第26話【ガルシア視点】俺は、人間とダチになりたかったんだ。


「リーナ! リーナはどこだ!」


廊下に響き渡るでかい声を辿って見失った人間の姿を捉えた。


つ・か・ま・え・た・ゾ!


「グエッ!」


人間の首根っこを掴み床から足を離した。


これで逃げられねーな。


「おい、お前っ! 俺の頭にドアぶつけて逃げやがって!」


苛立ち声を荒げ言えば、俺にびびった表情を見せて、俺の機嫌もマシになるだろうと思ったが、


「逃げてないし。それに、ぶつけたことなら謝っただろ!」


意外なことに言い返してきやがった。


度胸があるのか、ただ怖い者知らずなのか。


普通、人間ってのは俺の姿を一目見れば腰を抜かすのに、こいつは変わってる。


冒険者であれば、腰を抜かす奴はいなくてもすぐ敵だと排除しようと武器を向けてくる。


なのに、こいつはどちらでもねぇ。


ビビるわけでも敵意を向けるわけでもねぇ。


「あんなの謝ったうちにはいるか!」


「じゃあ、どんな謝り方ならよかったんだよ!」


ただまっすぐにこの俺に向かって言い返してくる。


まるで、対等であるかのように。


下等生物の分際で……チッ調子狂うぜ。


ここまで、まっすぐに言い返されると試してみたくなる。


こいつは他の人間と同じなのか、違うのか。


ちょっとビビらしてみるか。


『床に頭擦り付けて土下座したら許してやらなくもない』


こんな脅し文句、コイツに言ったらどんな顔をするんだろうな?


所詮は人間。


コイツもアイツらと同じ人間だ。


きっと、見慣れた反応をするに違いない。


ニヤリと俺は口を開く、


「ゆ────」


「却下」


はぁ?


俺は思いもよらなかったその言葉に唖然とし、一瞬ポカンと口を開けた。


「って、まだ何も言ってねーだろうが⁉︎ 」


「どーせ、非人道的な謝らせ方をさせるんだろう君は」


人間はフンと悪戯っぽく笑った。


癪に触る言い方と顔に怒りを通り越して冷静になる。




そして、ふと陛下とリーナのことを思い出す。


昨日今日と疑問に思っていた。


なんでコイツがあの二人の興味を引くのかと。


それがなんとなくわかった気がする。


そうか………コイツが俺たちの……魔族としての存在を拒絶しないからだ。


そして、すとんと心にある感情が落ちてきた。




それは、『好奇心』だった。





あぁ、こんな人間もいるのかと。


もっと知りたい。


コイツがどんな人間なのか。


コイツが見ている景色は他の人間とはどう違うのか。


コイツは俺の知っている下等生物とどう違うのか。


コイツはなんでこんなにもまっすぐ俺を見るのか。





知りたい。





だから、俺は決めた。


コイツが、ここにいる時間だけでも俺はコイツの近くにいよう、と。



俺を蔑み、石を投げてきた人間とは違うコイツなら───。





今度は、『ダチ』になれるんじゃねーかな?








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