異世界転生したら周りがほとんどヤンデレな件

クソザコナメクジ

第1話 いまどき異世界転生とか流行らない

 二十代後半に差し掛かってから、Mサイズの服が入らなくなった。食べても太らないことが自慢だった私だったが、加齢はあっという間に脂肪を蓄え、見るに難い体型へと変貌していったのである。

 その日も私は、それを理由に彼氏に振られたばかりだった。二十代後半。友達はほとんど結婚して、やけ酒を煽るのも一人でする始末だ。更けていく夜を感じながら、私の意識はアルコールの中へと沈んでいった。


「今時、異世界転生とか流行らねーっての」


 古ぼけたスマートフォンで小説投稿サイトをあさる。逆ハーレムものが私のマイブームだったが、画面の向こうの、誰かが描いた世界の人々はアルコールにおぼれる私を助けてはくれない。本当にあるなら体験してみたいものだ。半ば八つ当たりのような気持ちではき捨て、意識が落ちていくのを感じていた。


 微睡み。ふわふわとした意識の中で、昔のことを思い出す。MサイズどころかSサイズまで着こなしていた時代。淡く消えた青春の日々。告白されるのは日常茶飯事とまでは行かなかったが、それらしいことは何度もあった。化粧さえしていれば、私はどこでだってヒロインになれた。女の子は誰だってお姫様で、そうでない人は努力が足りないだけだと蔑んでいた。食べたら太る、食べなければやせるが後々更に太る。そんな当たり前のことが私の人生には含まれていなかったのだ。


(もう一回、人生やり直せたらなあ。)


 そうしたら、太らないように食べる量も制限するし、美容にももっと気を使うのに。


 それは願いにも似ていたし、祈りでもあったのだと思う。身勝手で、浅はかな私の、最後の願い。

 そのときの私の生は、多すぎたアルコールのせいか、わけもわからぬまま閉ざされたようだった。

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