?

 まあ、本人に聞ければ一番早いし正確か。


 彼女はささっとシャツとホットパンツを履くと暖炉の中に入って行った。

 暖炉の中は永遠と石を削って作られた梯子が続いていた。


 おおう、図らずも目的完遂。

 これで、どこから出入りしているかも分かっちゃった。

 後は時間差で『隠密』で隠れたまま彼女の人としての生活を観察して、害がなさそうならおちょくるだけで放置しよう。


 俺は、ホットパンツからチラチラみえる下着を見て、やっぱりチラリズムだな。

 と思いながら彼女の直ぐ後ろを付いて行った。

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