第32話爆発娘は小さな悪魔


「さて、今年の受験生のレベルは如何ほどだろうか。せめて俺が教えられる枠に収まると良いんだけど……」

 剣術を教えている教師オウルはゆっくりと受験生の顔を見渡し言葉を告げる。


 帝国最高峰の魔法学院、その入学試験会場。

 余りの希望者の多さに、数ブロックに分かれて試験を行う様だ。


「さて、諸君等にはこれより、試験を受けて貰う。その手始めの試験が私と戦う事だ。好きな武器を使い如何連携してもいい。では、これより試験を開始とする」


 困惑する受験生達に一方的に開始を宣言した。

 他のブロックでは懇切丁寧な説明が行われている中、雑な説明に内容も雑。少しずつ囲む生徒達の表情に苛立ちが見え始めた。

 彼、オウルの外見が華奢な優男である。その事に苛立つものも居るようだ。


 頃合を見計らったかの様に一人の少女が前に出た。

 剣を掲げ、試験官オウルを見据えつつ、宣言を放つ。


「我こそは剣鬼ユライトの娘、ユークディア! 先陣切らせて頂きます。追従したい方はお好きになさい!」


 勇ましく前に出た少女は長い銀髪を靡かせ、細く鋭い目つきで前を見据える。

 少し出遅れて前に出た少年は『あの剣鬼の!?』と呆然としてしまう。


「ちょっと待ってくれ、他の者達も協力頼む。これは全員が抜けられる仕組みの試験だ。このブロックは全員で協力して全員で抜けよう! 俺の名前はファルケル……」


 と、彼が自己紹介を始めようとした所でオウルが動いた。 


「流石に、背を向けて自己紹介までされると減点過ぎて攻撃開始するしかないなぁ」


 上段からの振り下ろしがファルケルを襲う。

 脳天に叩き落された。そう見えた木刀の剣先は地を叩いていた。


「無言で攻撃を仕掛けて頂いても良かったんですよ?」

「『見交わし』か。発動タイミングも悪くなかった。ただの目立ちたがりじゃなさそうで安心したよ」


 そう言ってもう一手仕掛けようとした所でユークディアが割って入った。


「言った筈です。先陣を切らせて頂くと」

「ユークディアさん感謝します。では、皆も攻撃を!」


 ファルケルが再度声を掛けた時にはもう他の受験者の準備も終わっていた様だ。各々攻撃魔法やスキルを発動する。


「えっ、私ごとですの!?」


 数十の魔法とスキルがオウルと彼女の所へと飛ぶ。

 合図も無しに扇状に放たれた魔法を見て、頬を引きつらせたユークディア。


「流石にこれは剣鬼ユライトの娘でも厳しいかな?」


 オウルが前に出て短い僅かな詠唱で大きな防壁を張った。

 彼の出で立ちが剣術使いであるにも拘らず、一つの揺らぎも無く全ての攻撃を受け止めきった。

 彼は受験生から唖然とした視線を集めたまま、木刀を腰に差し拍手を送った。


「うんうん。色々拙いところだらけだけど、息を合わせて魔法攻撃を出せたのだから、合格で良いかな。一人ちょっと怪しい奴も居たけど、藪蛇になりそうだから止めて置くとしよう」

「試験官殿、いくらなんでも杜撰が過ぎるのでは? 私が見る限り、彼は攻撃に参加をしていませんでしたが?」


 そう、一人だけ攻撃に参加しなかった者が居た。

 流石にそれで合格になるのはおかしいだろう、とファルケルが指し示した指の先にはランスロットの姿があった。


「ファルケルは藪を突ついて行くスタイルだなぁ。でもまあ、俺が審判をして合格を言い渡したんだ。気に入らないのなら自分でどうにかするといい」

「そ、そんな……何もしなかったのに、何故合格を言い渡したのですかとお聞きしているのですよ」


◆◇◆◇◆



 ええと、何でこいつは俺を落とそうとしているのだろうか。

 一応連携には参加したのだけど。

 ファルケルはオウルに向かってまだ抗議を続けている。

 無視しても良いけど、一応一度は訂正を入れておくか。


「あー、ファルケルって言ったか? 何もしてない様に見えたのかも知れないが、俺も連携には参加したからな?」

「詠唱も無ければスキル名も口にしていなかったが? 証明は出来るのかい?」


 う、うぜぇ。何でそこまで頑張る……


「その証明が出来てるから先生が合格にしたんだと思うんだが……教えを請うものを疑って掛かるのは良くないと思うぞ」


 まあ、証明も出来るのだけどそれをするにはユークディアさんの協力が必要になってしまう為、面倒なので諦めてもらう方向で……


「まあ、そうだな。先生としてもこれ以上疑われるのは敵わない。これ以上突っかかって来るなら、ファルケルは不合格にする」

「はぁ!? 何で僕が!?」

「当然だ。試験官の判定よりも自分が正しいなんて言い出す奴は論外だろ。俺はそんな奴に授業をしたくないね」


 オウルは額を拭い『ふぅぅ、良い仕事したぁ』とこれ以上取り合うつもりはなさそうだ。

 ファルケルの方も不合格にすると言われた手前これ以上はケチをつけたりはしないだろう。

 一人悔しそうに表情を歪める彼を他所に大きな歓声が上がった。

 他の試験ブロックで大技を出した者が居たようだ。


 見て居なかった。少し気になって辺りを見回す。 


「『エクスプロージョン』だって?……ふんっ、そこまで使えて何故学校に来るんだ。さっさと魔法騎士になれば良い。自慢しに来たのか!?」


 ファルケルは詰まらなそうに鼻を鳴らして呟く。

 へぇ、話しから察するに学生でそのレベルだと凄い事なんだな。


「学院へ通う理由など様々だ。己が己を高めればそれでいい。そうだろう?」


 不快さをありありと出していた彼は、呆れ顔のユークディアを見た瞬間、直ぐに取り繕いさわやかな笑顔を浮かべた。


「そ、そうだね。ユークディアさん、これから宜しく」


 その言葉に『あ、ああ……』と少しぎこちない返事を返し彼女はこちらへと歩いてきた。


「キミ、さっきはありがとう。まさか声掛けも無しに巻き込んで来るとは思わなかったから助かったわ」

「いや、結局は必要なかったけどな」

「やっぱりか。それでキミが使った魔法は何?」


 あれ? 分かってなかったのか?

 まあ、隠す理由も無いし、と答えを返した。


「『シールド』と『マジックシールド』だよ」

「へぇ。基礎魔法とは言え、あの短時間で同時発動か……やるわね」

「ああ、これでも支援系は自信がある。薬の心得もあるし、そっち方面で何かあれば言ってくれ」


 そんな立ち位置で話を進めていけば、呪い治療の研究と称してひたすら図書館籠もってもおかしく映らないだろう。


「あら、攻撃魔法方面は学ばないの? 『シールド』とは相性が良い組み合わせでしょう?」

「俺がここに来た目的は呪い治療習得の為だからな。そこが果されるまでは他の事をするつもりはないかな。そう言う剣鬼さんは何を目的としてここに来たんだ?」

「ユークディア、剣鬼は父よ。目的は当然、強くなる事。父にも学生最強を示して来いと言われて送り出されたわ」


 最強ね……

 皇都グランに来て二週間。

 町で魔法について調べようとしてもさっぱりだった。

 だから暇つぶしにこの国の情勢について少し調べた。


 今、割れた国、すなわち貴族派閥は三つに分かれた。


 隣に居る彼女の父は独立派連合の一角、剣鬼ユライト・オリヴァー辺境伯爵。


 事の元凶である傀儡政権を目指す新生帝国派。


 そして、残りがただ見守るだけの保守派。


 となるはずだったが新生帝国派が保守派に対し――皇帝に賛同しないのであれば国家反逆罪を適用する――と圧力を掛けた事により事態が動き出した。

 これに対して流石の保守派も奮起した。

 皇帝陛下を殺しておいて何が反逆罪だと。


 当然だろう。

 本来であれば、新生帝国派が逆賊なのだ。


 だが、皇都を押さえられ、帝国軍の中枢も掌握されてしまった。

 周囲からすると、本来持っていた将軍の力に国の力が加算されたと見えるのだ。

 大きな軍事力を持っていない力なき領主は指を銜えて見ているしか無かった。


 だが、そんな彼らでも、我慢の限界はある。

 いくらなんでも反逆罪は無いだろう。

 『お前たちがそれを言うのか?』保守派の貴族たちはこぞってそう思った事だろう。


 独立派への沙汰を飛び越して保守派にいきなり領地没収などと言い出した事も彼らの怒りに拍車を掛けた。

 これを好機と見た独立派が共に立ち上がろうと保守派に呼びかける。

 だが保守派は怒り心頭であるものの、まだ腹を決め切れていない。


 それほどに今のハルードラ将軍率いる新生帝国派の力は強大だ。

 兵を挙げるにしても、情勢の傾きを掴むまでは彼らも動けない。

 保守派の大半は恵みの細い地の領主だ。一度の挙兵でも相当な痛手となる。

 だからこそ、独立派が力を見せる必要があった。

 そんな背景のお陰で今、魔法学院が代理戦争の様な状況になっていた。

 一騎当千が成り立つこの世界、どれだけ自陣の強者に華があるか、強さがあるか、それが重要視される。

 それを見せる場として、皇都魔法学院は昔から選ばれるステージだった。


 ユークディアの力を見せる事で、剣鬼と謳われるユライト・オリヴァー辺境伯は次代もうちは強くなるぞと言いたいのだろう。


「対抗馬の新生帝国派はどいつなんだ? 『エクスプロージョン』使った女か?」

「あら、詳しいわね。

 けど残念。あの子はこっちの陣営よ。

 対抗馬さんは影に隠れて不意打ちでもしてくるんじゃないかしら?

 今一番状況証拠的に怪しいのがさっき私のピンチを作りだしたあいつ。

 ちゃっかり宜しくなんて言われちゃったけど、貴方もあれには近づかない事ね」


 そう言って彼女は髪をファッサァと後ろに流し、デキル女感をかもしだしながら去っていった。

 必死に強く見せようと頑張っている子というのも悪くないな。

 まあ、外見が良いからそう思うのだが。

 にしても、ファルケルは違うんじゃないかなぁ?

 深い考えを持って行動している様には見えない……


 でもそうか、表に出てくる必要は無いのか。

 影から世論を操り、蹴落としてやれば新生帝国派の勝ちな訳だ。

 そして、単純に実力を示して注目を浴びればユークディアたちの勝ち。

 一見してみると才能ありそうな彼女達の方が優勢だが、表に出ないという事はどんな手も使えるという事。


 さて、どうなるかねぇ。


 っと、俺には関係ない事だった。

 さっさと合格して図書館に引き篭もらせて貰おう。

 魔法に関する本を読むのは嫌いじゃない。

 目的もあるし、久々に引き篭もりライフを満喫するとしよう。


 その後の試験内容は筆記のみだった。


 試験会場から宿に戻る道すがら、額に汗を滲ませていた。

 ヤバイ、これはヤバイって。

 下手をしたら落ちたかも知れない。

 いや、落ちたでしょ。実技頼りだったのに……

 実技が合否の7割を占めるって聞いてたのにあんな形で終わるなんて思わないじゃん。

 筆記の事なんて考えてなかったっつーの。この国の歴史なんて分かるかぁ!

 魔法学ってなんだよ。魔法学って。

 無詠唱の俺に詠唱の事なんて問われても分かるわけねぇし。

 あー、派手に魔法ぶっ放して学校なんて全部破壊してくりゃ良かった……

 まぁ、最悪は『隠密』で図書館に入るから……

 あれ? 最初からそれでよくね?

 いやいや、きっと、ずっとそんな事をしていたら何かしら弊害が……

 そ、そうそう、教師陣に教えを乞う事が出来ないだろ。


「あら、また会ったわね」

「ディア、知り合い?」


 あっ、ユークディアとその隣に居る赤髪の子は……


「あっ、キミは『エクスプロージョン』娘!」

「ふはは、良くぞ見破った! ララリラ、リリララ、レ、リ、ラ、レラ『エクスプロージョン』! あーっはっはっは」


 派手な爆発音と共に風が吹き荒れ、楽しそうな甲高い笑い声が辺りに響いた。

 そんな彼女の頭上に一つの拳骨が落下した。『ふぎゃんっ』と可愛くない様で可愛い声を上げて爆風娘は頭を抑えて地に伏せた。


「馬鹿ぁ! 何で街中でぶっ放すのよぉ!」

「だって、期待されてる気がしたんだもん」 


 すぼめた口を尖らせて、彼女は悪びれも無くそう告げる。

 王国でもそうだが、帝国でも街中で攻撃魔法を放つのは法律違反である。

 練習で使っていい場所というのも決まっている。

 ただ、殺傷能力の低い攻撃魔法に関しては許可されているものもある。


 面倒ごとは御免だと、彼女達の手を握り『隠密』『音消し』を起動した。

 きっと抗議の言葉が吹き荒れるだろう。

 最初から弁解した方が良いと音消しの効果を調整して会話を出来る様にした。


「ね、ねぇ、いきなりこういう事されても困るのだけど……」

「ん? おててくらいなら別に良くない?」


 二人の意見が一致しないが為に言葉の返し方に困る。

 取り合えず、身を隠そうと路地の闇が深い方へと二人を引っ張るが、ユークディアに抵抗されて足が止まる。


「爆音で人が集まってくるだろ? 面倒ごとは御免だ。犯罪者にされる前に逃げるぞ」

「ああ、なんだそう言う事。言っておくけど、これでも領主の娘よ。このくらいで捕まったりはしないわよ」

「えっ!? あ、そうなのか。わ、悪い……は、ははは……」


 早とちりで善意の押し付けをしてしまった様で、恥ずかしさとばつの悪さに乾いた笑いがでた。

 握った手の力が抜けて、離れると思っていた彼女達の手は向こうからも握られていた様で、未だに繋がっている。


「ま、まあ、捕まりはしないのだけど、問題行動は起こさないに限るから、えっと、その……このままエスコートして頂けるかしら?」


 きっと、この情けない笑いに同情してくれたのだろう。何にせよ善意からの行動だという事を信じてもらえてよかった。

 地位の高いこの子らに『おまわりさんこいつです』と言われていたら社会的に終わっていただろう。


「うっわぁ、暗がりにエスコートして欲しいなんて、ディアちゃん大胆! えっと、私は遠慮しようかな。流石におてて以上は恥ずかしいし……その、困るし……」

「ふぇっ!? なっ!? なななぁっ!? んな訳無いでしょぉが! 馬鹿ぁ!」


 爆発娘の発言に、急激に顔を真っ赤にさせた彼女は、蒸気機関の様に吹き上がるように声を荒げ、全力で地団駄を踏んだ。

 その地団駄の感触がおかしいのか、足元を確認しつつ踏んでいる。


「あ、れ? 抵抗はあるのに音が返ってこない?」

「と言うか、ディアちゃん。あれ見て……」


 彼女が指を指す方向を俺も共に見る。そこには警邏であろう者達が、手当たり次第に周りの通行人に話を聞いて居た。

 だが、こちらには来る様子がない。それどころか、俺たちを追い越し、その先でキョロキョロと周囲をうかがっている。


「お、隠密ね? レラ、彼の手を離しちゃダメよ。こいつらに捕まる訳にはいかなくなったわ」


 二人の視線の先には、絵馬の様な木材の板に『御免状』と書かれ、文字の上に印が押されていた。

 これは通称『死神証』だ。新生帝国派が作った、裁判を無視して裁く事を許された証。

 それもふざけた事に、執行条件は国家反逆罪に触れる者だ。

 いくらでも決め付けることが出来てしまう。


「んもぉ~、気がついたのは私なのにぃ。でもこの『隠密』の練度すっごいね。この感じだと後ろから引っ叩いても気が付かないんじゃない?」


 えっと、『隠密』ってそう言うスキルじゃないからね? 

 『音消し』してても、触れたら一発アウトだから……


「なぁ、この子凄く危険だと思うんだが……」

「ええ、私もずっと昔から思っているわ。どうにかならない?」

「じょ、冗談なのにぃ……」


 少ししょぼくれて同情を誘う彼女。だが、ユークディアはそれに絆されるほど甘くは無かった。『そもそも、あんたが魔法ぶっ放した事が原因よね』と鼻を摘みながら責め立てる。

 二人の片手は俺がふさいでいるため、輪を作ってじゃれてるようにも見える。


「だ、だってディアの好きな人なんでしょ!? 印象が強く残るようにして上げたんじゃん。ちょっと危険な事になっちゃったけど、こうしておてて繋ぐ仲になれたんだよ?」

「ばっ! 言ってない、言ってない、言ってない! そんな事誰も言ってないぃぃ!! ち、違うのよ。この子が勝手にそう解釈しただけで……」


 血走りながら弁解をする彼女に逆らってはいけないと、本能で感じた。


「大丈夫。この子が勘違いしたんだって言うのは分かっている。実際には良い友人になれそうだと思った程度なんだろ?」


 ユークディアは繋いだ手をギュッと握り『う、うん。そんな感じ……』と、急激に大人しくなった。

 このままではいつまで経ってもこのままだという不安に駆られて『取り合えず歩きながら話そうか』と提案した。


「うわぁ、ディアの扱い上手いねぇ。けど、もし深い関係になりたいと思っているのなら諦めて。今この子を腑抜けにさせられちゃ困るの」


 流し目で睨むように向けられた視線。

 ふわふわした少女がいきなり闇落ちした様な表情に『こんな顔もできるんだなぁ……にしても似合わないな』としみじみ思った。


「ちょっと! 似合わないって何よ!」


 あ、声に出てた。


「ぷっ、あははは、レラの方が上手く扱われてるじゃない。腑抜けになっちゃってるわよ?」

「わ、私は大丈夫なの。ディアみたくエッチな事に身を任せようとしたりしないもん!」

「私だってしないっての! いい加減その根拠の無い決め付けは止めなさいよ!」


 ぎゃーぎゃーと挟まれたまま争いは続く。それはもう、彼女達の泊まる宿に送り、手を離す瞬間まで。

 帰り際「宿をこっちに移さない?」とまた似合わない真剣な瞳で爆発娘に問われた。


「俺は平民だし、この高級宿は止めておくよ。このご時勢、何を理由に犯罪者にされるか、分かったもんじゃないからな」

「因みに、ディアちゃんになら夜這いかけても罪にはならないから、覚えておきなさい」

「なるわよ! めちゃくちゃ罪になるわよ! いい加減にしないとパパに言い付けるからっ!」

「「パ、パパ……」」

「う、煩い! それ以上もうこっち見るなぁ! もう許さないんだからぁーー」


 バタバタ走り、ユークディアは部屋へと逃げ去った。

 うん。この爆発娘も性質が悪いが、彼女自身も自爆属性を持っている様だ。


「そう言えば、自己紹介もまだだったな。今更ではあるが」

「いいや。大いに興味があるよ。じゃあ、行こうか」


 そう前置きすると、彼女は話した手を繋ぎなおして自らの部屋に案内した。

「いや、自己紹介くらいこの場で出切るだろう?」と問いかけても「少し状況が特殊なんだ。付き合ってよ」と強引に手を引かれた。


 何一つ予定は無いし、それ以上拒否する理由も見つからなかった。

 まあ、もう少し付き合ってやるか。と甘い顔を見せたのが間違いだった。


「この部屋だよ」

 と、彼女が戸を空けて押し入れた部屋の中には、お着替え中のユークディアが居た。

 彼女はその状況に構わず話を続けた。


「じゃあ、自己紹介に移ろうか。ああ、ディアもそのままで良いよ。君を差し置いて自己紹介を終わらせたなんて言ったら可哀そうだと思って連れて来ただけだからね」


 状況の把握が追いつかないのか、青くなるでも赤くなるでもなく、表情を強張らせたまま固まっている。

 下の下着一枚しか身に着けていない。

 線の細い彼女の肢体は女性らしさに溢れていた。身長、体型、顔、どの面から見ても好みだった。

 極めつけは少し色が違えど銀色の髪。

 彼女、ミラの事を強く思い出させた。


 苦痛な表情を浮かべて欲しくない。そう思ってまずはベットのシーツで彼女を包み。爆発娘の方に視線を送る。


「俺と友好な関係を結ぶ気があるのならこういう事は止めろ。ディア、驚かせてしまって悪かったな」

「うーん、計算してやった事ではないんだけど……ってどこ行くのさ」

「いや、流石に帰るよ。俺が居たらディアが辛いだろうし、爆発娘は性質が悪くてお近づきになりたくないし」

「ちょ、わ、態とじゃないんだってばぁ! で、でも、ディア……ごめんね」

「ひ、一人にして……」

 

 うん。そりゃそうだ。せめて俺はもう出てった方がいいなと、宿を後にした。

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