第18話 大切な友人
「前のロベリタ様もあんな感じだったよ」
「……それ、聞きたくなかったわ……」
もしや私はこれから、ああいう立ち振る舞いを覚えなければいけないのだろうか。
アランにセシル、ハーバード。あまり前のロベリタと比較してものを言う人がいなかったので、何だかげんなりする。そういえば使用人とかもここには存在しているのだろうか。部屋からまだ少ししか出ていないので、その辺りのことも良くわからずにいる。
「ええと、クリス……さん」
「さん? 気色悪いですわね。クリスとお呼びなさいな」
一蹴された。半ば押されながらクリス、と呼んでみる。本人はそちらのほうが落ち着くようだった。
「ええと、クリス? 貴方は私とどういう――」
(え?)
一歩、彼女に近づいた時だった。
きいん、と耳鳴りがしたかと思うと、つんざくような悲痛な叫びが鼓膜の奥から響いてくる。
『ハーバード様に愛されている癖に!!!』
「……?」
脳裏に過ったのは、泣いているクリスの姿。掌を握り締めて、泣きながら私を責めている。
『裏切者! 協力してくれるって言ったじゃない!』
私は首を振る。違う、違うのクリス。ハーバードが……
(ハーバードが、何? これは、誰の記憶?)
きいん、きいん、と耳鳴りは断続的に続く。セピア色の風景。夕焼け空だろうか。クリスはただひたすらに泣いている。私も悲しくなって、涙を流している。信じてほしい。そうではない。どうか私を、信じてほしい。貴方は私の――。
「貴方は私の、大切な友人だから……?」
「おねーちゃん? 泣いてるの?」
口を突いて出た言葉。ぽたぽたと涙が溢れてくる。わけがわからない。けれど、これはこの身体の記憶だ。私が入る前の、ロベリタがロベリタであった頃の記憶。
わけもわからぬまま呟いた私の言葉に、クリスは跳ねるように私に向き直る。その形相は、記憶の中に揺蕩う泣き顔によく似ていた。
「記憶が戻ったんですの!?」
クリスが私に詰め寄る。私は首を振る。記憶なんて戻るはずがない。だって、私はロベリタでないのだから。
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