第12話 夢

 夢を見た。長年育ててくれた両親――もっとも、私にとっては知らない人たちだったが――をこの手で殺める夢だった。それはこの身体の記憶だったのかもしれないが、とても悲しく、そして落胆に満ちた夢だった。

 生前のロベリタは、何を想って親を殺したのだろう。儀式のため? 家のため? それとも、自分のため? その真意は、最後に両親に、何かを賭けたように思えてならなかった。


(立派になったわねえ……ロベリタ)

(気高くありなさい……お前は私たちの娘だ)


 違う。掛けてほしい言葉はそんな言葉ではない。違う。欲しかった結末はこんなものではない。違う――身体が夢の光景を拒否する。目を覚まさせたのは、ひんやりとした水の感触だった。


「……ハーバード」


 朦朧とした意識の中で目を覚ますと、ハーバードが私に手を翳していた。掌の中には、青い水のような球体が浮かんでいる。それが私の額を冷やしていると知った時、この身を抱いたのは小さな衝撃だった。


「あなた、魔法……使えるのね。魔法の国の人だけだと思っていたわ」

「俺は特別なんだ。半分が魔法の国の血だからな」

「そうだったの……? 素敵ね」


 ひんやりとして気持ちいい。思えば、この世界で眠ったのは初めてだった。もしかしたら、これからも身体の記憶を夢に見るのかもしれない。


(ハーバードは、この儀を終えるのでしょうか)


 血の雨に降られた、ロベリタの言葉を思い出す。

 わたしを殺して頂戴。仰いだ空は青く澄み渡り、美しかった。


「……うなされていた。泣いているのか?」

「ごめんなさい。昔の夢をね、見たの……」


 わたしではない、ロベリタの。辛く、悲しい夢。

 歴史の中で何度も繰り返されてきたであろう夢。

 視界がぼやける。涙が、とめどなく溢れてくる。

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