こんな病気なんて論破してやる!!

ちびまるフォイ

病気がある限りは、けして諦めない!!

「先生、なんとか治療してもらえませんか」


「患者さん、なにか誤解しているようですがうちは治療をしませんよ」


「え? でも……」


「うちは治療ではなく、論破することで病気を治すのです」


その日も病気弁護士の手術が行われた。


「患者は毎日健康的な生活をしており、

 あなたのような病気に感染されるべきではありません!」


「ギヒヒ。我々ウイツスはそんなことお構いなしさ。

 どんなに健康に気を使っていたとしても、無駄な努力だ」


「では、あなたは患者に感染してどうしたいのですか」


「え? いや、まぁ……わ、悪さとか?」


「そんなあいまいな理由で患者に入っていることに矛盾を感じます!

 加害病としてあるまじき精神であるとし、

 今回の患者に対して感染することは不適当と言わざるをえません!」


「ギヒー! ま、負けたーー!!」


病気裁判が終わると、裁判所から「勝訴」でも「敗訴」でもなく

「論破」という2文字を持った黒子が飛び出してきた。


『論破! 今回も論破です! 病気弁護士は今回も病気を論破しました!』


テレビではアナウンサーが興奮気味に中継している。

論破された病気は悔しそうに患者の体から出ていった。


「私に論破できないものはない!!」


『決まりました! いつもの決め台詞です!』


弁護士の周りにはアイドルのうちわを持ったファンが列をなしていた。

カメラに向かってウインクして、弁護士はファンサービスをする。


「通してください。通してください、患者に会いたいので」


「病気を論破した後もすぐ患者のもとに向かうなんて!」

「そんな思いやりあふれるところが素敵!!」


病気弁護士は病室で枯れ木の葉を眺めている患者のもとにたどり着いた。

誰かがホームランを約束しない限り浮かばれない表情に弁護士は困惑。


「やぁ、たかし君。君の病気は私がこっぱみじんに論破したよ」


「そうみたいだね。病院の外が騒がしかったもの」


「……病気がなくなったのに嬉しそうじゃないね。何かあったのかい?」


「先生。俺の体はよく調べましたか?」

「えっ」


「俺の体には病気が2つあったんですよ。

 先生が論破して追い出したのはそのうちの1つにしか過ぎません」


「な、なんだって!?」


「まぁ、先生は論破無敗記録を守れたわけですし

 俺みたいな患者が完治していなかったとしても誰も気には止めないだろうけど」


「そんなわけあるか!」


弁護士は患者のほおをパンとビンタした。その後ボディーブローで返された。


「ぐふっ……。い、いいかい。私は病気弁護士だ。

 患者の体に病気と呼ばれるものがある限り、けして諦めないのが心情だ!!」


「先生……!」


「さぁ、第二審といこうじゃないか!」


病気弁護士は勝負服である真っ黒なコートをバサッとはためかせた。

患者に救う病気の強大さに気づくことはまだなかった。


「異議あり! 患者の中に入る手順として、この病気は大きく矛盾しています!」


「矛盾? 矛盾しているのはあんたのほうがじゃないか病気弁護士。

 さっきから我への追求が概念的なものになっているぞ?」


「なんだと!? 私は証拠を集め、具体的なことを聞いているんだ!

 はぐらかしているのはそっちじゃないか!」


「はぐらかしていないさ。我は別の病気で抵抗力の落ちた患者に感染し、

 その後この体の所有権を得るために中枢系を攻撃したというわけだ。

 これのいったいどこに矛盾があるんだ? 教えてほしいね」


「ぐっ……!」

「さぁ、答えてみろよ。病気弁護士」


「うっせーーバーカバーカ!! お前の母ちゃん美人女優ーー!!」


その日の病気裁判を終えた弁護士はすでに敗北寸前のボクサーのようにグロッキーだった。


「あなたおかえりなさ……誰!?」


「私だよ。妻ですら私を判別できないとはね……」


「だってあなたの顔、FXで全財産を溶かしたようにトロトロになっているわ。

 ひらがなの「ぬ」と「ね」の判別もできなさそう……」


「それほどに今回の病気は強力なんだよ。

 正直言って、まるで勝てる切り口が見つからない」


「あんなに難癖つけてでも、論破へと結びつけていた屁理屈大王のあなたが?」


「感染理由もしっかりしているし、論理武装も完璧だ。

 下手な発言もしないからミスで揚げ足をとることもできない。

 これじゃ八方塞がりだよ」


「それじゃどうするの……」


「病気を論破するんじゃなくて、普通の治療を患者に進めるしかない。

 そりゃ、論破治療と違って多少の後遺症は残るかもしれないけど

 それはしょうがないっていうか、負けるよりはいいというか……」


「バカ!!」


妻は弱気な弁護士の夫の眉間に膝蹴りを叩き込んだ。


「あなたが弱気になってどうするの!?

 あなたを信じた患者さんと、サービス終了のゲームに課金した人はどう救われるの!?」


「そうだ……私は間違っていた……!

 私にとっては多くの患者の一人かもしれないが、

 患者にとって私はたった一人の病気弁護士。最後の砦なんだ!」


「あなた……!」


「私は諦めない! 必ず論破してやるとも!

 患者の体に病気がある限り、けして諦めないのが心情だ!!」


病気弁護士は弱気になっていた自分を叱咤し、患者の資料を集めた。

家族構成から体の隅々まで研究し思考パターンすらも研究した。


すべては論破のために。


そして、最終審議の日。


裁判が終わると、大きな模造紙を持った黒子が飛び出してきた。


「結果は!?」


黒子は大きく紙を開いた。



【 論破 】



外に集まっていたファンが一気に歓声を上げた。

裁判を終えてゆうゆうと弁護士がやってきた。


『おめでとうございます! 今回も見事論破しましたね!

 これで無敗記録も更新です! ファンに一言!』


「患者の体に病気がある限り、けして諦めないのが心情だ!!」


『決まりました! いつもの決め台詞タイプBですーー!』


ワッと賑わいを見せた。


『しかし、今回は強敵でしたね。

 どうやって患者の体から病気をなくしたんですか?』


「簡単なことですよ」





「お前は病気ではないと患者を論破したんです」

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