第25話【ガルシア視点】生意気なガキだな。
くぁっと、俺─────ガルシアは一つ欠伸をした。
今、俺は昨日今日とこの城内で騒動を起こしている人間の少女の護衛を任されていた。
遡ること30分前のことである。
*****
陛下からの念話によって、俺は陛下の部屋に呼び出された。
念話ではそこまで重要ではない内容や用件のみを伝えられる。
それなりに重要な内容や用件は部屋に呼ばれ伝えられる。
めったにされることはないが、念話の盗聴を防ぐためである。
陛下は会話を聞かれないように毎回『サイレント』を発動させ、用件を話す。
「なんか用っすか?」
陛下の他にメイドや部下などの一目がある場合には、立場をわきまえ話し方や振る舞いに気をつけるが、一目がない場合には少し砕けた言葉を使う。
俺は元々、貴族育ちのいいところの坊ちゃんではなく、ど田舎育ちの野生獣だった。
だから、敬語とか振る舞いは堅苦しく、疲れてくるのだ。
俺は陛下に腕を買われた身ということもあり、二人きりのときの振る舞いなどの多少の無礼には目をつぶってもらっている。
「今、リーナに食材の買い出しに行ってもらってる」
「え? つい先週、買い出ししたばっかじゃなかったっすか?」
先週、早朝から数人のメイドが買い出しに行くのを確かに見た。
一度買い出しに行けば、半年は買い物しないはずだ。
食材は倉庫型の魔具に保管され、陛下が遠隔操作で魔力を飛ばすことで、魔具としての力を発揮し、食材が腐るのを防いでいるらしい。
俺は魔具とかそういう装置みたいなのはややこしくてよくわからない。
だが、陛下が言うには、食材は倉庫に入れた瞬間に成長も腐敗もしない。
よって、食材の時間そのものが止まるらしい。
「実はな、全部、例の人間が食いつくした」
「……あの量を? っすか?」
「あぁ、あれはもう成長期の子供の食欲ではないな」
陛下はその時のことを思い出して面白おかしく笑っていた。
「それで、用件ってのはなんすか?」
「あぁ、今、リーナがその買い出しに行ってるから、その間、おまえがあの人間の護衛を頼む」
護衛というよりは世話係じゃないか。
俺はメイドじゃねーし。
「なんで俺が人間のガキの世話なんざしなきゃなんねーんすか」
「いやな、実はさっき人間が食事をしている時に色々聞き出そうとしたんだが、あの人間の反応が一々おもしろくてつい魔力覇気を出してしまって……まぁ、からかって機嫌を損ねて何も聞けず仕舞いに終わったわけだ。なんの情報も根拠もなしに城に無害な客人として招き入れた挙句、今日のリーナ騒動の件もあって、あの人間に対して少なからず警戒心を抱いている者もいるようだ。だから、今、安心して任せられるのがおまえしかいないんだ。頼まれてくれないか?」
ほほう。
今、信頼できる者は俺しかいないと?
俺を頼りにしていると?
うちの陛下はなかなか見る目があるようだ。
ガルシアは好意に弱く、乗せられやすいタイプである。
「………ま、まぁ、そういうことなら仕方がねーっすね。護衛、やってやるっすよ」
「頼んだぞ、ガルシア」
*****
そして今に至る。
「リーナ!」
バンっ!
ゴンっ!
「ガハッ!」
でかい声でリーナを呼びながらドアが開き、俺が身につける金属のバシネット(頭の鎧)に鈍い音が響いた。
グオーンと何回かこだまして、無駄によく聞こえる耳を刺激する。
うぉぉおおぉぉお、あったまイッテーーー!
悶えながら顔を上げれば、そこには小さな人間の少女がいた。
人間は俺をジト目で見下ろし、特に悪びれる素振りもなく、ただ一言。
「すまん」
と言って再びでかい声でリーナを呼びながら廊下を走り去って行った。
うおぉおおおぉぉおぉい!
ちょっっっとは申し訳なさそうに謝れよ!
よし! この俺が直々に教育してやろーじゃねーか!
キレながらそう決心し、俺は顔を引きつらせたのだった。
人間の少女に対する第一印象は、『生意気なガキ』だった。
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