第23話 うわごと
「ハーバード。お見舞い、ここに置くわね」
「お静かに?」
「アラン。もう……さっきから、遊びに来てるんじゃないのよ」
小声で眠るハーバードに言葉をかけると、アランにからかわれる。
そんなアランを、私はまた小声でたしなめた。
ハーバードの状態はというと、暗くてよく見えないが、蝋燭で照らしてみると、何やら苦しそうに見える。熱があるのだろう。額には汗が浮かび、唇は青い。時折苦し気にうめいて、息を荒くしている。
「僕は外しとこうか?」
「うん……ちょっとだけ、お願い」
「妬けちゃうけど、今はまだ仕方ないね。護衛役でいてあげるよ。一応見てはいるから、キスとかしないでね」
「からかわないでって言ったでしょう、もう!」
「はいはい。こう見えてハーバードも苦労はしてるんだ、少しは譲ってあげるよ」
その言葉と共に、アランは宵闇の向こうへ姿を消した。
それを確認すると、私はハーバードのベッドの脇に腰かける。火の灯った蝋燭は、脇にあるウッドチェアの上に置いた。ベッドと私の周りを照らすくらいなら、十分な灯りだった。
「ハーバード……貴方の魔法には、叶わないけれど」
私は腕を伸ばし、ハーバードの額の上に置く。前に、彼がしてくれたように。冷たい私の手で、少しでもその熱を吸収出来たら、と思った。それだけだった。
「ロベリタ」
それだけだったのに。
不意に名前を呼ばれたかと思うと、腕を掴まれる。突然の出来事に、心臓が止まりそうなぐらいに跳ねた。
「え……」
「死ぬな、ロベリタ」
うわごとのように繰り返される言葉。
「逝くな、ロベリタ。傍にいてくれるだけで良いんだ……」
(ロベリタって、前のロベリタの事……よね)
心臓がどきどきと高鳴っている。こんなにも想われるロベリタは、何故死を選んだのだろう。私はハーバードの赤い髪を指先で梳いた。今は瞼に覆われているが、私は知っている。その瞳が、優しい青色に染められていることを。
「……私はもう死なないわ。大丈夫よ」
(ごめんなさい。ロベリタでなくて、ごめんなさい)
懺悔しながら、私はハーバードの頭を撫でる。迷子の子供の様だと思った。この世界に来たばかりの私のように。ロベリタ。番兵やメイド達の反応を見るだけでわかる。彼女の存在は、この国にとって、ハーバードにとって最も大きく、偉大であったのだと。
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