第24話 不変

「怖かったわね。でも、今は貴方の方が大変なのよ。わかってるの?」


 小声で話しかける。親殺しの儀。誰かに毒を盛られた――。私は、すぐ脇に立てかけてあるハーバードの剣を見る。レイピアのような細い刀身。上品な装飾のなされたその柄に塗られていたであろう毒。ロベリタの自殺に加担した、魔法の国の魔法使い、セシルが浮かんだ。帰ったら、ハーバードに塗られた毒に心当たりがあるか聞いてみよう。彼なら、毒の種類ぐらいは特定できるかもしれない。


「ハーバード。ちゃんと休んでね。死んじゃったりしないでね」


 懇願するように、彼の手を握る。すると頭上から、声が降ってきた。


「誰が死ぬか」


 私は驚いて顔を上げる。するとそこには、半分体を起こしたハーバードの姿があった。


「!? ごめんなさい、起こしちゃったの?」

「途中から声が大きかったんだよ。……誰でも起きる、あんなの」


 あれだけ、メイドさんに怒られたのに。私は何も学習していなかったらしい。

 アランはこの状況を見て笑っていることだろう。出てこないのが憎らしい。


「ごめんなさい……」


 この言葉、何度口にしただろう。


「貴族がそう簡単に謝るな。……お前が言っていたことだぞ」

「あ、え、そうなの?」

「本当、別人みたいになったな。……あまり手を握るな。毒が残っていたらどうする」


 お前は肝心なところで抜けている、とハーバードが大きく息を吐く。


「そんなところは、昔から変わらないな」

「変わらない? 私が?」


(こんなにも、変わっているのに。私は貴方の望むロベリタではないのに)


 そう思うと、ぽろぽろと涙がこぼれた。私は貴方の望む私じゃない。そう、言ってしまいたかった。懺悔したかった。罪が前のロベリタにあるとしても、だまし続けているのは心が痛い。しかし、ロベリタとしての生を課せられた以上、彼女になっていくしかないのだろう。周りが望んでいる、彼女になっていくしか。


「……変わらないものなんて、ないわ」


 変わっていく内情のように。盛られた毒のように。変わらぬものなど、ない。世界はいつも、不変ではいさせてくれない。人はいつも身勝手に、変わっていく。ぐるぐると、渦巻く渦のように。それがとても空しくて、私は泣いた。この感情は多分、この身体に残ったロベリタの感情。気持ち。残滓。私は彼女の代わりに、彼女の身体で泣いている。

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