第2話 今時、異世界転生もの?

 誰かが私を呼んでいる。

 いや、私の名前なのだろうか、これは。

 もっと聞きなれない、外国じみた名前だ。


 けれど揺さぶられているのは私の身体で、目を開けたのも私だった。


「目を覚ましたか、ロベリタ」


 そして呼びかけられているのもまた、私だった。視界には見たこともない光景が広がっている。

 天蓋つきのベッド、無数の明かりの灯ったシャンデリア、レースのあしらえられたカーテン。鼻腔をついたのは、部屋に染み付いているであろう花のにおい。カーペットから天井まで、すべてに染み付いているといったほど、煌びやかな香りをまとっていた。


「……ここ、どこ」


 頭痛がする。昨晩飲みすぎたせいだろうか。身体を起こすと、私はなぜか天蓋つきのベッドに寝かされており、やわらかい感触が更に眠気を誘う。まるでお姫様みたいだと思った瞬間、見慣れない出で立ちの男性が視界に飛び込んだ。


「ロベリタ」


 それが私の名前なのだろうか。そう言われればそんなような気もするが、記憶があいまいだ。確か私は彼氏に振られた腹いせに、いつもより多くお酒を飲んだ、それからの記憶がない。

 自分の手のひらをかざして、シャンデリアにすかしてみてみる。少し目が痛かったが、私の意識はそれよりも、すぐ目の前の自分の身体に吸い寄せられた。


 身体が軽いな、と思ったのはまだ意識がおぼろげな頃合だった。


 衝撃を受けたのは、目に入った自分の腕の細さと、腰の細さ。とてもじゃないが普段は着られないようなサイズのドレスに、すっぽりと身体が収まっている。これはどういうことだ。私は目を見開いた。次いで私を覗き込む男性に視線を滑らせる。誰ですか、と聞こうとしたのに、うまく声が出せなかった。その顔が、あまりにも整いすぎていたからだ。


「あ、あの」

「どうした、狐にでもつままれた顔だな」


 目の前の男性は可笑しそうに肩を震わせる。

 燃えるような赤い髪に、青い瞳。私がいた世界では奇抜だった色が似合う顔立ち。アニメや漫画の中にしか登場しなかった容姿であるのに、なんら違和感を感じさせない。背も高く、すらっとしていて、まるでモデルのようだった。

 腰にはレイピアのような、細い剣が下げられている。武器、なのだろうか。自分の腰回りも探ってみると、剣とまでは行かないまでも、小さな短剣が手に当たった。数は二本。しっかりと鞘に収まり、簡単には外れない構造になっている。見覚えがあるような気もするし、ないような気もする。施された豪華な装飾を前に、私は首を傾げた。


「状況がわからないんですけど」


 ようやく出せたのはその一言だった。

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