居残り・スタートライン
すわよむ
プロローグ
ㅤ素敵な出会いとはなんだろうか。
ㅤなにもない1日を終えて帰路に足を踏み入れている。
ㅤ電車に揺られ辿り着いた駅のホームに足をつけ空を見てみると、そろそろ日は沈もうとしているところだった。反対側のホームも見てみると下を向き液晶画面に身を委ねて電車を待つ高校生がぽつぽつと見えていた。制服は色褪せもしていないほぼ新品のようで、なにやら嬉しそうな顔をしている気がした。……そんな光景を後目に改札を出ると特に変わり映えのしないフィルムの中のような住宅地が目の前に広がっているのだった。
ㅤ少し歩くと、去年まで自分が通っていた近所の高校の生徒たちが横に並んで楽しそうにしているので、その邪魔をしないように端に寄ってすれ違う。もしかすると話したことがある後輩かもしれないし、そんなことない人かもしれない。その程度の出会いの方が多いのが普通だし、運命的な再会はもっと感動的に起こるべきはずだと思っている、とそんなどうしようもないことを考えながら帰り道から外れていく。
ㅤ木と街灯の立ち並ぶ桃色の道を通ると、踏み出した足元で花びらが少しだけ舞う。まだ落ちたばかりの乾いた花びらたちが舞ったところで、また地面に戻るのみで元いた枝に帰るわけではないわけで、上に上がろうとも意味はない。
ㅤ時間が過ぎるのは早いなと、そう思ったのは歩くたびに風に揺れていた落ちた花びらのせいか、そろそろ半月が過ぎた大学の新生活から出る疲れのせいか、それともこうして今辿り着いた住宅地の中に建つ一際大きな建物を見たからなのか。門の前に立つと同時にはぁ、と小さなため息が出てしまう。久しぶりに顔を出そうと思ったのだが、どこか億劫に感じ踵を返して家に帰ろうという気持ちにもなった。
ㅤやっぱり帰ろう。少し考えてから、手に持っていた鞄を持ち直して振り向こうとすると、突然後ろから頬に冷たいものが当たる。白く伸びた腕の向こう側から甘く澄んだ声が聞こえた。
「こんにちは、お久しぶりですね」
ㅤ久しぶりに聞く。頬に当てられたペットボトルを退けて振り向くと、そこには綺麗な顔立ちの、周りに溶け込むように優しく微笑む女の子がいた。
ㅤ桜の花びらが間に1枚、時間が過ぎるのを教えるようにひらりと落ちてくる。
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