第38話 ドレス

「同情はいいよ、お姉ちゃん」


 そんな私の心境を悟ってか、アランは私を見て、自嘲気味に笑う。


「綺麗って、言ってくれたよね。僕にはお姉ちゃんがいれば、それで十分だから」


 ――その言葉に、彼が抱えた闇を、垣間見た気がした。


「絶対、私はアランに酷いこと言ったりしないわ。絶対よ」

「わかってるよ。お姉ちゃんは優しいもの。ロベリタ様と違って」

「ロベリタ嬢と違って、ねえ」


 セシルが含み笑いをする。私は、は、とした。ロベリタも、アランの外見を忌々しくなんて思っていなかったということ。ただ人を遠ざけるために、冷たくあたっていたということ。それを口にしようとした時、セシルが阻むように言葉を遮った。


「それより、当日のドレスはどうするんだい? もう日もないし、手持ちのドレスから選んどいた方が良いんじゃない?」


 それ以上言うな、ということだろうか。あっという間に会話が社交界の話に引き戻される。

 私は思わず口をつぐんだ。アランも空気を察してか、再びお茶に手を付け始める。


「ロベリタ様がいつも着ていたドレスがいくつかあったはずだよ。そこから選んだら?」

「あら、そうなの?」

「いつもは社交界の為だけに注文したりするんだけどね。お姉ちゃんは病み上がりってことで、許されるんじゃないかな?」

「そうだねえ。その辺りはクリス嬢に見立てを頼んだらどうだい。彼女も社交界に出席するはずだから」


 クリス。久々に聞く名前だ。出会ってからそう何日も経っていないはずだけれど、ハーバードの一件があってからバタバタしていて、今はもう遠い記憶のように思えてくる。

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